新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.568、2007/1/30 15:32 https://www.shinginza.com/chikan.htm

【刑事、痴漢、起訴前、損害賠償】
質問 東京駅のエスカレーターにおいて、女性のスカートの中を携帯カメラで盗撮しようとしたところ、警察官に現行犯逮捕されてしまいました。すぐ逮捕されたため、実際には撮影はできませんでした。どのような刑事処分がなされるのか教えて下さい。また、女性から民事の損害賠償請求もされていますが、いくらくらい払うべきでしょうか。

回答:
1、まず、刑事関係から説明します。駅のエスカレーターにおける女性のスカートの中の盗撮行為は、いわゆる迷惑防止条例に違反する行為となります。東京都の場合は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の第5条@の「何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」に該当して、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」(8条@)とされています。ちなみに、神奈川県、千葉県、埼玉県においても、同じ内容の条例が定められております。

2、どのような刑事処分がなされるかは、最終的には検察官によって判断がなされますが、一番重いのが起訴、公判請求で、軽いのが不起訴処分による釈放です。それ以外に罰金刑の請求を求める略式裁判手続きもあります。

判断の基準としては、犯行の態様、結果の重大性、被害者との関係、常習性、自白・反省の有無、前科の有無等を総合的に考慮して判断されます。このような性格の犯罪の場合において、最も重要な要素は、被害者との示談の成否といえます。被害者との示談が成立して、被害感情がおさまり、宥恕が認められ、告訴、被害届の取り下げがなされれば、実質的な被害、問題が消滅することになり、間違いなく不起訴処分となるでしょう。

そのためにも逮捕された早い段階から弁護士の弁護を求めて、被害者との交渉を依頼すべきでしょう。但し、弁護士に弁護人となることを依頼したとしても捜査機関は被害者の意思を尊重することを理由に被害者の連絡先を弁護人に対しても明らかにしないことが多々あります。このような場合、捜査機関に対して被害者の連絡先を明らかにするよう強く求めることが必要になります。今は当番弁護士による起訴前弁護を受けることは可能ですが、被害者との示談交渉はスピードが要求され、かつ専門的な交渉技術が要求されるものであるので、同種事件の刑事弁護を多数扱う弁護士に依頼した方が良いでしょう。

3、次に民事関係について説明します。迷惑防止条例違反の行為は、民法709条の不法行為に該当するので、刑事上の罰金等の処分とは別に、被害者の女性に対して損害賠償責任を負うことになります。問題は、損害賠償の範囲、金額となります。このようなケースでは、被害者である女性は、加害者の盗撮行為によって男性恐怖症、うつ病などの精神的障害を負ったこと、男性との接触ができなくなり就業が困難となったことによる休業損害、現在の住居が知られている恐れがあるので引越しの必要があるのでその費用などの理由をつけて、高額な慰謝料、損害賠償を請求してくるおそれがあります。

不法行為により賠償すべき損害の範囲は、通常予見すべき事情及び特別に予見していた事情を判断の基礎にして、当該不法行為と社会通念上相当因果関係のある範囲の損害と考えられています。不法行為と条件関係があるだけでは足りず、相当因果関係があることが要求されています。

本件不法行為は女性のスカートの中の盗撮行為ですので、一定額の慰謝料の負担はやむを得ないでしょう。次に、加害者の盗撮行為によって男性恐怖症、うつ病などの精神的障害を負ったこと、男性との接触ができなくなり就業が困難となったことによる休業損害については、実際に被害者の女性が精神的な障害を負ったかどうかによります。したがって、医師の診断書を基に客観的に女性が精神的な障害を負っているかを判断することになります。医学的な関連性が証明されれば、損害として負担をしなければなりません。そして、引越し費用の主張については、通常盗撮行為と居住関係は関連性があるとは考えられないので、支払う必要はないでしょう。

慰謝料の金額の一般的な相場については、強制わいせつ、痴漢に至らない盗撮行為で、撮影ができず実際の損害がない場合には、10万円から50万円くらいであるといえます。ただこれは一般的な基準であり、前述のように病的な疾患が認められれば、もっと高額な金額になります。なお、刑事事件との関係で、被害者の示談を得る必要があるため、慰謝料やその他の名目で一般的な相場とされる金額より高額となることもありますので、具体的な金額については依頼した弁護士と協議する必要があります。

≪参照条文≫

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第5条
@ 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
A 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、多数でうろつき、又はたむろして、通行人、入場者、乗客等の公衆に対し、いいがかりをつけ、すごみ、暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第2号の暴力団をいう。)の威力を示す等不安を覚えさせるような言動をしてはならない。
B 何人も、祭礼または興行その他の娯楽的催物に際し、多数の人が集まっている公共の場所において、ゆえなく、人を押しのけ、物を投げ、物を破裂させる等により、その場所における混乱を誘発し、または助長するような行為をしてはならない。
C 何人も、公衆の目に触れるような工作物に対し、ペイント、墨、フェルトペン等を用いて、次の各号のいずれかに該当する表示であって、人に不安を覚えさせるようなものをしてはならない。
1 暴走族(道路交通法(昭和35年法律第105)第68条の規定に違反する行為又は自動車若しくは原動機付自転車を運転して集団を形成し、同法第七条、第17条、第22条第1項、第55条、第57条第1項、第62条、第71条第5号の3若しくは第71条の2の規定に違反する行為を行うことを目的として結成された集団をいう。次号において同じ。)の組織名の表示
2 暴走族が自己を示すために用いる図形の表示
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第8条
@ 次の各号の一に該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
1 第2条の規定に違反した者
2 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者
3 第5条の2第1項の規定に違反した者
A 前項第2号(第5条第1項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
B 次の各号の1に該当する者は、100万円以下の罰金に処する。
1 第7条第2項の規定に違反した者
2 前条第3項の規定に違反した者
C 次の各号の1に該当する者は、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
1 第3条の規定に違反した者
2 第4条の規定に違反した者
3 第5条第3項又は第4項の規定に違反した者
4 第6条の規定に違反した者
5 第7条第1項の規定に違反した者
6 前条第1項の規定に違反した者
D 前条第2項の規定に違反した者は、30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
E 第7条第4項の規定による警察官の命令に違反した者は、20万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
F 常習として第2項の違反行為をした者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
G 常習として第1項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
H 常習として第3項の違反行為をした者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
I 常習として第4項の違反行為をした者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

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