新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.897、2009/7/2 15:39 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事・平成18年12月20日出資法改正・施行・日掛金融の特例廃止・保証料】

【質問】:数年前、どうしてもまとまったお金が必要となり、大手の消費者金融からは、既に借り入れが多く、限度額一杯で借りられなかったので、たまたま「電話一本で即日融資」、「一日当たり返済額も抑えます」との広告を見つけた業者に融資を申し込みました。年利50%、信用を付けるための保証料が年10%と言われ、高いとは思いましたが、仕方ないと思って借りました。融資の際、電話応対をした担当者から、自分が個人商店の店長になっている名刺や横版を、すぐ近くの文具店で作って持参して、この店を経営していると言って下さい、あとはうまくこちらで説明します、と言われました。私はサラリーマンでしたが、審査を通りやすくするためですので、といわれて従ってしまいました。それから3ヶ月毎に切り替え等をして、ずっと返していますが、高利ですのでいっこうに金額が減りません。毎日返済、ということになっていたのですが、現実には、月2回しか取りに来ません。それでも、直接自宅に取りに来られるので、無理してでも支払わざるを得ません。担当者に言われるままに、事実と異なる名刺を使ってしまったので、法的な相談をしても、かえって処罰されたりしないか心配です。返済が苦しいのですが、何とかならないでしょうか。

【回答】:
1.日掛金融の特例廃止、保証料について平成18年12月20日に改正した出資法の施行後(平成20年10月1日から、2年6ヶ月を超えない範囲において、政令で定める日)であれば、無効、違法となる貸付、金利です。刑事告訴も可能です。
2.ご相談いただいた借り入れの時点が、改正法施行前であっても、貸付、利息を無効にして減額等をさせる余地があります。

【解説】:
1.これまでの貸金業法では、従業員5人以下の物品販売業等を営む者を相手に、100日以上の返済期間の、100分の50以上の日数にわたって集金をする、日掛け業者の貸付については、通常の消費者金融より高利の、年利54.75%の利息が認められています(出資法5条、改正附則8条)。この特例は、当時、毎日少額ずつの利益を上げていく形で採算を維持している小規模自営事業者が、急な資金が必要になった場合、その毎日の利益の範囲でこつこつと長期に返していく形で対応できる金融業者が存在することが必要だと考えられ、ただ、毎日の集金には業者もコスト、負担がかかるので、その分利益を多く取得できるようにしなければならない、という趣旨で規定されたと考えられています。

2.しかし、コンビニのATM、インターネットバンキング等、送金手段が多用かつ簡便になった現在において、当時の社会的な需要が失われているのではないか、という疑問が生じます。直接の集金がそれほど便利ではなく、むしろ、迷惑であったり、圧力を直接かけられたりする、というおそれもあります。また、この特例を悪用して、ご相談いただいたケースのように、一見、自営業者に貸し付けたような書面を作成して(つまり、捜査や調査を受けたときに、何とか説明で切り抜けられるように、あらかじめ虚偽の証拠を用意しておいて)、高金利による利益を上げる、悪質な業者が多く見られるようになりました。そこで、平成18年度の改正では、この特例金利を廃止して、他の消費者金融と同様の利息しか取得できないようにしました。

3.ところが、この特例廃止については、既存の業者の、対応変更の経過期間が必要と考えられたのか、本改正法全体の施行日とは別に、長期の経過期間がとられています。つまり、平成20年10月1日(本改正法自体の施行日、平成18年12月20日本法律成立後公布日から1年を超えない範囲内において政令で定められた日)から、2年6ヶ月を超えない範囲において、政令で定める日に施行(つまり現実に廃止される)されることになっています。したがって、ご相談をいただいた時点の借り入れについては、特例が適用されてしまい、54.75%を下回る50%の利息では、業者は処罰されないかもしれません。本来は、虚偽の書面等を作成して形を作っただけで、現実には、取立方法や契約期間等も含め、法定の要件を満たしておらず、法で定める日掛け金融には該当しないはずですが、実際に、刑事告訴等で警察を動かして、契約書面等の資料のみではわからない、借り入れの実態についてまで捜査を開始させるのは、そう簡単なことではありません。ただ、業者も警戒はしていて、できるだけそのような事態は回避したいでしょうから、払わなければ警察に連れていく、ということを仮に言われたとしても、脅しだけという可能性が高いでしょう。

4.なお、仮に、処罰が難しいとしても、保証料を合わせると60%となり、特例の年利54.75%を上回りますし、信用を付けるため、という説明しかなく、業者とは別個の保証会社等に払っているかさえ疑問ですから、結局、実質的には、業者、あるいは業者とほぼ利害の一致する保証会社が60%を受け取っていることにならないか、という問題も生じます。この点、平成18年度の出資法改正では、保証料を含めて、上限利息を超えた利息を受領した場合には、処罰される、という規定が設けられています(出資法5条の2)。しかし、この規定も、やはり、日掛金融の特例と同様、長期の経過期間がとられています。つまり、平成20年10月1日(本改正法自体の施行日、平成18年12月20日本法律成立後公布日から1年を超えない範囲内において政令で定められた日)から、2年6ヶ月を超えない範囲において、政令で定める日に施行されることになっていますので、やはり適用されません。従って、この点で、刑事的に告訴をする等して、業者を処罰するのは、難しいようと思われます。

