新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1248、2012/3/26 14:13 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・盗撮・任意捜査と対応・前科2犯・最高裁昭和51年3月16日判決】

質問:先日,私は隣の市にあるAショッピングモールのエスカレーター上で,目の前に立っている女性のスカートの下からデジタルカメラを差し出し,スカート内を盗撮しました。その後,後ろにいた見知らぬ人が「あなた,今盗撮しているでしょ」と叫んだので,驚いた私はその場から逃げて駐車場に走り,駐車場に止めていた自分の自動車でそのまま逃走しました。その3日後,警察から自宅に電話があり,「3日前のAショッピングモールの件で事情を聞きたいから警察に来て欲しい。ちょうど1週間後の月曜日の午前中にお願いしたい。ただし,都合が悪いのならば,別の日を指定してくれればできる限り対応する。あと,当日使用したデジタルカメラも持ってきてください」と言われました。カメラの中には他の機会に盗撮した画像も入っていますが,「なぜ警察に呼ばれるのかは分かっています。すいません」と罪を認めつつ,「ただし,カメラは無くしてしまいました」と警察の方に嘘をつきました。その後私は怖くなり,デジタルカメラを近所の草むらに捨て,カメラ内のSDカードは半分に折って近くのコンビニのゴミ箱に捨ててしまいました。取調べの期日はもう2日後に迫っています。私はどうなるのでしょうか。会社と家族には知られたくありません。また,私は2年前に盗撮で罰金30万円,半年前に罰金50万円の刑事処分を受けており,今回が3回目になります。

回答:
1.2年前に罰金30万円,半年前に罰金50万円の刑事処分を受けていて今回が3回目ということですから,有利な情状がない限り証拠がそろえば公判請求され,正式な法廷での裁判により執行猶予の懲役刑の言い渡しを受ける可能性が高いでしょう。被害者と示談するなどの有利な情状を作る必要があります。
2.現在は任意捜査の段階ですから,警察から,来て欲しいと言われたとしても拒否することは自由です。しかし,無視していると逮捕,勾留されてその後正式に起訴されるという最悪の結果になる危険がありますから,捜査に協力する姿勢を見せ,在宅と言って逮捕勾留されないまま弁護士と協議し被害者と示談し,不処分,又は略式裁判による罰金刑(条例により異なりますが100万円の罰金刑で終了する場合もあります。)で捜査が終わるようにする必要があります。公判請求になると東京地裁等の場合,裁判を傍聴しインターネットに実名を載せる人もあり注意が必要です。尚,貴方が有名上場企業勤務,公務員,特別資格者(大学の教授等)であれば,報道,勤務先への連絡もされる場合があり,心配であればお近くの弁護士と協議し事前阻止,回避の手続きを依頼してください。
3.当事務所事例集論文1106番944番827番826番801番784番755番732番691番568番341番284番参照。
   以下,解説で詳しく説明します。

解説:
1 あなたが現在置かれている状況について
(1)任意捜査
   本件で警察官があなたに要求した取調べは,任意捜査と言われます(刑訴法197条)。
   任意捜査とは,強制捜査(強制処分)以外の捜査を意味し,「必要性,緊急性などを考慮の上,具体的状況の下で相当と認められる」捜査を意味します(最高裁昭和51年3月16日判決)。任意捜査と強制捜査の区別としては,@相手方の意思に反し,A被疑者の重要な権利利益を制約する捜査か否かが判断基準とされています。捜査の基本原則は任意捜査です(犯罪捜査規範99条)。無罪の推定を受ける被疑者の生命身体の自由を保障するため(憲法18条,31条以下,人身の自由),理論的に当然の帰結です。
   但し,個々の根拠条文が必要な強制捜査とは異なり,法社会秩序の維持という捜査の目的を達成するため必要性があれば広く認められています(刑訴法197条,198条)。さらに,前記最高裁判例は任意捜査の趣旨,目的から有形力行使も一定限度で認めています(酒気帯び運転者に対する呼気検査の際に手首をつかんだ行為を適法としています。)。判例後記参照。本件はあくまで任意の捜査,出頭要求ですから,あなたは,出頭及び取調べを拒む権利があります(刑訴法198条1項)。

