新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.940、2010/1/6 17:39 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族・借地権の財産分与と地主の承諾】

質問:夫は借地上に建物を所有しています。私は夫と離婚し、財産分与として借地権と借地上の建物をもらう予定です。この場合、地主の承諾は必要ですか?借地権の解除がなされることはありますか?

回答:
1.離婚に際して、財産分与(民法768条、771条)として借地権と借地上の建物を譲り受けることは可能です。借地権の譲渡に当たるので、地主の承諾は必要ですから(民法612条)、事前に地主の承諾を得ておく必要があります。
2.ただ、地主の承諾が無く財産分与されたとしても、特別な事情がある場合を除いて借地契約を解除されることはないと考えられます。その理由は、後述のように財産分与の本質、制度趣旨から導かれます。
3.なお、借地権と建物を財産分与によって取得する場合は、建物については財産分与を原因とする所有権移転登記をしておく必要があります。また、不動産の取得税が課税されます。譲り渡す側の夫については、不動産の譲渡所得税がかかりますが、居住用資産譲渡(離婚後他人となってからの譲渡に限られます)として課税されない特例もありますので、注意が必要です。
4.税金関係については、法律相談事例集キーワード検索847番参照。その他937番参照。

解説:
1.(基本的問題点)問題点は、夫の借地権と建物が財産分与の対象となるか。次に、その場合には地主の承諾を得る必要があるのか、の2点です。順次説明します。

2.(財産分与の性質)離婚に際し、一方から相手方に対して財産の分与を請求することができます。これが財産分与制度です。これは、協議離婚だけでなく、調停離婚や裁判離婚でも同じように財産分与請求できます(民法768条、771条)。財産分与制度の目的は、夫婦の財産の精算が第一ですが、離婚後の相手方の扶養を図ることも、その目的とされています。また、離婚原因を作ったものへの慰謝料的な要素を加味することも認められています。財産分与は、夫婦別産制(民法762条)の例外的な制度であり離婚に伴う夫婦の実質的平等、公平の理念(憲法24条)から認められた相手方配偶者保護の制度です。
 夫婦の財産については、現行民法は夫婦別産制がとられています。具体的には、特有財産と共有財産ということになります。特有財産とは、夫婦の一方が婚姻前から持っていた財産や婚姻中に自分の名前で取得した財産のことをいいます。共有財産には、本来的に夫婦の共有に属するものの他にいずれに属するか不明なものも共有と推定され、共有財産に含まれます。これを徹底させれば、離婚に際して特有財産はそのままで、共有財産を共有物の分割として、処理すれば済むことになり、財産分与など必要はなくなります。
 しかし、婚姻中に夫婦が形成した財産については、たとえ一方の単独名義であっても、財産の形成に名義のない一方が寄与した場合もあり、このような財産については、離婚について清算するのが公平といえます。また、共有財産についても夫婦関係の解消という見地から、扶養や慰謝料的な要素を加味してこれを分割するのが公平といえます。そこで、財産分与という特殊な財産の清算の方法を定めたのです。

3.(財産分与の手続き)財産分与に関しては、原則として、夫婦間の協議によりなされますが、協議が整わない場合には、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます(家事審判法9条1項乙類5号)。この請求は離婚してから2年以内にする必要があります。もちろん離婚の裁判を申し立てるのと同時に財産分与を申し立てることもできます(人事訴訟法32条)。かかる請求があると、裁判所は夫婦の双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、他の一方に財産の分与をさせるべきか否か並びに分与する額、方法を定めることになります。財産分与の対象としては、財産的価値のあるもの一切が対象となります。よって、金銭だけでなく不動産、動産、有価証券も対象となり、借地権のような債権(請求権)も含まれます。

