過労自殺の損害賠償請求

民事|労災|パワハラ・ノルマによる自殺|安全配慮義務違反|心理的負荷による精神障害の労災認定基準|札幌地方裁判所令和6年2月6日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照判例

質問:

夫は勤続20年の営業社員でしたが、会社からの売り上げノルマの要求が強いといつも家で愚痴をこぼしておりました。この半年は毎月の残業時間が100時間を超えている状態でした。それで最近少し元気がありませんでしたが、先日営業先のビルから飛び降り自殺してしまいました。過労自殺だと思います。未成年の子供も居るので途方に暮れています。勤務先からは弔意を示され労務担当の方から「労災保険の手続きには全面協力する」と言われていますが、私としては、会社の管理体制に落ち度があったのではないかと疑っています。労災以外に勤務先に対する損害賠償請求はできないでしょうか。

回答:

1、過労自殺が起きてしまった場合は、勤務状況などの証拠を保存し、まず最初に労災申請をするのが原則となります。公務員の場合は地方公務員災害補償法または国家公務員災害補償法の補償申請を検討なさって下さい。労災が認められるのは、業務上の災害に限定され、この点については業務遂行上のものか、業務に起因するといえるか、の二点から判断されます。

2、これらの労災給付・災害補償に加えて、過重労働が続いていた、ノルマがきつかったなど勤務先職場の管理体制に落ち度(過失)がある場合は、労災で支払われる補償を超えて勤務先法人に対する損害賠償請求(不法行為あるいは債務不履行責任)ができる場合があります。ご相談のケースでは、営業の売り上げノルマが残業の原因になっていたということです。ノルマ要求の資料や残業時間の資料などがあれば、証拠の保存をなさって下さい。

3、公務員の過労死の場合ですが、参考判例がありますので御紹介致します。死亡事故における損害賠償については責任論(過失があるか否か、損害との間に因果関係があるか)と損害額算定という二つの問題があり損害額の計算は、①逸失利益、②慰謝料、③葬祭費用を合算し、④損益相殺として、既に給付を受けている遺族年金や労災給付金を控除して計算します。

4、御相談のケースで労災給付に加えて損害賠償請求ができるかどうか、すなわち使用者に過失があるか否かを判断するには、個別具体的な検討が必要となりますので、労災申請の資料や、ノルマ要求など会社の管理体制に関する資料を収集して、お近くの法律事務所に御相談なさってみて下さい。証拠の収集保全を経て、損害賠償請求の手続きが可能かどうか、御検討なさって下さい。

5、労災に関する関連事例集参照。

解説:

1、労災保険、公務員災害補償

お悔やみ申し上げます。過労死のうち、自殺により亡くなってしまった場合にも労災保険給付の対象となり得ますが、医師の死亡診断書などを添付して申請する通常の労災事故(業務作業中の労災事故)とは異なり、業務上の過労→うつ病などの精神疾患発症→自死というプロセスを経ますので、これらの因果関係を申請資料で説明する必要があります。労災認定に関する裁判例がありますので御紹介します。

※名古屋地裁令和3年10月11日判決遺族補償一時金不支給処分取消請求事件

 『1 判断枠組等

⑴ア 労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには,業務と疾病等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労働者災害補償保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該疾病等の結果が,当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。

イ 現在の医学的知見によれば,精神障害発病の機序について,環境由来の心理的負荷(ストレス)と,個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるという考え方(ストレス-脆弱性理論)が合理的であるというべきところ,ストレス-脆弱性理論によれば,環境由来のストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害を発病するし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるとされる。(乙1,3,4,6)

ウ このようなストレス-脆弱性理論を前提とすれば,精神障害の業務起因性の判断においては,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し,業務による心理的負荷が,当該労働者と同程度の年齢,経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって,日常業務を支障なく遂行することができる者(平均的労働者)を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に,当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして,当該業務と精神障害の間に相当因果関係を認めるのが相当である。

エ そして,前記前提事実⑻のとおり,厚生労働省は,精神障害の業務起因性を判断するための基準として認定基準を策定しているところ,認定基準は,行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり,裁判所を法的に拘束するものではないものの,精神医学及び法学等の専門家により作成された平成23年専門検討会報告書に基づき策定されたものであって,その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると,精神障害に係る業務起因性の有無については,認定基準の内容を参考にしつつ,個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当というべきである。