(2)逮捕
   ちなみに今回,あなたが恐れている「逮捕」というのは,まさに被疑者の意思に反して身体の自由という重要な利益侵害を行う行為ですから,強制捜査に該当し,法律に特別な定めがありかつ法定の要件を満たして初めて行うことができます。なお,逮捕は,強制処分の中でも特に強い権利侵害を伴う処分であるため,裁判官の事前審査が要求されています(令状主義。刑訴法199条)。

2 逮捕されるか否かについて
(1)逮捕を行う法定の要件を満たしているか

  ア 法定の要件について
    上記1のとおり,逮捕は令状主義が及ぶ強制処分であるため,法律の定めによらなければ行うことができません。
    この点,刑訴法199条1項2項が通常逮捕の要件を定めています。(@)罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(必要性),(A)明らかに逮捕の必要がないと認められないこと(相当性)です。

  イ 要件(@)
    同要件における「罪」とは,具体性のある特定の犯罪であることを意味し,「相当な理由」とは,被疑者が特定の犯罪にあたる行為を行ったことを肯定できる客観的かつ合理的な根拠があることを意味し,通常人の合理的な判断に拠れば被疑者の犯罪行為を相当高度に肯定できるものでないといけません。
    ここで気になるのは,警察はあなたをどうやって突き止めたか,という点です(警察に聞けば教えてくれることもあります)。この点,あなたの犯行を目撃した人が見知らぬ人であり,なおかつ犯行現場が隣の市であることからすれば,警察があなたの身元を突き止めたのは,単なる目撃証言以外の理由であると考えることもできます。例えば,ショッピングモールの防犯カメラにあなたが自動車に乗り込む画像が映っており,当該自動車のナンバープレートからあなたの氏名住所を割り出したなどといったケースも実務上は見受けられます。
    仮に防犯カメラの画像にあなたがスカートの下にカメラを差し出しているところが写っていた場合,盗撮以外にかかる行為をとる合理的事情が直ちには見当たらない上,あなたが誰何されて突然逃げ出したという状況からすれば,同要件は認められるものと思われます。

  ウ 要件(A)
    同要件は,具体的には「被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ罪障を隠滅する虞がない等」ことを意味します(刑事訴訟規則143条の3)。
    本件であなたは,犯行を追及された直後に犯行現場から逃走しており,客観的に見て逃亡の虞がないとは言い切れません。
    しかしあなたは警察に対し,「なぜ警察に呼ばれるのかは分かっています。すいません」という犯行を認める旨の対応を行っています。否認をした場合,「罪を認めない=逃亡の虞,罪証隠滅の虞がある」という判断のもと,明らかに逮捕の必要がないとまではいえないとして,要件(A)が認められるケースが多いでしょう。しかし,本件のように犯行を認めている場合は,捜査に対する素直な態度から逃亡も罪証隠滅も行わないだろうという判断に傾くものといえます。

    ただし,「デジタルカメラを無くした」と警察に告げていることについては,犯行に用いたデジタルカメラを紛失する合理的説明ができない限り,実際は当該カメラを隠したもしくは捨てたと疑われてもやむを得ないでしょう。そういった意味では,さらなる罪証隠滅の虞があるものと判断されてもおかしくありません。
    とはいえ,本件の場合,被害者や目撃者がどこの誰かを知らないという客観的状況があるために証人威迫の可能性がほぼ皆無であることや,盗撮画像の隠滅行為について犯行日から約1週間も経っていれば,その間に可能なことは既に行われているはずです。そのため,犯行直後であればまだしも,現段階においては要件(A)を考慮する際に,デジタルカメラを提出しない行為を重要視すべきではないと考えられます。

