医療法人の出資持分の財産分与

家事|医療法人の出資持ち分は財産分与の対象となるか|出資持分の金銭評価と財産分与の寄与割合|大阪高裁平成26年3月13日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

25年前に結婚した夫との離婚に伴う財産分与に関する相談です。夫は医師をしており、20年前からは自ら出資して設立した医療法人の理事長も務めております。同医療法人は、夫と夫の母親の出資で設立されています。

この度、夫と離婚することになり夫に対して財産分与を請求しているのですが、夫の弁護士からは、「医療法人の出資持分は、直ぐに現金化できるものではないから財産分与の対象にはならない」「現在蓄積された資産は、夫が医療法人の経営者として類稀な努力をしてきた結果であるから、あなたに分与する財産は3割程度しか認められない」と主張されています。

夫の弁護士の主張は正しいのでしょうか。

回答

1 婚姻期間中に夫婦が取得した財産は、離婚のときには財産分与の対象となります。夫が婚姻後に設立した医療法人(旧医療法に基づき設立された出資持分有りのもの)の出資持分も財産分与の対象になります。夫の母親の出資持分についても、医療法人が設立された経緯によっては、財産分与の対象となる場合があります。

2 医療法人の出資持分が財産分与の対象となる場合、その金銭的な評価は、医療法人の純資産額(総資産から負債を差し引いた残額)を基準に考えることになりますが、当該医療法人が今後も継続して事業運営される場合には、将来的な現金化の不確実性を考慮し、価値を割り引いて評価することもあります。

3 財産分与の対象となる財産が、相手の特殊な技能、資格に基づく職務により形成されたと認められる場合、財産分与の対象が2分の1ではなくなる場合はあります。もっとも、離婚並びに婚姻に関する事項は、両性の本質的平等に立脚して制定されているという原則もあります。そのため、あなたが財産の形成に寄与してきた事情を丁寧に主張立証すれば、2分の1に近い分与を得ることも十分可能です。

4 医師等の特殊な資格をもち、収入を得ている方を相手とする財産分与については、その特質性に応じた主張が必要です。ご自分で対応に自信がない様であれば、弁護士に相談した上で、適切な対応を取ることをお勧め致します。

5 財産分与に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 医療法人の出資持分の財産分与対象性

1 医療法の改正

婚姻期間中に夫婦が取得した財産は、離婚のときには財産分与の対象となります(民法768条)。

この点、医療法人名義の財産については、平成18年の医療法改正により、出資持分の規定が廃止され、医療法人の財産は解散の際にも個人に帰属するものではなくなったため、医療法人の出資持分や社員たる地位を財産分与の対象とすることはできなくなりました(医療法44条、45条)。

しかし、同改正前の医療法では、医療法人の残余財産の分配については定款又は寄付行為の定めに委ねられており、剰余金を解散時に社員間で分配することや、退社時に出資の払戻しをすることも禁じられていませんでした。厚生労働省によるモデル定款でも、出資の払戻等の定めが規定されています。

そのため、このような法改正前に設立された医療法人(現在の経過措置型医療法人)の出資持分については、財産分与の対象となると考えられています。

2 裁判例の動向

この点、裁判例(大阪高裁平成26年3月13日判決)においては、以下のように判示した上で、従前医師である夫が経営してきた診療所が法人化した医療法人の出資持分についても夫婦共有財産として財産分与の対象となるとしました。

大阪高裁平成26年3月13日判決

原判決を引用して判示したとおり、本件医療法人は、平成*年*月に開設された本件診療所が平成*年*月*日に法人化されたものであり、本件医療法人設立後職員が若干増員されたものの、本件診療所における業務を継続するのに必要なものとして所有する資産や本件診療所の実質的な管理、運営実態等に大きな変化はなく、控訴人が形式上も出資持分の96.66パーセントを保有していることを考えると、本件医療法人が所有する財産は、婚姻共同財産であった法人化前の本件診療所に係る財産に由来し、これを活用することによってその後増加したものと評価すべきである。

そうすると、控訴人名義の出資持分2900口のほか、形式上控訴人の母が保有する出資持分50口及び被控訴人名義の出資持分50口の合計3000口が財産分与の対象財産になるものとしてその評価額を算定し、控訴人が被控訴人名義の出資持分について財産分与を原因として控訴人に対する名義変更を求める旨の附帯処分の申立てをしていないことを考慮して、対象財産の総額に被控訴人の寄与割合を乗じて得た金額から、被控訴人名義の出資持分の評価額を控除する方法によって最終的な財産分与額を算定するのが相当である。

同裁判例は、当該医療法人の資産形成の大元となった財産(診療所の設備など)が夫婦共有財産であり、その後も特段、法人の経営上に新しい資産の流入等がなかったことを重視しています。

そのため本件でも、上記のような医療法人の設立経緯、及び医療法人運営の状況について詳しく主張、立証を行えば、出資持分自体を財産分与の対象とすることは可能と見込まれます。

反対に、医療法人の出資者に親族以外の第三者が関与している場合や、そもそも医療法人の設立が婚姻間である場合などは、夫の出資持分を財産分与の対象とすることは困難と考えられます。

