新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1811、2018/03/30 17:13 https://www.shinginza.com/rikon/qa-rikon-zaisanbunyo.htm

【家事、親族法、離婚、財産分与額判断の基準時、最判昭和34年2月19日民集13巻2号174頁】

別居後時間が経過している場合の清算的財産分与



質問:
 私は,今から14年前に結婚したのですが,夫とは性格が全く合いませんでした。ただ,そのときは子供が小さかったこともあり,私が子供を連れて家を出る形で,4年前に別居をしました(特に不動産を持っているわけではなく,夫婦いずれの住んでいるところも賃貸物件です)。結婚前から現在まで,私が働いていることもあり,養育費はもらっていません。子供も高校生になったので,そろそろ離婚をしたいと考えています。
 そこで,離婚をした際の財産分与の内容について,教えてください。夫は,2年前に定年退職したのですが,その退職金も対象になるのでしょうか。そもそも,いつの時点の財産が分与の対象になるのでしょうか。



回答:
 ご相談のケースでいう「財産分与」とは,夫婦の協力によって築いた財産を,離婚するに伴って清算する,という「清算的財産分与」を指している者だと思います。
 清算的財産分与の場合,特別な事情がない限り,たとえ夫婦で(多少の)収入格差があろうとも,その割合(分割割合)を2分の1として考えるのが原則です。
 割合自体はあまり解釈の余地がないところですが,本件のように別居から離婚に至る場合の清算的財産分与においては,@いつの時点の財産を財産分与の対象財産とするか,A(@の結論を前提として)別居後から離婚(実際に財産分与をする時点)までに財産が変動した場合(特に減っていた場合)どうするか,B結婚前の預貯金の取り扱い,C退職金の取り扱い等が問題になり得ます。
 下記解説で詳述しますが,@少なくとも預貯金等については,清算的財産分与の趣旨から別居時を基準として分与対象財産を決める,A別居時を基準とする以上,仮に財産が減っていた場合であってもさかのぼって計算することになるが,いわゆる「婚姻費用」として認められるような学費等の支出による減少は考慮される可能性がある,B結婚前の預貯金については,結婚前に形成した財産が分与の対象とならないことを前提として,夫婦の収入等の入金や生活費の出金等が多くある場合には,当該口座全体が分与の対象となる,C退職金についても,既払い、未払いいずれも基本的には分与の対象となる,というのが原則です。しかし,各問題点については下記解説のとおり例外もありますし,事案によって判断が分かれるところです。
 実際に離婚及び財産分与を進める場合,本格的に話し合い(離婚協議)を始めるに確保しておくべき資料等もありますし,自分で離婚に向けた話し合いをする前に,弁護士に相談されることをお勧めします。

なお,本ホームページ事例集1632番1509番1129番940番781番625番535番518番497番268番等も併せてご参照下さい。


解説:

1 はじめに(財産分与一般)

 (1) 離婚する際に,夫婦の財産を分配する法律上の根拠として,民法768条に定めがある,「財産分与」が考えられます。
   この財産分与の具体的な内容について,上記768条では特に明確には定められておらず,解釈にゆだねられているところではありますが,これまでの裁判所の運用等により,おおよその考え方・分け方についての方針は定まっています。

 (2) まず,財産分与といっても,大きく分けて3つの性質を含み,それぞれ@清算的財産分与,A慰謝料的財産分与,B扶養的財産分与と呼ばれています。

   このうち,@清算的財産分与とは,夫婦の共有に属する(と推定される)財産(民法762条2項)を,離婚に際して「清算」するための財産の移動(分与)をいい,A慰謝料的財産分与とは,いわゆる不法行為(民法709条)によって生じた精神的苦痛に対する損害賠償金(慰謝料)を「財産分与」との名目でおこなう(あるいは上記@清算的財産分与と併せておこなう)もので,B扶養的財産分与は,上記@(及びA)に加えて,離婚後の扶養(生活費の援助)を目的とする金銭の移動を趣旨とするものです。

   これらの財産分与の性質によって,検討するべき問題も変わるのですが,本件の事情の限り,A慰謝料的財産分与やB扶養的財産分与はない事案ですので,本稿では,@清算的財産分与に絞って説明をいたします(そもそも,A慰謝料的財産分与は,別途慰謝料請求が可能であること,B扶養的財産分与は就業できないほどの重い病気等があること等が必要なので,ケースとしては特殊であり,@清算的財産分与がいわゆる「財産分与」の原則的な形といえます)。

 (3) 清算的財産分与における基本的な問題として,双方どのような割合で双方の財産を「清算」するか,という問題があります。この点については,たとえ収入を得ているのが配偶者の一方のみであっても(「専業主婦」等の場合),原則として2分の1ずつ,という裁判例・運用になっています。これは,夫婦で「協力」した財産を分ける,という清算的財産分与の趣旨を前提として,その「協力」の内容は基本的に問わない(夫婦の関係において,各々の行動が財産の形成にどのような寄与があるかは不明である以上,判断しない)という考え方によるものです。

