新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.948、2010/1/12 15:11 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事・サラ金の債権譲渡と過払いの抗弁・契約上の地位の譲渡】

質問:最近知ったのですが、私の夫は、サラ金から借金をしていることがわかりました。このサラ金は、いわゆる法定利息以上の金利で商売をしているところだったので、過払い金があると思い、弁護士に頼んで請求をしました。しかし、相手の業者は、自分たちは債権譲渡を受けた業者であり、債権譲渡以前の過払い金については支払う義務がない、と主張してきました。確かに、夫の持っている資料を見ると、最初に借りて、返済を続けていたAという業者は倒産しており、3年位前、Bという業者から、Aから債権を引き継いだので今後はBに払って欲しい、という文書が来ていました。夫はよくわからなかったが、Aから借りたこと、返済が途中であったことには身に覚えがあったので、それからはBに対して返済を続けていたとのことです。Bの言い分は正しいのでしょうか?

回答:
1.ご主人は、利息制限法が定める法定利息を超過して利息を支払っていますから、その超過部分は元本に充当され(利息制限法1条2項の趣旨、解釈、判例)、元本がなくなっていればAに対しては当然、Bに対しても一切支払う法的義務はありません。また、過払い分(元本に充当しても、支払った金額のほうが多ければ過払い金として)の返還を請求する権利を有することになります。
2.ただ、過払い金の返還請求についてはAとBが全くの別人格(別法人)であれば、Bに対して支払った利息についての過払い金の請求は可能ですが、Aに対し実際に支払った過払い金を債権の譲り受け人(B)に対しては返還請求できないと考えられます(Aに対して支払った分はAに請求できるのは勿論ですが、倒産していると実際の回収は出来ないことになります)。その点については業者Bの主張は正しいと言えます。
3.ご相談の場合、ご主人が債権譲渡の通知を受領後も異議を述べずに支払っていたことが問題となります。この点について、ご主人がBに対して、債権譲渡した債権について内容、存在について異議を留めない旨の承諾をしたと、業者が主張し(民法468条)、Aから譲渡された債権については元本の充当を認めないと主張する可能性があります。
 しかし、このような業者の主張は認められないでしょう。利息制限法は金融関係の公の秩序に関する法律であり、これに反する債権に関し債務者の異議をとどめず譲り受けても無から有は生じず、民法90条に違反するような無効な債権の取得、主張自体を認めることができないからです。そもそも、468条が適用される場合ではないと言うことです。従って、ご主人の債権の不存在、不当利得の主張(譲渡された時点の債権額について、Aへの法定利息を超える利息の支払いの元金への充当の主張)は認められると思います。
 仮に、468条が適用されるとしても、Bは、業者として少なくとも超過利息の支払いの確認について過失がある(悪意なら勿論)と考えられ、異議を認めない承諾の効果を主張することができません。すなわち、468条の制度趣旨から債務者は、仮に異議を留めない承諾をしても、468条の「対抗することをうべかりし事由」について悪意、有過失の債権譲り受け人には主張することができると解釈できるからです。同様の判例もあります。
4.次に、最初の債権者(A)とBの債権譲渡の関係が個別的な債権の譲渡ではなく、契約そのものの譲渡である特別な事情があれば(例えば包括的営業譲渡)、これを法律上「契約上の地の譲渡」といいますが、AとBは同一人と考えられますので、Aに対し支払った過払金の返還請求自体もBに対して返還請求可能となるでしょう。

解説:
1.(消費者金融と過払い請求)まず、ご主人様は、法定利息を超える利率で金銭消費貸借契約を結んで、返済を続けていたということですから、法定利息を超えた分の利息については、払いすぎたものとして、まず元本に充当され、それでも余りが出る場合には過払い金として返還を受ける権利があります(利息制限法1条、民法703条、不当利得返還請求に基づきます)。詳細は、当事務所のホームページ事例集に、過払い金返還についての記事が多数ありますのでご参照ください。事例集854番参照。簡単に言うと利息制限法は、金融関係の憲法ともいわれる基本法律であり、これを脱法、潜脱することはいかなる方法、理由によっても認められません。