4.(借地権の性質)前述のように借地権も財産分与の対象となりますが、借地権は借地契約に基づくものであり、地主と借地人の双務契約によるものであり、相互に権利義務を負担していることから、財産分与に伴う譲渡においても、地主との関係が問題となります。財産分与によって借地上の建物の名義を変更することは、借地契約においては借地権者の変更ということになり、借地権の譲渡に該当します。借地権は地上権と賃借権が考えられますが、地上権であれば、直接排他的な性質を持つ物権であって権利の譲渡は性質上自由であり(物権法定主義)、地主の承諾は問題となりません(民法265条)。
 借地権が賃借権の場合、債権の譲渡ですが(貸金債権など金銭債権のような)、単なる債権の譲渡ではなく、借地人としての借地契約上の地位の譲渡となり、他方の契約当事者である地主の承諾が必要になります(民法612条)。債権は直接、排他的な権利ではありませんが財産的権利として自由に譲渡できるのが原則ですが、賃借権は、対象物の占有について継続的関係を前提とするので、契約の内容上賃貸人の利益を特に考慮する必要があります。
 一般的に、借地契約において、借地人の借地権(賃借権)の譲渡を禁止したり、無断の譲渡を解除原因とする特約が設定されています。明文がない場合でも、賃貸借契約は継続的な契約であり、信頼関係が重要な要素となる借地契約において、承諾のない譲渡は許されません。借地契約は、借地人が地主の土地を長期にわたり継続して使用し、その対価として地代を支払う契約ですから、地主としては、信頼できる借地人とだけ契約を締結継続したいと考えるのは当然ですから、地主に借地人を選べる権利を与えていることになります。
 従って、財産分与による借地権の譲渡においても、原則どおり地主の承諾を求める必要があります。但し、地主が承諾に応じない場合には、借地権者は裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を求める手続きを利用することができます。これを借地非訟手続といいます(借地借家法19条1項、賃借権譲渡許可申立事件)。地主は、新しい借地人について承諾を拒否する権利が与えられていますが、何らの理由もなく不当に承諾をしないことまで、法律上保護する必要はありませんから、裁判所が承諾しても地主に不利益はないと判断して承諾に変わる許可を与えることが認められています。
 裁判所の許可の条件としては、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しても地主には不利とならないにもかかわらず、地主が借地権の譲渡を承諾しないという状況が必要です。本件のように財産分与によって借地上の建物の名義が夫から妻に変更されても地主に不利益が生じることは通常考えられませんので、特別な事情のない限り裁判所の代諾許可はでるものと考えられます。裁判所が代諾許可をする場合、借地条件の変更または承諾料の支払いが命ぜられることがあります。また、裁判所は、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経緯、賃借権の譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならないとされています。承諾料としては、通常土地価格の3〜5%といわれています。承諾料は、譲受人が負担するのが原則です。

5.(問題点の指摘)このように、地主の承諾を得るのが原則ですが、地主の承諾を得なかった場合、地主は借地契約を解除し、建物収去、土地明渡しを請求することができるか問題となります。というのは、譲渡の相手方が契約当事者以外の全くの第三者ではなく、借地権の実質的当事者であった夫婦の一方が譲り受け人であり、民法612条をそのまま適用していいかどうか疑問があるからです。

6.(結論)この点、借地権の譲渡とはいえ、財産分与によるものであり、借地権の実態に変化が生じていないことを理由に、借地権の解除は認められないと考えられます。財産分与は、夫婦の実質的財産権の清算であり、当事者の変更は事実上ないのですから、そもそも譲渡自体が生じていないと法的に評価できるからです。又、賃貸人は、夫婦の一方に賃貸するというより、共同生活体である夫婦双方に賃貸していると考えているのが通常ですから、財産分与が生じても賃貸人、地主の不測の損害、不利益は実際上ないと思われるからです。

7.(判例の見解)(1)東京地判昭46・5・24判時643−58においても、下記のような理由から、解除、明渡請求を否定しています。すなわち、「思うに、自然人が居住用の建物を建築する目的で土地を賃借した場合には、賃借人は、自己を含む家族の居住権を確保するために家族全員の代表者として契約したものと解するのが相当である。したがって、土地賃借人の同居の家族は、それが契約当時すでに家族という身分を有していたか、その後に家族になったかを問わず、右賃借権の存続するかぎり、賃貸人に対して、賃借権を対抗できるものと言わねばならない。そして、右の事理は賃借人死亡の場合(なかんづく遺族が内縁の妻である場合など)にもあてはまるが、賃借人が妻と離婚し、地上建物を妻に財産分与として贈与した場合にも妥当するものと考える。すなわち、同居の妻に地上建物を贈与したため土地賃借権が妻に帰属した場合には、賃借人である夫が死亡した場合と同様、土地賃借権の移転につき賃貸人の承諾がなくても、妻はその賃借権を賃貸人に対抗できるものと解する。」と判示し、家団論的な構成により、明渡請求を否定した判例もあります。

