新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.799、2008/10/3 17:24 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【債務整理・特定調停法】

質問:消費者金融5社から合計200万円ほどの借入金がありますが、返済ができません。弁護士に依頼したいのですが、費用が用意できません。特定調停という制度があり自分でもできるということを聞きました。どのように申し立てればよいのでしょうか。

回答:
1.分割払いで返済を続けたいということであれば、弁護士に依頼しなくても特定調停法(略称)という法律に基づき、簡易裁判所に特定調停を申し立てることができます。
2.他に事務所ホームページ事例集「法の支配と民事訴訟実務入門、各論19 特定調停」を参考にしてください。

解説:
1.特定調停とはどのような手続きか
特定調停とは、借金の返済が滞りつつある債務者について、裁判所が、債務者と債権者との話し合いを仲介し、返済条件の軽減などの合意が成立するようにはたらきかけ、弁済計画を作成して債務者が経済的に立ち直れるよう支援する手続きです。
特定調停法第1条 この法律は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停法の特例として特定調停の手続きを定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする。
特定調停を申し立てると、その手続きを裁判所が行いますので、基本的に任意整理と異なり弁護士や司法書士に依頼しなくてもご自分で手続きが可能です。

2.自己破産や任意整理との違い
特定調停は自己破産と違って、債務の返済を継続していくことが前提となりますので、一定の収入がある人でなければなりません。利息制限法に従って引きなおした債務を、3年程度で返済できる見込みがあるかどうか、が基準となるようです。裁判所が、申立人から家計の状況を聴取し、毎月の収入から生活費を差し引いて、支払原資を算出し、この支払原資を各債権者の債権額に応じて比例配分することによって各債権者に対する毎月の支払額を算出します。任意整理では、この作業を弁護士や司法書士がおこないますが、特定調停では裁判所が作成してくれます。なお、支払いが滞った場合、債権者から催促の電話等があります。任意整理や破産の申し立て等を弁護士に依頼すると債権者は直接債務者には連絡できないことになります。他方、自分で特定調停を申し立てる場合は、申し立てが裁判所で受理されるまでは債権者は債務者に催促の電話等をすることは許されています。つまり弁護士等を依頼しないと特定調停を裁判所に申し立てるまで催促の電話があることは避けられないということです。従って、特定調停の制度を利用する場合は、できるだけ早く裁判所に申し立て、債権者からの催促の電話に対しては、「裁判所に特定調停を申し立てた。00簡易裁判所で、事件番号は0000号です。そこで、返済の方法を協議したいので電話はしないでください。」と回答することになります。

3.どのように申し立てるのか
申立ても、自己破産や個人再生にくらべて簡単ですので、法律知識がない人でも可能で、申立費用も安く(東京簡裁の場合1件につき500円)済みます。実際には、申立書に手数料としての収入印紙を貼り、申立書提出時に予納郵券を納めることになります(1200円+(250円×債権者数)分の切手)。予納郵券とは、相手方債権者に特定調停の期日の通知を郵送するための切手です。申立必要書類は、申立書、債権者一覧表、特定債務者に関する資料(申立人の収入明細、支出明細、資産明細)、住民票、戸籍謄本、課税証明書等です。裁判所によって若干違いがあるようですので、管轄の簡裁に問い合わせてみてください。申立書や関係権利者一覧表、特定債務者に関する資料は、各裁判所に雛型の用意がありますので、それを使用することができます。

4.どこの裁判所に申し立てればよいか
特定調停は債権者の所在地のある簡易裁判所ですが、一度に数社の債権者に対して申立てをする場合には、その中の一社が属する土地管轄のある簡易裁判所にまとめて申立てることができます。

5.申し立て後、どのように手続きが進行するのか
申立書類を提出後約1ヶ月以内に、呼び出し状が届きます。裁判所は、第1回期日までに債権者から取引履歴と利息制限法に引きなおした債権額を提出させます。申立人は第1回期日に調停委員から、生活状況や家計、収入などについて聞かれます。伝えておきたいことや希望を前もって準備しておくとよいでしょう。1回の調停の時間は1時間程度です。第2回期日には調停条項案を作成、各債権者に提示します。通常の業者は、この調停条項案を了解し調停が成立することになります。