2.(問題点の指摘、過払い金返還請求に対し債権譲渡について、業者は異議を留めない承諾を抗弁とで主張できるか)
・債権の譲渡(業者の変更)について
 今回のように、途中から返済業者が変わったというケースについて解決します。昔から、いわゆる取立て屋のような商売をしている人物はいましたが、これは、他人の債権につき委託を受けて取り立てるものでした。現在は、債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)により、政府の許可を受けた業者でなければ、委託を受けて他人の債権を回収することは禁止されました。脅迫強要を伴うような違法な取立てを防止するため、法律により規制する必要があるからです。しかし、ご相談のように、これに近いことをビジネスとして行っている業者はいるようです。例えば、倒産した貸金業者などから債務者のリストを譲り受け、「債権譲渡を受けた」と主張して金銭の回収をはかろうとするものです。そもそも、債権は譲渡することができます。債権が財産権の一つであり、契約自由の原則が支配する社会制度においては、自由な経済活動を保障するため否定することはできませんし、むしろこのこと自体は円滑な経済活動になくてはならないものだからです。また、会社の合併や営業全部の譲渡をすることに伴って、個別債権が移転することは、何ら違法なことではありませんし必要不可欠なものです。

・債権譲渡の方法について
 債権の譲渡は、一定の様式に従わなければ、債務者または第三者に対抗することができません。一定の様式とは、確定日付ある証書により、債務者に通知または承諾を取ることです(近時、債権譲渡を登記する制度も運用されています)。これを対抗要件といい、債権者はこの手続をしなければ債権譲渡の効力を主張できないのです。また、債権は同一性を持って移転するので、債権に付着した抗弁(返済期限など債権者に対して主張できる事情)も譲受人に対抗することができるはずです。条文上は、「譲渡人に対抗することができた事由」と規定されていますが、具体的に本件では、同債権は譲渡の時点ですでに過払いであり、払いすぎで消滅している、という反論(抗弁といいます)が考えられるわけです。 しかし、ご質問にあったように、相談者は何も言わずにBという会社に弁済を続けています。これが、民法468条における「異議をとどめない承諾」にあたれば、債務者である相談者は譲受人に過払いの主張ができなくなってしまうようにも見えます(債権者、債務者間では、確定日付のある証書までは要求されていないので、弁済をすること自体が、黙示の承諾と認定される可能性があります)。異議がないので弁済したとも考えられるからです。しかし、これまでの判例実務の流れを考えると、消費者金融における債務者の弁済について、異議なき承諾があったとは認められないとも考えられます。また仮に、債務の弁済が異議なき承諾にとしても、次に述べるとおり民法468条の規定により債務者が不利益を受けることはないと考えらます。

3.Bは、過払い基づく不当利得返還の請求に対して支払い続けたという黙示の承諾を理由(抗弁)に過払い金の支払いを拒否することは出ないでしょう。債務がすでに消滅しているという「譲渡人に対抗することができた事由」を債務者は依然としてBに対して主張することができます。その理由をご説明いたします。

4.(理由)@本条の趣旨は、債権という財産権の譲渡についてその外形について取引関係する者の信頼を保護し、取引を安全円滑にして保障し公正で、最終的に公平な経済取引秩序を維持することにあります。信頼の原則、公信の原則の一つです。不動産と異なり(公信の原則が認められていない不動産も民法94条2項で事実上救済しています。事例集905番参照)、動産には例外的に公信の原則である即時取得(民法192条)が認められていますが、本来、指名債権(債権者が特定されている債権。対比されるのが公信の原則が認められている指図債権。)が譲渡されても、無から有は生じませんから債権の存否についての理由(弁済等による消滅)を債務者は譲り受け人に対し常に主張できるはずです。しかし、この原則を貫くと譲り受け人はその度に債権の存否を調査しなければならず、取引が停滞し経済活動が円滑に行われません。
 そこで、債務者が、債権譲渡について債権の存否内容に異議を留めない場合は債権取引の信頼保護のため、債務者の異議主張を制限したのです。従って、468条の理由を主張するには取引関係において保護に値する者でなければならず、債権の譲り受け人は、債権の存否等について悪意であれば保護されません。しかし、利息制限法違反の過払い金の場合は、譲り受け人に無過失(容易に知りうべき場合)も要請されるものと解釈されます。すなわち、債務者は、借用している立場から金融業者の言いなりになるのが普通であり、外観作出に事実上責任がないと評価できるので、静的安全(債務者保護)を保護すべく基本的に譲り受け人に無過失が要件となるものと考えられます。従って、本件のような消費者金融機関から業として譲り受けする者は当然、利息の割合、債権の過払い状態を予想、調査することができるので、悪意か少なくとも過失が認定できることになります。