⑵ 認定基準は,①対象疾病を発病していること,②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことを認定要件としている。そして,①対象疾病については,世界保健機関が定める国際疾病分類第10回修正版(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害のうち,器質性のもの及び有害物質に起因するもの以外のものとし,対象疾病の発病の有無,発病時期及び疾患名については,「ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」(以下「診断ガイドライン」という。)に基づき医学的に判断するとしている。

⑶ 平成23年専門検討会報告書は,精神障害について,発病から遡るほど,出来事と発病の関連性を理解するのは困難であり,ライフイベント調査では6か月を調査期間としているものが多いこと,各種研究結果では発病前1か月以内に主要なライフイベントのピークが認められるとする報告が多いことなどから,原則として,発病前おおむね6か月以内の出来事を評価することが適当であるとする。他方,平成23年専門検討会報告書は,いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては,繰り返される出来事を一体のものとして評価することから,発病の6か月よりも前に開始されている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続していれば,開始時からの行為を評価することとしている。認定基準は,これと同様の基準を採用している。(乙5,6)』

※参考URL、厚生労働省、心理的負荷による精神障害の労災認定基準

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html

https://www.shinginza.com/db/shinriteki-fuka.pdf

この裁判例は、結果として業務起因性を認めず遺族補償一時金不支給処分取り消しを認めませんでしたが、判断の枠組みは参考となります。すなわち、労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには、業務と疾病等との間に相当因果関係が認められることが必要ですが、この相当因果関係を認めるためには、当該疾病等の結果が当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価し得ることが必要であるとされています。

そして、現在の医学的知見に基づき、精神障害発病の機序について、環境由来の心理的負荷(ストレス)と個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるという考え方(ストレス-脆弱性理論)が合理的であるとし、このようなストレス-脆弱性理論を前提とすれば精神障害の業務起因性の判断においては、環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し、業務による心理的負荷が当該労働者と同程度の年齢、経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって日常業務を支障なく遂行することができる者(平均的労働者)を基準として社会通念上客観的にみて精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に、当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして当該業務と精神障害の間に相当因果関係を認めるのが相当である、としています。

この裁判例では、厚生労働省が行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定めている認定基準は、裁判所を法的に拘束するものではないものの、精神医学及び法学等の専門家により作成された平成23年専門検討会報告書に基づき策定されたものであって、その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有すると判示しています。

認定要件では、次の1、2及び3のいずれの要件も満たす必要があります。

1 躁うつ病や気分障害など、対象疾病を発病していること。(世界保健機関が定める国際疾病分類第10回修正版(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害)

2 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。業務上のストレス事象の発生。

3 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。業務外の大きなストレス事象が存在しないこと。

厚生労働省では、労災保険における業務起因性のある精神疾患の発症について、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を定めています。別表1として、「業務による心理的負荷評価表」が例示されています。これは、労災保険給付の審査に際して、類型的に「強い心理的負荷」と認められるようなエピソードが発症6ケ月以内にあったかどうかを判定するための指標となるもので、個々の事案に即して、それぞれの項目に当てはまるかどうか検討したあとで、総合的評価を行って判定するものです。

ひとつでも「強」に該当する項目があれば、総合的評価は「強」=業務起因性あり、とされますが、「中」に該当する項目しかない場合でも、これが複数あり、発症6ケ月以内に心理的負荷を重くするようなエピソードがあった場合は、総合評価により「強」とされることがあります。

これによれば、「強い心理的負荷」に該当する「特別な出来事」は次の項目です。

心理的負荷が極度のもの

・ 生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病による療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)

・ 業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)

・ 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた

・ その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの

極度の長時間労働

・ 発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った

特別な出来事以外で、心理的負荷が「強」にリストアップされているエピソード例をいくつかご紹介します。

達成困難なノルマが課された場合 【「強」になる例】

・ 客観的に相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、これが達成できない場合には著しい不利益を被ることが明らかで、その達成のため多大な労力を費やした

・ 経営に影響するようなノルマ(達成できなかったことにより倒産を招きかねないもの、大幅な業績悪化につながるもの、会社の信用を著しく傷つけるもの等)が達成できず、そのため、事後対応に多大な労力を費やした(懲戒処分、降格、左遷、賠償責任の追及といった重いペナルティを課された等を含む)

・ 客観的に相当な努力があっても達成困難なノルマが達成できず、事後対応にも多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)