  エ その他
    どうしても逮捕を避けたいということであれば,デジタルカメラを再度探しにいき,どうしても見つからないのであれば素直に捨てたと警察官に話すことが肝要だと思います。素直に捜査に協力することは,逮捕される可能性を少しでも下げるためにとりうる最適な手段です。デジタルカメラ,SDカードは重要な証拠物ですが,被疑者自身(親族の場合は刑の免除。刑法105条。行為者の適法行為の期待可能性と親族間の人情を考慮しています。)が,証拠隠滅を図っても期待可能性がない(犯人が自分の不利な証拠を隠滅するのは適法行為が期待できない行為であり法的責任を追及できないと評価されています。)という理由で犯罪にはなりません(刑法104条)。しかし,事件立件のためにこれを放置することはできませんのでさらなる証拠隠滅行為を防ぐため盗撮等条例違反でも逮捕して身柄を確保することはよくあることです。又,痴漢と異なり被害者の身体に直接接触はしていませんが,盗撮内容をインターネットに流し,対価を得る場合もあり,保護法益である被害者の性的プライバシーの被害が拡大する危険性を考慮し,盗撮機械,方法等によっては実務上逮捕,家宅捜索がよく行われています。法的にも例えば,東京都の迷惑防止条例は痴漢の2倍刑が加重されています(都条例8条2項,1年以下の懲役または,100万円以下の罰金)。

    なお本件では,警察官が出頭期日について「都合が悪いのならば,別の日を指定してくれれば」などと言っています。
    逮捕状の有効期間は発付の翌日から原則として7日間しかありませんから(刑訴法55条1項,刑訴規則300条),警察官が既に逮捕状の発付を受けて警察署で待ち構えているとはなかなか考えにくく,むしろ可能性の上では,取調べ状況を見て逮捕するか否かを判断する流れである方が高いといえるでしょう。
    ただし,結局逮捕の要件は上記のとおりですから,当初から逮捕する予定であれば逮捕しているはずであり,むしろ状況に大きな変化がない限りは在宅で捜査を進めようとしている可能性も十分見込まれるのではないかと思います。また,弁護人を選任し,捜査担当の警察官に対し,弁護人が責任を持って出頭させる旨の上申書を差し入れるなどといった事実上の説得,対応も一つとりうる手段だと思います。さらに不安であれば,弁護人が事前に担当捜査官と面談し誠意をもって事情を伺えば捜査機関の方も大まかな捜査方針を説明してもらえるはずです。

3 処分の見通し等
(1)起訴便宜主義
    現在は警察段階で捜査が進んでいますが,ある程度の証拠収集が終了した後,事件は検察官に送致されます。その後は検察官が捜査を行い,終局処分を行うことになります。
    この点,いかなる終局処分を行うかについては起訴便宜主義が採用されており,検察官の裁量に委ねられています(刑訴法248条)。しかし,検察官の裁量とはいえ,検察官もある程度先例にも準じた処分を行う傾向があり,ある程度量刑の相場があるというのが実務です。

(2)量刑の相場について
  ア あなたは今回が3度目の立件とのことでした。1回目は罰金30万円,前回は罰金50万円でした。都道府県にもよりますが,盗撮行為についてはいわゆる都道府県迷惑行為防止条例違反に該当し,同条例では罰金又は懲役刑が法定されています。
    この点,罰金額の上限が50万円である都道府県が多いですが,検察官としては,罰金30万円→罰金50万円(上限額)と段階を踏んだ処分を行っています。本件が前回の処分からわずか半年後の犯行であることからすれば,検察官としても前回よりも1段重い処分,すなわち公判請求(公開の法定による裁判)を検討せざるを得ないと思われます。公判請求された場合,あなたの氏名も顔も犯罪行為の内容も,傍聴人の目の前で公開されることになります。
    ただし,被害者の方と示談に至った場合は別です。検察官は,本件のような性犯罪において示談が成立した場合,「犯罪後の情況」(刑訴法248条)を評価し,相場よりも軽い終局処分を行うことが多いです。本件について言えば,公判請求を回避できる可能性が高まる,ということになるでしょう。
    そのため,公判請求をどうしても避けたい場合であれば,弁護人を選任した上で,示談金の準備,謝罪文の作成,被害者に対する不接近誓約書等の用意をし,示談の成立に向けた努力が必要となります。