A現在、利息制限法1条2項、それを根拠とする貸金業法のみなし弁済規定は、廃止が決定されており、利息制限法に違反して支払われた過払い金は、昭和29年の利息制限法の制定以来、最高裁の判例の集積、解釈変更により無条件に返還が認められています。その理由は、消費者金融取引における常に弱者であり、実質的に契約自由が保障されない消費者の保護であり、消費者の窮地を利用し高利をもってさらにその被害を拡大する消費者金融機関の排斥による公正で公平な社会秩序の建設、個人の尊厳保障(憲法13条)です。従って、利息制限法は、私法、金融関係の憲法的地位に位置するものであり、これを潜脱することはいかなる取引形態でも許されません。従って、消費者金融との業務として取引する者が、その間隙を縫って異議を留めない承諾を理由に過払い返還を拒否することは、私的自治の原則に内在する信義誠実の原則から到底認められません。利息制限法に違反する債権は、公序良俗に反する無効な債権であり(民法90条違反)、そもそも存在しない債権を異議ない承諾によって譲り受けても無から有は生じることはなく取得することはできません。

5.判例を紹介します。
@福岡地裁小倉支部、昭和45年 8月31日判決。債権消滅に関し債権譲受人の善意、無過失を要件として認めています。架空の虚偽債権の譲渡に関する判例です。判決内容「指名債権譲渡につき、債務者が譲受人に対し異議を留めずこれを承諾した場合でも、譲受人において、右承諾を受けた際、債務者が譲渡人に対抗しうる事由につき、悪意であるかまたは善意であつてもそのことに過失があつたときは、債務者は、譲渡人に対抗しうる事由をもって譲受人に対抗しうると解するのが相当である。けだし、債権譲渡につき異議を留めない承諾をした債務者が譲渡人に対抗しうる事由をもつて譲受人に対抗しえない効果を生ずるのは、債務者が異議を留めない承諾をした事実に公信力を与えて譲受人を保護せんとするものだからである。」

A最高裁、昭和52・4・8第二小法廷判決は債権譲受人が異議を留めない承諾の効果を主張するためには、債権消滅等の事由の存在について譲受人の「善意」を要件としています。

B名古屋地裁昭和47年7月22日判決。高利の金融業者からの債権譲り受けについて、利息制限法違反による元本充当に基づき債権消滅後の譲渡に対する異議なき承諾の効果を認めていません。妥当な判決です。判決内容。「ところで金銭消費貸借上の債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息を支払ったときは、右制限をこえる部分は民法四九一条により当然元本に充当されるものと解せられている。従って本件において被告が加藤善規に対し支払った利息のうち同法の制限超過部分は順次、その残存元本に充当すべきであるから、本件貸金はすでに原告が債権譲渡をうける前に元利金とも完済されていることは計算上明白である。被告が異議なく債権譲渡を承諾していることは前認定のとおりである。従って被告は民法四六八条により前記弁済の事実を原告に対抗しえない旨原告は主張する。しかし債務者が異議をとゞめない承諾をしても、利息制限法超過部分の支払については、譲受人の善意悪意の如何にかゝわらず、債務者は譲受人に超過部分の元本充当によって債権が消滅していることをもって、対抗することができるものと解すべきである。蓋し、そう解さないと、利息制限法の制限を超過する利息を受領している債権者が,その債権を第三者に譲渡し本件と同様の法律関係が形成された場合、債権者は同法違反の利益を合法的に確保することができ、同法の立法精神に反する結果を招くからである。従って原告の右主張は理由がない。」