時間外労働がある場合

【「強」になる例】

・ 発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った

・ 発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った

休日なしの連続勤務があった場合

【「強」になる例】

・ 1か月以上にわたって連続勤務を行った

・ 2週間以上にわたって連続勤務を行い、その間、連日、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行った

(いずれも、1日当たりの労働時間が特に短い場合を除く)

上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた場合

【「強」である例】

・ 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた

・ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた

・ 上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた

▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃

▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

▸無視等の人間関係からの切り離し

▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求

▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求

▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害

・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった

※ 性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む。

セクシュアルハラスメントを受けた場合

【「強」になる例】

・ 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、継続して行われた

・ 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく、改善がなされなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した

・ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた

・ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって、性的な発言が継続してなされ、会社に相談しても又は会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった

また、業務以外の心理的負荷により精神疾患を発病したものとは認められないこと、という要件についても、類型的に強い影響を与え得る出来事がリストアップされています。そのうち「強」に該当するものを御紹介します。

(1)自分の出来事、離婚又は配偶者と別居した

(2)自分が重い病気やケガをした又は流産した

(3)自分以外の家族・親族の出来事、配偶者、子供、親又は兄弟姉妹が死亡した

(4)配偶者や子供が重い病気やケガをした

(5)親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た

(6)金銭関係、多額の財産を損失した又は突然大きな支出があった

(7)事件、事故、災害の体験、天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた

業務に関する心理的負荷の資料について、会社側が「労災申請に協力する」との態度を示しているのであれば、会社側と円滑に連絡し、証拠の収集保存に務めることが必要です。会社側の責任に繋がりやすいノルマ強要やパワハラやセクハラなどについては、会社側の協力が得られにくい場合もありますが、そのような場合は、同僚の証言など、可能な限り資料を保存されると良いでしょう。

2、勤務先に対する損害賠償請求

前記の通り、労災保険法に基づく労災申請を行い、不支給の決定を受けてしまった場合は、行政取り消し訴訟を検討するなど、まず、労災申請の手続きを行った後、平行して、勤務先に対する損害賠償請求ができる場合があります。

労災は保険で補償額は限度があり損害全額を填補することはできません。そこで、使用者に責任がある場合は損害全額の填補を求める必要があり、それが損害賠償請求です。

勤務先とご主人との間には、労働契約関係が成立していますが、この契約は、ご主人が指揮命令に従った労務を提供し、勤務先が賃金を支払うという基本的な債権債務関係の他、これに付随して、会社側に、御主人が健康に安全に労務を継続できるように環境を整えて維持するべき安全配慮義務が課せられていると解釈されています。これは労働安全衛生法65条の3で明文化されています。

労働安全衛生法65条の3(作業の管理) 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。

安全配慮義務の内容は、個々の事業ごとに、事業の性質や職場環境にあわせて、どの程度、どのような配慮がなされるべきか決まることになりますが、当然ながら、前記の「心理的負荷による精神障害の労災認定基準・業務による心理的負荷評価表」にリストアップされているような、労務者が精神疾患を発病してしまうような心理的負荷を与えないように職場環境を整備すべきことになります。

御相談のケースのように、職場からのノルマ強制などがあり、精神疾患を発病してしまったということであれば、それがどのようなノルマだったのか、勤務先の平均的社員にとって達成が難しかったものなのか、ノルマ達成できなかった場合にどのようなペナルティがあり、どのようなストレスが与えられたのか、証拠資料により主張立証することが必要となります。労働契約に付随する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は、契約責任を追及することになりますので、消滅時効の期間は「債権者が権利を行使することができることを知った時から」5年となります(民法166条1項1号)。ご主人の過労自殺について会社側に責任があり、損害賠償請求できることを知った時から5年以内に、法的な請求をする必要があります。

3、具体的裁判例、賠償額の算定方法

地方公務員の地方公務員災害補償基金からの遺族補償年金(民間の労災遺族年金に相当するもの)の支給を受けた後に、勤務先であった自治体に対する損害賠償請求訴訟を提起して賠償が認められたものがありますので御紹介致します。労災給付も公務員の災害補償金も、過労死被害者の全損害を補填するものではありませんので、勤務先等に管理体制の落ち度があるのであれば、その差額について賠償請求をしていくことが必要となります。一般に、この差額については、勤務先から積極的に弁済の申し出をすることは有りません。債権債務が一切存在しないという清算書類を作成しようとしたり、あるいは、消極的に請求権の消滅時効時間の経過を待つような態度を取ることが多いのです。心労の多い遺族にとって大変なことですが、被害者側が主体的に損害額を見積もりして、証拠を収集保全して、これらの根拠に基づき法的に主張していくことが必要なのです。適宜、法律専門家である弁護士に相談し助言を受けることも検討なさって下さい。

