新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1178、2011/11/9 11:03 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【債務整理,クレジットカードのショッピング枠の現金化】

質問:クレジットカードのショッピング枠を現金化できるというインターネットの広告を見ました。利用しても大丈夫でしょうか。

回答:
1.いかなる場合も利用すべきではありません。
2.クレジットカード会社とあなたとの間で締結された契約の内容であるクレジットカード会員規約に反することになり,会員資格を取り消されたり,即時一括請求を受けたりする場合があります。
3.将来,破産を申し立てても免責を許可されない可能性が生じます。
4.不正な利用方法であることを知りながらショッピング枠の現金化を利用した場合,あなた自身が詐欺罪に問われる危険もゼロではありません。「不正とは知らなかった。」と否認しても裁判所で通用するとは限りません。
5.又、この方法は、実質的に見れば少なくとも年率60%以上(1回の取引で10%程度の利息負担なので年率に引きなおすと莫大な利息と同様になります。)の利息を債務者に負わせるものであり、利息制限法の趣旨(金額により年15%ー20%が上限 同法1条)を逸脱するものです。利息制限法は、(及び出資法)は窮地にある債務者を救済し自由主義、競争社会を維持発展させ自由公正な社会を守る基本法、強行法規、いわば金融法の憲法であり、この趣旨を逸脱する合意、取引、立法は一切許されません。
6.ショッピング枠の現金化を考えなければならないほど借金問題に困っているのでしたら,速やかにお近くの法律事務所に債務整理についてご相談ください。
7.債務整理、利息制限法について当事務所法律相談事例集キーワード検索 :1135番997番948番897番889番854番853番839番833番804番799番711番673番659番562番463番428番401番263番184番155番147番53番9番参照してください。

解説:

【ショッピング枠現金化の手口】
 クレジットカードのショッピング枠を現金化できると宣伝する業者(以下「現金化業者」といいます。)の手段は多岐にわたり,巧妙化もしているため,ここで紹介する方法が全部とは限りませんが,代表的な方法としては次のようなものがあります。いずれの手口も,あなたやカード会社の損害のもとに現金化業者が利益を得るという構図は同じです。

1 キャッシュバック方式
(1)あなたが「ショッピング枠現金化,キャッシュバック率90%」などという広告を見て,ショッピング枠50万円の現金化を申し込む。
(2)業者から,「50万円で買ってくれれば45万円キャッシュバックする」などといわれる。実際は,その商品(業者が指定する商品)には5万円分の価値すらない。
(3)クレジットカードで購入の決済をすると,キャッシュバックとして,業者からあなたに45万円が支払われる。
(4)あなたは,クズ同然の商品と45万円のお金を手にする。
(5)しかし,後日,カード会社からあなたに対して結果的に高金利を伴う(5万円分の上乗せ)50万円の請求がされる。

2 買取屋方式
(1)あなたが「ショッピング枠現金化,買取率90%」などという広告を見て,ショッピング枠50万円の現金化を申し込む。
(2)業者から,「ウチで現金買取するから」などと言われて,品物(宝飾,ブランド品,家電製品,新幹線乗車券その他金券類)を買ってくるように指示される。
(3)あなたが50万円の商品を買うと,業者がそれを45万円で買い取る(このとき,商品に傷が付いているなどと難癖をつけられて,買取額を値切られることもある。)。
(4)あなたは,買った商品を失い,45万円のお金を手にする。
(5)しかし,後日,カード会社からあなたに対して50万円の請求がされる。

【現金化業者は,ウチは合法・安心・安全だという。】
 現金化業者は,カモになる客を騙すため,「ウチは安全」という宣伝・広告をします。代表的な例は次のとおりです。
(1)景品表示法を遵守しています系
 景品表示法は,正式名を「不当景品類及び不当表示防止法」といい,景表法などとも略称されています。いわゆるキャッシュバック行為が景表法の適用対象外なだけであって,そもそも,遵守するも何もないのです。「ナントカ法を守っています!」などと難しい法律名を掲げると,さも法令遵守をうたっているように見えてしまうかもしれませんが,そこが現金化業者の狙いなのでしょう。
(2)公安委員会の許可を受けています系
 「○○県公安委員会の許可を得ています。」とか「公安委員会許可×××××号」などといった宣伝・広告もしばしば見受けられます。しかし,中古品の売買をする古物商の許可を受けているだけの話です。「ショッピング枠の現金化」という手法自体を公認してもらっているわけではありません。

