No.1843|少年事件について

特殊詐欺における事情を知らなかった受け子の罪責|少年事件

刑事・少年事件|未成年による特殊詐欺事案の処分の見通しおよび具体的な弁護活動|少年院送致の回避可能性

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

私の息子は、現在17歳の高校生です。ある日、少し自宅から遠い警察署から、私の息子が逮捕された、という連絡がありました。いわゆる、「オレオレ詐欺」をして、高齢者からお金を受け取って立ち去ろうとしたところを逮捕されたとのことです。

ただ、警察がいうには、息子は、「自分は詐欺なんて聞いていなかった。単なるバイトだと思っていた。」と言っているようです。確かに、息子はこれまで警察に捕まったこともありませんし、学校にも比較的しっかり通っています。

私の息子はどうなってしまうのでしょうか。どうすればよいのか教えてください。

回答

1 近年、オレオレ詐欺(特殊詐欺)の「受け子」として何も知らない未成年者が利用されるケースが増えています。この場合、「受け子」は詐欺の全容や被害金額、被害者及び共犯者達の素性も知らされておらず、簡単なアルバイトとして関与させられる、ということもあります(本件もそういったケースの可能性が高いところです)。

もっとも、詐欺の全容を知らなかったとしても、直ちにご子息に詐欺の成立が否定されるわけではありません。むしろ、裁判例等を見ると、そういったケースでも、いくつかの事情があった場合には、「未必の故意」(詐欺である可能性の認識とその認容)があるとして、詐欺罪の(共同正犯の)成立を認めています。この点は少年事件といえども同様です。そのため、早急にご子息と接見して、その見通しを吟味する必要があります。

2 本件のような特殊詐欺は、軽い罪ではなく、過去に補導歴や処分歴がなくても、いきなり少年院送致の判断がなされてしまうこともあるため、認められる可能性が低いにもかかわらず否認(詐欺とは知らずにお金を受け取ったとの主張を)していることは、最悪の結果につながりかねません。

また、本件の場合、後述のとおり身体拘束の期間も長くなる傾向にあります。と言っても2か月はない(通常23日間+4週間)ので、それまでに少年院を回避することができるだけの「要保護性の不存在」を説得的に主張する必要があります。

3 後述のとおり、成人の刑事事件とは異なるタイミングで、異なる人に対して有利な事情を主張していく必要があります。示談についても、単にすればよい、というものではありません(そもそも、本件におけるご子息の主張と事情によって、示談をするべきか、するとしてその内容をどうするか、についても事情によって検討が必要です)。

いずれにしても、現状のままであれば、少年院送致の可能性も全く否定できません。逮捕直後である現時点から、少年事件の経験のある弁護士に依頼して、速やかに対応を始めることが必要です。

4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 はじめに

いわゆる「オレオレ詐欺」等の特殊詐欺という類型の犯罪においては、電話を架けて被害者を騙す「架け子」、騙された高齢者からお金を受け取る「受け子」(「振り込め詐欺」の場合はATMから出金するので「出し子」)、この詐欺グループの統括をする「番頭」等、いくつかの役割に分かれて犯罪を実行するのが特徴の一つです(ほかにも、電話を架ける相手のリストを提供する者や、携帯電話を用意する者等もいます)。

このうち「受け子」は、直接被害者と接触することになるので、最も摘発の危険性が高く、その性質から、「番頭」らとつながりのない未成年者が担うことが多いところです。摘発された場合、この「受け子」をトカゲのしっぽのように切り離すことで、上の摘発を回避する、ということです。

そのため、「受け子」は、詐欺の全容を聞かされておらず、また他の役割の者の素性も当然知らない、というケースも散見されます。その場合、例えば「割のいいバイト」といった誘い文句で勧誘されることも多いようです。

詳しい事情を確認する必要はありますが、本件におけるご子息も、このパターンでの関与もあり得るという印象です。

ただ、詐欺事件とは知らずただお金を受け取ったとしても、詐欺の加害者ではなく、無罪であるということにはなりません。後述のとおり、ご子息に対して、詐欺罪の成立を否定するためには、高いハードルがあります。

また、この特殊詐欺そのものは、①そもそも詐欺罪という罪が比較的重い罪であること、②性質上、被害金額が大きくなりがちであること等から、犯罪が成立すると仮に初犯であっても、少年院送致といった重い処分も十分考えられる犯罪類型です。

そのため、以下では、関与の薄い「受け子」について、どのような場合に詐欺罪が成立するのか、を説明した上で、本件の具体的な活動を流れに沿ってご説明していきます。

2 「事情」を知らない受け子の罪責

(1) 詐欺罪の(共同正犯の)成立要件

本件のように、財物を得る形の詐欺罪は、刑法246条1項に規定があります(これを「1項詐欺」といいます)。

この詐欺罪の要件は、①相手方(被害者に当たる人)を錯誤に陥らせて、財物を処分させるような行為をすること(「欺罔行為」)、②その結果相手方が錯誤に陥ること、③錯誤に陥った相手方が、その意思に基づいて財産を処分すること、④その結果財物の占有が行為者や第三者に移転すること、⑤①から④の間に因果関係があること、⑥行為者に行為時において詐欺の故意があること(故意には、積極的に結果を意図していないが、自分の行為から結果が生じるかもしれないが構わない、という心理状態である「未必の故意」を含みます)、とされています。その他⑦不法領得の意思があること、も要件ですが、本件のような現金を対象とした場合、あまり問題にはならないので割愛します)。

さらに、本件のように、役割ごとに複数人が関与している場合(上記のとおり、特殊詐欺においては、欺罔行為だけする人、欺罔行為はしないがお金を受け取る人等に分かれる)には、その全員に対して詐欺罪を成立させるためには、共同正犯(刑法60条)の成立が必要です。