(1)裁判例、札幌地方裁判所令和6年2月6日判決 損害賠償請求事件

『⑶ 被告の注意義務違反及び被災者の自死との因果関係

ア 被告は、被災者の使用者として、被災者に従事させる業務を定めて管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っており、被災者に業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、被告が負う注意義務の内容に従い権限を行使すべき義務を負っていた。

イ 被災者は、平成27年9月22日から同年10月24日まで33日間連続して勤務し、その期間内である同年9月25日から同年10月24日までの30日間の時間外勤務時間は、109時間25分に及んだ。被災者が係長となった平成27年度の同係は、人員が削減された状態にあり、また、平成26年度から平成27年度にかけて同係の業務が遅滞している状態にあったこと等から、被災者に相当の負荷を与える状況にあった。(甲2の1)

ウ このような状況にもかかわらず、被災者の上司として被災者の業務上の指揮監督を行う権限を有していた者らは、被災者へのサポートを特段しておらず、アの注意義務の履行がなされていなかったため(甲2の1、甲5、6)、被災者は気分障害を発症し、自死するに至った。』

争いの無い事実として、勤務先の注意義務違反と、労務者の自死との因果関係が認定されています。

(2)賠償額の算定方法

(あ)逸失利益

被害者が死亡してから、67歳に至るまでの就労可能期間に対応する、得られるべき収入(基礎収入)から、被害者の生活費を控除して、さらに中間利息を控除したものが逸失利益として賠償請求することが認められます。中間利息とは、被害者が生きていたなら毎月少しずつ給与を受領し、生活費を控除した後の残額が利息も付して蓄積していったはずのところ、これを遡って67歳になる前に受領するので、利息の分を「割り引いて」賠償させるということです。被害者が67歳以上の場合には、当該年齢から平均余命までの期間の半分程度を就労可能年数として逸失利益が算定されます。

基礎収入は、原則として事件直前の現実の収入を算定しますが、被害者の勤務成績が良好であり昇級も見込まれる場合は、勤務先の同僚や上司の平均収入を算定する場合もあります。前記判例では、「被災者死亡当時、被告において被災者と同等又はより上位にあった行政職員の給与の平均額である738万1574円を被災者の基礎収入とすることは合理的であり、相当と認められる」とされています。

生活費控除率は、得べかりし収入から、亡くなった当人の生活費を控除するもので、判例上、次のような区分に従って個別判断されています。上記判例では40%と認定されています。当該自殺が無かったならば遺族が相続できた遺産相続額に相当するものと一応考えることができます。

一家の支柱(被扶養者1人)・・・40%

一家の支柱(被扶養者2人以上)・・・30%

女子(女児・主婦を含む)・・・30%

男子単身者(男児を含む)・・・50%

※国土交通省自賠責保険ポータルサイトより、ライプニッツ係数表

https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf

従って、逸失利益の計算は、次の通りとなります。

逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×67歳までの就労可能年数に対応するライプニッツ係数

(い)慰謝料

被害者の死亡による慰謝料は、本人固有の慰謝料と遺族の慰謝料をあわせて、一般的に次のような金額が認定されることが多くなっています。上記判例では、被害者固有の慰謝料を2800万円、配偶者固有の慰謝料100万円が認定されています。

一家の支柱・・・2800万円

母親・配偶者・・・2500万円

その他の場合・・・2000万円~2500万円

(う)葬祭費

実際に支出した葬儀費用に加えて、仏壇購入費や墓碑建立費を認める場合もありますが、120~150万円程度が認定されることが多いようです。香典や見舞金は社会儀礼上遺族の感情を慰撫するために支払われるもので損害の填補する性質を有するものとは言えず原則として葬儀費用からの控除(損益相殺)は認められません。上記判例では、葬儀費用から香典返し額を控除した金額166万4261円のうち150万円を相当因果関係のある損害額として認定しています。

