公務員による盗撮事件|教育委員会からの懲戒処分の回避方法

刑事|迷惑防止条例における「卑わいな言動」の解釈|教育委員会による懲戒処分の処分基準と示談の重要性|教員が職務中にチアリーダーを盗撮した事案|広島高松江支部判平成28年2月26日

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

私は、都内の公立高校において、教職員として勤め、サッカー部の顧問を担当しています。高校サッカー部の都大会で、順当にいけば、うちの高校と当たることになる高校のサッカー部の試合をスカウティングのために見に行きました。

最初は試合をしっかりと見ていたのですが、段々とサッカー部を応援するチアリーダーが気になり始めてしまいました。写真を撮るくらい大丈夫だろうと思い、写真が趣味で、いつもカバンに入れている一眼レフカメラを取り出し、屈んでいるチアリーダーをズームにして撮りました。

何枚か写真を撮り、満足していると、突然、大会の運営の方に話しかけられ、事務室まで連れて行かれました。事務室で大会の運営の方に写真撮影について事情を聴かれました。

しばらくすると、警察の方が現れ、警察署で事情聴取を受けることになりました。そして、警察署で事情聴取を受け、その後、妻に身元引受人になってもらい、ようやく家に帰ることができました。

警察の方からは事件化の可能性があると言われ、満足に眠れない日々を過ごしています。また、後になって、盗撮をすれば懲戒免職になるということを知り、あまりに不安で体調も崩してしまっています。

私は、刑事罰を受け、懲戒免職になってしまうのでしょうか。これらを回避することはできるのでしょうか。

回答

競技場において、一眼レフカメラで屈んでいるチアリーダーをズームにして撮った、その行為が東京都迷惑行為防止条例5条1項3号で定める「公共の場所」における「卑わいな言動」に当たるとして、警察の事情聴取を受けたものと考えられます(他に、軽犯罪法違反の可能性もありますが、サッカーの試合を見る目的で競技場に入った、ということであれば、その可能性はないので、省略いたします。)。同条例違反の罰則は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています(東京都迷惑行為防止条例8条1項2号)。

また、東京都の公表している「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」によれば、盗撮等の迷惑防止条例違反の場合、懲戒免職処分を課すのが相当とされており、相談者様は懲戒免職となってしまう可能性があります。

これらの刑事罰や行政処分を回避するためには、相談者様の行為が「卑わいな言動」に当たらないということを、様々な事情を分析した上で、警察官や検察官、教育委員会に主張する必要がございます。

また、「卑わいな言動」に当たらないことを前提としても、被害者の方との示談をまとめる必要がございます。無罪であるのに被害者と示談することは一見矛盾しているようですが、疑わしい行為により迷惑をかけたことは否定できませんから、その点を謝罪するということで、示談することも検討が必要です。

なお、示談の合意書を取り交わすに際しては、相談者様の行為が「卑わいな言動」に当たらないことを前提とした文言を用いる必要があり、細心の注意を払わなければなりません。ご不安であれば一度弁護士にご相談ください。

解説

第1 刑事罰について

1 「卑わいな言動」(東京都迷惑行為防止条例5条1項3号)の定義

サッカー競技場が「公共の場所」に該当することは問題ないでしょう。問題となるのは「卑わいな言動」とに当たるかという点です。

ここで言う「卑わいな言動」とは、最高裁判例(平成20年11月10日 刑集62巻10号2853頁)によれば、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」のことをいいます。当該行為を一般人の立場から見た場合に「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」と認識されるのであれば、「卑わいな言動」に当たることになります。

この犯罪の違法性は、公共の秩序を害するような行為という点にありますから、行為の相手方が必ずしもそれに気付いている必要はありませんし、「性的意図」といった行為者の主観的構成要件は要求されていません(広島高松江支部判平成28年2月26日)。周囲の人が卑猥な言動として嫌悪感を持つ行為が処罰されるといって良いでしょう。

