慰謝料とは―基本的な考え方・金額・判例・請求方法
法令・資料確認日:
慰謝料の基本的な考え方
慰謝料は、違法な行為によって精神的苦痛を受けた被害者に、その苦痛を慰謝するための金銭的補償として支払われる損害賠償です。車の修理費や治療費のように、支出額を領収書・見積書で示す財産的損害とは異なり、心の傷という「非財産的損害」を対象とします。このため、領収書や見積書のように実損害を立証できる資料がなくても、裁判所が慰謝料の支払を命じることがあります。ただし、「証拠が一切なくてもよい」「つらいと感じれば必ず請求できる」という意味ではありません。何をされたか、どのような権利が侵害され、生活や心身にどのような影響が生じたかを、メール、写真、診療記録、証言などで具体的に示すことが大切です。金額は行為の内容・悪質性、被害の程度や期間などを総合して判断され、全国一律の定額はありません。慰謝料は加害者への罰金ではなく、被害者の損害を回復するための制度です。
「診断書がないので諦めるべきか」「提示された金額で示談してよいか」「相手から高額な請求が届いた」――慰謝料の問題では、まず請求できる法律上の理由、金額を支える事情、期限を分けて考えると整理しやすくなります。このページでは、民法と公表裁判例を基に、相談前に確認したいポイントを説明します。
1 慰謝料の法的根拠と請求条件
中心となるのは民法709条・710条です。709条は、故意又は過失によって他人の権利・法律上保護される利益を侵害した場合の損害賠償責任を定め、710条は財産以外の損害も賠償の対象になることを定めています。生命・身体だけでなく、名誉、プライバシー、人格的利益などの侵害が問題になります。
- 誰の、どのような行為か。加害者と行為を特定し、故意・過失や、その人が責任を負う根拠を確認します。
- 法的に保護される利益が違法に侵害されたか。不愉快な発言や意見の相違のすべてが不法行為になるわけではありません。行為の目的・方法・状況、正当な理由の有無などを検討します。
- 精神的苦痛などの損害が生じたか。行為の性質から苦痛が推認されることもありますが、具体的な被害や影響を説明できるようにします。
- 行為と損害とのつながりがあるか。問題の行為によって生じた損害であることが必要です。複数の原因がある場合は、その関係も整理します。
契約上の義務違反に基づく責任が問題になる場合もあります。ただし、納期の遅れや商品故障などの契約トラブルについて、財産的な損害とは別に、常に慰謝料が発生するわけではありません。契約の目的や、人格的利益の侵害に当たる事情があるかなど、個別の検討が必要です。
被害者本人以外が請求できる場合
死亡事故などでは、民法711条により父母・配偶者・子の固有の慰謝料が問題になります。これは、亡くなった本人の損害賠償請求権を相続することとは別の問題です。誰が、どの立場で請求するのかを区別します。会社の責任や複数人の共同不法行為が問題になるときは、民法715条・719条等の要件も確認します。
2 修理費・治療費・解決金との違い
| 項目 | 補償するもの | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 修理費・治療費など | 物の破損、治療のための支出等の財産的損害 | 見積書、領収書、修理内容、診療明細。支出の必要性・相当性も確認します。 |
| 休業損害・逸失利益 | 休業による収入減や、後遺障害・死亡による将来の収入等の喪失 | 給与・確定申告資料、休業証明、職務内容、後遺障害関係資料等 |
| 慰謝料 | 精神的苦痛という非財産的損害 | 加害行為の記録、被害の経過、診療記録、生活への影響、関係者の証言等。領収書は必須ではありません。 |
| 示談金・解決金 | 合意で支払う金銭の呼び方。慰謝料や財産的損害を含むことがあります。 | 示談書の内訳、清算の対象、支払条件。名称だけでは内容を判断できません。 |
慰謝料も、法律上は現実に生じた損害に対する賠償です。「出費がない=損害がない」ではありません。一方、同じ損害を名目だけ変えて二重に受け取ることはできません。判例や報道の「賠償額」を読む際は、慰謝料だけなのか、治療費、休業損害、弁護士費用相当額などを合計した額なのかを確認しましょう。
3 慰謝料の金額はどう決まるか
裁判所は、それぞれの事件で認定した事情を総合して金額を判断します。苦痛を領収書で換算できないからこそ、被害の内容を具体的に説明することが重要です。「精神的に苦しんだので一律100万円」という計算にはなりません。
- 侵害された利益:生命・身体、婚姻共同生活、名誉、プライバシー等。