(え)損益相殺

被害者遺族が事故を原因として利益を受けた時は、その利益の額を損害賠償額から控除されます。

・控除されないもの(損益相殺されないもの)

生命保険金→被保険者が支払っていた保険料の対価としての性質を有するものですから、損益相殺による控除の対象とはなりません。

労災保険の遺族特別支給金、遺族特別一時金、遺族特別年金→労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、使用者又は第三者の損害賠償義務に対する求償権を取得する旨(損害賠償請求権の代位取得)の規定もないため控除の対象とならない(最高裁平成8年2月23日判決など)。

未給付の労災保険、厚生年金、共済年金などの社会保険給付→口頭弁論終結時に給付が確定していた3ヶ月分を除いて未給付分を控除しなかった最高裁判所平成5年3月24日判決など。

社会儀礼上相当額の香典、見舞金→加害者側、勤務先からの見舞金も含む。

・控除されるもの(損益相殺されるもの)

受領した労災保険給付

受領した公務員災害補償基金からの遺族補償年金

受領した公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金

受領した厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金

受領した国民年金法に基づく遺族基礎年金

(お)弁護士費用

任意の交渉などによる即時の弁済が得られず、やむを得ず弁護士に委任して法的手続きをとる必要があったとして認容額の1割程度が賠償額として認められることが多いです。上記判例でも認容額の1割が認められています。

(か)賠償額の計算式

以上の計算式をまとめると、次の通りとなります。基本的に、この計算方法は、交通死亡事故などの場合の賠償請求における計算方法と同じものになります。

賠償額=(逸失利益+慰謝料+葬祭費-損益相殺額)×弁護士費用1.1倍

前記裁判例では、過労自殺してしまった遺族の妻と子供3人に対して、労災給付後に、合計して、6566万5593円及び死亡日から支払日までの年率5パーセントの遅延損害金の支払いを命じました。なお、民法改正により2020年(令和2年)4月1日以降の法定遅延損害金は年率3パーセントとなっています。

4、まとめ

ご主人を過労死で亡くされ気落ちなさっておられると思いますが、ご主人の無念を晴らし、このような事件を繰り返さないため、また、残された家族の生活やお子さん達の養育を維持するためにも、労災申請と損害賠償請求は遺漏なく進めていく必要があります。ご主人の勤務状況や勤務先の管理体制など証拠収集保全の努力も必要です。現時点でご主人の勤務先は、「労災保険の手続きに全面協力する」と申し出ているようですが、労災保険の手続き書類と並行して、会社との間の「清算条項つき示談書」にサインを求めてくる可能性もあります。これは、会社には法的責任が無いことを確認する書類となっていることが多く、前記の判例のような賠償金を請求できなくなってしまう恐れのある書類です。従いまして、会社側が親切な態度で手続きに協力してくれると言っている場合でも、全て任せてしまうのではなく、手続きの初期段階から弁護士に相談して、証拠の収集保全を進めながら、労災保険請求の手続きもなさるべきと思います。そして、事実関係がある程度固まった段階で、勤務先に対しても固有の損害賠償請求について、協議を持ち掛ける必要があるでしょう。お困りの場合は、まず最初にお近くの法律事務所に御相談なさって下さい。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照判例

札幌地方裁判所令和6年2月6日判決 損害賠償請求事件

判決

主文

1 被告は、原告Aに対し、1737万6588円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告B、原告C及び原告Dに対し、それぞれ1609万6335円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、原告Aに生じた費用の3分の1と被告に生じた費用の39分の4を同原告の負担とし、原告B、原告C及び原告Dに生じた費用の各9分の1と被告に生じた費用の各39分の1を上記各原告の負担とし、その余の費用を被告の負担とする。

5 この判決は、1、2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 被告は、原告Aに対し、2490万3344円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告B、原告C及び原告Dに対し、それぞれ1872万1772円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の概要

本件は、被告雄武町(以下「被告」という。)の職員であった亡E(以下「被災者」という。)が精神疾患を発症して自死したことについて、被災者の相続人である原告らが、被告に対し、国家賠償法1条1項又は民法415条に基づく損害賠償として、原告Aについて2490万3344円及びこれに対する被災者の死亡日である平成27年12月9日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの、以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金、原告B、原告C及び原告D(以下「原告子ら」と総称する。)についてそれぞれ1872万1772円及びこれに対する前同様の遅延損害金の各支払を求める事案である。