共同正犯の要件は、⑧共同意思と⑨共同実行、とされています。⑨共同実行とは、相互に相手の行為を利用し合う関係があることで、⑧共同意思とは、共同実行をする、という意思を意味します(共同意思という合意を形成することを「共謀」といい、共謀は明示的なものでも黙示的なものでもよく、行為の前に共謀がある必要もない、と考えられています)。

また、「欺罔行為が終わった後で、受け子として参加した者についても、詐欺罪に問うことが出来るか」という点も、本件のような特殊詐欺の場合によく生じる問題なのですが、「共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与」した場合には、全体の責任を負う、と判示した最高裁判例があります(参考判例①)。

(2) 「事情」を知らない受け子について

以上を前提として、本件ですが、仮に「単に割のいいアルバイトであった、と聞かされていただけ」という場合、上記⑥詐欺の故意と⑧共同意思(を作る共謀)がないのではないか、という疑問が生じるところです。

具体的には、何も知らされず、単に電話等で指示を受け、その通りに行動(本件では金銭の受領)していた場合は、⑥当該行動が「詐欺である」という認識に欠けるのではないか、また⑧電話で指示をする側と「受け子」との関係が希薄である場合、「詐欺をする」という共同実行の意思の形成(共謀)もないのではないか、ということになります。

ただし、⑥詐欺の故意がある、ということは、自らの役割を果たす意思がある、ということになるため、⑧共謀も認められるのが、通常の流れです(指示を出している者は、元々「詐欺の共同実行」を意図して指示を出しているため、受け子側に詐欺の故意が生じれば、双方に共同意思が生じる、ということになります)。

(3) 裁判例と具体的な認定のポイント

上記のとおり、特殊詐欺において、あまり事情を知らない受け子を利用するケースが多く出てきているため、これらの点(詐欺の故意と共謀の否定)について判断した裁判例も比較的存在していますが、裁判例は厳しい判断をしているものが多い印象です。下記裁判例②ないし④は、いずれも詐欺の故意(ないし共謀)について否認していますが、全て認定されてしまっています。

これらの裁判例を見ると、①「荷物を受け取る」アルバイトとしては不自然なほど高額である、②偽名を用いることを指示されている、③スーツを着るように支持される、④荷物を受け取る相手が高齢者である、⑤受け取る荷物が金銭であることが(外形上、あるいは会話から)分かる、⑥周囲を警戒するように指示される、⑦発覚後、逃走を図る、といった事実を根拠として、詐欺の故意(特殊詐欺である可能性の認識)を認めているようです。

逆に、これらの事情が無いようなケースについては、主張が通る可能性も出てくる、ということになります。

3 処分の見通しと具体的な対応

(1) 処分までの流れと、予想される処分の見通し

ア 少年事件の流れ

まず、本件のような少年事件の流れについてその概略を説明していきます。

事件を起こして逮捕されると、通常48時間以内に警察から検察に身柄が送致され、検察官が24時間以内(逮捕から72時間以内)に、勾留を請求するかどうか決定します。検察官から勾留請求がなされると、裁判所は勾留するべきかどうか判断し、勾留決定を出す事になります。

勾留の期間は最大20日間で、ここまでは一般成人の刑事事件と変わりはありません。この勾留期間の間に、検察官は事件の捜査をして、家庭裁判所に事件を送ることになります。なお、少年事件の場合は、犯罪の嫌疑がある限り必ず家庭裁判所に事件を送ることになっています(全件送致主義、少年法41条、42条)。

家庭裁判所に送られた後の身柄拘束は、勾留ではなく、観護措置という方法により行われます(少年法17条)。

観護措置の期間は、法律上は原則2週間、最大8週間となっています(少年法17条3項、4項、9項)が、通常の少年事件では、4週間の観護措置が採られることが通常です。本件のような特殊詐欺事件についても、その罪の重さから観護措置の1度の延長がなされるのが基本的な流れです。

このように、逮捕から勾留、そして観護措置、という流れで身体拘束について手続が定められています。逮捕後から観護措置までの期間を合計して、最大23日プラス4週間の身体拘束が考えられる、ということになります。この流れについては、こちらに詳細がございます。

上記は、あくまでも最長の身体拘束を受ける、ということを前提としておりますが、本件については、共犯者が多数いること(かつ、いまだ検挙されていない可能性があること)、犯罪の成立を否定している(場合がある)こと、類型として軽微な罪ではないこと等の事情から、上記最長の身体拘束を受けることは、十分にあり得るところですし、これを想定して活動をしていく必要があります。

イ 少年審判

上記4週間の観護措置の終わりに、少年審判が開かれ、そこで処遇が決まります。この審判は、成人事件における裁判(公判)に該当するものですが、裁判所が主導して事件の調査等をおこない、審判の前に裁判官が証拠の吟味をおこなっていること、非公開で行われ(少年法22条2項)、その日の内に処分の結果が出ること等に成人事件との大きな違いがあります。

そして、上記の「裁判所の主導する事件の調査」が、調査官による調査です。

調査官とは、裁判所が主導して事件の調査等をおこなうために設置された裁判所の職員です(少年法8条2項)。調査官の調査は、「少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行う」ことになっていて、その調査対象は多岐に及びます。

また、調査官は、審判に先立ってその調査の結果を家庭裁判所に報告する必要があり、その中には処遇(処分)についての調査官の意見が含まれています(少年審判規則13条)。

実務上は、この調査官の意見が極めて重要で、審判をおこなう裁判所もこの調査官の意見にかなり影響されます(調査官の処分に関する意見と、裁判所の最終的な処分が大きくずれることはほとんどない、というのが経験則です)。

そのため、審判当日ではなく、具体的には調査官が処分に関する意見を出すまでの活動が極めて重要になります。

ただし、調査官の調査は、あくまでも上記の範囲に限られるため、本件における「詐欺の故意や共謀」の存否(非行事実の存否)については調査できません(判断をするのは裁判官、ということになります)。

他方で、そのまま審判を迎えてしまうと、「否認している以上、反省していない」という調査結果や、そもそも調査が十分にできない、という調査結果になってしまう可能性があります。