- 行為の態様:故意・過失、暴力・威圧の有無、反復性、継続期間、拡散範囲等。
- 被害の大きさ:けがや症状の程度、治療期間、後遺障害、就労・学業・家庭生活への影響等。
- 事件の前後の事情:当事者の関係、行為に至る経緯、被害回復の対応、謝罪、再発状況等。
- 既に支払われた金銭等:既払い分、示談内容、同じ損害に対する補償の有無等。
被害者側にも過失がある場合には、民法722条2項による過失相殺などが問題になります。ただし、被害を訴えたことや、すぐに相談・受診できなかったことだけで、機械的に減額されるという意味ではありません。実際の状況を確認します。
「相場」は比較の出発点です。
過去の裁判例は、似た事情を検討するための参考です。裁判所、判決日、被害の内容、請求額と認容額、慰謝料と他の損害の内訳を併せて読みます。古い事例の金額を、そのまま現在の事件の支払予定額と考えることはできません。
4 事案別の注意点
不貞行為・離婚・婚約や内縁の解消
不貞行為では、既婚であることに関する故意・過失、関係を持った時点の婚姻関係、行為と被害の関係などを確認します。不貞の時点で婚姻関係が既に破綻していた場合と、不貞によって破綻した場合では、評価が異なります。また、不貞行為そのものによる慰謝料と、離婚に伴う慰謝料は区別が必要です。2026年6月5日最高裁判決と2019年2月19日最高裁判決は、下の判例欄で説明しています。
離婚したという事実だけで、どちらかが必ず慰謝料を払うわけではありません。婚約や内縁でも、その関係が成立していたこと、解消に正当な理由があるか等を検討します。交際の終了や妊娠という事情だけから、慰謝料の成立・金額を決めつけることはできません。財産分与・養育費と慰謝料は、それぞれ趣旨と要件が異なります。
暴行・性被害・職場のハラスメント
身体への侵害や性的な自己決定の侵害、人格を傷つける継続的な言動などが問題になります。行為者への請求に加え、職場では会社の使用者責任や安全配慮義務違反を検討する場合があります。暴言の具体的内容、頻度、職場への相談と対応、受診・休業の経過を整理しましょう。労災給付等を受けていても、給付の対象と損害項目を分けて検討する必要があります。
ネット上の名誉毀損・侮辱・プライバシーや肖像の侵害
投稿の文言や画像、誰についての投稿と分かるか、閲覧範囲、拡散状況、公益性などを検討します。社会的評価を下げる名誉毀損と、侮辱により名誉感情を侵害する場合は、判断の枠組みが同じではありません。事実に基づく投稿でも、私生活上の情報を公開することがプライバシー侵害となる場合があります。
金銭請求に加えて、削除・差止めや、投稿者を特定するための発信者情報開示を検討することがあります。証拠保存と削除の順序、ログ保存期間に注意し、URLと投稿日時を早めに記録してください。
医療・説明義務・自己決定
医療上の注意義務違反と治療結果との関係に加え、必要な説明を受けて治療を選ぶ機会が失われたことが問題になる場合もあります。結果への不満だけで直ちに賠償責任が成立するのではなく、診療記録、同意書、説明内容等を具体的に検討します。
物損・騒音・生活妨害など
物が壊された場合は、通常は修理費等の財産的損害の回復が中心です。愛着があるというだけで常に慰謝料が加算されるわけではありません。他方、嫌がらせを伴う破壊や生活の平穏への侵害など、独自の事情があれば別途検討します。騒音等では、程度・時間帯・継続性・地域の状況・対策などを踏まえ、社会生活上受忍すべき限度を超えるかが問題になります。
5 交通事故の慰謝料と自賠責
交通事故では、入通院に伴う慰謝料、後遺障害が残った場合の慰謝料、死亡した場合の慰謝料を区別します。これらは、治療費、休業損害、逸失利益などとは別の損害項目です。
自賠責の傷害慰謝料:1日4,300円
国土交通省の現行案内では、傷害の慰謝料は1日4,300円とされ、対象日数は傷害の状態や実治療日数等を勘案して治療期間内で認定されます。千葉県の解説は、実治療日数の2倍を基本とし、治療期間の日数を上限とする計算を示しています。例えば対象日数が20日なら、4,300円×20日=86,000円です。
これは2020年4月1日以降の事故に適用される自賠責の支払基準の説明です。すべての事件の慰謝料や、裁判での認定額を日額4,300円で計算するわけではありません。
自賠責の傷害部分の限度額120万円は、治療関係費・文書料・休業損害・慰謝料などを含む限度額です。慰謝料だけの上限でも、加害者の損害賠償責任全体の上限でもありません。任意保険会社の提示を受けたときは、算定に用いた基準、対象日数、後遺障害の扱い、過失割合、既払い額を確認しましょう。