2 前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠(特に断りがない限り、証拠番号には枝番号を含む。)又は弁論の全趣旨により認められる。

⑴ 当事者等

ア 原告Aは、被災者の妻であり、原告子らは、いずれも被災者の子である(被災者に係る相続の法定相続分は、原告Aが2分の1、原告子らが各6分の1)。

被災者は、昭和45年1月22日生まれの男性であり、昭和63年4月1日、被告の臨時職員として採用され、平成4年4月1日、被告の正職員として採用された後、平成27年4月1日以降は係長を務めていたが、同年11月頃、気分障害を発症し、同年12月9日、被災者の自宅内で自死した。

イ 被告は、普通地方公共団体である。

⑵ 公務外認定処分取消訴訟の経過及び地方公務員災害補償法等による支給ア 原告Aは、被災者の自死は公務上災害であるとして、地方公務員災害補償基金北海道支部長に対し公務災害認定請求をしたが、同支部長は、平成29年7月12日、公務外の災害と認定する処分(以下「公務外認定処分」という。)をした。

これに対し、原告Aは、地方公務員災害補償基金北海道支部審査会に対し審査請求をしたが、同審査会は、平成30年8月7日、同請求を棄却した。

原告Aは、平成30年9月13日、公務外認定処分の取消しを求める訴えを札幌地方裁判所に提起した(平成30年(行ウ)第30号)が、同裁判所は、令和3年1月13日、被災者の気分障害発症が公務に起因するとは認められないとして、原告Aの請求を棄却した。

これに対し、原告Aは札幌高等裁判所に控訴した(令和3年(行コ)第6号)。同裁判所は、被災者に公務による強い負荷があったと認められること及び他に本件精神疾患の原因になり得る事情がうかがわれないことから、気分障害の発症及び自死が公務に起因すると認められるとして、公務外認定処分を取り消す旨の判決を言い渡し(以下「前件判決」という。)、その後、前件判決は確定した(以下、一連の訴訟手続を

「前件訴訟」という。)。

イ 前件判決の確定後、地方公務員災害補償基金は、地方公務員災害補償法に基づき、原告Aに対し、遺族補償年金1753万9233円及び葬祭費用122万8200円を支給した。

ウ 原告Aは、イの金員のほか、地方公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金として292万4265円、厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金として562万9352円、国民年金法に基づく遺族年金として225万9348円の支給を受けた。

⑶ 被告の注意義務違反及び被災者の自死との因果関係

ア 被告は、被災者の使用者として、被災者に従事させる業務を定めて管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っており、被災者に業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、被告が負う注意義務の内容に従い権限を行使すべき義務を負っていた。

イ 被災者は、平成27年9月22日から同年10月24日まで33日間連続して勤務し、その期間内である同年9月25日から同年10月24日までの30日間の時間外勤務時間は、109時間25分に及んだ。被災者が係長となった平成27年度の同係は、人員が削減された状態にあり、また、平成26年度から平成27年度にかけて同係の業務が遅滞している状態にあったこと等から、被災者に相当の負荷を与える状況にあった。(甲2の1)

ウ このような状況にもかかわらず、被災者の上司として被災者の業務上の指揮監督を行う権限を有していた者らは、被災者へのサポートを特段しておらず、アの注意義務の履行がなされていなかったため(甲2の1、甲5、6)、被災者は気分障害を発症し、自死するに至った。

3 争点及び当事者の主張

本件の争点は、損害額である。

【原告らの主張】

⑴ 被災者の損害 9767万8821円

ア 逸失利益 6801万4560円

被災者は、死亡当時45歳であり、雄武町職員の給与に関する条例(以下「給与条例」という。)に基づく職員の職務の級及び号俸は4級65号俸であった。被災者は、仮に自死をしていなかった場合、被告に

おいて勤務を続け、年次を重ねるにつれて号俸が増え、昇任することが見込まれていた。

被告の行政職員のうち、職務の級が4級で、かつ65号俸と同等又はより上位の号俸であった職員6名と、職務の級が5級又は6級であった職員18名の、計24名における給与の年間総支給額の平均額は738

万1574円であり、同額を基礎収入と見るのが相当である。

なお、仮に、被告が主張するように定年前後で基礎収入を区別するとしても、定年は65歳とすべきであり、基礎収入については、将来の収入増加の蓋然性や逸失利益として退職金の増額分を計上していないことを考慮すべきである。