そのため、非行事実に争いがある場合は、調査官調査の途中で(最終審判の前に)、非行事実について判断するための審判期日を入れる、という対応も考えられるところです。

ウ 保護処分の内容

さて、処分の内容ですが、成人事件と少年事件では、その処分の内容が決定的に異なります。少年事件の場合、上記の保護主義という目的の下、刑罰ではなく教育を主眼においた処分(保護処分)がなされることになっています。

具体的な処分ですが、保護処分は①保護観察所の指導を受けながら社会の中で更生を図る保護観察、②主に家庭環境に問題がある場合等の児童自立支援施設等への送致、③少年院送致の3つ(少年法24条)に分かれており、このほかに、④そもそも保護処分が必要でないという不処分、⑤保護処分に付するかどうか一定期間の観察をおこなう中間処分である試験観察(少年法25条)、重大事件の場合に成人事件と同じように処分するための検察官送致(少年法20条)が家庭裁判所による処分として考えられるところです。

本件では、その被害金額を含む詳細が不明ではありますが、特殊詐欺の場合、少年院送致か(試験観察を含む)保護観察か微妙なところ、という印象です。

例えば、下記の参考裁判例③は、家庭裁判所で少年院送致相当とされたものの抗告審で少年院送致は重すぎるとされている一方で、参考裁判例②及び④は、抗告審においても、少年院送致相当、という判断がなされています。

上記のとおり、少年事件の処遇については、成人の事件と比べて個別の事情による影響が強く、また犯罪自体の性質(被害金額等)だけではなく、「要保護性」が重要な判断要素となります。

これは、少年法の目的である保護主義に基づいて、①少年の性格・環境に照らして、再度の非行(犯罪)をおこなう危険性があるか、②上記の保護処分によって、矯正(再非行の危険性の除去)できるかどうか、③少年の更生に関して、保護処分によることが最も適切であるかどうか、という要素を処分に際しての判断基準とするもので、①再非行の危険性がある、②処分をすることで矯正が可能である、③矯正を考えた際に、保護処分によることが最も適切である、と判断された場合は、「要保護性」がある、として保護処分が妥当する、という考え方です。

つまり、本件において少年院送致を回避するためには、「要保護性」の程度が、少年院による矯正が必要な程度までは存在しない、と主張していくことになります。

エ 要保護性の判断

具体的な判断の要素(要保護性等を判断している事実)ですが、例えば、参考裁判例②は、詐欺が未遂に終わっており、また少年に処分歴・補導歴がないにもかかわらず、いきなり少年院送致が相当、という判断になっています。

この参考裁判例②を見ると、詐欺自体の悪質性・重大性(及びこのような行為に及んだ、少年の規範意識の希薄化)、鑑別によって明らかになった、少年の性質(「自尊感情が低く、困難や問題に直面すると、投げやりな態度をとったり、楽で気ままな方へと流れたりしやすいこと、思考が独善的で、視野が狭いことに加え、物事を自分の都合の良いように受け止めたり、被害的に受け止めたりしやすいこと」)、一貫して犯行を否認していること、保護者らの監護の下で生活することが期待しがたいこと、を総合的に考慮して、少年院相当、と判断しているようです。

参考裁判例④でも、同種の別件で保護観察中の行為であったことに加えて、事案の悪質性・重大性、故意を否認していること、鑑別によって明らかになった少年の性質(「物事を楽観的に軽くとらえがちなところや、自分の弱い部分は隠し、表面を取り繕おうとしがちな性格、不良な先輩からの誘いに十分な危機意識を持てなかったこと」)、家庭の監督力の弱さ、が指摘されています。

反対に、少年院送致という処分が重きに失する、とした参考裁判例③では、特殊詐欺自体の悪質性・重大性は前提としながらも、すぐに逮捕され、被害金が返還されていることから実質的に未遂に近いものであったこと、少年が自宅で母親と生活しており、高校に通っていること、事件への関与が薄いこと(グループの末端であったこと)、普段の生活態度等から非行性はそこまで(少年院送致が相当であるといえるまで)進行していないこと、母親の指導力に大きな問題は認められないこと、等を挙げています。

なお、ここで、「詐欺の故意を否定していること」がどの程度の影響を有するか、という点ですが、確かに、上記のとおり参考判例②及び④でも、「詐欺の故意は認められるにもかかわらず、詐欺の故意を否定しているのは、反省が深まっていないことを示す」というロジックで、いわゆる悪情状として、否認していることが用いられています。

ただし、参考裁判例③では、「少年が故意を否認するなど本件非行について内省が深まっていない面があることは否定できない」としながらも、「一定程度反省の態度を示していることなどから見ても、このような資質・性格上の問題点が深刻なものであるとまではうかがわれない」と判示しています。この判示からは「一定程度」の「反省の態度」が重要だということが分かります。

(2) 本件における具体的な主張と活動

以上を踏まえた、具体的な主張・活動の流れですが、まずはできる限り早期に(捜査機関からの取り調べにより事実関係を固められてしまう前に)ご子息と面会をして、事情を聞く必要があります。その際には、上記の判断要素に照らして、詐欺の故意(ないし共謀)の否認ができるか(認められるか)という観点からの検討も必要です。

ただし、仮に未必の故意すらないといえるような場合であっても、上記の裁判例等を踏まえれば、「一定程度の反省」は必須です。具体的には、「安易に本件に関与したこと」等についての反省、ということになろうかと思います。具体的な内容については、個別の判断(かつ、裁判所の心証に沿った判断)が必要です。

その後は大きく分けて、①身柄の早期解放と②少年院送致の回避、を目的とする活動をすることになります。そして、上記のとおり、本件においては、勾留及び観護措置を採られてしまう可能性が高いため、本稿では少年院送致の回避について説明していきます(身柄解放については、本ホームページ事例集『少年事件における逮捕と身柄解放手続』『未成年の痴漢事件』をご参照ください)。