いずれにせよ、まずは設立時の経緯や、その際に拠出された財産の出自等について、可能な限り詳細に調査確認、検討する必要があります。

第2 出資持分の金銭評価について

仮に医療法人の出資持分が財産分与の対象となる場合、その金銭的な評価が問題となります。

この点につき、上記の大阪高裁の裁判例では、以下のように述べて、医療法人の純資産額の7割を財産分与の対象となる出資持分の評価額としました。

大阪高裁平成26年3月13日判決

次に、本件医療法人の出資持分の評価額を算定するに当たっては、収益還元法によって出資持分の評価額を算定し得るような証拠が提出されているわけではなく、純資産価額を考慮して評価せざるを得ない(最高裁平成22年7月判決参照)。

もっとも、医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)に基づいて設立された医療法人については、社団たる医療法人の財産の出資社員への配分については、収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する同法54条に反しない限り、基本的に当該医療法人が自律的に定めるところに委ねており、本件医療法人のように医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合においては、同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定は、出資した社員は、退職時に、当該医療法人に対し、同時点における当該法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算出される額の返還を請求することができることを規定したものと解されるところ、こうした返還請求権の行使が具体的な事実関係の下においては権利を濫用するものとして制限されることもあり得る(最高裁平成22年4月判決参照)。

また、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、当分の間、本件医療法人において医師として稼働する意思を有していることが認められ、形式上も96.66パーセントの出資持分を保有する控訴人が、現時点において本件医療法人に対して退社した上出資持分の払戻を請求するとは考えられない。さらに、将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面がある。

こうしたことを考慮すれば、本件医療法人の純資産評価額の7割相当額をもって出資持分3000口の評価額とするのが相当である。

同裁判例は、医療法人の純資産額を基準に評価すべきとしつつも、①出資金返還請求が権利の濫用となってしまう場合もあること、②夫側が医師として稼働する以上、近い将来において現実に出資の返還が実行される可能性は低いこと、③将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面があること、を理由として、財産分与の対象を純資産の7割に留めています。

同裁判例が「7割」とした理由は、必ずしも判然としません。この訴訟の中で、夫側は、減額評価の具体的な理由として、将来的な医療機器や空調機器に関する支出や従業員に対する退職金の支払い、清算所得にかかる法人税、そして解散時までの中間利息控除等を主張していますが、裁判所はこれらの点には具体的な言及を避けた上で、7割という結論のみを判断しています。

そのため、財産分与を求める妻側としては、これらの夫側の主張に対する反論(医療機器の交換は実施したばかりであること、退職金規定が存在しないこと)などに加え、夫の年齢や後継者等の有無等の具体的な事情を根拠に、解散までに純資産の変動が生じないことを具体的に主張することによって、出資持分の評価を満額に近い形まで上昇させることも可能と見込まれます。

第3 財産分与の寄与割合について

財産分与の割合については、原則として夫と妻それぞれが2分の1ずつを取得するのが原則です。

しかし、一定の特殊な事情がある場合には、上記の割合を修正し、財産形成に関して寄与した割合を変動させる場合があります。この点、上記大阪高裁の裁判例は、下記のように述べて、財産分与の割合を夫6:妻4と判断しました。

大阪高裁平成26年3月13日判決

控訴人は、被控訴人が婚姻届出後別居時までに就労して得られたであろう収入を試算し、その金額を踏まえて被控訴人の寄与割合はせいぜい3割である旨主張する。

しかしながら、民法768条3項は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与額を定めるべき旨を規定しているところ、離婚並びに婚姻に関する事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないものとされていること(憲法24条2項)に照らせば、原則として、夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが、例えば、《1》夫婦の一方が、スポーツ選手などのように、特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが、加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり、通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など、高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合、《2》高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには、そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。

そうすると、控訴人が医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや、医師の資格を有し、婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して、控訴人の寄与割合を6割、被控訴人の寄与割合を4割とすることは合理性を有するが、被控訴人も家事や育児だけでなく診療所の経理も一部担当していたことを考えると、被控訴人の寄与割合をこれ以上減ずることは、上記の両性の本質的平等に照らして許容しがたい。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。

他方、被控訴人は、被控訴人の寄与割合が5割を下ることはない旨主張する。しかし、かかる主張は、控訴人が平成4年2月3日に被控訴人との婚姻届出をするまでに、医師の資格を取得し、技能を身に付けるため、大学医学部に入学するための受験勉強、入学後の勉学、昭和61年に医師資格を取得するまでの勉学及び医師資格を取得した後のいわゆるインターンとしての厳しい勤務経験などの被控訴人の協力を得ずにしてきた努力によって培われた知識、技能、及び、婚姻後に身を粉にして必死に稼働し費やしてきた多大な労力や経験が高額の収入確保に繋がっている面があることを不当に軽視するものであって、採用することができない。

上記のように、裁判例では、現在の高収入の基礎となっている医師資格の取得について、婚姻前の資格取得であり、妻側の寄与が存在しないことを重視しているように見えます。そのため、例えば医学生や研修医の時代から交際があって資格取得、技能形成に寄与してきたと言えるような事情があれば、妻側の寄与割合が増えることも考えられます。

第4 まとめ

医師等の特殊な資格をもち、収入を得ている方を相手とする財産分与については、その特質性に応じた主張が必要です。まずは、弁護士に相談した上で、適切な対応を取ることをお勧め致します。

以上

関連事例集

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参照条文

民法第768条(財産分与)
第1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
第2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
第3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。