被災者は、本件自殺当時、原告Aのほか、原告C及び原告Dを扶養していたから、生活費控除率は30%とするのが相当である。

被災者の67歳までの就労可能年数は22年であり、ライプニッツ係数は13.1630である。

よって、被災者の逸失利益は、次の計算式のとおり算出される。

(計算式)

738万1574円×(1-0.3)×13.1630≒6801万4560円

イ 慰謝料 2800万円

本件は交通事故のような突発的な不法行為事案とは事情を異にすること、被告の被災者に対する義務違反の態様が悪質であること等を考慮すると、慰謝料は2800万円を下らない。

ウ 葬儀費用 166万4261円

⑵ 原告Aの損害 2490万3344円

ア 被災者の損害の相続分(⑴の2分の1) 4883万9410円

イ 固有慰謝料 200万円

本件は交通事故のような突発的な不法行為事案とは事情を異にすること、原告Aと被災者が平成4年10月22日に婚姻し、以来、20年以上にわたり連れ添ってきたこと、被告が被災者の死亡後長期間にわたり原告らに寄り添う姿勢を見せないまま、原告Aに前件訴訟の追行等の負担を強いてきたこと等を考慮すれば、慰謝料は200万円を下らない。

ウ 損益相殺 ▲2918万4328円

原告Aが支給を受けた年金等のうち、からまでは逸失利益の相続分から控除する。については、同支給が対象とする損害と同性質であり、同一の事由の関係にあると肯定できる損害費目は、葬儀費用のみであることから、葬儀費用166万4261円のうち原告Aが賠償請求権を相続した83万2130円から控除する。

地方公務員災害補償基金からの遺族補償年金 1753万9233円

地方公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金 292万4265円

厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金 562万9352円

国民年金法に基づく遺族基礎年金 225万9348円

地方公務員災害補償基金からの葬祭費用 122万8200円

エ 弁護士費用 324万8262円

⑶ 原告子らの損害 各1872万1772円

ア 被災者の損害の相続分(⑴の6分の1) 各1627万9802円

イ 弁護士費用 各244万1970円

【被告らの主張】

⑴ 被災者の損害

ア 逸失利益

基礎収入は、本件自殺の前年度の年収によるべきであるから、被災者の平成26年度の年収である669万8739円となる。

生活費控除率は争う。45歳の時点で扶養家族がいたとしても、その後、扶養状況は変化するため、少なくとも60歳以降の生活費控除率は50%とすべきである。

イ 慰謝料

争う。被災者に本件精神疾患を発症する具体的な兆候が認められた上でこれを放置したというわけではなく、義務違反の悪質性が指摘される事案ではない。

ウ 葬儀費用

否認する。葬儀費用は150万円を上限とするのが裁判実務であり、これに従うべきである。

⑵ 原告Aの固有慰謝料

争う。本件の事案の性質上、審理に期間や相応の労力を要することはやむを得ない側面がある。

⑶ 損益相殺

原告Aが支給を受けた額は認める。もっとも、地方公務員災害補償法に基づく葬儀費用として受領した金員を、原告Aの相続分と主張する葬儀費用からのみ控除する計算は否認して争う。

⑷ 弁護士費用

争う。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

前記前提事実のほか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

⑴ 被災者は、平成12年以降、死亡した平成27年まで、毎年1月1日に昇給していた。(甲3〔149~151頁〕)

⑵ 被告において、職員の昇給は、直前1年間における勤務成績に応じて行われ(給与条例4条4項)、昇給の号俸数は、同期間の全部を良好な成績で勤務した職員を4号俸とすることが標準とされている(同条5項)ところ、被災者は、平成23年1月、平成24年1月、平成26年1月、平成27年1月のいずれにおいても4号俸の昇給とされていた。(甲3〔151頁〕)

⑶ 被災者は、平成27年12月9日の死亡当時45歳であり、職員の職務の級及び号俸は、4級65号俸であった。(甲3〔152頁〕)

⑷ 被災者が死亡した平成27年当時、被告の行政職員のうち、職務の級が4級で、かつ、65号俸と同等又はより上位の号俸であった職員6名と、職務の級が5級又は6級であった職員18名の、計24名における給与の年間総支給額の平均額は738万1574円であった。(弁論の全趣旨)