ア 家庭環境の調整

上記各参考裁判例において挙げられている、処分に影響した(と考えられる)事項のうち、逮捕後に対応が可能な重要なものとして、家庭環境の調整があります。環境調整とは、狭い意味では、家庭環境等の改善、広い意味では少年が非行に至った原因を調査し、その原因を除去することを指します。

例えば、家庭環境に原因があって、その原因が除去されるのであれば、①再非行に及ぶ可能性はなく、③処分をすることなく、家庭内で更生をすることが可能だ、という主張ができることになります。

原因が少年本人を含む家族で共有されていて、その原因が努力によって除去された(あるいは除去に向かって家族で一丸となって努力している)、という主張は、調査官が処分に関する意見を書くにあたって最も反映されやすい、有利に斟酌されやすい主張です(これと、「本人の反省」については、犯罪事実の重さ等と異なり、逮捕後の事情であるため、改善と修正ができる、ということもあります)。そのため、早い段階で、家族で話し合い、事件の本質的な原因を探る必要があります。

一番まずいのは、原因が分からないまま審判を迎えてしまうことです。そうなると、(当然個別の事情はあれど)参考裁判例④のように「家庭での監督に加え、保護観察の枠組の中でも、少年が、安定した仕事につけず、本件に至ったことを見れば、家庭の監督力の弱さは明らかであって在宅での監護では限界がある」と判示されてしまう、ということになります。このあたりの心証については、随時調査官と協議をすることで把握しておく必要があります。

イ 示談交渉

もう1点、本件における活動として、示談交渉が考えられるところです。確かに、成人の刑事事件と異なり、被害者の損害の補てんがそのまま処分の軽減にはつながり辛い、ということはあります。

ただし、示談を通じた被害者への謝罪(さらには、被害者からの許しを得るというプロセス)や、損害の大きさ、罪の重さの自覚から反省の度合いを深めたといった事情とつなげていくことで、示談を「要保護性」の除去という面から主張することで、処分の軽減につながる有利な事情とすることができます(正直な印象として、やはり裁判官は示談の有無・成否を少年事件の場合も考慮しているようです)。

また、本件の場合は、詐欺の故意及び共謀を否定する、否認事件になる可能性があるため、どのタイミングで、いかなる内容の示談を目指すか、という点については、検討が必要です(こちらについては、上記のとおり非行事実の存否について調査官は判断しないため、担当裁判官との協議が必要ということになります)。

ウ 小括

上記のような環境調整や示談の進捗・結果は、要保護性に関連させた意見を付してできるだけ早く裁判所に提出する必要があります。これは、上記のとおり、調査官の処分に関する意見が出る前に提出しなければ、調査官の意見に反映されず、結果的にあまり審判に影響しない、ということになりかねないためです。

環境調整や示談は時間がかかるものですから、予めその進捗状況や見込みなどを随時調査官に報告した上で、処分の意見に関して調査官と面談・交渉をおこない、調査官(あるいは裁判官)を説得する、という活動が少年事件では不可欠です。

特に、本件のように示談交渉の開始時期が遅れる可能性がある場合は、示談の成立が審判の直前等になることも考えられるため、事前の情報共有の必要性は高まります。

3 総括

以上のとおり、本件はまず早急にご子息から事情を確認し、法的観点から検討を加える必要があります。主張の内容が不明ではあるものの、併せて環境調整を考えるほかや示談交渉の開始も検討する必要があります。

また、本稿では割愛していますが、ご子息が通っている高校に情報が漏れないようにしたり、漏れた場合であっても退学処分を避けたりする必要も出てきます(通える学校や職場を用意することも環境調整の一つです)。

加えて、上記各身体拘束手続の中で、(可能性は高くはないとはいえ)身柄開放に向けた活動も必要になります。逮捕直後である今の段階で、経験のある弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文

刑法

(共同正犯)
第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

少年法

(この法律の目的)
第一条 この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

(事件の調査)
第八条 家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。
2 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に命じて、少年、保護者又は参考人の取調その他の必要な調査を行わせることができる。

(調査の方針)
第九条 前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。

(観護の措置)
第十七条 家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一 家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二 少年鑑別所に送致すること。
2 同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。
3 第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。
4 前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に二回を限度として、行うことができる。
5 第三項ただし書の規定にかかわらず、検察官から再び送致を受けた事件が先に第一項第二号の措置がとられ、又は勾留状が発せられた事件であるときは、収容の期間は、これを更新することができない。
6 裁判官が第四十三条第一項の請求により、第一項第一号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第一号の措置とみなす。
7 裁判官が第四十三条第一項の請求により第一項第二号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第二号の措置とみなす。この場合には、第三項の期間は、家庭裁判所が事件の送致を受けた日から、これを起算する。
8 観護の措置は、決定をもつて、これを取り消し、又は変更することができる。
9 第一項第二号の措置については、収容の期間は、通じて八週間を超えることができない。ただし、その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる決定を行うときは、第四項ただし書に規定する事由がなければならない。
10 裁判長は、急速を要する場合には、第一項及び第八項の処分をし、又は合議体の構成員にこれをさせることができる。

(審判の方式)
第二十二条 審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。
2 審判は、これを公開しない。
3 審判の指揮は、裁判長が行う。

(審判開始後保護処分に付しない場合)
第二十三条 家庭裁判所は、審判の結果、第十八条又は第二十条にあたる場合であると認めるときは、それぞれ、所定の決定をしなければならない。
2 家庭裁判所は、審判の結果、保護処分に付することができず、又は保護処分に付する必要がないと認めるときは、その旨の決定をしなければならない。
3 第十九条第二項の規定は、家庭裁判所の審判の結果、本人が二十歳以上であることが判明した場合に準用する。

(保護処分の決定)
第二十四条 家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる。
一 保護観察所の保護観察に付すること。
二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
三 少年院に送致すること。
2 前項第一号及び第三号の保護処分においては、保護観察所の長をして、家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。