出典:国土交通省「限度額と補償内容」/千葉県「交通事故相談所(詳細編)」。自転車同士の事故など、自賠責の対象にならない事故もあります。
6 相場感覚をつかむための参照判例22件
少額の人格権侵害から、後遺症・死亡による深刻な被害まで、分野の異なる22件を紹介します。19件は慰謝料額を確認できる事例、3件は請求の可否や責任の判断に重要な最高裁判例です。見出しの分野・金額から、気になる事例の詳しい説明へ移動できます。
比較するのは「慰謝料の金額」と「その金額になった事情」の両方です。
以下は古い事例も含む個別の裁判例で、現在の平均額・中央値や一律の支払基準を示す統計ではありません。原則として、記載した判決の段階で認定された慰謝料を示しています。請求額、治療費・逸失利益等を含む賠償総額、示談額とは区別してください。過失相殺や負担割合がある例はその旨を記し、上訴後の結論・判決の確定を一律に確認した一覧ではないことにも留意します。
| 番号・分野 | 裁判所・判決日 | 慰謝料額または判断の位置付け |
|---|---|---|
| 01 交通事故・傷害 | 東京地裁・1995年2月14日(平成7年) | 420万円 |
| 02 交通事故・職業への影響 | 東京地裁・1995年12月27日(平成7年) | 1,080万円 |
| 03 職場・パワーハラスメント | 東京地裁・2009年1月16日(平成21年) | 80万円 |
| 04 勤務上の負荷・過労自殺 | 札幌地裁・2024年2月6日(令和6年) | 本人2,800万円/妻固有100万円 |
| 05 職場・セクシュアルハラスメント | 青森地裁・2004年12月24日(平成16年) | 200万円 |
| 06 性被害・PTSD | 東京地裁・2012年8月8日(平成24年) | 300万円(性被害自体) |
| 07 交際・独身と偽った行為等 | 東京地裁・2012年7月31日(平成24年) | 250万円 |
| 08 妊娠・中絶後の負担 | 東京地裁・2009年5月27日(平成21年) | 男性負担分100万円 |
| 09 夫婦生活の平穏・交際の態様 | 東京簡裁・2003年3月25日(平成15年) | 10万円 |
| 10 不貞相手への離婚慰謝料 | 最高裁第三小法廷・2019年2月19日(平成31年) | 本件の離婚慰謝料請求は棄却 |
| 11 婚姻関係の破綻・不貞相手の過失 | 最高裁第二小法廷・2026年6月5日(令和8年) | 破棄差戻し・金額未確定 |
| 12 インターネット・名誉毀損等 | 東京地裁・2026年3月25日(令和8年) | 夫20万円/妻30万円 |
| 13 ネットのなりすまし・名誉権と肖像権 | 大阪地裁・2017年8月30日(平成29年) | 60万円 |
| 14 個人情報・住民データ流出 | 大阪高裁・2001年12月25日(平成13年) | 1人1万円 |
| 15 医療・説明義務と自己決定 | 最高裁第三小法廷・2000年2月29日(平成12年) | 金額比較対象外・責任判断を参照 |
| 16 近隣トラブル・生活騒音 | 東京地裁・2007年10月3日(平成19年) | 30万円 |
| 17 差別的取扱い・人格的利益 | 札幌地裁・2002年11月11日(平成14年) | 原告3人に各100万円 |
| 18 ペット・他の犬による咬傷死亡 | 春日井簡裁・1999年12月27日(平成11年) | 3万円(過失相殺前) |
| 19 ペット・獣医療上の過失 | 東京地裁・2004年5月10日(平成16年) | 飼主各30万円 |
| 20 ペット・獣医師による悪質な加害行為 | 東京地裁・2007年3月22日(平成19年) | 50万円 |
| 21 医療過誤・重度の後遺障害 | 東京地裁・2006年4月20日(平成18年) | 本人2,800万円(入院・後遺症を総合) |
| 22 強制不妊手術・生殖機能の喪失 | 東京高裁・2022年3月11日(令和4年) | 1,500万円 |
01 交通事故・傷害
東京地裁・1995年2月14日(平成7年)
金額・結論:420万円――入通院300万円+後遺症120万円。
入院45日・実通院112日の治療等に加え、加害者側の事故後の対応による精神的負担が考慮された事件です。裁判所は、事故後の対応について別の慰謝料を重ねて認めるのではなく、入通院・後遺症慰謝料の増額事情として評価しました。治療日数だけを取り出して、通常の傷害事故の金額と比較しないことが大切です。
02 交通事故・職業への影響
東京地裁・1995年12月27日(平成7年)
金額・結論:1,080万円――入通院230万円+後遺症850万円。