2 被災者の損害 8779万8195円

⑴ 逸失利益 5829万8195円

ア 逸失利益は、将来の長期間にわたって取得することが想定される収入を基礎とするものであるから、客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収入の額を算出することができる場合には、その限度で損害の発生を認めるべきである。

平成27年12月9日の死亡当時、被災者の職務の級及び号俸は4級65号俸であったところ、被災者に予定されていた昇給の見込みを具体的に認定することは困難であるものの、普通地方公共団体の行政職員という職務の性質に加え、被災者の従前の昇給の経過からしてその勤務成績が良好であったと評価できること(認定事実、⑵)に照らすと、被災者死亡当時、被告において被災者と同等又はより上位にあった行政職員の給与の平均額である738万1574円を被災者の基礎収入とすることは合理的であり、相当と認められる。

イ 被災者が、死亡当時、妻である原告A並びに子2名(原告C及び原告D)を扶養していたことは当事者間に争いがないところ、子2名は当時19歳と16歳であり(甲1)、その後被災者に扶養される期間は長くはなかったと推認されるから、生活費控除率を40%とするのが相当である。

ウ 就労可能年数は、死亡当時の年齢である45歳から67歳までの22年間であり、当該期間に対応するライプニッツ係数は13.1630である。

エ したがって、被災者の逸失利益は、次の計算式のとおり算出される。

(計算式)

738万1574円×(1-0.4)×13.1630≒5829万8195円

オ なお、被災者の死亡当時、被告における定年は60歳と定められていたが(令和3年法律第63号による改正前の地方公務員法28条の2第2項、同年法律第61号による改正前の国家公務員法81条の2第2項参照)、これら改正により被告における定年が令和13年4月1日までに段階的に65歳まで引き上げられること(上記改正後の地方公務員法28条の6第2項、附則21項、上記改正後の国家公務員法81条の6第2項、附則8条参照)、原告らにおいて被災者が定年まで勤続した場合の退職金の増額分を逸失利益として主張していないことに照らすと、退職の前後を問わず上記基礎収入により逸失利益を算出するのが相当である。

⑵ 慰謝料 2800万円

被災者が長期間にわたり精神的負荷のかかる業務に従事し、その結果、精神疾患を発症して、家族を残しながら45歳で自死するに至ったこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、(後記のとおり原告Aについて固有の慰謝料を認めるべきことを考慮しても)慰謝料は2800万円とするのが相当である。

⑶ 葬儀費用 150万円

原告らが被災者の葬儀に要した費用は166万4261円であったところ(甲11の2の「支出計」記載の金額から「香典返し(小島葬儀店)」記載の金額を控除した金額)、このうち150万円の範囲において、被告の注意義務違反と相当因果関係を認めるのが相当である。

3 原告Aの損害

⑴ 被災者の損害の相続分(2分の1) 4389万9097円

⑵ 固有慰謝料 100万円

20年以上共に過ごしてきた夫が、仕事上の精神的負担に苦しみ、自ら命を絶ったこと、本件訴訟に至るまでの経緯等本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告A固有の慰謝料を100万円とするのが相当である。

⑶ 損益相殺 ▲2910万2198円

ア 地方公務員災害補償基金からの遺族補償年金 1753万9233円

イ 地方公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金 292万4265円

ウ 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金 562万9352円

エ 国民年金法に基づく遺族基礎年金 225万9348円

オ 地方公務員災害補償基金からの葬祭費用 75万円

地方公務員災害補償法に基づく葬祭補償は、通常葬祭に要する費用を考慮して政令で定める金額が支給されるものであり(同法25条1項7号、42条、同施行令2条の2参照)、目的が特定された補償金であることから、これをもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、受給者たる原告Aの財産的損害のうち葬祭費用に限られると解するのが相当である。

⑷ 小計 1579万6899円

⑸ 弁護士費用 157万9689円

⑹ 以上によれば、原告Aは、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、1737万6588円及びこれに対する被災者の死亡日である平成27年12月9日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求めることができる。

4 原告子らの各損害

⑴ 被災者の損害の相続分(6分の1) 1463万3032円

⑵ 弁護士費用 146万3303円

⑶ 以上によれば、原告子らは、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ1609万6335円及びこれに対する3 と同様の遅延損害金の支払を求めることができる。

第4 結論

よって、原告Aの請求は、1737万6588円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告子らの各請求は、それぞれ1609万6335円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、それぞれその限度で認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

札幌地方裁判所民事第1部