(家庭裁判所調査官の観察)
第二十五条 家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。
2 家庭裁判所は、前項の観察とあわせて、次に掲げる措置をとることができる。
一 遵守事項を定めてその履行を命ずること。
二 条件を附けて保護者に引き渡すこと。
三 適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。

参照判例

参考判例① 最決平成29年12月11裁時1690号18頁

なお、所論に鑑み、特殊詐欺におけるいわゆるだまされたふり作戦(だまされたことに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が、捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の際に犯人を検挙しようとする捜査手法)と詐欺未遂罪の共同正犯の成否について、職権で判断する。

2 当裁判所の判断

(1) 原判決の認定によれば、本件の事実関係は次のとおりである。
Cを名乗る氏名不詳者は、平成27年3月16日頃、Aに本件公訴事実記載の欺罔文言を告げた(以下「本件欺罔行為」という。)。その後、Aは、うそを見破り、警察官に相談してだまされたふり作戦を開始し、現金が入っていない箱を指定された場所に発送した。一方、被告人は、同月24日以降、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、氏名不詳者から報酬約束の下に荷物の受領を依頼され、それが詐欺の被害金を受け取る役割である可能性を認識しつつこれを引き受け、同月25日、本件公訴事実記載の空き部屋で、Aから発送された現金が入っていない荷物を受領した(以下「本件受領行為」という。)。

(2) 前記(1)の事実関係によれば、被告人は、本件詐欺につき、共犯者による本件欺罔行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると、だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。

3 結論

したがって、本件につき、被告人が共犯者らと共謀の上被害者から現金をだまし取ろうとしたとして、共犯者による欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯の成立を認めた原判決は、正当である。

よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

参考判例② 東京高決平成27年11月5日判例タイムズ1424号177頁
2 事実誤認の主張について

(1)原決定は、要旨、少年が、B及び氏名不詳者らと共謀の上、平成27年△月×日から翌×日(以下、日付は同年)にかけて、当時71歳の被害者女性に対し、その息子に成り済まし、同人が緊急に現金を必要としているものと誤信させ、同日昼過ぎ、○○市の◎◎甲駅前店(以下◎◎という。)敷地内で被害者から現金411万円をだまし取ろうとしたが、未遂に終わった、という非行事実を認定している。

これに対し、論旨は、要するに、少年は、いわゆるオレオレ詐欺が行われていることを知らないまま、氏名不詳者から言われるがままの行動をとっていたにすぎず、共謀や詐欺の故意がないから、原決定には重大な事実の誤認がある、というものと解される。

(2)原決定は、同様の主張に関し、おおむね次のように説示している。

ア 関係証拠により認められる本件の事実経過

Bは、△月中旬頃、Cと名乗る者から、1回当たり3万ないし10万円で何らかの荷物を運ぶ仕事(以下「本件仕事」という。)をしないかと持ちかけられて引き受け、△月頃、少年に対し、1回当たり3万円ないし7万円で、電話をかけてくる人間の指示に従って何らかの荷物を運ぶ仕事をしないかと持ちかけると、少年が承知したので、Cにその旨伝えた。すると、同月×日頃、氏名不詳者(以下「指示役」という。)が少年に電話をかけ、「仕事の確認の電話です。」「荷物を運んでもらう仕事です。」などと話した上、同月18日未明にも電話をして、「相方さんと一緒に仕事をしてもらいます。」「明日、午前10時頃に乙駅に行って下さい。」などと指示した。少年が、Bに電話をして、上記のような指示を受けたことを言うと、Bは、指示役から、スーツ姿で乙駅に午前10時頃に行くように指示を受けたことなどを少年に伝えた。

同日、少年は、ラインメールでBと連絡を取り合った際、メール履歴を消去することを合意し、実際に消去した。同日午前10時頃、少年とBが合流して乙駅付近で待機していたところ、指示役の指示を受けて、少年は一人で甲駅に向かった。他方、Bは、指示役の指示により、丙駅に行ったところ、同人から、法律事務所の秘書と偽って荷物を受け取るようにとの指示を受け、少年にその旨を伝えた。

少年が、甲駅に到着後、指示役に対し、目印となる◎◎があることを伝えると、「◎◎の前をお客さんに伝えるので、その場所が見える目立たない場所に居て下さい。」旨指示され、これに従って待機していると、「携帯電話をかけているおばあさん、いませんか。」などと尋ねられ、被害者を見つけてその特徴などを伝えた。その後、Bが◎◎に到着し、被害者と話し始めると、少年は、指示役の指示に従って、その状況を伝えた。Bは、被害者に対し、法律事務所の秘書のDと名乗って、被害者から偽の金が入った紙袋を受け取ったところ、警察官に現行犯逮捕された。

イ 少年の本件仕事における少年及びBの役割の認識について

Bは、原審審判廷で、指示役から、本件仕事は少年とBが共同して行うもので、Bが荷物の受取役を担い、少年が見張役を担う旨指示されたことから、少年に対してその指示を伝えた旨証言している。この証言は、そのような役割分担が詐欺による金銭の受渡しを成功させるために合理的なものであること、実際にBや少年が担った役割に整合していること、Bは既に保護処分を受けており、自己の責任を軽減させる必要がなく、少年を陥れるために虚偽の供述をすることは考え難いこと、捜査段階から一貫して同趣旨の供述をしていることに照らし、信用できる。

これに対し、少年は、△月×日未明の電話で、指示役から、少年がBを見張る仕事を担当する旨、Bから、少年を見張る仕事を担当する旨それぞれ聞いたことから、本件仕事の内容が、当初の荷物を運ぶというものから、少年及びBが、氏名不詳者らの信頼を得るために、お互いの日常生活を見張り合うというものに変更されたと認識した旨供述する。しかし、この供述は、高額の報酬を伴う仕事の内容が利益を生み出さないものに変更されたのに疑問を感じなかったとする点や、Bが法律事務所の秘書という肩書を用いることを聞いたり、客が高齢の女性である旨を聞いたりしたにもかかわらず、仕事の内容に疑問をもち、Bや指示役に対して十分な確認をするなどしなかったという点において、不合理であり、信用できない。