事故の後遺症によって、舞台俳優として自ら活躍する道を断たれたことなどを考慮した例です。同じけがでも、残った障害がその人の生活・職業に与える影響は異なります。働けなくなったことによる収入の損失である逸失利益と、ここに示す慰謝料は別の損害項目です。
03 職場・パワーハラスメント
東京地裁・2009年1月16日(平成21年)
金額・結論:80万円――慰謝料の認定額。
上司による人格を否定するような発言や、部下の病状を知った後の配慮の欠如などが問題となりました。うつ病の再発との因果関係と、自殺未遂に至ったこととの因果関係を分けて判断している点にも注意が必要です。職場の言動による苦痛が認められても、主張する病気・休業などのすべてが同じ範囲で認められるとは限りません。
04 勤務上の負荷・過労自殺
札幌地裁・2024年2月6日(令和6年)
金額・結論:本人2,800万円/妻固有100万円――亡くなった本人の慰謝料と、妻自身の慰謝料を区別。
勤務先の注意義務違反と業務上の精神的負荷による自死との因果関係を前提に、損害額などを判断した事件です。本人の慰謝料は相続される請求権に含まれ、妻固有の慰謝料は、夫を失った妻自身の苦痛に対するものです。逸失利益、葬祭費、公務災害補償・年金等の調整を含めた最終的な支払額とは異なります。
05 職場・セクシュアルハラスメント
青森地裁・2004年12月24日(平成16年)
金額・結論:200万円――慰謝料。退職に伴う逸失利益などは別。
繰り返されたセクハラと、相談を受けても適切に対応しなかった会社の責任が問題となった事件です。被害の継続や退職に至った事情などが評価されています。被害行為の内容に加え、相談の記録、会社が把握していた事実、配置や就労継続への影響を整理することが、類似事例を比較する手掛かりになります。
06 性被害・PTSD
東京地裁・2012年8月8日(平成24年)
金額・結論:300万円(性被害自体)――性被害そのものの慰謝料。通院慰謝料等を含む総額ではありません。
性被害によってPTSDを発症し、治療を要した事案です。性被害そのものによる精神的苦痛と、発症した病気のために通院することによる苦痛が区別して扱われました。300万円に治療費や通院慰謝料等まで含まれていると読むと、損害の全体像を誤ります。同じ精神的損害の二重計上にならないよう、各項目の対象を確認します。
07 交際・独身と偽った行為等
東京地裁・2012年7月31日(平成24年)
金額・結論:250万円――慰謝料の認定額。
既婚者が独身であるかのように偽って交際し、女性が妊娠した事件です。虚偽の説明だけでなく、暴行による傷害や、発覚後の不誠実な対応等も含む具体的経過が評価されています。交際の解消だけで同額が認められる例ではなく、欺いた内容、妊娠、身体への侵害などが重なった事案として比較します。
08 妊娠・中絶後の負担
東京地裁・2009年5月27日(平成21年)
金額・結論:男性負担分100万円――慰謝料を200万円と評価し、この事案では男性の負担を2分の1としたもの。
合意による性交の後、女性が中絶による身体的・精神的な不利益を受け、男性の対応が問題となった事件です。慰謝料200万円の全額を男性に支払わせた判決ではありません。医療費等も含めて負担割合を適用し、弁護士費用を加えた認容元本の総額は144万2,302円です。同年10月15日の東京高裁判決も同じ事件であり、ここでは1件として数えています。あらゆる中絶について当然に折半義務が生じるという意味ではありません。
参照:新銀座法律事務所QA No.1337・一審/控訴審の解説
09 夫婦生活の平穏・交際の態様
東京簡裁・2003年3月25日(平成15年)
金額・結論:10万円――慰謝料の認定額。
肉体関係に至らない交際でも、贈り物、二人での外出、愛情を示す手紙などの具体的態様から、夫婦生活の平穏を侵害したとされた例です。交際期間や婚姻が継続している事情なども考慮されました。「肉体関係がないから必ず責任がない」「異性の友人との交際ならすべて違法」という、いずれの理解も適切ではありません。
10 不貞相手への離婚慰謝料
最高裁第三小法廷・2019年2月19日(平成31年)
金額・結論:本件の離婚慰謝料請求は棄却――金額相場ではなく、請求できる損害の範囲を示す判例。平成29年(受)第1456号。
配偶者の不貞相手に、離婚したこと自体の慰謝料を求めた事件です。最高裁は、夫婦を離婚させようと婚姻関係に不当に干渉するなどの特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料は請求できないとしました。不貞行為そのものについての責任を一律に否定したものではありません。誰に、どの行為による損害を請求するのかを分けて考える必要があります。