6.債権者が特定調停に応じない場合
特定調停を申立てても、裁判所に出頭してこない業者もあります。また、出頭しても裁判所の調停条項に応じない業者もあります。このような場合は残念ながら調停は不成立となります。その場合は、破産手続きしかないと考えたほうがよいでしょう。通常の債権者は破産よりも回収できたほうがよいので調停案に応じることになりますが、なんらかの事情によって調停より破産を希望する業者も稀には存在します。

7.調停が成立した場合どうなるか
調停が成立すると、裁判所が調停調書というものを作成します。調停調書に記載された銀行口座に分割金を送金して支払うことになります。なお、調停調書は、判決と同じ効力がありますので、成立後に返済が滞ってしまった場合には、債権者は訴訟を提起することなく直ちに給与や財産を差し押さえることができてしまいます。これは、任意整理と大きく違う点です。

8.過払い金の返還や保証人について
なお、過払い金が発生している場合には、特定調停ではその回収まではできません。特定調停は債務者の返済を協議するための手続きですので、過払い金の返還については別途、不当利得返還請求訴訟を提起しなくてはいけません。また、特定調停は保証人には影響しないので、債務者本人が支払い不能になれば当然に保証人に請求がいきます。この点は任意整理でも同様です。そして、特定調停を申立てると、ブラックリストにのり、数年間借り入れができなくなるということも任意整理と同じです。

9.以上が特定調停の手続きの概略です。初めに説明したとおり、3年程度の期間で分割返済をする調停条項を作成しますので、そのような返済が無理な場合は特定調停を申し立てても解決できないことになります。はじめから破産の手続きを申し立てたほうが良いでしょう。どのような方法を選択するかは、申し立てる前に一度、弁護士や司法書士に簡単に相談してみることをお勧めいたします。