C最高裁判所平成9年11月11日第三小法廷判決。(根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴、貸金請求反訴事件)。信義則を理由に抗弁の主張を制限しています。90条違反の債権は無効でありそもそも存在しないのですから異議ない承諾により譲渡しても取得することはできません。内容。「賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるというべきである。
 けだし、賭博行為は公の秩序及び善良の風俗に反すること甚だしく、賭博債権が直接的にせよ間接的にせよ満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって、この要請は、債務者の異議なき承諾による抗弁喪失の制度の基礎にある債権譲受人の利益保護の要請を上回るものと解されるからである。 二 本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した事実関係によれば、山田重美は、平成五年二月一五日、被上告人を債務者とし賭博の負け金七〇〇〇万円の支払を目的とする債権を上告人に譲渡し、被上告人は、同日、異議をとどめずに右譲渡を承諾したというのであるから、前記特段の事情のあることについての主張、立証もない本件においては、被上告人は、上告人に対して賭博行為の公序良俗違反を主張して右債権の履行を拒むことができるというべきである。」

6.(契約上の地位の譲渡)債権消滅という主張を行う他の理論構成はないか考えてみます。上記の法律構成では、Aに対する過払い金の分についてBに対して請求することは出来ないので、債務者の救済としては不十分と考えられるからです。この点、BはAの契約上の地位を承継している、という法的構成が考えられます。現在、サラ金業者のほとんどが、借入限度額(極度額)の枠内であれば債務者は自由に借入、返済ができるという包括契約を締結しています。包括契約は、債務者に借りたお金を返す義務が発生するだけでなく、業者にも枠内までは「貸す義務」があります。これを一体として、両者に契約に基く権利義務関係があるので、「契約上の地位」と呼びます。契約上の地位を引き継いでいるのだとすれば、個々の債権の譲渡のように、抗弁を切断させる効力はなく、譲受人に対して抗弁(本件では過払い金の返還請求)を対抗することができます。
 契約上の地位の移転といえるには、どのような要素が必要でしょうか。まず、貸金業規制法では、24条で、所定の事項を記載した書面を交付しなければならないことになっていますが、この書面を仔細に検討することが必要です。この書面に、「基本契約」「包括契約」という表示がされていれば、上記のような契約上の地位を譲り受けているという立証は可能でしょう。単純な債権の譲渡では、「基本契約」「包括契約」では一個の債権の特定にならないからです。また、場合によっては、譲受の後に、譲り受けた業者が貸付をしている場合もあるでしょう。そのような場合には、上記の貸し付ける債務に基いて金銭を貸し付けたと解釈することができ、契約上の地位の移転と考えることができます。契約上の地位の移転を受けていると解釈できれば、業者Bは、業者Aから、契約上の全ての権利義務を引き継いでいると考えることができますから、業者Bに対して過払い金全額の返還請求が可能になります。

7.(最後に)ただし、これらの法律構成は、交渉で主張しても相手方が簡単に納得するものではありませんので、訴訟によることが必要になるでしょう。訴訟手続は一定の専門知識も必要になりますので、貸金業者から設問のような抵抗を受けた場合には、一度専門の弁護士の相談をお受けになることをお勧めいたします。

<参考条文>

利息制限法
(利息の最高限)
第一条  金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
   元本が十万円未満の場合          年二割
元本が十万円以上百万円未満の場合     年一割八分
元本が百万円以上の場合          年一割五分
2  債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。

貸金業者の規制等に関する法律
(債権譲渡等の規制)
第24条 貸金業者は、貸付けに係る契約に基づく債権を他人に譲渡するに当たつては、その者に対し、当該債権が貸金業者の貸付けに係る契約に基づいて発生したことその他内閣府令で定める事項並びにその者が当該債権に係る貸付けの契約に基づく債権に関してする行為について第17条、第18条、第20条から第22条まで、第42条及びこの項の規定(抵当証券法(昭和6年法律第15号)第1条第1項に規定する抵当証券に記載された債権については第17条の規定を除き、これらの規定に係る罰則を含む。)の適用がある旨を、内閣府令で定める方法により、通知しなければならない。

債権管理回収業に関する特別措置法
(営業の許可)
第3条 債権管理回収業は、法務大臣の許可を受けた株式会社でなければ、営むことができない。

民法
(債権の譲渡性)
第四百六十六条  債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条  指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2  前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第四百六十八条  債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2  譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

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