  イ 仮に示談が成立しない場合は,公判請求が現実味を帯びてきます。事実に特に争いがないということであれば,1回で結審し,数週間後に判決期日,という運用が多いと思われます。
    今回は,仮に公判請求されたとしても,初めての公判請求ということになりますから,起訴前と同様に,示談に向けた真摯な努力や監督者をつけるなど,良い情状が見られるのであれば執行猶予付きの判決が出る可能性がそれなりに見込まれます。

(3)その他
    また,本件では自宅の電話に出頭要請の連絡が届いています。ご家族に知られたくない場合は,弁護人を通じて取り調べ日程を調整してもらう方法や今後の連絡先として携帯電話を指定するなどといった方法が考えられます。この要望は事実上のものですが,担当機関にもよっては受け入れてくれる場合もあるので,担当捜査機関に対して確認を行うべきでしょう。
    ただし,家族に知らせていない,というのは終局処分においてマイナスに働く事情なので慎重な検討が必要です。これは,今後,あなたに対して適切な監督者がいないために,「犯行後の情況」(刑訴法248条)が好ましくないという評価につながるからです。

【参照条文】

<刑事訴訟法>
第五十五条  期間の計算については,時で計算するものは,即時からこれを起算し,日,月又は年で計算するものは,初日を算入しない。但し,時効期間の初日は,時間を論じないで一日としてこれを計算する。
第百九十七条  捜査については,その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し,強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない。
○2  捜査については,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
第百九十八条  検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができる。但し,被疑者は,逮捕又は勾留されている場合を除いては,出頭を拒み,又は出頭後,何時でも退去することができる。
○2  前項の取調に際しては,被疑者に対し,あらかじめ,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
○3  被疑者の供述は,これを調書に録取することができる。
○4  前項の調書は,これを被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて,誤がないかどうかを問い,被疑者が増減変更の申立をしたときは,その供述を調書に記載しなければならない。
○5  被疑者が,調書に誤のないことを申し立てたときは,これに署名押印することを求めることができる。但し,これを拒絶した場合は,この限りでない。
第百九十九条  検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができる。ただし,三十万円(刑法 ,暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については,当分の間,二万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる罪については,被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2  裁判官は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については,国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により,前項の逮捕状を発する。但し,明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,この限りでない。
○3  検察官又は司法警察員は,第一項の逮捕状を請求する場合において,同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは,その旨を裁判所に通知しなければならない。
第二百四十八条  犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。

<刑事訴訟規則>
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認める場合においても,被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならない。
第三百条 令状の有効期間は,令状発付の日から七日とする。但し,裁判所又は裁判官は,相当と認めるときは,七日を超える期間を定めることができる。