   例外的に,配偶者の一方が巨額の資産を得ていて,その原因が完全にその者の才覚による等の事情がある場合には,2分の1から調整されることがありますが,稀なケースです。

 (4) 以上を前提として,本件の具体的な問題点(争点)について,説明していきます。なお,本稿で挙げない清算的財産分与の問題点として,分割の具体的な内容,特に自宅などの不動産が絡む場合「1つ(1戸)の自宅をどのように分けるか」というものがありますが,本稿では割愛します。

2 本件における財産分与の争点

 (1) 財産分与の基準時

   まず,実際に財産分与をする上で問題になり得るのは,「いつの時点の財産を分与の対象とするか」という基準時です。

   特に,本件のように@別居時とA離婚時が別の日である場合は迷うところですし,また仮に今後離婚に関する訴訟する場合には,B訴訟における主張等の最終日(口頭弁論終結時)のいずれを基準時とするのか,という問題が生じるところです。

   この点について,財産分与について定めた民法768条(同771条により裁判上の離婚も同様)は,家庭裁判所が「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮」する旨定めるのみで,特に基準時について定めをおいていません。

   ただし,そもそも上記のとおり清算的財産分与の趣旨である,「夫婦で協力した財産を分ける」という目的からすると,別居後に形成された財産は,通常「夫婦の協力」はないため,清算的財産分与の基準時は,原則として@別居時である,と考えるのが現在の実務です。

 (2) 別居中の預貯金の増減

   上記の@別居時を基準時とする考え方を採用するとしても,いかなる場合も別居時にさかのぼって判断されるのか,という問題があります。これも,特に本件のように,別居後から離婚まである程度時間経過がある(本 件だと4年)場合には問題になります。

   この点について,最高裁は,民法768条3項の解釈として「一切の事情とは当該訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解する」として,B財産分与に関する判断を含む離婚訴訟の口頭弁論終結時を基準時とすることも違法ではない,と判示しています(下記参考裁判例参照)。

   この最高裁判例は,単純にA離婚時あるいはB離婚訴訟の口頭弁論終結時を財産分与の基準時したものではなく,財産分与は,各事情を考慮する必要性が大きい(からこそ民法768条3項が裁量の余地を認めている)ので,口頭弁論終結時を基準時とすることもできる,と判示したものだ(上記別居時を基準とすることも当該最高裁判例に抵触しない)と考えられています。

   これを踏まえて,まず,財産の種類として,不動産や株式等,値段の変動が夫婦の協力に無関係に生じるものについては,上記別居時基準説をとる理由がないため,別居時ではなく離婚時あるいは口頭弁論終結時を基準とすることもあり得るところです(実際の裁判所の運用においては,当事者の合意のもと,これらの財産について別居時を基準とすることもあります)。

   他方で,預貯金等については,まさに夫婦の協力によって形成され,かつ別居後の財産の変動は「夫婦の協力」によるものではないことから,基本的には別居時が基準となる典型的な財産です。

   したがって,ある預金口座の残高が,別居時500万円,離婚時(あるいは訴訟の口頭弁論終結時)に1000万円であった場合,分与の対象となるのは,500万円のみ,ということになりますし,別居時500万円,離婚時に250万円であれば,基本的に分与の対象は500万円です。

   ただし,そもそも別居時を基準時としているのは,上記のとおり別居後の財産の変動は「夫婦の協力」によるものではないことを理由とするものですから,いかなる場合でも別居時という訳ではなく,例えば(別居中に婚姻費用をもらっているわけではないケースで)子どもの学費等を支払ったことによって預金額が減った,というような場合には,そもそも子どもの学費等は,基本的に夫婦で負担するものであることから,「夫婦の協力」による財産の変動(減少)として,離婚時の残高を分与の対象となる主張も認められる余地があるところです。

 (3) 婚姻前からの預貯金

   預貯金の財産分与においてもう一つ問題になるのが,婚姻前からの所持していた預貯金です。上記の清算的財産分与の趣旨(及び民法768条3項の解釈)からすると,原則として,(清算的)財産分与の対象は「婚姻から別居までの夫婦生活によって形成された財産」となります。

   そのため,婚姻前から配偶者の一方が有していた財産については分与対象になりません。例えば,婚姻前に自ら購入した不動産や自動車等は財産分与の対象にならない,ということになります。

   この考え方については,不動産や自動車等であれば分かりやすいのですが,預貯金の場合若干検討が必要です。

   例えば,婚姻時の残高(婚姻前までの残高)300万円の預金口座があった場合,そのまま当該口座に動きがないまま別居を迎えた場合は,上記のとおり財産分与の対象とはなりません(「特有財産」といいます)。