参照:判決全文(裁判所PDF)
11 婚姻関係の破綻・不貞相手の過失
最高裁第二小法廷・2026年6月5日(令和8年)
金額・結論:破棄差戻し・金額未確定――金額相場ではなく、責任判断のための判例。令和7年(受)第933号。
既に離婚したと信じる相当な理由がなくても、婚姻関係が既に破綻していると信じる相当な理由があった可能性について、審理が尽くされていないとされました。最高裁は原判決中の上告人敗訴部分を破棄し、高松高裁へ差し戻しています。「離婚しているとの認識」と「婚姻関係が破綻しているとの合理的認識」を区別する判決です。一律に責任を免除したものでも、慰謝料額を確定したものでもありません。
参照:判決全文(裁判所PDF)
12 インターネット・名誉毀損等
東京地裁・2026年3月25日(令和8年)
金額・結論:夫20万円/妻30万円――夫:名誉感情侵害5万円+名誉毀損15万円。妻:名誉毀損30万円。
動画投稿者である夫婦への発言を、被害者と侵害された利益ごとに判断した事件です(令和6年(ワ)第70555号)。弁護士費用相当額は夫2万円・妻3万円で、認容元本の合計はそれぞれ22万円・33万円となります。これらに遅延損害金は含めていません。パブリシティ権侵害等の主張は退けられており、請求のすべてが認められたわけではありません。
13 ネットのなりすまし・名誉権と肖像権
大阪地裁・2017年8月30日(平成29年)
金額・結論:60万円――慰謝料。発信者特定に要した費用などとは別。
他人の氏名・顔写真を用いて本人になりすました投稿が行われた事件です。名誉権や肖像権の侵害について、投稿内容、なりすましの態様、期間、閲覧・拡散の状況などが判断に関係します。匿名の投稿者を特定するための費用が認められる場合でも、その費用を慰謝料そのものと混同しないようにします。
14 個人情報・住民データ流出
大阪高裁・2001年12月25日(平成13年)
金額・結論:1人1万円――慰謝料1万円+弁護士費用5,000円=1人当たりの認容元本1万5,000円。
宇治市の住民データが委託業務の過程で持ち出され、売却された事件です。氏名・住所・生年月日等の個人情報の漏えいについて、プライバシー侵害による精神的損害が認められました。情報漏えいの慰謝料は、漏れた情報の性質、流出範囲、二次被害等によって異なるため、すべての漏えいを1万円とする基準ではありません。
参照:政府サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック・宇治市事件
15 医療・説明義務と自己決定
最高裁第三小法廷・2000年2月29日(平成12年)
金額・結論:金額比較対象外・責任判断を参照――平成10年(オ)第1081号。本欄では金額を掲げず、判断の内容を紹介します。
宗教上の信念から輸血を拒む患者に、必要時には輸血するという病院の方針を説明せずに手術し、輸血した事案です。最高裁は、手術を受けるかを決める機会を奪ったことによる精神的苦痛について、不法行為責任を認めた原審の判断を是認しました。治療費等の出費だけでなく、説明を受けて選択する人格的利益も保護されることを示す判例です。
参照:裁判所公式・判決英訳
16 近隣トラブル・生活騒音
東京地裁・2007年10月3日(平成19年)
金額・結論:30万円――慰謝料30万円+弁護士費用6万円=認容元本36万円。
マンション階上からの子どもの走り回る音等について、夜間・深夜を含む継続状況や、配慮を求められた後の不誠実な対応などから、受忍限度を超えるとされた事件です。単に生活音が聞こえるだけで責任が生じるわけではありません。時間帯、頻度、測定結果、建物の性質、改善の申入れと対応の記録を併せて検討する例といえます。
17 差別的取扱い・人格的利益
札幌地裁・2002年11月11日(平成14年)
金額・結論:原告3人に各100万円――入浴施設の運営会社に対して認められた、各人の慰謝料。
外国人であることなどを理由に入浴を拒否された、いわゆる小樽入浴拒否事件です。不合理な差別的取扱いによる人格的利益の侵害が問題となりました。判決は運営会社に各100万円の支払を命じる一方、市に対する請求等は退けています。同じ事件の中でも、相手方ごとに責任が異なることに注意します。
参照:判決全文(裁判所PDF)
18 ペット・他の犬による咬傷死亡
春日井簡裁・1999年12月27日(平成11年)
金額・結論:3万円(過失相殺前)――慰謝料を含む損害全体に2割の過失相殺。
