盗撮事件の罪名と起訴前弁護|教員が校内に小型カメラを設置した事案

刑事|盗撮事件における罪名の適用関係、示談交渉の相手方|東京都迷惑防止条例改正、「公共の場」という要件の撤廃による処罰の拡大(平成30年7月施行)

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

息子が教員として勤務している都内の私立学校で盗撮行為をしたということで逮捕されてしまいました。容疑は建造物侵入罪とのことです。警察の話ですと、小型のカメラを女子更衣室や女子トイレに設置していたとのことでした。自宅から押収されたパソコンには、盗撮した画像や動画が大量に保存されていたようです。

現在担当している国選弁護人からは、今後迷惑防止条例違反でも立件される可能性が高く、中々釈放は難しいと言われていますが、早期釈放は無理なのでしょうか。

また、学校は辞めざるをえないと思いますが、教員免許がどうなるのかも心配です。刑事罰を受けると教員免許も失効すると聞いたことがありますが、処罰を避けるためにはどうしたら良いでしょうか。

回答

1 本件での息子さんの行為について、従前は、建造物侵入罪で処罰されることが多かったのですが、都内の私立学校ということですと近年の条例改正により東京都のいわゆる迷惑防止条例違反としても併せて処罰される運用となっております。

2 押収された動画が多く多数の余罪が疑われる場合には、これらの精査の必要性等を理由として、長期間の勾留が認められてしまうケースが多い事案です。また、最終的な刑事処罰としても、略式起訴での罰金刑に留まらず、公判請求(通常の刑事裁判での起訴)される可能性も相当程度あると思われます。仮に公判請求となった場合には、基本的に懲役刑の求刑がされる可能性が高いです。懲役刑の有罪判決を受けると教員免許が失効してしまいます。

3 一方で、早期に被害者(建造物の管理者と、盗撮の被写体となった方)との間で示談が成立すれば、早期の釈放及び刑事処罰の回避(起訴猶予処分)が可能な場合があります。本件のような事案では、盗撮の被害者が多数に及んでいるケースも多いため、刑事処罰の回避を回避するためには速やかな示談が必要です。一刻も早く同種事案の経験が多い弁護士に相談し、適切な対応をとることをお勧めいたします。

4 その他の関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 本件で成立しうる罪名

まず、本件で息子さんがしてしまった行為については、以下のような犯罪が成立する可能性が考えられます。

1 建造物侵入

まず、本件での逮捕容疑ともなっている建造物侵入罪です。あなたの息子さんが盗撮目的で学校の建物に入り、女子トイレに侵入した行為は、建造物侵入罪(刑法130条前段)に該当する可能性があります。

刑法第130条(住居侵入等)正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

ここでいう「侵入」の意義については、判例上、「他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきである」とされています。その上で、「管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質・使用目的・管理状況・管理権者の態度・立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである」としています。

一般的に、建物の管理者の立場に立てば、盗撮目的での女子トイレへの侵入という行為は容認していないと考えるのが当然です。そのため、たとえ普段教員として勤務している学校であっても、盗撮目的で校舎建物や女子トイレに立入れば、会社の管理者の意に反する立ち入りとして、建造物侵入罪が成立することになります。

2 迷惑防止条例違反

さらに、本件では、実際にトイレで盗撮のカメラを設置しているとのことですので、東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる迷惑防止条例)」違反として処罰される可能性もあります。

東京都迷惑防止条例
粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止

第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

本件では、女子トイレに盗撮カメラを設置していたとのことですので、上記の迷惑防止条例第5条1項2号イに違反することになります。この場合の刑罰は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。

なお、東京都では、従前、迷惑防止条例違反となるのは、盗撮行為が「公共の場所」で行われることを要件としており、一般民家、学校や病院などの利用者が限定されている場所での盗撮行為は、処罰の対象とはなっておりませんでした。そのため、このような場合には、上記の建造物侵入罪や、以下で述べる軽犯罪法等で処罰される例が多かったのです。

しかし、民家や学校などで行われる盗撮行為が多く、これらを条例違反にできないのは不都合であるとして、東京都では条例が改正(平成30年7月施行)され、住居や便所などについては処罰対象の要件から「公共の場所」の限定がなくなりました。

そのため、現在では迷惑防止条例違反としても処罰を受けることになります。

多くの都道府県でも同様の条例改正が実施されていますが、埼玉県など、盗撮行為の処罰要件が未だ「公共の場所」に限定されている自治体もあります。

この点は事件発生地の条例の改正状況を確認しつつ、成立犯罪を検討する必要があるでしょう。

3 軽犯罪法違反

軽犯罪法1条23号は「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見」る行為を犯罪として禁止しています。