(判例2)福岡地小倉支判昭36・7・13下民集12−7−1678も同様の判断をしています。判決内容。「(1) 財産分与なるものは、その性質として、清算的性質、扶養的性質、若しくは制裁的(損害賠償的)性質などをいろいろと帯有しているものではあるけれども、現行法上その核心をなすものは、矢張り清算的性質であると考えられる。即ち、もともと夫婦の財産なるものは、その名義が夫または妻の単独である場合においても、これを実質的にみれば、共有的なものであることは疑い得ないから、その離婚に際しては、これが清算をなす必要があり、この場合夫または妻が自己の名義となつている特定の財産を、妻または夫に対して譲渡し、その名義に変更することが、とりもなおさず、財産分与なるものの中核であり、本質であるといわなければならない。この見地に立つて本件をみるに、本件土地部分に関する賃借権なるものは、なるほど木村正夫が原告らから取得したものであつて、顕在的には同人が単独の賃借権者であつたことには相違ないわけであるけれども、これを社会的乃至経済的見地からして実質的にみると、該賃借権については、同人の妻であつた被告においてもまた、その頃潜在的には若干の持分的権利を有していたものであることを、否定し得ないものと考える。
 そしてその離婚に当り、夫である木村正夫から、同人所有名義の家屋と、その敷地の一部である本件土地部分に関する賃借権とを、財産分与として贈与をうけ、取得したというのであるから、その結果として、被告の右潜在的な持分的権利が、木村の顕在的な権利を吸収して、顕在的且つ全一的な権利となり、ここに木村正夫に代つて、被告が本件土地部分に関する賃借権者として浮び上つてきたということになるわけである。
 従つて、この場合における権利者の交替は、顕在的な権利者が消失して、その後に潜在的な権利者が顕在化してきたという関係になるだけであつて、この種の事態が起り得ることは、賃貸人においても、その賃貸当初から、優に予想し得られたものであると考えられる。そうだとすると、本件における木村から被告に対する賃借権の移転は、賃借人において他の純然たる第三者に対しその賃借権を譲渡し、以て賃貸人との間における信頼関係をも破壊するに足るべき賃借人の債務不履行として構成している民法第六一二条第一項に所謂「賃借権の譲渡」には該当しないものといわなければならない。」と判示し、財産分与による借地権の移転はもはや譲渡にはあたらいとして、明渡請求を否定しています。

8.本件相談者のケースを考えますと、まず、借地権も財産分与の対象となりますので、夫から借地権および借地上の建物をもらうことはできます。そして、前述の判例などからも、財産分与により地主の承諾なく借地権を譲り受けても借地契約の解除は認められにくい傾向にありますので、地主の承諾は必要ないともいえそうです。しかし、借地契約は地主と借地人間の信頼関係を重要な要素とした継続的な契約関係でありますので、事前に地主の承諾をもらうか借地非訟手続の申立を検討するなどしたほうがよいでしょう。

≪条文参照≫

憲法
第24条  婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
○2  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

民法
(地上権の内容)
第265条  地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第612条  賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2  賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
(夫婦間における財産の帰属)
第762条  夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。 (協議上の離婚の規定の準用)
(財産分与)
第768条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。第771条  第七百六十六条から第七百六十九条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。

借地借家法
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第十九条  借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
2  裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3  第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
4  前項の申立ては、第一項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。
5  第三項の裁判があった後は、第一項又は第三項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。
6  裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項又は第三項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。
7  前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第三項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。
家事審判法
第9条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
乙類
五 民法第七百六十八条第二項 (同法第七百四十九条 及び第七百七十一条 において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与に関する処分

人事訴訟法
第二節 附帯処分等
(附帯処分についての裁判等)
第三十二条  裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は標準報酬等の按分割合に関する処分(厚生年金保険法 (昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項 、国家公務員共済組合法 (昭和三十三年法律第百二十八号)第九十三条の五第二項 (私立学校教職員共済法 (昭和二十八年法律第二百四十五号)第二十五条 において準用する場合を含む。)又は地方公務員等共済組合法 (昭和三十七年法律第百五十二号)第百五条第二項 の規定による処分をいう。)(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
2  前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

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