なお、東京都迷惑行為防止条例5条1項2号ロでは、「人の通常衣服で隠されている…身体」(太もも)を「写真機その他の機器を用いて撮影」する行為を処罰の対象としていますが、本件のように、チアリーダーが公共の場所において屈んで太ももを露出しているところを一眼レフカメラ等の写真機で撮影した場合(なお、アンダースコートを穿くというチアリーダーの衣装の特性上、チアリーダーの下着が写真に映り込むことはありません。)には、チアリーダーにおいては、一定の激しい動きを伴い、太ももの露出が想定されることから、その太ももは「人の通常衣服で隠されている…身体」には当たらないといえるため、「人の通常衣服で隠されている…身体を、写真機その他の機器を用いて撮影」する行為に該当するかどうかは問題とならず、専ら「卑わいな言動」(東京都迷惑行為防止条例5条1項3号)に当たるかどうかが問題となると考えられます。

本件は、通行しているような一般女性の衣服で隠されている体を撮影した場合、いわゆる盗撮と異なり、東京都迷惑行為防止条例5条1項2号ロ違反の問題ではなく、東京都迷惑行為防止条例5条1項3号違反の問題であると考えられます。

2 本件における主張内容

刑事罰を受けないようにするためには、まず相談者様の行為が「卑わいな言動」に当たらないという主張をする必要があります。その内容は大まかには以下の通りとなります。

チアリーダーを一眼レフカメラ等の写真機によって撮影する行為は「卑わいな言動」に当たるものではない。なぜならば、週刊誌やテレビ等の各媒体において、チアリーダーを被写体とする写真や映像は多数存在し、社会に広く流通しており、チアリーダーを一眼レフカメラ等の写真機によって撮影する行為は、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」とはいえず、「卑わいな言動」に当たらないものとして承認されているからである。

そして、その過程において、被写体となったチアリーダーの下半身部分が意図せず映り込んでしまった場合についても(なお、アンダースコートを穿くというチアリーダーの衣装の特性上、チアリーダーの下着が写真に映り込むことはない。)、チアリーダーを写真機によって撮影すること自体が上記の通り「卑わいな言動」に当たらない以上、東京都迷惑行為防止条例違反は成立しない。

例えば、スポーツカメラマンがチアリーダーを写真撮影することは、周囲の人から見ても性的に卑わいと思う人はいないのであり、それと同様にアマチュアのカメラマンであってもチアリーダーの活動を写真撮影することは違法なものとは言えないという、主張です。

但し、ご相談の場合大会の運営者から事情を聞かれ、警察に届け出がなされたということですから、撮影の態様から卑猥な印象を持たれたと考えられます。例えば、応援活動とは別の時に撮影したとか、疑いがもたれる行動をしてしまった、と考えて、刑事事件となる可能性を考慮したほうが良いでしょう。

刑事事件となると警察は、写っていた写真やご自宅で保管している写真等を捜索することが予想されます。なので、チアリーダーを対象とする写真等が見つかると起訴される可能性が高くなります。

3 示談の必要性

上述のように犯罪成立を否定する主張をすることが第一ですが、起訴される可能性も考慮すると大会の運営者、被写体となった被害者あるいはその保護者との示談交渉をしておく必要が出てきます。

迷惑防止条例は主に社会秩序を守るための法律ですから、被害者は公衆であり被害者と示談するという原則からは誰と示談したらよいのかという問題が生じます。盗撮のように、被写体も被害を被っていることが明らかな場合は盗撮の対象者との示談が必要なことは明らかですが、「公共の場所における卑わいな言動」が犯罪とされる場合、示談の相手方を誰にしたらよいのか疑問もあります。

このような場合、犯罪の被害者とは言えないとしても被写体となったチアガール本人や保護者、競技場の管理をしている大会関係者が捜査等により迷惑を被ることになりますから、これらの方が処罰を望んでいないということを、捜査機関に明らかにすることが必要になります。

示談ですから、まずは示談金を検討することになりますが、それ以外でも謝罪の気持ちを理解してもらうような方法を考える必要があります。

第2 懲戒処分について

一般論として、盗撮等の迷惑防止条例違反で有罪となった場合、懲戒免職処分を課すのが相当とされていますので、懲戒処分についても検討しておく必要があります。

なお、逮捕勾留されてしまい、勤務ができないという場合は、上司に対して勤務できないこと、その理由を報告する義務があります。後日、起訴されて有罪となった場合、この報告を怠った場合、懲戒処分の判断において不利益となる可能性があります。

