新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.284、2005/7/25 16:54 https://www.shinginza.com/chikan.htm

[刑事・起訴前]
質問:私は、サラリーマンですが、女性のスカートの中を背後から携帯電話のカメラで盗撮してしまいました。画像が残っていませんでしたがその場で警察を呼ばれて現行犯逮捕され、事実を認めたところ妻が身元引受人となって帰宅を許されました。今後どうなるでしょうか。会社は解雇されるでしょうか。検察庁のホームページを見たところ「犯罪後の事情により不起訴処分にする場合もある。」という内容がありました。私の場合も処分されないような場合があるのでしょうか。

回答:
1、お話からすると貴方の行為は、各都道府県で制定されている迷惑防止条例違反に該当します。例えば、東京の迷惑防止条例によりますと懲役1年以下100万円以下の罰金と規定されています。今後の手続ですが、後日警察署と検察庁から呼出があって、今回が初めての違反行為で特別の事情がなければ、通常は、罰金50万円以下の処罰になると予想されます。いわゆる略式手続(刑事訴訟法461条)です。
2、貴方の撮影行為による画像は残っていませんが、この点は犯罪の成立に影響ありません。本条例は、撮影行為自体を禁止していますから、画像が残っているかどうかは単なる情状として判断されることになります。条文上も「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者」と規定されており、画像が残ることを要件としていません。
3、貴方のご質問によると、処罰されると解雇になるとご心配ですが、法に違反した場合、特に刑事罰をうけた場合には就業規則等により処分を受けるのが通常です。あなたのお勤めになっている会社の詳細はわかりませんが、会社の信用上解雇の場合もあるようです。
4、手続の流れを簡単に述べますと、警察署に逮捕された場合は犯罪の程度、被疑者の態度により2つに分かれます。@ 犯罪を立件するために証拠隠滅等の理由から身柄を確保して取調べをする必要がある場合には、刑事訴訟法に詳しい規定がありますが、大まかにいうと検察庁に身柄を送られ最長逮捕から23日間拘束され(但し、検察官が身柄拘束を必要なしとして勾留を請求しなければ後述のAの手続になります。)、証拠がそろっていれば、原則として公訴提起すなわち起訴されます。A 次に、逮捕をしたが、被疑者を一旦自宅に帰し取調べの必要に応じて呼び出し捜査を行う場合には、取調べの期間等については特に規定がなく、警察署、検察庁の都合により順番に呼出が行われます。最終処分まで1−2ヶ月程度かかる場合が多いと思われます。あなたはAの場合に該当しますので、通常は、まず警察署の呼び出しがあり、詳細に供述調書が作られます。1ヶ月以内に他の事件とまとめて管轄地方(区)検察庁に書類送検されます。その後検察庁から2−4週間以内に呼出があり、取調べが行われ調書(検察官の面前調書であり、検面調書といわれています。)が作成され、検察官としての最終処分が決定されます。以上で、1−2ヶ月の期間が予想されるわけです。
5、検察庁のホームページの内容ですが、これは刑事訴訟法248条の起訴便宜主義を具体的に記載したものです。条文上も「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」と規定されていますが、「犯罪後の情況」とは、反省の態度があるかどうか、犯行を否認したかどうか、被害者に謝罪したか、被害者の被害感情、被害者の損害填補が十分に行われたかどうか等を総合的に判断材料とするということです。この中で重要な点は、被害者に対する法的な謝罪です。法的な謝罪とは、道徳的に申し訳ないと謝るだけでなく、被害者の損害の填補を金銭に評価して適正な損害金をお支払いし、被害者が受け入れてくれることです。法律上損害の請求、填補は全て金銭賠償なのです(民法722条、同417条の準用)。この点お金で解決することに疑問を感じるかもしれませんが、法治国家においては、損害が生じた場合、私的な報復を禁じ、全て原則として金銭賠償とされています。つまり、犯罪後の反省の態度に関する評価は、道徳的謝罪と金銭賠償による法的な謝罪を行うことで、大きく変わってきます。
6、具体的には、被害者側と話し合い、謝罪し損害を填補すること、本件でいえば、被害者には慰謝料請求権がありますから、誠実に一刻も早く法律上の損害金を支払うことです。起訴前でもあり、出来れば被害届告訴の取消しもお願いしたいところです。通常、損害金は30万円前後が考えられますが、事情や被害者の方の感情にもより、一概にはいえません。被害者との話し合いが出来て、和解できた内容の書面を提出し、検察官と話し合えば、不起訴処分の可能性は高いと思われます。前科にもなりませんから、通常は会社の処分も受けないことになるでしょう。
7、被害者側は、一般的に被疑者と係わり合いになることを恐れますから、弁護人に依頼し被害者と交渉した方が、金銭賠償が円滑に進む場合もあります。どうしても困ったときはお近くの法律事務所で相談して下さい。

≪参照条文≫
東京都迷惑防止条例
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
(罰則)
第八条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者
三 第五条の二第一項の規定に違反した者
2 前項第二号(第五条第一項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る