<犯罪捜査規範>
第四章 任意捜査
(任意捜査の原則)
第九十九条  捜査は,なるべく任意捜査の方法によつて行わなければならない。
(承諾を求める際の注意)
第百条  任意捜査を行うに当り相手方の承諾を求めるについては,次に掲げる事項に注意しなければならない。
一  承諾を強制し,またはその疑を受けるおそれのある態度もしくは方法をとらないこと。
二  任意性を疑われることのないように,必要な配意をすること。
(聞込その他の内偵)
第百一条  捜査を行うに当つては,聞込,尾行,密行,張込等により,できる限り多くの捜査資料を入手するように努めなければならない。
(任意出頭)
第百二条  捜査のため,被疑者その他の関係者に対して任意出頭を求めるには,電話,呼出状(別記様式第七号)の送付その他適当な方法により,出頭すべき日時,場所,用件その他必要な事項を呼出人に確実に伝達しなければならない。この場合において,被疑者又は重要な参考人の任意出頭については,警察本部長又は警察署長に報告して,その指揮を受けなければならない。
2  被疑者その他の関係者に対して任意出頭を求める場合には,呼出簿(別記様式第八号)に所要事項を記載して,その処理の経過を明らかにしておかなければならない。
(逮捕状発付後の事情変更)
第百三条  逮捕状の発付されている場合であつても,その後の事情により逮捕状による逮捕の必要がないと認められるに至つたときは,任意捜査の方法によらなければならない。この場合においては,逮捕状は,その有効期間内であつても,直ちに裁判官に返還しなければならない。
(実況見分)
第百四条  犯罪の現場その他の場所,身体又は物について事実発見のため必要があるときは,実況見分を行わなければならない。
2  実況見分は,居住者,管理者その他関係者の立会を得て行い,その結果を実況見分調書に正確に記載しておかなければならない。
3  実況見分調書には,できる限り,図面及び写真を添付しなければならない。
4  前三項の規定により,実況見分調書を作成するに当たつては,写真をはり付けた部分にその説明を付記するなど,分かりやすい実況見分調書となるよう工夫しなければならない。
(実況見分調書記載上の注意)
第百五条  実況見分調書は,客観的に記載するように努め,被疑者,被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても,その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。
2  被疑者,被害者その他の関係者の指示説明の範囲をこえて,特にその供述を実況見分調書に記載する必要がある場合には,刑訴法第百九十八条第三項 から第五項 までおよび同法第二百二十三条第二項 の規定によらなければならない。この場合において,被疑者の供述に関しては,あらかじめ,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ,かつ,その点を調書に明らかにしておかなければならない。
(被疑者の供述に基づく実況見分)
第百六条  被疑者の供述により凶器,盗品等その他の証拠資料を発見した場合において,証明力確保のため必要があるときは実況見分を行い,その発見の状況を実況見分調書に明確にしておかなければならない。
(女子の任意の身体検査の禁止)
第百七条  女子の任意の身体検査は,行つてはならない。ただし,裸にしないときはこの限りでない。
(人の住居等の任意の捜索の禁止)
第百八条  人の住居又は人の看守する邸宅,建造物若しくは船舶につき捜索をする必要があるときは,住居主又は看守者の任意の承諾が得られると認められる場合においても,捜索許可状の発付を受けて捜索をしなければならない。
(任意提出物の領置)
第百九条  所有者,所持者または保管者の任意の提出に係る物を領置するに当つては,なるべく提出者から任意提出書を提出せしめた上,領置調書を作成しなければならない。この場合においては,刑訴法第百二十条 の規定による押収品目録交付書を交付するものとする。
2  任意の提出に係る物を領置した場合において,その所有者がその物の所有権を放棄する旨の意思を表示したときは,任意提出書にその旨を記載させ,または所有権放棄書の提出を求めなければならない。
ばならない。

【最高裁判例】

最高裁昭和51年3月16日判決  判旨抜粋
「捜査において強制手段を用いることは,法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら,ここにいう強制手段とは,有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく,個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など,特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて,右の程度に至らない有形力の行使は,任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ,強制手段にあたらない有形力の行使であつても,何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから,状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく,必要性,緊急性なども考慮したうえ,具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。
 これを本件についてみると,加藤巡査の前記行為は,呼気検査に応じるよう被告人を説得するために行われたものであり,その程度もさほど強いものではないというのであるから,これをもつて性質上当然に逮捕その他の強制手段にあたるものと判断することはできない。また,右の行為は,酒酔い運転の罪の疑いが濃厚な被告人をその同意を得て警察署に任意同行して,被告人の父を呼び呼気検査に応じるよう説得をつづけるうちに,被告人の母が警察署に来ればこれに応じる旨を述べたのでその連絡を被告人の父に依頼して母の来署を待つていたところ,被告人が急に退室しようとしたため,さらに説得のためにとられた抑制の措置であつて,その程度もさほど強いものではないというのであるから,これをもつて捜査活動として許容される範囲を超えた不相当な行為ということはできず,公務の適法性を否定することができない。したがつて,原判決が,右の行為を含めて加藤巡査の公務の適法性を肯定し,被告人につき公務執行妨害罪の成立を認めたのは,正当というべきである。
 よつて,刑訴法四一四条,三八六条一項三号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。


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