飼い犬が他の犬に襲われて死亡した事件です。犬の財産的価値8万円、治療費12万3,500円、慰謝料3万円の合計23万3,500円から2割を減額し、認容額は18万6,800円となりました。したがって、慰謝料3万円が減額なしで別途支払われるという意味ではありません。ペットの財産的損害と、飼主の精神的損害を区別できる例です。
19 ペット・獣医療上の過失
東京地裁・2004年5月10日(平成16年)
金額・結論:飼主各30万円――原告となった飼主1人当たりの慰謝料。
長年飼育していた犬が、獣医師の診療上の過失によって死亡した事件です。家族のように接してきた飼主の愛情や、死亡によって受けた精神的衝撃などが考慮されました。「各30万円」という金額は飼主ごとの額であり、犬の購入価格や治療費を含む総額ではありません。
参照:新銀座法律事務所QA No.1124・2004年東京地裁判決
20 ペット・獣医師による悪質な加害行為
東京地裁・2007年3月22日(平成19年)
金額・結論:50万円――飼主の慰謝料。
獣医師が飼主の愛情を利用して詐欺行為を行い、適切な治療をせず猫を死亡させた事件です。行為の計画性・常習性や、専門家への信頼を裏切った悪質さなどが評価されました。同じペットの死亡でも、偶発的な事故、診療上の過失、故意の悪質な行為では評価される事情が異なります。
参照:新銀座法律事務所QA No.1124・2007年東京地裁判決
21 医療過誤・重度の後遺障害
東京地裁・2006年4月20日(平成18年)/平成17年(ワ)第2089号
金額・結論:患者本人の慰謝料2,800万円――入院と後遺症による精神的苦痛を総合した額。
入浴介助の際、看護師が患者の呼吸のための通路である永久気管ろうを通気性のないフィルムで塞いだため、無酸素脳症となり、後遺障害等級1級に相当する遷延性意識障害が残った事件です。裁判所は、基本的な注意義務への違反、640日間の入院、家族との意思疎通ができなくなった結果の重大性などを考慮しました。従前から別の重い病気や運動機能障害があったことだけで、新たな被害の慰謝料を当然に大幅減額することはできないと判断しています。
2,800万円は患者本人分で、家族の慰謝料や賠償総額とは異なります。本人については入院雑費96万円・弁護士費用300万円を加え、認容元本は3,196万円です。これとは別に、夫の慰謝料300万円、子2人の慰謝料各150万円も認められました。死亡に至らなくても、極めて重い後遺障害によって家族自身にも重大な精神的被害が生じる場合があることを示す例です。
参照:東京地裁平成18年4月20日判決(裁判所公式PDF・本人の慰謝料は本文8~9頁、家族分は10~11頁)
22 強制不妊手術・生殖機能の喪失
東京高裁・2022年3月11日(令和4年)/令和2年(ネ)第2936号
金額・結論:慰謝料1,500万円――請求額3,000万円のうち認められた慰謝料。遅延損害金は別。
旧優生保護法に基づき、本人の意思に反して不妊手術を受けさせられた被害者が、国に賠償を求めた事件です。裁判所は、生殖機能を回復不可能な状態にされた身体的被害に加え、差別的な政策によって手術の対象とされ、家族にも被害を打ち明けられず葛藤を抱えてきた事情を考慮しました。単に身体機能の喪失を評価するだけでなく、差別政策の一環として国が意図的に加害した点を重視し、交通事故事案より損害が重大であるとして慰謝料を認定しています。
この1,500万円は当該控訴審判決が認めた損害賠償としての慰謝料です。生殖機能の喪失について全国一律に同額とする基準や、法律に基づく一時金・補償金の支給額を示すものではありません。高額例を比較する際には、身体的結果と併せて、行為の故意・差別性や長年の精神的被害を確認することが重要です。
参照:東京高裁令和4年3月11日判決(裁判所公式PDF・慰謝料の判断は本文61~62頁)
自分の事案に近い例を探すには
同じ分野であることだけでなく、行為の継続期間、被害の程度、治療・後遺症の有無、相手の対応、証拠の内容を比較しましょう。少額の例も、重大な被害の高額例も、その事情から切り離して上限・下限とすることはできません。判例や相手の提示額を相談時にお持ちいただければ、どこが似ていてどこが違うのかを整理しやすくなります。無料相談の案内へ
資料確認日:2026年10月26日。新銀座法律事務所のQAは、質問欄の仮定事例と、解説・参照判例に掲載された実際の裁判例を区別して参照しています。古いQAに記載された刑事事件の罪名・告訴要件、利率等は掲載当時の制度を前提とする場合があるため、本節では裁判例の事実と損害額・判断内容を参照しています。