しかし、単に警察から取り調べを受けたが、逮捕されることもなく勤務に影響がないという場合は、上司にその旨報告する法的な義務はありません。報告するか否かは慎重に検討した方が良いでしょう。

1 懲戒処分の一般的な判断枠組み

公務員に対して懲戒処分が課される場合、懲戒権者は、「懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定する」こととされています(最判昭和52年12月20日判時874号3頁)。

この基準によれば、懲戒処分対象行為に関連して、懲戒処分対象者に有利な酌むべき事情があれば、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定するに際して、それらの事情を全て斟酌しなければなりません。

とりわけ、懲戒免職処分については、今後の給与はもちろん、退職手当や共済年金の受給資格が停止され、実名報道によって社会的に抹消されて再就職も実質的に不可能になる等、その不利益が甚大なものですから、懲戒免職処分を課すことが許されるのは、他の懲戒処分を課すのでは不相当といえる程の重大な非違行為があった場合に限定されるというべきです。

2 東京都教育委員会における処分基準とその適用

東京都教育委員会においては、「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」が定められており、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかについて、「処分の量定」の標準例を参考にしつつ、次の事情を総合的に考慮のうえ判断するものとされています。

①非違行為の態様、被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度
②非違行為を行った職員の職責、過失の大きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い
③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情のほか、適宜、非違行為後の対応等

「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」の「処分の量定」の標準例では、盗撮等の迷惑防止条例違反の場合、懲戒免職処分を課すのが相当とされており、相談者様の行為が盗撮等の迷惑防止条例違反に当たるとされた場合には、相談者様に懲戒免職処分が課されることが見込まれ、これを覆すことには相当な困難を伴います。

したがって、主張内容としては、1(2)で記載した通り、相談者様の行為は「卑わいな言動」に当たらず、迷惑行為防止条例違反は成立しないというものになります。具体的には、警察に対する主張と同様のものとなります。

また、アで記載した通り、「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」の「処分の量定」の標準例に該当しないとしても、①非違行為の態様、被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度、②非違行為を行った職員の職責、過失の大きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い、③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情のほか、適宜、非違行為後の対応等も含め、総合的に考慮のうえ判断され、相談者様に懲戒免職処分が課される可能性がございます。

まだ詳細なご事情を相談者様から伺っているわけではないので、主張内容を明記することはできませんが、例えば、「その外形は単なる野球場での写真撮影というものであり、また、特定のチアリーダーの素性を認識した上で殊更につけ狙って写真を撮影したものではなく、単に被写体としてその写真を撮影したにすぎないから、その行為態様は極めて軽微である。」とか、「本件を除いて、不祥事等を起こしたことはこれまでに一度もなく、まっとうにその職責を果たしている上、本件は教職員としての職責と何らの関係もないものである。」といった主張をすることが想定されます。

第3 まとめ

以上のように、相談者様が刑事罰・懲戒免職処分を受ける可能性は高くはないといえますが、警察での事情聴取が行われた以上、放置することはできません。

警察の対応を見て、刑事事件となりそうであれば、関係者との示談も検討が必要になりますし、 万一、刑事事件となると、懲戒処分の対象ともなり得ますから、早急な弁護活動が必要となります。

以上

関連事例集

参照条文

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都迷惑行為防止条例)

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条
1 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言 動をすること。

(罰則)
第8条
1 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(2) 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1) 第5条第1項(第2号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者
(2) 第5条の2第1項の規定に違反した者

参照判例

最判平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁

弁護人古田渉の上告趣意のうち、憲法31条、39条違反をいう点については、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され、同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような」と相まって、日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり、所論のように不明確であるということはできないから、前提を欠き、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権で検討するに、原判決の認定及び記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。

すなわち、被告人は、正当な理由がないのに、平成18年7月21日午後7時ころ、旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて、女性客(当時27歳)に対し、その後を少なくとも約5分間、40m余りにわたって付けねらい、背後の約1ないし3mの距離から、右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて、細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい、約11回これを撮影した。

以上のような事実関係によれば、被告人の本件撮影行為は、被害者がこれに気付いておらず、また、被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり、これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安を覚えさせるものといえるから、上記条例10条1項、2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。

よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官田原睦夫の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する(注:主文は上告棄却。)。