≪条文参照≫

特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律
最終改正:平成一五年七月二五日法律第一二八号
(目的)
第一条  この法律は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)の特例として特定調停の手続を定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人をいう。
2  この法律において「特定債務等の調整」とは、特定債務者及びこれに対して金銭債権を有する者その他の利害関係人の間における金銭債務の内容の変更、担保関係の変更その他の金銭債務に係る利害関係の調整であって、当該特定債務者の経済的再生に資するためのものをいう。
3  この法律において「特定調停」とは、特定債務者が民事調停法第二条 の規定により申し立てる特定債務等の調整に係る調停であって、当該調停の申立ての際に次条第一項の規定により特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述があったものをいう。
4  この法律において「関係権利者」とは、特定債務者に対して財産上の請求権を有する者及び特定債務者の財産の上に担保権を有する者をいう。
(特定調停手続)
第三条  特定債務者は、特定債務等の調整に係る調停の申立てをするときは、特定調停手続により調停を行うことを求めることができる。
2  特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述は、調停の申立ての際にしなければならない。
3  前項の申述をする申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由がある場合にあっては、申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者の一覧表を提出しなければならない。
(移送等)
第四条  裁判所は、民事調停法第四条第一項 ただし書の規定にかかわらず、その管轄に属しない特定調停に係る事件について申立てを受けた場合において、事件を処理するために適当であると認めるときは、土地管轄の規定にかかわらず、事件を他の管轄裁判所に移送し、又は自ら処理することができる。
第五条  簡易裁判所は、特定調停に係る事件がその管轄に属する場合においても、事件を処理するために相当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、事件をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。
(併合)
第六条  同一の申立人に係る複数の特定調停に係る事件が同一の裁判所に各別に係属するときは、これらの事件に係る調停手続は、できる限り、併合して行わなければならない。
(民事執行手続の停止)
第七条  特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、担保を立てさせて、又は立てさせないで、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。ただし、給料、賃金、賞与、退職手当及び退職年金並びにこれらの性質を有する給与に係る債権に基づく民事執行の手続については、この限りでない。
2  前項の裁判所は、同項の規定により民事執行の手続の停止を命じた場合において、必要があると認めるときは、申立てにより、担保を立てさせて、又は立てさせないで、その続行を命ずることができる。
3  前二項の申立てをするには、その理由を疎明しなければならない。
4  民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第七十六条 、第七十七条、第七十九条及び第八十条の規定は、第一項及び第二項の担保について準用する。
(民事調停委員の指定)
第八条  裁判所は、特定調停を行う調停委員会を組織する民事調停委員として、事案の性質に応じて必要な法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する者を指定するものとする。
(関係権利者の参加)
第九条  特定調停の結果について利害関係を有する関係権利者が特定調停手続に参加する場合には、民事調停法第十一条第一項 の規定にかかわらず、調停委員会の許可を受けることを要しない。
(当事者の責務)
第十条  特定調停においては、当事者は、調停委員会に対し、債権又は債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及び担保関係の変更等に関する事実を明らかにしなければならない。
(特定調停をしない場合)
第十一条  特定調停においては、調停委員会は、民事調停法第十三条 に規定する場合のほか、申立人が特定債務者であるとは認められないとき、又は事件が性質上特定調停をするのに適当でないと認めるときは、特定調停をしないものとして、事件を終了させることができる。
(文書等の提出)
第十二条  調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるときは、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる。
(職権調査)
第十三条  調停委員会は、特定調停を行うに当たり、職権で、事実の調査及び必要であると認める証拠調べをすることができる。
(官庁等からの意見聴取)
第十四条  調停委員会は、特定調停のために必要があると認めるときは、官庁、公署その他適当であると認める者に対し、意見を求めることができる。
2  調停委員会は、法人の申立てに係る事件について特定調停をしようとするときは、当該申立人の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、当該申立人の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合がないときは当該申立人の使用人その他の従業者の過半数を代表する者の意見を求めるものとする。
(調停委員会が提示する調停条項案)
第十五条  調停委員会が特定調停に係る事件の当事者に対し調停条項案を提示する場合には、当該調停条項案は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない。
(調停条項案の書面による受諾)
第十六条  特定調停に係る事件の当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾したときは、特定調停において当事者間に合意が成立したものとみなす。
(調停委員会が定める調停条項)
第十七条  特定調停においては、調停委員会は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができる。
2  前項の調停条項は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない。
3  第一項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の調停条項に服する旨を記載しなければならない。
4  第一項の規定による調停条項の定めは、期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
5  当事者は、前項の告知前に限り、第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。
6  第四項の告知が当事者双方にされたときは、特定調停において当事者間に合意が成立したものとみなす。
(特定調停の不成立)
第十八条  特定調停においては、調停委員会は、民事調停法第十四条 の規定にかかわらず、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、当事者間に公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものであるとは認められない場合において、裁判所が同法第十七条 の決定をしないときは、特定調停が成立しないものとして、事件を終了させることができる。
2  民事調停法第十九条 の規定は、前項の規定により事件が終了した場合について準用する。
(裁判官の特定調停への準用)
第十九条  第九条から前条までの規定は、裁判官だけで特定調停を行う場合について準用する。
(特定調停に代わる決定への準用)
第二十条  第十七条第二項の規定は、特定調停に係る事件に関し裁判所がする民事調停法第十七条 の決定について準用する。
(即時抗告)
第二十一条  第四条の規定による移送の決定、第五条の規定による決定、第七条第一項及び第二項の規定による決定並びに第二十四条第一項の過料の決定に対しては、その告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
2  第四条の規定による移送の決定、第五条の規定による決定及び第二十四条第一項の過料の決定に対する即時抗告は、執行停止の効力を有する。
(民事調停法 との関係)
第二十二条  特定調停については、この法律に定めるもののほか、民事調停法 の定めるところによる。
(最高裁判所規則)
第二十三条  この法律に定めるもののほか、特定調停に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
(文書等の不提出に対する制裁)
第二十四条  当事者又は参加人が正当な理由なく第十二条(第十九条において準用する場合を含む。)の規定による文書又は物件の提出の要求に応じないときは、裁判所は、十万円以下の過料に処する。
2  民事調停法第三十六条 の規定は、前項の過料の決定について準用する。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る