【カード会社との契約違反になる。】
 あなたがクレジットカードを使えるのは,あなたがカード会社との間でクレジットカードの利用に関する契約を結んでいるからです。契約の当事者であるあなたとカード会社とは,お互いにその契約を守る義務を負っています。
 そして,あなたとカード会社との契約の内容はカード会員規約などに記載されていますが,換金目的のショッピング枠の利用はその規約などで禁止されています。禁止行為に該当する事実があった場合には,規約上,会員資格の剥奪や,残金全額の即時一括請求などができると定められています。
 換金目的だったかどうかは,一義的には取引データをもとにカード会社が判断します。あなたが「換金目的じゃない。」と言い張ってもおそらく耳を貸してくれないでしょう。どうしても納得がいかない場合には,裁判所に訴えて,規約違反だったかどうかを判断してもらうことも可能ですが,現金化業者を利用したということなら裁判所でも負けてしまうでしょう。

【破産を申し立てても,免責が受けられない危険が生じる。】
 債務整理の選択肢の一つとして破産申立てがありますが,もし,ショッピング枠の現金化に手を出してしまうと,破産申立てによる債務整理が難航し,免責(残ってしまった負債に対する責任免除)が受けられない危険も生じます。
 破産申立ては,簡単に言うと,手持ちの財産をお金に換えて全債権者に公平に分配する手続です。そして,破産者が個人の場合には,破産手続を経ても残ってしまった債務を免責(棒引き)にしてあげるかどうかを判断する免責許可申立てという手続に移行します。
 免責を許可するかどうかは,裁判所が判断しますが,破産法上は,同法に規定された「免責不許可事由」がない限り,免責が認められるとされています(252条1項)。
 ところが,ショッピング枠の現金化は,この免責不許可事由に該当してしまいます。具体的には,同法252条1項2号「破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。」の前段または後段のいずれかに該当することになります。どちらに該当するかは現金化の手口によって左右されますが,どのような方法であっても免責不許可事由になること自体は変わりません。
 免責が認められないと,破産手続が終わっても,残ってしまった債務については引き続き法的な支払義務が残ってしまいます。このような危険を生じさせないためにも,ショッピング枠の現金化はすべきではありません。

【破産を申し立てても,管財手続に付されてしまい,費用が余計にかかる。】
 とはいえ,免責不許可事由があったとしても,免責が認められる余地はあります。破産法252条2項が「前項の規定にかかわらず,同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても,裁判所は,破産手続開始決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができる。」としているためです。このルートによる免責は,裁判所の裁量によるものであることから「裁量免責」といいます。
 したがって,ショッピング枠現金化を利用してしまったからといって,絶対に免責が許されないわけではありません。ですから,切羽詰まってショッピング枠現金化を利用してしまった方も,諦めずに弁護士に依頼すべきです。初めての破産申立てであれば,最終的には裁量免責が許可される可能性は十分にあります。
 ただ,そうはいっても,ショッピング枠現金化を利用してしまうと,破産手続は簡単には終わらないと予想されます。
 破産手続においては,破産者の財産の調査・換価や債権者への配当をするために破産管財人が裁判所から選任される「管財手続」に進むのが原則ですが,管財手続の費用を賄うだけの財産も残っていないような場合には,「同時廃止」といって,管財手続を省略する簡易な手続が取られることもあります。
 管財手続になると,その手続のために必要な費用(東京地裁の場合,最低20万円)を申立人自身があらかじめ納めなければなりません。これは,破産申立てを依頼する弁護士に支払う費用とは別に必要となります。用意できない場合は,分割にしてでも納めなければなりません。同時廃止の場合には,この20万円の用意はしなくて済みます。ですから,破産申立てをする申立人にとっては,できれば同時廃止にしてもらいたいと願うのが普通です。
 けれども,ショッピング枠の現金化など,免責不許可事由があると,裁量免責を認めていいかどうかを調査する必要があるという理由から,同時廃止にはしてもらえず,原則どおり,管財手続に付されてしまう可能性が非常に高いと覚悟しなければなりません。