よって、少年は、本件仕事において、Bが荷物の受取役を担い、少年が見張役を担うことを認識していたと認められる。

ウ 詐欺の故意について

B及び氏名不詳者らが、本件詐欺未遂の犯行に及んだことは明らかである。少年としても、Bが法律事務所の秘書をかたって、高齢の女性から荷物を受け取ること及び少年がBの見張りをすることを認識していたものと認められることに加え、Bとラインメールを消去することを合意し、実際に消去していることなども考慮すると、本件仕事が詐欺を含む何らかの犯罪に関わる仕事であることに全く思い至らなかったとは考えられない。そうすると、遅くとも◎◎付近でBの見張りをしていた時点では、少年には詐欺の未必の故意があったと認められ、詐欺未遂の共同正犯が成立する。

(3)原決定の上記認定、評価は、関係証拠に照らし、おおむね論理則、経験則等に適うものであり(少年の供述が信用できないことについては、Bの動静や同人と別行動をとるなどした実際の少年の状況が、その認識していたと述べる仕事の内容と全くそぐわない点も指摘できる。)、少年に詐欺の故意及びBらとの共謀が認められるとした原判断に不合理な誤りはない。以下、所論に鑑み補足して説明する。

所論は、〔1〕少年は、Bからも氏名不詳者からもオレオレ詐欺が行われていること等を一切聞いていなかった上、それを察知して未必的な故意を有する状況にもなかった、〔2〕少年の行動は、具体的な報酬等を確認しないなど犯罪行為に加担しようとする者としては極めて不自然である、〔3〕Bは、一貫して本件仕事は薬物に関するものと考えていた旨供述しており、同人自身にもオレオレ詐欺の故意を認めることができないところ、少年以上に指示役から具体的な情報を得ていたBですらオレオレ詐欺を推察することができなかったのであるから、少年はなおさら推察できなかった、などと主張する。

しかし、〔1〕原決定が説示するとおり、少年は、もともと、Bから、本件仕事は1回当たり3万円ないし7万円で、電話をかけてくる人間の指示に従って何らかの荷物を運ぶ仕事であると聞いていた上、△月×日未明に指示役から具体的な指示を受けた後には、Bから、同人が荷物の受取役を担い、少年が見張役を担う旨伝えられたことが認められる(この点に関するBの原審証言の信用性を肯定するに当たり、原決定が、Bは既に保護処分を受けていて自己の責任を軽減させる必要がないなどとしている点は、Bが、保護処分を受けた後であっても、以前に自己の責任を軽減させるために行った虚偽の供述を維持している等の可能性が一般的には考えられるから、必ずしも相当ではないが、この点について虚偽の供述をしても受取役を担った同人の責任を軽減させることになるとは考え難い上、原決定が挙げるその他の事情にも鑑みれば、この点に関する同人の証言の信用性を肯定した結論は相当である。)。これに加えて、少年は、Bが法律事務所の秘書をかたって、高齢者から荷物を受け取ることも認識したのであるから、これらの事情に照らせば、過去にオレオレ詐欺に関与した経験がないこと等所論が指摘する点を考慮しても、自身らが行おうとしていることが高齢の被害者から金銭をだまし取る詐欺に当たる可能性は十分に認識し得たものと認められる。

〔2〕上記のとおり、少年は、もともと、本件仕事につき、1回当たり3万円ないし7万円で、電話をかけてくる人間の指示に従って荷物を運ぶ仕事であると聞いてこれを引受けたのであるから、それ以上に、具体的な報酬の額や指示される行動の内容を事前に確認しようとしなかったとしても、特に不自然とはいえないし、これが上記のような詐欺に当たる可能性を認識していたことと矛盾するともいえない。

〔3〕確かに、Bは、原審審判廷でも捜査段階でも、逮捕された後に警察官から聞くまで、本件仕事において運ぶ荷物は薬物又はその代金だと思っており、詐欺に係る現金だとは思わなかった旨の供述をしているが、同人も、少年が認識した上記のような事情を認識していたことに加えて、被害者から偽の金を受け取る際、「これはお金なので、きちんと息子に渡してください。」と言われて「分かりました。」と答えていることにも照らせば、上記供述は信用し難いというほかなく、Bも、本件仕事が上記のような詐欺かもしれないとの認識を十分有していたものと認められる。そうすると、この点に関するBの上記供述を前提とする所論は採用できない。

その他所論が種々指摘する点を検討してみても、原決定には、所論のいうような重大な事実の誤認はない。

3 処分不当の主張について

(1)論旨は、要するに、仮に非行事実が認められるとしても、少年を第三種少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であり、保護観察が相当である、というものと理解される。

(2)原決定は、処遇の理由として、おおむね次のように説示する。

(ア)本件は、詐欺グループの者らが、組織的、計画的に高齢者に対して敢行した悪質重大事案である。少年は、手っ取り早く金銭を得たいという自己中心的な動機で、Bらの動静を見張る役割を果たした。そうすると、少年の立場が従属的であることや詐欺が未遂に終わったことを考慮しても、少年の責任は重く、その規範意識は希薄化している。(イ)鑑別結果等によれば、少年は、自尊感情が低く、困難や問題に直面すると、投げやりな態度をとったり、楽で気ままな方へと流れたりしやすいこと、思考が独善的で、視野が狭いことに加え、物事を自分の都合の良いように受け止めたり、被害的に受け止めたりしやすいこともあって、自分の非を棚に上げて他者批判に走りやすいことなどの問題点を抱えていると指摘されている。これらの問題点は、友人であるBからの紹介などから本件に関与した経緯や、原審途中まで自分こそがだまされた被害者である旨発言したり、本件に関与してしまった原因の一つはうつ病の状態が悪化していたことにある旨述べたりしていることなどに顕著に表れており、上記の問題点は相当深く根付いている。(ウ)少年は、一貫して本件非行を否認しており、原審第3回審判期日で非行事実が認められる旨の告知を受けた後に反省の弁を述べてはいるが、自己の責任の重さや問題点に目を向けられていない。(エ)保護者である母親は、少年の兄姉の協力を得て、○○の自宅で少年を監護していく意思を示しているが、保護者の体調や本件に至る経緯等に照らすと、少年が保護者らの監護の下で生活することは期待し難い。

