内縁の相続・住まい・特別縁故者の財産分与
質問
婚姻届を出さずに長年一緒に暮らしてきたパートナーが亡くなりました。私には相続権がありますか。住まい、共同で築いた財産、介護への貢献、遺族年金はどうなりますか。また、生前にできる備えを教えてください。
回答
内縁の配偶者は、法律上の配偶者と異なり、法定相続人にはならず、遺留分もありません。同居期間が長いことや、自治体のパートナーシップ証明等があることだけで相続権が生じるわけではありません。
ただし、①自分自身の所有財産・共有持分・貸金等の権利、②遺言による遺贈、③相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与、④賃借権や居住の保護、⑤遺族年金・生命保険などは、それぞれ別に検討できます。生前の遺言、財産関係の記録、住まいの契約を整えておくことが、生活を守るために重要です。
解説
1.内縁と法律上の婚姻では相続の取扱いが異なる
民法890条の相続人となる「配偶者」は法律上の配偶者です。婚姻の意思をもって共同生活をする内縁関係に一定の保護が認められても、婚姻に関する規定がすべて適用されるわけではありません。「3年以上同居すれば相続できる」といった一律の制度はありません。
亡くなった人に法律上の配偶者がいる場合は、離婚が成立していない限り、その人の相続権が問題になります。内縁関係と法律婚が併存する場合の社会保障や居住の保護も、事情によって結論が異なります。
二人の間の子は、亡くなった人との法律上の親子関係があれば相続人です。父子関係では認知等の確認が必要な場合があります。現在、婚外子の法定相続分は婚内子と同じです。一方、パートナーの連れ子は、養子縁組など法律上の親子関係がなければ、同居していたことだけでは相続人になりません。死後認知など期限のある手続は早期に検討してください。
2.共同で築いた財産は、自分の権利を資料で確認する
自分名義の預金や、自分が所有する動産、共有不動産の自分の持分まで、当然に亡くなった人の遺産になるわけではありません。名義と実際の権利関係が異なる場合には、購入資金、返済負担、当事者間の合意等を調べます。相手名義だからすべて諦めることも、生活を共にしていたからすべて半分は自分のものだと考えることも適切ではありません。
貸金、立替金、売買代金などの債権がある場合には、その発生原因と金額を証明して相続人や相続財産清算人に請求することを検討します。通帳、振込履歴、契約書、メール、領収書などを確保してください。死亡後に相手名義の預金を無断で引き出すと、返還請求等の紛争を招くおそれがあります。
最高裁第一小法廷平成12年3月10日決定(平成11年(許)第18号)は、一方の死亡で内縁が解消した場合に、離婚時の財産分与の規定を類推適用することを否定しました。したがって、死亡後に離婚と同じ財産分与を請求して遺産の半分を取得する、という方法は原則として使えません。個別の所有権・共有持分・債権の有無を検討することが大切です。
3.長年の介護に対する寄与分・特別寄与料
寄与分は相続人の間で相続分を調整する制度で、相続人ではない内縁配偶者が、内縁という立場だけで請求することはできません。相続人以外の親族に認められる特別寄与料も、法律上の親族ではない内縁配偶者には、その資格だけでは適用されません。
介護等について有効な報酬契約がある場合の請求、遺言による遺贈、相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与は別途検討できます。介護した事実だけで直ちに報酬請求権が成立するとは限りません。生前に費用負担や財産の帰属について話し合い、無理のない書面を残しておくとよいでしょう。
参照:民法904条の2・1050条。
4.相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与
法定相続人がいない場合や、全員が有効に相続放棄した場合などには、相続財産の清算を経て、被相続人と生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、その他特別の縁故があった人に、家庭裁判所が財産の全部または一部を分与することがあります。内縁配偶者はその候補になり得ますが、自動的な権利でも、全財産を必ず取得できる制度でもありません。
2023年4月1日施行の改正後は、民法958条の2が根拠となり、手続を担当する者の名称は「相続財産清算人」です。改正前の資料の「相続財産管理人」「958条の3」や、旧公告日程と混同しないでください。
- 清算人の選任:利害関係人等の申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。財産状況によって予納金が必要となる場合があります。
- 相続人の捜索と債権の申出:裁判所は選任とともに、相続人が権利を主張する期間を6か月以上と定めて公告します。清算人による相続債権者・受遺者への請求申出の公告期間は2か月以上で、相続人捜索の期間内に満了するように定められます。
- 財産分与の申立て:相続人捜索の公告期間が満了した後、3か月以内に特別縁故者としての財産分与を申し立てます。選任申立てをしただけでは分与申立てをしたことになりません。