   もっとも,その口座を給与の振込口座にしたり,生活費の引き落とし口座にしたり等で婚姻後も使い続けた場合(出入金をしていた場合)には,仮に別居時の残高が300万円のままであっても,「婚姻時の金銭」ではなく,まさに分与の対象となる財産(「共有財産」といいます)に当たる,とも考えられるところです。

   また,例えば@婚姻時残高が300万円で,婚姻期間中に1回200万円を入金した結果,別居時残高が500万円であった場合には,単純に300万円が特有財産で,残りの200万円が共有財産になる可能性が高いと考えられますが,上記のようにAある程度頻繁に出し入れをした結果の残高ということであれば,単純に「別居時残高−婚姻時残高」が共有財産として分与の対象となるわけではないことになります。

   どの程度の出入金があれば婚姻時のお金が入った預金も共有財産として分与の対象となるか,は程度の問題ですし事案によっても異なるところです(上記Aの例で全額共有財産になるか,当該残高への貢献・寄与があるとして,当該預金口座の分割の割合を2分の1から変更するかについても,金額や事情によって変わります)が,婚姻期間が長期期間に及び,なおかつ出入金が頻繁で,入金される金銭が給与等のまさに「夫婦の協力」の結果生じるもの,ということであれば,全額共有財産として取り扱われる傾向にあるところです。

 (4) 別居中の退職金

   また本件では,別居後,離婚前に相手方(夫)が退職しているため,退職金を分与の対象とするか,という問題もあります。この点について,前提として退職金は,一般的には日々の労働の対価のまとめ払いという性格があることから,基本的には「夫婦の協力」によるものとして,分与の対象となる,と考えられています。そして,退職金の支給が確実であるといえる場合には,将来給付される退職金も分与の対象となる,というのが現在の裁判例と実務です。

   本件においては,別居時点では退職金が支給されていない一方で,離婚時点では実際に退職金を取得しているため,若干複雑です。明確な裁判例はありませんので,私見ではありますが,上記前提からすると,「(支給が確実な)将来の退職金」として,分与の対象としたうえで,別居時点での退職金額あるいは実際の退職金額×(同居期間÷在職期間)を分与対象額とする,という考えが合理的かと思われます。

   具体的な計算根拠等については,ホームページ事例集1129番もご参照ください。

3 本件についてのまとめ(具体的な対応)

 (1) 以上を前提として,本件についての具体的な対応ですが,まず準備として,@相手方(夫)の財産分与の対象になりそうな財産のあたりを付ける,ということがあります。下記のとおり,話し合いで決着がつくにしても,調停や裁判等に移行するにしても,相手方の財産を強制的に調査するのはなかなか難しいところです。裁判所がある程度強制的に調査する方法として,調査嘱託という手続きもありますが,例えば預貯金口座について調査する場合には,銀行と支店名までこちらで特定する必要があるため,万能ではありません。そのため,本格的に離婚の話をする前に,郵便物等や相手方との話から,ある程度財産の「あたり」を付けておく方が良いです。

   他の準備としては,A自分の財産分与の対象となるであろう財産も挙げてみて,具体的な財産分与の金額の想定をする,ということも挙げられます(特に,現在働いておらず,離婚による経済状況の変化によって将来に不安があるケースでは必須です)。ただし,上記のような問題を多く含むため,弁護士に相談して計算してもらうほうが良いと思われます。加えて,B上記財産分与の考え方から,例えば別居後に支出した学費等についての資料等については,保管・整理しておく必要があります。

 (2) 以上の準備を踏まえて,C離婚の交渉をする,ということになります。時間的・経済的な観点から,まずは調停等の法的手続を採らず,話し合いを試みて,難しいようであればD調停,E離婚訴訟,という流れになります。

   本件においては,別居期間がある程度あるので,相手方が拒否をしても離婚が認められる可能性が高いですが,いわゆる離婚事由が乏しい場合には,事前の話し合いでどこまで離婚についての合意を取り付けることができるかがポイントですし,仮に親権等で争いになる可能性が高いのであれば,そちらについての事前準備も必要です。

   離婚は,事前の準備や進め方について,注意点が多々ありますし,紙幅の関係から本稿に記載していない財産分与の問題(例えば保険金の帰趨等)もあるため,本格的な話し合いをする前の段階で,弁護士に相談されることをお勧めします。


【参照条文】
民法
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(夫婦間における財産の帰属)
第762条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
(財産分与)
第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
(協議上の離婚の規定の準用)
第771条 第766条から第769条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。

【参照判例】
参考裁判例 最判昭和34年2月19日民集13巻2号174頁
「民法七七一条によつて裁判上の離婚に準用される同法七六八条三項は当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して、財産分与の額及び方法を定めると規定しているのであつて、右にいう一切の事情とは当該訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解するを相当とするから、原判決が最終口頭弁論当時における、所論のいわゆる判決言渡期日現在の上告人の財産状態を斟酌して判示財産の分与を命じたからといつて、そこに所論の違法ありというを得ず。」



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