【ショッピング枠現金化の利用者自身が詐欺罪に問われる可能性】
 現金化業者を利用した場合,利用した消費者自身が詐欺罪に問われる可能性もあります。本稿執筆している平成23年9月時点では,現金化業者自体の摘発が必ずしも進んでいないのが現状のようではあるものの,理論的には,現金化業者だけでなく,利用者自身も詐欺罪を犯していると評価できる場合があるといえるからです。
 具体的な法律構成は,現金化行為の手口が多様であるため一律に論じられませんが,例えば,典型例として挙げたキャッシュバック方式の場合でいえば,現金化業者の手口の全容が不明ではあるものの,現金化業者がカード会社に対して立替代金を請求する際に何らかの欺く行為が介在していると推察されます。現金化業者によるカード会社に対する欺く行為によって詐欺罪の実行の着手があったとされ,さらに,カード会社が真正な立替代金の支払義務があると誤信して現金化業者にお金を支払った段階で,カード会社を被害者とし,支払われたお金を被害物とする詐欺が既遂に達するという構図です。直接カード会社を欺いているのは現金化業者ですが,利用者自身にも,その幇助犯,あるいは関与の程度によっては共同正犯が成立する可能性があります。
 また,典型例として挙げた買取屋方式の場合も,利用者が転売目的を隠したままカード加盟店に対して商品の購入を申し込む行為によってカード加盟店を欺く行為としての詐欺罪の実行の着手があったとされ,さらに,商品の引渡しを受けた段階で,カード加盟店を被害者とし,購入商品を被害物とする詐欺が既遂に達すると考える余地があります。この場合,カード利用者は詐欺罪の正犯となってしまい,現金化業者にはその教唆犯または共同正犯が成立するのではないかと考えられます。

【債務整理の必要性】
 ショッピング枠の現金化に手を出そうか迷っている方は,大体の場合,既にいくつもの借金を抱えてその返済が困難になっています。「とりあえず今月の返済を乗り越えれば…」などと思って現金化に手を出しても,おそらく問題は解決しないでしょう。それどころか,さらに負債を抱えて,しかも前述のとおり破産手続に厄介を抱えることになってしまうのが関の山です。
 例えば,冒頭で掲げた「キャッシュバック率90%」のケースでは,50万円のショッピング枠を45万円に現金化しても,長くても2か月後にはカード会社から50万円の請求を受けることになります。これは年利66%の借入れに匹敵する負債です(2ヶ月で5万円の利息で年間30万円の負担、そして手取りは45万円であり30/45=66%)。既に返済資金に窮しているのに,年利66%でさらに借入れをして本当に立て直せるでしょうか。
 自分だけは大丈夫と思わず,勇気をもって弁護士に債務整理の相談をしてください。

≪参照条文≫

【利息制限法】
(昭和二十九年五月十五日法律第百号)
最終改正:平成一八年一二月二〇日法律第一一五号
 第一章 利息等の制限(第一条―第四条)
 第二章 営業的金銭消費貸借の特則(第五条―第九条)
 附則
   第一章 利息等の制限
(利息の制限)
第一条  金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一  元本の額が十万円未満の場合 年二割
二  元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三  元本の額が百万円以上の場合 年一割五分

【破産法】
(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条  裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一  債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二  破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三  特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四  浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五  破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六  業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七  虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八  破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九  不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十  次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法 (平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項 に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日ハ 民事再生法第二百三十五条第一項 (同法第二百四十四条 において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一  第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
2  前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
3  裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
4  裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
5  免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
6  前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
7  免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。

【刑法】
(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

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