7 領収書がなくても、被害を裏付ける資料は大切です
診断書や領収書がないことだけで、慰謝料請求を諦める必要はありません。ただし、裁判で相手が争う場合に備え、次のような資料を保存します。すべてがそろっていなくても、手元にある資料から相談できます。
| 示したいこと | 資料の例・保存のポイント |
|---|---|
| 何をされたか | メール、LINE、録音、写真、動画、契約書、会社の通知。前後の文脈や日時も保存します。 |
| 誰が行ったか | 相手とのやり取り、アカウント情報、投稿URL、目撃者。アカウント名だけで本人と断定しないようにします。 |
| 心身・生活への影響 | 診断書・診療記録、通院・服薬・休業記録、相談記録、その都度つけた日記、家族・同僚の見聞。 |
| 被害の広がり・継続 | 投稿日時・閲覧状況、繰り返しの経過、削除依頼と回答、職場に相談した日時と対応等。 |
| 支払済み・合意済みの内容 | 振込記録、示談書、誓約書、保険会社の提案、相手からの請求書や通知。 |
スクリーンショットは、本文だけでなくURL、投稿者、日時が分かる形で保存し、可能なら元データも残します。自分で作るメモには「実際に見聞きした事実」と「推測・感想」を分けて書くと役立ちます。受診する場合は症状と経過を正確に伝え、請求のために症状を誇張したり、不要な通院をしたりする必要はありません。
他人のアカウントへの無断ログインや、不法な侵入・監視などによる証拠集めは避けてください。相手への連絡が怖い場合や、暴力・報復のおそれがある場合は、自分で交渉を始める前に、安全を確保したうえで弁護士等に相談しましょう。
8 消滅時効と期限――「慰謝料はすべて3年」ではありません
現行民法の不法行為による損害賠償請求権については、主に次の期間を確認します。民法724条・724条の2による整理です。
| 請求の種類 | 損害・加害者を知った時から | 別途確認する長期の期間 |
|---|---|---|
| 一般の不法行為 | 原則3年 | 原則として不法行為の時から20年 |
| 生命・身体を害する不法行為 | 原則5年 | 原則として不法行為の時から20年 |
いずれの期間にも注意が必要であり、3年・5年と20年を足し算するのではありません。けが・疾病を伴う場合、継続する被害、後から判明した損害、複数の加害者などでは、起算点や対象となる損害を具体的に確認します。精神的に苦しんだというだけで、すべて5年になるわけではありません。
2020年4月1日より前の事件では、改正法の経過措置と旧法下の判例を含む検討が必要です。古い被害であっても、日付だけから自己判断で断念しないでください。また、不貞行為の慰謝料と離婚に伴う慰謝料では、問題となる損害・起算点が異なります。離婚慰謝料は通常、離婚成立から3年が問題になりますが、不貞相手への請求を離婚まで待ってよいとは限りません。
電話やメールで交渉を続けているだけで、当然に時効が止まるわけではありません。催告による完成猶予は原則6か月で、同じ催告を繰り返して無期限に延ばすことはできません。訴訟提起、調停申立て、債務の承認、協議をする旨の書面合意等は、要件と効果を個別に確認します。期限が近い場合は、受付時にその旨を伝えてください。
財産分与の期間と慰謝料の時効は別です。2026年4月1日以後に離婚した場合の財産分与の申立期間は原則5年となりましたが、この変更により離婚慰謝料も一律5年になったわけではありません。参照:裁判所「財産分与請求調停」。
9 交渉・調停・訴訟と、示談するときの確認事項
- 事実と請求内容を整理する。
出来事を日付順にまとめ、相手、被害、資料、希望する解決を整理します。金銭だけでなく、投稿削除や接触防止などの希望があれば区別して伝えます。
- 金額と根拠を示して交渉する。
慰謝料とその他の損害の内訳、支払期限、回答方法を明確にします。内容証明郵便は、送付文面等を証明する手段であり、その記載が正しいと裁判所が認定したことにはなりません。
- 必要に応じて調停・訴訟等を検討する。
話合いがまとまらない場合は、事件に応じた調停・訴訟等を利用します。離婚した元配偶者への慰謝料請求では家庭裁判所の調停を利用できます。第三者への請求、労働紛争、ネット投稿の削除等は、適切な裁判所・手続を別途確認します。
- 合意内容と支払の確保を確認する。
合計額、内訳、支払日・分割回数、振込先、遅れた場合の扱い、清算条項の対象を明確にします。将来の被害や未判明の後遺障害まで含めて請求を放棄する文言になっていないか確認します。
