新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.717、2007/12/4 14:27 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

[民事・債務整理・債権者平等の原則・破産状態での一部債権者を有利に取り扱うことが出来るか・いわゆる整理業者について]

質問: サラ金の返済が困難となり,自己破産手続きを検討しています。一部の債権者に対して,妻の父親を保証人に依頼しており,どうしても迷惑を掛けたくないのです。また,叔父からも借金をしており,どうしても迷惑を掛けたくないのです。保証人の分を返済したり,叔父の債権を債権者一覧表に記載せずに手続きすることはできませんか。自由財産の範囲なら支払い可能と聞きましたが,本当ですか?任意整理手続なら,どうでしょうか。

回答:結論から言うと,保証人がある債権者も,親類縁者の債権者も,特別扱いすることはできません。債務整理の手続中は,全ての債権者を法律に従い平等に取り扱う必要があります。任意整理でも同じです。しかし,破産手続きが全て終了し免責確定した後であれば,手続き後の債務は「自然債務」となりますので,返済することは可能です。任意整理の場合で一部免除を求めた場合は,弁済期間終了後に,免除を得た債務を「自然債務」として弁済することが考えられますが,一部免除を得ず分割弁済をする方法であれば,弁済方法も含めて平等に取り扱わなければならないでしょう。なお,破産手続開始決定後に手に入れた財産,いわゆる自由財産からであれば,破産手続中であっても,親類縁者の債権者や保証人に対し,弁済することが原則として可能でしょう。しかし,これにも充分注意する必要があります。

1.ではまず,どうして,債権者を平等に扱わなければならないのか,ご説明申し上げたいと思います。民法の一般原則のひとつに,「債権者平等の原則」というものがあります。債務者に対して,債権を有する各債権者は,債権の発生時期や発生原因を問わず,債権額に応じて平等に取り扱い,債務者の全財産から平等に弁済を受けるべきである,という原則です。もちろん,抵当権や,優先債権(租税債権など)や,先取特権(日用品購入代金や,労働者の給与債権など),いくつかの例外はありますが,親類縁者の債権であったとしても,借金による返済義務であれば,他の消費者金融業者の債権と同じように取り扱わなければなりません。債権者平等原則の根拠ですが,実は明確な規定を置いたものはありません。取引社会では債務者の資産に余裕があり複数の債権者に弁済できるだけの資力がある場合には債務者は自由に弁済したい順に支払えばいいのですが,自分の財産では複数の債権者に支払う事が不可能な状態の場合は,この原則が力を発揮し厳格に適用されます。なぜならば,債務者の資産状態が枯渇した状態の時こそ,力の強いものが強引に債権を回収し自分の権利のみを確保しようとする危険がありますから債権者を平等,公平に取りあつかい法秩序を維持しなければならないからです。

破産法には,債権者平等原則を具体化した規定があります。配当額は,債権額に按分比例するように決定されるとした規定(破産法194条2項参照),破産手続き中に,一部の債権者のみ弁済する行為は,破産財団を毀損する行為として,罰則の対象とする規定(同法265条)が置かれています。また,債務者が債権者一覧表を作成する際は,全ての債権者を記載しなければならないことが,破産法で規定されています。虚偽の債権者一覧表提出は,免責不許可事由のひとつとして規定されています(同法252条)。これらの規定は,債権者を平等に扱い,破産手続きを公平かつ公正に進めるべきであるという考え方の現れであるといえるでしょう。債務者に,経済的更生の機会を与え債務の免責という恩恵を与える以上,財産関係と負債関係は,全て正直に届出を行い,平等に配当し,その上で,要件をチェックして,免責の効力を与えるべきであるという趣旨です。したがって,親類縁者から借金をしている場合や,親類縁者に保証人を依頼していても,債権者一覧表の記載から除くことはできませんし,支払いを継続することもできません。弁護士に依頼する前であっても一括弁済することもできません。破産法では「破産手続の開始の前後を問わず」(同法265条ほか)と規定されているからです。

したがって,迷惑を掛けたくない親類縁者がいたとしても,きちんと説明した上で,裁判所に届出を行う必要があります。弁護士が代理人となって申立を行う場合は,破産手続きの概要や進行予定などについて,代理人弁護士から説明することは可能です。また,親類縁者が保証人となっている債務について,当該親類縁者が弁護士に任意整理手続を依頼することにより,債務を免除することはできませんが当該親類縁者が債権者から直接の取立て等を受けるのを防ぎ,支払い方法を調整することは可能です。