関係記録に照らせば、少年には保護処分歴も補導歴もないこと等を考慮しても、上記のような資質上、性格上の問題点と要保護性の高さを指摘し、少年については、強固な枠組みのもとで規律ある生活を送らせながら、専門家による系統的な教育を施すことで、自己の責任の重さを自覚させた上で、自尊心を高めさせて、忍耐力を身に付けさせるとともに、独善的で、物事を自分の都合の良いように受け止めやすく、被害的に受け止めやすい傾向を改めさせて、規範意識や社会適応力を高めさせることが必要かつ相当であるとした上で、うつ病疑いと診断され向精神薬による治療が必要な状態にあることを考慮して、少年を第三種少年院に送致した原決定の判断は是認できる。所論は、少年について、Bが受けた保護観察よりも重い処遇とすることは不当であると主張するが、処遇選択は、非行の内容だけではなく、個々の少年の非行性、資質、保護環境等を総合判断し、その健全育成を図るために最善の処遇を個別的に追求するものであるから、単純に共犯者の処遇と比較することには意味がない。鑑別経過や原審審判の状況等に照らしても、少年の根深い問題点に対する働きかけが功を奏するのは容易でないといえ、所論は採用できない(この結論は、当審における事実取調べにより判明した少年院における少年の現状を踏まえても動かない。)。

参考判例③ 東京高決平成28年6月15日判例タイムズ1437号144頁
二 事実誤認の主張について

そこで、まず、事実誤認の主張について検討すると、少年は、Cなる人物から八〇万円くらいを運ぶアルバイトがあるとして本件を含む仕事を紹介する人物を教えられたのであるが、アルバイトで現金を運ぶなどという仕事があるはずもなく、それ自体で紹介される仕事が詐欺であることを疑ってしかるべきである。さらに、少年はCなる人物から紹介を受けた人物から、荷物を受け取りそれを別の者に渡すだけで一日三万円もらえるとして本件を含む仕事に誘われているが、三万円という報酬はアルバイトとしては不相応に高額であるから、ますます、その仕事が詐欺であることを疑ってしかるべきである。また、少年はその仕事を知人にも紹介しているが、知人とのSNSの中で「コツを掴めば荒稼ぎできるって言われた」とか「一六〇万くらい」などというやり取りが交わされていることも、それが合法的なアルバイトではないことを認識していたことを推認させる。その上、本件においては、少年は、以前からの指示に従ってスーツに着替え、本件時に電話をかけてきた男の指示に従って、周囲に怪しい者がいないか確認した上で、会計事務所のDと名乗って「E様のお母様ですか」と被害者に声をかけ、頃合いを見て、「E様から電話です」と言って被害者に男と通話していた携帯電話機を渡している。周囲の者を警戒せよとの指示は、その後指示される行為が違法であることを推測させる上、スーツに着替えて身分や氏名を偽って相手と接触せよという指示は、指示された行為が相手を騙すものであることは容易に分かるはずである。さらに、被害者に対して特定の人物の名をあげてその人物の母親であることを確認し、その人物から電話がかかっているとして携帯電話機を渡すという指示内容は、典型的なオレオレ詐欺の手段であるから、少年は、遅くともこの指示を受けた段階で、指示された行為がオレオレ詐欺であることを認識したと推認できる。加えて、少年は、被害者から中身が現金であると推測できるような形状の封筒を受け取り、少年と被害者とのやり取りを見ていた通行人が不審に思って声を掛け、被害者が少年に四〇〇万円を渡したとその通行人に話したのを聞いて少年は逃げ出しているが、この事実も少年に詐欺の故意があったことを裏付ける事実である。

原決定は、ほぼ同様の事実を指摘し、詐欺の故意を認めた捜査段階の少年の供述調書等が信用できるとして、少年に詐欺の故意があったと説示しており、その説示に論理則、経験則に反する点はなく、結論も是認できる。

所論は、少年は本件時一七歳三か月である上、年齢に比して幼い部分も多く、かつ、日ごろから深く考えないことなどから指示通りに行動してしまっただけであって、指示された行為が詐欺になるとは認識していなかった、という。しかしながら、少年は、高校に通学し、普通のアルバイトもしており、親しい友人もいるなど、普通の高校生としての生活をしていたのであるから、通常の高校生としての社会常識も備えていたと認められ、所論指摘のような傾向が認められるとしても、それが前記故意の推認に合理的疑いをさしはさむものとはいえない。所論は採用できない。

所論は、少年が通行人から不審がられて逃走したのは、通行人から腕をつかまれて警察に行こうと言われて、びっくりしたのと、自分が警察に連れて行かれるようなことをしたのかと思って怖くなったからであって、被害者から現金を受け取った時点で詐欺の故意があったからではない、という。この点、少年の逃走前に、通行人が少年の腕をつかみ、警察に行こうと言ったことを裏付ける証拠はなく、所論はその点で前提を欠く。もっとも、当該通行人は、少年と被害者の行動を見て不審を抱き、まず、少年に何か受け取ったのかと聞くと、少年は何なんですかと言ってきたので、被害者に少年に何を渡したのかと聞き、被害者が四〇〇万円を渡したと言ったので、少年に対して、四〇〇万円を入れたバッグを見せるように求めたが、少年が必死にバッグを見せないようにして、逃げようとした、少年とバッグをめぐって争いになった旨供述しているところ、同供述に疑わしい点はなく信用できるから、通行人と少年との間に争いが発生したことはうかがわれる。しかしながら、自らの行為が違法なものではないと考えていたのであれば、通行人の質問に対してその認識通りに説明をして疑いを晴らそうとすることができたはずであるのに、そのようなことをせず逃走するということは、少年が自らの行為が許されない行為であることを認識していたと推認させる事情であり、その余の事情と併せれば詐欺の故意が十分認められる。所論は採用できない。