本件のように、カメラを使用してトイレ内を録画撮影した行為(実際に自分の目で目撃したわけではない)が「のぞき見」に当たるかどうかですが、裁判例は、録画行為それ自体によって被害者のプライバシー侵害が発生しており、肉眼でのぞき見た場合とカメラで撮影録画した場合とでプライバシー侵害の有無に変わりがないこと、複製等によって被害が拡大しうる等の点で、録画撮影による場合の方が肉眼によるのぞき見の場合よりもプライバシー侵害の程度が大きいことなどを理由に、これを肯定しています(気仙沼簡易裁判所平成3年11月5日判決)。

したがって、カメラの映像を事後的に確認したか否かにかかわらず、あなたがトイレ個室内をカメラで撮影した行為は軽犯罪法1条23号の窃視罪に該当することになります。

以前は、上述のとおり東京都迷惑防止条例違反の処罰対象が「公共の場所」に限定されていたことから、同条例違反で処罰できないケースを軽犯罪法違反で処罰するという例も見られました。しかし、現在では上記の迷惑防止条例違反の処罰範囲拡大により、同条例で処罰されることが多いでしょう。軽犯罪法違反の罰則は勾留または科料ですから迷惑防止条例違反の方が重い刑となります。条例の改正が進んでいない地域では、軽犯罪法違反での処罰も考えられます。

第2 早期釈放の可能性と必要な弁護活動

1 勾留の運用について

本件では、自宅から大量の盗撮動画が押収されているとのことですので、これらの精査の必要性等を理由として、長期間の勾留が認められてしまうケースが多い事案です。

また、上記のとおり、本件では建造物侵入罪と迷惑防止条例違反が成立する可能性が高く、これらの罪は、それぞれ建造物の管理者、盗撮の被写体となった人物を被害者とする別の犯罪です。

そのため、現在息子さんは建造物侵入罪で逮捕されているとのことですが、今後、迷惑防止条例違反の罪により再度逮捕されさらに勾留期間が延びるという危険性も存在します。

2 早期示談の必要性

一方で、適切な弁護活動を速やかに実施活動することにより、早期の釈放が可能な場合があります。

現在、逮捕の被疑事実となっている建造物侵入罪は、建造物管理者の管理権限という個人的法益を保護する犯罪類型です。そのため、被害者との間で示談が成立すれば、被疑者をあえて処罰する必要性は薄く、起訴猶予(不起訴処分)となる可能性が高くなります。それに伴い、早期の釈放も認められやすくなります。

なお、ここでいう示談は、第一に建造物侵入罪の被害者である学校の管理者(学校法人など)との間での示談を意味します。そのため、まずは管理者に対して、謝罪と示談の申し入れを実施する必要があります。

一方で、従前述べているとおり、本件では、迷惑防止条例違反も同時に成立する可能性が高い状況です。そもそも、本件のようなトイレでの盗撮行為につき、建造物侵入罪で逮捕されることが多いのは、条例の改正前は建造物侵入罪以外では盗撮を処罰できない(軽犯罪法では刑罰が軽すぎる)、という特殊な事情があったためです。つまり、本件のような盗撮目的の侵入罪でも、あくまで犯罪の被害結果として重視されるのは盗撮行為の結果であることが多いです。加えて、建造物の管理者としても、盗撮の被害者に対する賠償が完了していない段階で、安易に示談に応じるという選択肢は取れないことの方が多いです。

そのため、例え現在の逮捕事実が建造物侵入罪であっても、併せて迷惑防止条例違反の盗撮の被害者(被写体となっている女性)とも、示談を早急かつ積極的に進める必要は非常に大きいでしょう。警察による捜査の進展を待っていては、手遅れとなる場合もあります。被写体となっている女性が複数存在する場合には、それら全員との示談が必要となる場合もあります。

示談の成立と身柄釈放について、勾留期間中に示談が成立すれば一番良いですが、仮に示談が成立していなくても、示談のための現実的な準備ができていることを検察官や裁判官に示せば、勾留の延長までは行われない可能性が高まります。

具体的には、示談のために必要な示談金(できれば、被害金額(修理代金等)を十分に超える金額)を用意していることを証明することが必要です。証明する方法としては、弁護人に示談準備金を預託し、弁護士から検察庁や裁判所に対して、預託金証明書として提出させる方法等があります。