通常の示談書だけで、直ちに預金・給与の差押えができるわけではありません。支払を確保する必要があるときは、調停調書、裁判上の和解、判決、一定の金銭債務についての強制執行認諾文言付き公正証書などを検討します。解決までの費用・期間、証拠の見通し、相手の支払能力も含めて方法を選びましょう。
裁判所の慰謝料請求調停の案内と申立書・記入例も参考になります。調停で合意できなかった場合に、自動的に慰謝料の支払判決が出るわけではありません。
10 よくある質問
Q 病院に行っていないと慰謝料は認められませんか。
A 診断書はすべての慰謝料請求の必須条件ではありません。名誉毀損やプライバシー侵害など、行為の内容と状況から精神的苦痛が認められる場合もあります。ただし、疾病や長期間の就労困難を主張する場合には、医療資料が重要です。
Q 相手が謝罪すれば慰謝料はなくなりますか。
A 謝罪したというだけで、既に発生した請求権が当然に消えるわけではありません。謝罪や被害回復の対応が評価される場合はあります。被害者が請求を放棄したり、示談が成立したりしている場合は、その合意の内容を確認します。
Q 配偶者と不貞相手の両方から同じ慰謝料を全額受け取れますか。
A 双方への責任追及を検討できる場合でも、同じ損害の二重回復はできません。一方から受け取った金額、示談の対象、当事者間の求償の問題などを整理します。離婚慰謝料と不貞慰謝料を名目だけで二重に計上しないことも大切です。
Q 弁護士費用も相手に全額払わせられますか。
A 不法行為の損害として、相当な範囲の弁護士費用相当額が認められることはありますが、実際に弁護士へ支払った金額が当然に全額賠償されるわけではありません。判決上の弁護士費用相当額と、依頼契約に基づく弁護士費用を区別します。
Q 請求された側は、どう対応すればよいですか。
A 通知や資料を保存し、事実関係、法的な責任、金額、既払い分、時効を確認します。請求書が届いただけで支払義務や金額が確定するわけではありません。認識の違いがある場合も、証拠を削除したり、相手を威圧したりせず、回答期限を確認して相談してください。裁判所から届いた書類は放置しないことが重要です。
11 新銀座法律事務所への無料相談
「資料が少ないが請求できるか」「示談案が妥当か」「相手から請求を受けている」など、まず状況をお聞かせください。領収書や診断書がそろっていなくても構いません。時効、回答期限、投稿の削除・ログ保存など、急ぐ事情がある場合は受付時にお伝えください。
無料法律相談の受付
0120-48-5791
平日 9:00~21:00 / 土日祝日 9:00~18:00
電話・LINE・メールフォームで受け付け、弁護士が電話で5分程度を目安に一般的な見解を回答する無料相談です。来所での法律相談は1時間11,000円(税込)。代理人としての依頼は別途契約となります。受付方法・条件は、事務所の現行案内をご確認ください。
相談時に伝えると役立つこと
- いつ、誰から、何をされ、いつ相手や被害を知ったか。
- 心身・仕事・生活への影響、現在も続いている被害。
- 保存している証拠、受診・相談歴、相手とのやり取り。
- 請求額・提示額、支払済みの金銭、示談書や裁判所の書類の有無。
- 希望する解決と、迫っている期限。
13 参考法令・公的資料・PDF
以下は2026年10月26日に確認した主要資料です。判決はその事件の事実関係に基づく判断であり、下級審判決と最高裁判決、認容額と請求額を区別して参照してください。
- e-Gov法令検索:民法――709~711・715・719・722・724・724条の2、150~152条等。
- 最高裁令和8年6月5日判決・令和7年(受)第933号(PDF)――婚姻関係の破綻についての認識と過失。
- 東京地裁令和8年3月25日判決・令和6年(ワ)第70555号(PDF)――ネット上の名誉毀損・名誉感情侵害と損害額。
- 最高裁平成31年2月19日判決・平成29年(受)第1456号(PDF)――不貞相手に対する離婚慰謝料。
- 最高裁平成12年2月29日判決・平成10年(オ)第1081号(裁判所公式英訳)――輸血に関する説明と患者の自己決定。
- 国土交通省:自賠責保険・共済「限度額と補償内容」。
- 千葉県:交通事故相談所(詳細編)――自賠責の支払基準等。
- 裁判所:慰謝料請求調停/申立書・記入例の掲載ページ――最新版の書式・PDFは掲載ページから確認できます。
- 裁判所:財産分与請求調停――2026年4月施行の期間変更と経過措置。
- 新銀座法律事務所:無料法律相談の案内。
本記事は一般的な情報提供です。具体的な結論は、行為の内容・時期、証拠、既払い額、合意内容などにより異なります。個別の対応は弁護士にご相談ください。