5.刑事告訴あるいはそれを主張しての交渉の効果は別として、いずれにしても、民事上、業者に対する負債を減額する余地がない、ということではありません。利息制限法には、このような特例はありませんから、弁護士を通じて交渉すれば、利息制限法に基づいた再計算を行った上での金額での交渉が可能となります。また、この保証料についての規定が新設されたのは、多くの裁判例で、業者等が、法律の規定の適用を免れようとして、契約を締結した場合等については、契約書に記載された利息だけでなく、保証料も、利息と同様に考えられる(第3条のみなし利息とする等)ようになってきたことによるものです(最高裁平成15年7月18日、広島高判平成18年2月16日、名古屋地判平成18年10月18日)。したがって、弁護士に、この業者の債務を含めた債務整理を依頼して、保証料を含めて利息と考え、利息制限法を超える部分を無効とし(民法90条、708条)、再計算を行った金額で、減額等の交渉を行うことは、十分に考えられます。日々の支払が少額ですと、払いすぎた分(過払い金)の返金までには至らないかもしれませんが、日掛け金融の体裁を整えたとなると、本来は、契約全体の無効(元本を含む)も、主張できるかもしれません。この場合は、支払い利息全額の返還請求も可能になると思われますし、クリーンハンドの原則(民法708条)から元本の返済義務自体も消滅することになるでしょう。このような営業を行う金融業者自体、経済的な信用に乏しく(所在不明となることも多々あります)、実際の返金までは難しいかもしれませんが、少なくとも、減額等の面で、交渉してみる価値は大いにあります。他の負債の問題も含め、お近くの法律事務所にご相談下さい。

≪条文参照≫

以下条文中、「改正」とあるのは、平成18年改正です。
<出資の受入れ、預り金及び金利等の取締に関する法律>
(高金利の処罰)
第5条 金銭の貸付けを行う者が、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2(改正後は20)パーセント(2月29日を含む1年については年29.28(改正後は20)パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前2項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
附則(昭和58年5月13日法律第33号)(抄)
(日賦貸金業者についての特例) (改正後は削除)

 日賦貸金業者が業として行う金銭の貸付けにおける利息の契約の締結又はこれに基づく利息の受領若しくはその支払の要求についての改正後の法第五条第二項及び第三項の規定の適用については、当分の間、 同項第二項中 「二九・二パーセント」とあるのは、「五四・五七パーセント」と、 「二九・二八パーセント」とあるのは、「五四・九パーセント」と、 「〇・〇八パーセント」とあるのは、「〇・一五パーセント」と 読み替えるものとし、附則第二項及び第三項の規定は、適用しない。

*参考(2
 この法律の施行の日から起算して三年を経過するまでの間は、改正後の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下「改正後の法」という。)第五条第二項中 「四十・〇〇四パーセント」とあるのは、「七十三パーセント」と、 「四十・一一三六パーセント」とあるのは、「七十三・二パーセント」と、 「〇・一〇九六パーセント」とあるのは、「〇・二パーセント」と 読み替えるものとする。ただし、質屋営業法(昭和二十五年法律第百五十八号)第一条第二項に規定する質屋については、この限りでない。

 前項に規定する期間を経過する日の翌日から別に法律で定める日(平成3年10月31日−平2法42)までの間は、 改正後の法第五条第二項中 「四十・〇〇四パーセント」とあるのは、「五十四・七五パーセント」と、 「四十・一一三六パーセント」とあるのは、「五十四・九パーセント」と、 「〇・一〇九六パーセント」とあるのは、「〇・一五パーセント」と 読み替えるものとする。前項ただし書の規定は、この場合に準用する。 )


 前項に規定する日賦貸金業者とは、貸金業の規制等に関する法律第二条第二項に規定する貸金業者であって、次の各号に該当する業務の方法による貸金業のみを行うものをいう。

 主として物品販売業、物品製造業、サービス業を営む者で、大蔵省令で定める小規模のものを貸付けの相手方とすること。

 返済期間が百日以上であること。

 返済金を返済期間の百分の五十以上の日数にわたり、かつ、貸付けの相手方の営業所又は住所において貸金業者が自ら集金する方法により取り立てること。
10
 日賦貸金業者は、前項に規定する業務の方法以外の方法により貸金業を行つてはならない。

*参考(貸金業法
第2条 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
1.国又は地方公共団体が行うもの
2.貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの
3.物品の売買、運送、保管又は売買の媒介を業とする者がその取引に付随して行うもの
4.事業者がその従業者に対して行うもの
5.前各号に掲げるもののほか、資金需要者等の利益を損なうおそれがないと認められる貸付けを行う者で政令で定めるものが行うもの
2 この法律において「貸金業者」とは、次条第1項の登録を受けた者をいう。)

(改正後)第5条の2 金銭の貸付け(金銭の貸付けを行う者が行として行う者に限る。以下この条及び次条において同じ。)を行う者が、当該保証に係る貸付けの利息と合算して、当該貸付けの金額の年20パーセントを超える割合となる保証料の契約をしたときは、5年以下の懲役もしくは1000万以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合となる保証料を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

<利息制限法>
(利息の最高限)
第1条 金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が10万円未満の場合
年2割
元本が10万円以上100万円未満の場合
年1割8分
元本が100万円以上の場合
年1割5分
2 債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。
(みなし利息)
第3条 前2条の規定の適用については、金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他何らの名義をもつてするを問わず、利息とみなす。但し、契約の締結及び債務の弁済の費用は、この限りでない。

<民法>
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(不法原因給付)
第七百八条  不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

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