2.このように,裁判所に届出を行い,免責決定を得て,確定した場合,免責後の債務は,「自然債務」と呼ばれています。難しい言葉ですが,「給付保持力」はある(したがって,弁済すれば有効な弁済となる)が訴求力の無い債権,と解釈されています。他に,消滅時効に掛かった債務も,自然債務と解釈されています。破産免責確定後でも,債務自体は消滅しないが,法的な支払義務が免除されているので,裁判所の強制執行手続きなどで,強制的に支払わせることはできない債権であると言われています。

横浜地方裁判所昭和63年2月29日判決では,次のように判示されています。「破産法366条の12(現行破産法では253条)により免責された債権は,全く消滅するものではなく,自然債務になるといわれており,自然債務は,債務者において任意に支払いを約束したときは,履行を強制できる債務になるといわれている。しかし,自然債務だからといって,すべて同一の効果を生じるものではなく,それぞれについてその性質についてその効果を判断すべきものというべきであり,破産法による破産者の免責規定は,免責により破産者の経済的更生を容易にするためのものであるから,破産者が新たな利益獲得のために,従前の債務も併せて処理するというような事情も無く,債権者の支払い要求に対し,単に旧来の債務の支払約束をし,支払義務を負う事は,破産者の経済的更生を遅らせるのみで何らの利益もないものであり,したがって,破産者にとって何らの利益もない免責後の単なる支払約束は破産法366条の12の免責の趣旨に反し,無効であるものと解するのが相当である」

この判例では,破産免責後に,破産債務は自然債務となり,支払いの約束をしても原則として無効であるということを解釈しています。(判例の解釈としては,自然債務については支払いの約束をすれば強制力が発生するが,破産免責により自然債務となったものについては免責制度の趣旨からしてそのような約束は無効で自然債務のままになります。)もちろん,債務自体は残っているので,債務者の側から弁済をすることは自由と考えられます。破産手続きを経て,経済的更生を果たした後に,債務者の側から,破産免責を得た債務について,自発的に弁済をすることは構わないということです。考えてみれば当然のことですね。

3.また,最近,破産者が自由財産から任意に弁済することの可否について,最高裁として初めて正面から判断を示したものも出ています。最二小判平成18年1月23日民集60巻1号223頁では,次のように判断しています。「破産手続中,破産債権者は破産債権に基づいて債務者の自由財産に対して強制執行をすることなどはできないと解されるが,破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることを妨げられないと解するのが相当である。もっとも,自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり,破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことからすると,破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解するべきであり,少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない。」「任意の弁済であるというためには,……破産宣告後に,自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことを認識しながら,その自由な判断により,……債務を弁済したものということができることが必要であると解すべきである。」

自由財産(留保財産,破産法34条3項)とは,平成16年の破産法改正で導入された制度で,破産者の経済生活の再生に役立てるため,標準的な世帯の必要生活費の3ヶ月分として99万円(破産法34条3項1号,民事執行法131条3号,民事執行法施行令1条)の現金を破産者の手元に残しておくことができる制度です。必要に応じて自由財産の範囲を拡張する申立(破産法34条4項)をすることもできます。上記の判決は一般論として破産債権者による自由財産を用いた特定の破産債権者に対する任意弁済を認めました。この結論は,自由財産の処分が破産者に委ねられていることからすると当然のようにも思えますが,自由財産を用いた特定破産債権者に対する弁済が,必ず任意の弁済と認められるものではないため注意が必要です。

4.任意整理手続は,裁判所の手続きによらず,支払いの繰り延べや,債務の一部免除を得る交渉手続きですが,弁護士が代理人として手続きをする場合は,破産法その他の債務整理関係法令の趣旨に沿った形で,手続きを進めています。したがって,債権者を平等に扱うべきことや,債権者一覧表を作成する場合に遺漏の無いように作成することは,必須の条件です。債権者に対する説明の一環として,親類縁者などに説明することはあったとしても,債権者一覧表の記載や,債権額や,弁済方法などで,有利に扱うことはできません。一部の債権者に利益を得させる目的で,他の債権者から債務免除を得るような場合は,刑法上の二項詐欺罪(刑法246条2項)の構成要件に該当する恐れもあります。普通の法律事務所であれば,不平等な取り扱いを受け入れて受任することも無いでしょう。不平等な取り扱いでも債務整理を引き受けるというような提案があった場合は,弁護士法違反の違法ないわゆる「整理屋」と呼ばれる不法業者の可能性がありますので,注意が必要です。