広島高松江支部判平成28年2月26日

1 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(鳥取県)(以下「本条例」という。)の目的が、「県民及び滞在者等の平穏な生活を保持すること」(1条)にあり、同条例の禁止行為の中には、景品買い行為の禁止(6条)など、明らかに法益侵害される者という意味での「被害者」が観念できない類型が存すること、「卑わいな言動」の禁止される場所が「公共の場所」又は「公共の乗物」に限定されていること、その規制は法律による全国一律のものでなく、条例制定権の範囲である地域における事務(すなわち属地的規制に馴染むもの。)と把握されていること等に鑑みれば、本条例3条1項は、強姦罪や強制わいせつ罪等専ら個人的法益に対する侵害犯と異なり、(保護法益について端的に社会的法益と捉えるのかは取りあえず置くとして、)公共の場所や公共の乗物における、社会通念上、卑わいとされる言動を禁止し、地域住民等が安心して生活できる風俗環境が保持されることを通じて、県民及び滞在者等の意思及び行動の自由を確保しようとするものと思料される。

かかる見地から「卑わいな言動」は、当該行為の相手方が必ずしもそれに気付いている必要はなく、公共の場所又は公共の乗物において、当該行為を一般人の立場から見た場合に、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言動又は動作(最高裁平成20年11月10日第三小法廷決定・刑集62巻10号2853頁)と認識されるものは「卑わいな言動」として、規制の対象になるというべきである。

2 この点に関し、弁護人は、例えば、歩行中に何かにつまずき、転倒しそうになり、思わず何かをつかもうとして偶然隣にいた女性の胸をつかんでしまったような反射的行動も「卑わいな言動」に該当し不都合であり、主観的構成要件として、「性的意図」が必要である旨主張するが、前記のとおり、本条例3条1項は強姦罪や強制わいせつ罪等の個人的法益に対する罪とは構成要件及び法定刑を異にし、規制の目的・方法も異なるから、行為者の主観的傾向を犯罪の成立に要求する合理的理由はないし、上記のようなケースでは、その客観的な行為態様が、「みだりに」(すなわち社会通念上正当な理由があると認められないこと)あるいは「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法」(3条1項柱書)に当たらないと解することは十分に可能であって、処罰範囲を限定する趣旨から、あえて明文にない主観的要件を求める必要性も乏しい。

3 以上を踏まえ、被告人の本件行為をみるに、原審甲29号証及び30号証(当審検6号証)の防犯カメラの映像からは、ランチタイムの客の出入りが頻繁なコンビニエンスストア内において、被害女性が2か所あるレジのうち、出入り口ドアに近い方のレジの前に、精算のため、レジカウンターの方を向いて立っていたところ、被告人は、レジカウンターと陳列棚との間の狭い空間の被害女性の左後方に、同陳列棚の方を向いて立った上、首を左斜め後方にひねり、被害女性のスカート下の脚部に目を向けながら、スマートフォン様のものを、親指と他の4本の指で挟むようにして左手に持ち、膝を曲げてしゃがみ込みながら、その腕を上半身を左にひねるようにして左後方に伸ばし、被害女性のスカートの裾下、約10センチメートルの位置でスカート内側の被害女性の股間部を覗き見ることが可能な位置まで、スマートフォン様のものの先端を差し入れ、そのまま約1秒間程度静止した後、左手を引き戻しながらひねった上半身を戻すようにして立ち上がったことが認められ、原判決も同事実を前提に構成要件該当性の判断を行っていることは明らかである。

上記のような本件行為は、これを目撃した者がすぐに被害女性に対し盗撮をされていた旨伝えたように、行為の外形からみれば、被害女性がレジに気をとられている隙に背後からカメラ・撮影機能付きの携帯電話ないしスマートフォンでスカート内を撮影するという盗撮行為と何ら異なるところがなく、実際に差し入れたスマートフォン様の物に撮影機能があったか否かを問わず、当該行為を一般人の立場から見た場合に、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言動又は動作と認識されるものであって、その方法が被害女性あるいはこれを目撃した者に対しひどく性的恥じらいを感じさせ、心理的圧迫ないし嫌悪感を抱かせるものであることは明らかである。

最判昭和52年12月20日判時874号3頁

公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。