- 裁判所の判断:共同生活・看護の実態、関係の深さ、残余財産等が審理されます。債務等を清算した残りが対象で、分与の有無・額は個別判断です。
住民票、共同生活の支出記録、病院との連絡や介護記録、第三者の説明、写真・通信記録等を整理します。単に相続人と連絡が取れないだけなら直ちにこの手続を使えるわけではありません。相続人がいる場合に放棄を強制することもできません。
共有不動産についても、亡くなった共有者に相続人がいなければ直ちに他の共有者のものになる、とは限りません。清算と特別縁故者への分与の検討を経たうえで、民法255条による持分帰属が問題になります。
参照:民法952条・957条・958条の2・255条。裁判所 相続財産清算人の選任、特別縁故者に対する相続財産分与、申立書・記載例。
5.住んでいる家を出なければならないのか
| 状況 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 自分も所有者・共有者 | 自分の持分、共有物の使用に関する合意、相続人との関係を確認します。相手の死亡だけで自分の持分を失うものではありません。 |
| 相手だけが所有者 | 遺贈の有無、賃貸借・使用貸借等の合意を確認します。内縁だけを理由に民法上の配偶者居住権を取得することはできません。 |
| 相手名義の居住用借家で相続人がいない | 借地借家法36条により、同居していた事実上の配偶者等が賃借人の権利義務を承継する場合があります。相続人不存在を知った後1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示した場合は別です。 |
| 借家で相続人がいる | 36条がそのまま適用されるわけではありません。賃借権の相続、従来の使用関係、判例上の保護等を個別に検討し、相続人・賃貸人と調整します。 |
相続人による明渡請求が権利濫用となる可能性を扱う判例もありますが、生活への打撃、建物使用の経緯、相続人の必要性等による判断であり、内縁であれば無期限に居住できるという一般的な権利ではありません。相続人から退去を求められた場合は、使用承諾、家賃・ローン・修繕費の支払資料等を保全し、明渡しや合意書への署名の前に相談してください。
参照:借地借家法36条。新銀座法律事務所 QA No.1235・内縁の居住権と法定相続人の権利濫用について。
6.遺族年金と生命保険は相続権と分けて考える
遺族年金では、届出のない事実上の婚姻関係にある人が配偶者として扱われる場合があります。ただし、加入していた年金制度、保険料納付要件、生計維持関係、遺族の年齢・子の有無等の要件を満たす必要があります。遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給要件も異なります。
事実婚の申立書だけで必ず支給されるわけではなく、住民票、生活費の送金、健康保険上の関係等による確認が必要となります。法律上の配偶者が別にいる場合も含め、年金事務所で具体的に確認してください。
生命保険は、受取人として指定できるか、指定が有効かを保険会社に確認します。有効に受取人となっている死亡保険金は、通常、受取人固有の権利として取得しますが、保険料負担者等によって相続税・所得税・贈与税のいずれが問題になるかが変わります。
参照:日本年金機構 事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書、遺族厚生年金の受給要件。
7.生前にできる準備と税金の注意点
- 遺言で財産と受遺者を明確にする:内縁配偶者に財産を残すには遺贈を検討します。遺留分権利者がいるかを確認し、必要な支払資金を確保します。執行者、代替受遺者、費用負担も整えます。
- 住まいの権利を整理する:共有持分、遺贈、使用契約など、死亡後も使える根拠を検討します。生前贈与には贈与税・登記費用等が伴うため、単に名義を変えればよいわけではありません。
- 財産と債務の記録を残す:誰がいくら出資・返済したか、どの口座が誰の財産かを明確にし、契約と証拠を保管します。
- 将来の支援と死後の事務を分ける:判断能力低下への任意後見等と、葬儀・納骨等の死後事務委任は役割が異なります。死後事務の依頼だけでは、遺産を取得させる遺言の代わりにはなりません。
内縁配偶者が遺贈で財産を受け取る場合、通常は相続税額の2割加算の対象となり、法律上の配偶者の税額軽減は使えません。相続人ではないため、死亡保険金の「500万円×法定相続人の数」の非課税枠も、その人の取得分には適用されません。贈与税の婚姻期間20年以上の配偶者控除も内縁には適用されません。
不動産では、包括遺贈と相続人以外への特定遺贈で不動産取得税の扱いが異なります。遺言の種類を税負担だけで選ぶと、債務の承継や手続で問題が生じる場合があります。法的効果と税務を合わせて検討してください。
参照:国税庁 相続税額の2割加算、配偶者の税額の軽減、相続税の課税対象になる死亡保険金。東京都主税局 不動産取得税Q&A。
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最終更新・資料確認日:2026年9月25日。原則として同日現在施行中の制度を説明し、将来の適用や経過措置は区別しています。具体的な結論は相続開始日・贈与日・財産・家族関係等で異なります。制度上の要件と手続先の最新案内を併せて確認してください。