3 処罰と教員免許への影響について

上記のとおり、本件は建造物侵入罪と迷惑防止条例違反という2つの罪で起訴される可能性が高い事案です。

また、自宅から多数の動画が押収されているとのことですので、余罪としてさらに処罰件数が増える可能性も否定できません。少なくとも常習性が伺われるとして、処罰にあたって悪い情状として考慮されてしまう危険性は非常に大きいです。

そのため、何ら弁護人を付けることなく放置するとなると、略式起訴での罰金刑に留まらず、公判請求(通常の刑事裁判での起訴)される可能性も相当程度あると思われます。

これらの処分がなされた場合、たとえ罰金であっても前科が付いてしまうことになります。また、公判請求となった場合には、基本的に懲役刑の求刑がされる可能性が高いです。懲役刑の有罪判決を受けても、実刑(刑務所への服役)とはならず、執行猶予が付く可能性は高いですが、教員免許が失効します(教育職員免許法第5条)。

なお、教育委員会からの懲戒処分への対応は「教育公務員による盗撮|刑事罰および教育委員会からの懲戒処分の回避方法」をご覧ください。

これらの刑事処罰を避けるためには、やはり被害者らとの間で示談を成立させることが必要です。

本件のような事案では、迷惑防止条例違反の被害者(盗撮の被写体)が多人数に及んでいる場合も多いところ、刑事処罰を回避するためには、これら全員との示談を行うことが必要な場合もあります。

そのためにはやはりある程度の時間が必要です。

一方で、特に身柄が勾留されている場合には、検察官は勾留の満期(延長を含めて20日)以内に刑事処罰を決める(起訴を決めてしまう)ことも多いため、示談交渉に充てられる時間は短いのが現状です。

刑事処分を回避するためには、速やかに示談交渉に着手することをお勧め致します。

第3 まとめ

本件のような盗撮の事案については、条例の改正にも伴い、まず建造物侵入罪で逮捕しつつ迷惑防止条例での処罰も行う、というケースが多いです。

速やかな身柄釈放、そして刑事処罰の回避のためには、速やかに建造物管理者、盗撮の被害者との示談が必要です。特に盗撮の被害者(被写体)が多数存在する場合には、一刻も早く同種事案の経験が多い弁護士に相談し、適切な対応をとることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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参照条文
刑法

(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

東京都・公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行
為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人
の身体に触れること。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体
を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し
向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる
ような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用
し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言
動をすること。

(罰則)
第8条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(1) 第2条の規定に違反した者
(2) 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1) 第5条第1項(第2号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者
(2) 第5条の2第1項の規定に違反した者

埼玉県迷惑行為防止条例

(粗暴行為等の禁止)
第二条 何人も、道路、公園、広場、駅、興行場その他公衆が出入りできる場所(以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車その他公衆が利用することができる乗物(以下「公共の乗物」という。)において、多数でうろつき、又はたむろして、通行人、入場者、乗客等の公衆に対し、いいがかりをつけ、すごむ等の不安又は迷惑を覚えさせるような言動をしてはならない。
2 何人も、祭礼又は興行その他の娯楽的催物に際し、多数の人が集まつている公共の場所において、正当な理由がないのに、わめき、人を押しのけ、物を投げ、物を破裂させる等の方法によりその場所における混乱を誘発し、又は助長するような言動をしてはならない。
3 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、刃物、鉄棒、木刀その他これらに類する物で人に危害を加える器具として使用できるものを振り回し、突き出す等公衆に不安又は迷惑を覚えさせるような行為をしてはならない。
4 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞しゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。

教育職員免許法

第五条 普通免許状は、別表第一、別表第二若しくは別表第二の二に定める基礎資格を有し、かつ、大学若しくは文部科学大臣の指定する養護教諭養成機関において別表第一、別表第二若しくは別表第二の二に定める単位を修得した者又はその免許状を授与するため行う教育職員検定に合格した者に授与する。ただし、次の各号のいずれかに該当する者には、授与しない。
一 十八歳未満の者
二 高等学校を卒業しない者(通常の課程以外の課程におけるこれに相当するものを修了しない者を含む。)。ただし、文部科学大臣において高等学校を卒業した者と同等以上の資格を有すると認めた者を除く。
三 成年被後見人又は被保佐人
四 禁錮こ以上の刑に処せられた者
五 第十条第一項第二号又は第三号に該当することにより免許状がその効力を失い、当該失効の日から三年を経過しない者
六 第十一条第一項から第三項までの規定により免許状取上げの処分を受け、当該処分の日から三年を経過しない者
七 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者