ついでですから,任意整理の場合の不法な整理業者についてもお話します。負債が多額で債務者に配当となる財産がかなり残されている場合,彼らは先ず,債務者すなわち貴方の利益になることを口実に接近します。すなわち,任意整理では家族,親類等の債権の取り扱いについて裁判所等の公的機関の監督が当初及ばないことを幸いに特別な配慮ができること,一部の財産について隠匿,整理後隠匿罪財産について私的利用ができることを持ちかけます。「債務者である貴方はどうせ全ての財産は債権者に取られるのだから任せなさい」と説得してきます。しかし,この提案は貴方の破滅への道を意味します。なぜなら,彼らの目的はひとつです。自らの報酬の確保,財産隠匿であり,配当する原資が任せた時から減少していきます。そして,貴方ばかりか家族,親戚,そして関係会社の財産にも触手を伸ばしてきます。また,そのような関連財産がなければ業者も接近しないはずです。預けた財産は金銭,不動産を問わず分からないうちにいつの間にか種々の業者を通りなくなっていくでしょう。そして,貴方が不法行為を共謀した事を盾に逆に更なる協力を要求され,財産減少の一切の責任を公的にも,私的にも貴方が負うことになります。なぜなら彼らは法的には矢面には立たないよう工作するのが通常だからです。そして,任意整理の最終目的である債務者の社会復帰の道が閉ざされる事になるでしょう。

5.したがって,親類縁者の債権者や保証人といえども,特別扱いすることはできませんが,全ての手続きが終了した後で,迷惑を掛けた部分について,一部の弁済をすることは可能であるといえます。また,破産手続開始決定後に手に入れた財産,いわゆる自由財産からであれば,親類縁者の債権者や保証人に対し,弁済することが原則として可能であると言えるでしょう。しかしながら,上記のように,様々な規制がありますので,間違いの無いように,タイミングや方法を良く考えながら行わなければならないと思います。代理人弁護士に相談しながら行うのが良いでしょう。

<参考条文>

(破産法)
第34条(破産財団の範囲) 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は,破産財団とする。
2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は,破産財団に属する。
3 第一項の規定にかかわらず,次に掲げる財産は,破産財団に属しない。
一 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
二 差し押さえることができない財産(民事執行法第百三十一条第三号に規定する金銭を除く。)。ただし,同法第百三十二条第一項(同法第百九十二条 において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは,この限りでない。
4 裁判所は,破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間,破産者の申立てにより又は職権で,決定で,破産者の生活の状況,破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額,破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して,破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
5 裁判所は,前項の決定をするに当たっては,破産管財人の意見を聴かなければならない。
6 第四項の申立てを却下する決定に対しては,破産者は,即時抗告をすることができる。
7 第四項の決定又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には,その裁判書を破産者及び破産管財人に送達しなければならない。この場合においては,第十条第三項本文の規定は,適用しない。
第194条(配当の順位等) 配当の順位は,破産債権間においては次に掲げる順位に,第一号の優先的破産債権間においては第九十八条第二項に規定する優先順位による。
一 優先的破産債権
二 前号,次号及び第四号に掲げるもの以外の破産債権
三 劣後的破産債権
四 約定劣後破産債権
2 同一順位において配当をすべき破産債権については,それぞれその債権の額の割合に応じて,配当をする。
第252条(免責許可の決定の要件等) 裁判所は,破産者について,次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には,免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと。
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六 業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,又は変造したこと。
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八 破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと。
第253条(免責許可の決定の効力等) 免責許可の決定が確定したときは,破産者は,破産手続による配当を除き,破産債権について,その責任を免れる。ただし,次に掲げる請求権については,この限りでない。
一 租税等の請求権
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条,第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって,契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
2 免責許可の決定は,破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
第265条(詐欺破産罪) 破産手続開始の前後を問わず,債権者を害する目的で,次の各号のいずれかに該当する行為をした者は,債務者(相続財産の破産にあっては,相続財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは,十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。情を知って,第四号に掲げる行為の相手方となった者も,破産手続開始の決定が確定したときは,同様とする。
一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては,相続財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し,又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して,その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し,又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
2 前項に規定するもののほか,債務者について破産手続開始の決定がされ,又は保全管理命令が発せられたことを認識しながら,債権者を害する目的で,破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく,その債務者の財産を取得し,又は第三者に取得させた者も,同項と同様とする。

(民事執行法)
第131条(差押禁止動産) 次に掲げる動産は,差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用具,畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

(民事執行法施行令)
第1条(差押えが禁止される金銭の額) 民事執行法第百三十一条第三号の政令で定める額は,六十六万円とする。

(刑法)
第246条(詐欺罪) 人を欺いて財物を交付させた者は,十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

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