その余の事実誤認に関する所論も採用できない。

事実誤認に関する論旨は理由がない。

三 処遇不当の主張について

原決定は、処遇の理由について、要旨、以下のとおり説示した。

本件は、役割分担がなされた組織的、計画的な犯行である上、子を思う親の心理に付けこむ犯罪態様も悪質であり、被害額も四〇〇万円と比較的高額に及んでいる。しかも、現金受取役という犯罪完成のために欠くことのできない役割を果たした少年の犯情も芳しくない。その上、受け取った荷物に四〇〇万円が入っていたことを確定的に認識した後も逃走しており、なお犯罪を遂行しようと思っていたというほかなく、強い犯意が認められる。それにもかかわらず、少年は自身の問題点や犯罪への問題意識が十分には高まっていない。少年の要保護性の大きさは見逃せない。

他方で、少年の前歴は審判不開始の一件のみであり、自宅で母親と同居して高校に通っており、非行性が進んでいるとまでは認められない。また、少年鑑別所及び家庭裁判所調査官も少年院での長期処遇を求める意見は述べていない。

そこで、要保護性の大きさに鑑みて少年を少年院に送致することとするが、その期間については短期で足りると判断した。

しかしながら、この原決定の説示は、本件非行の重大性をやや厳しく捉えすぎている上、少年の非行性の程度についても検討が不十分であり、結論としての少年院送致という処分は著しく不当なものとなっている。以下説示する。

被害額が比較的多額であることは原決定が指摘するとおりであるが、少年がすぐに逮捕されたため、被害金は被害者に還付されており、実質的には未遂に近い事案である。また、本件非行は役割分担がなされた組織的計画的犯行に加担したものであること、少年が担った現金受取役が重要であることは原決定が指摘するとおりであり、オレオレ詐欺は重大な犯罪であり、それに関与した非行もまた軽視できないが、常に施設内処遇が必要であるとはいえないところ、少年は、共犯者の実名や詐欺の方法などの犯行の全容を知らされておらず、約束されていた報酬は三万円の定額にとどまっていることなどからすれば、共犯者の中では末端に位置するものと評価される。また、少年については、本件より前にも同種の非行に及んだ形跡があること等が指摘できるものの、その関与の程度や期間に照らすと、本件が社会内の処遇が許されないほど重大な非行であるとは必ずしもいえず、その非行性の程度や保護環境等を十分検討した上で処遇を選択すべきである。

そこで、少年の非行性に目を転じてみると、少年は、中学校を中学二年後期にやや遅刻が増えた以外は遅刻・欠席ともほとんどなく通学して卒業し、当初入学した高校は中途退学したものの、高校に通いたいとしてとび職に就いて学費を貯めて翌春通信制高校に再入学し、本件で身柄拘束されるまで週三日通学していた。前記の遅刻が増えた中学二年後期に、深夜徘徊で一回、喫煙で二回、高校を中退していた時期に喫煙で二回の計五回補導されているが、それ以外の補導歴はなく、都内のクラブに遊びに行っていることがうかがわれる程度である。前歴も、高校を中退していた時期に整髪料一本を万引きしたという審判不開始の窃盗保護事件一件のみであり、少年の交友関係には、本件を紹介したCなる人物を除き、非行性が進んでいるとうかがわれる友人はなく、少年は、Cから本件の紹介は受けているものの、同人と不良的な遊びを共にしていたことはうかがわれない。そうすると、少年には中学二年後期や最初の高校を中退した時期にある程度の生活の乱れがあったものの、それ以外は学校に通学し、補導されることもなく通常の生活を送っていたのであって、上記のほか、中学時に菓子等の万引きをしたことがうかがわれることを考慮しても、少年の非行性が深まっているとは見られず、今後、本件のような悪質な非行を繰り返す危険性があるとはいえない。原決定が非行性が進んでいるとまでは認められないとしている点は、その限りでは正当であるが、前記のような非行性の程度を十分に評価していないきらいがある。

さらに、少年の保護環境を見ると、少年の家庭は母子家庭であり、母親には交際相手がいるが、少年は母親及びその交際相手によく親和しており、母親には日常の出来事をよく話している。母親の指導は、若干厳しさに欠ける傾向があるが、以前、少年が知人から原動機付き自転車をもらい受けた際に、保険の問題を懸念した母親がそれを返すように指導すると、少年はその指導に従っており、母親の指導力に大きな問題があるとはうかがわれない。母親の交際相手も、少年に対する指導を加えていくことを申し出ている。少年は今後も在籍している高校に通学可能である。そうすると、少年の保護環境に大きな問題はないと評価すべきである。原決定は、少年の非行性を検討する過程で、母親と同居していること、通信制高校に通っていることには触れてはいるが、少年の保護環境が整備されているかどうかという観点からの検討については記載がない。

原決定が要保護性に係る事情として重視しているのは、本件審判を経る過程でもオレオレ詐欺に加わった自己の問題点や犯罪への問題意識が十分高まっていない点にある。確かに、少年に調子が軽く深く考えることなく物事に飛びつきがちであるという傾向があり、それが本件を含む仕事を安易に引き受けたことにつながっているとみられることや、失敗しても回避的に振る舞いやすい傾向があり、少年が故意を否認するなど本件非行について内省が深まっていない面があることは否定できないが、一定程度反省の態度を示していることなどから見ても、このような資質・性格上の問題点が深刻なものであるとまではうかがわれない。その非行性の程度等から見て、社会内資源を活用し、自己の性格上の問題点や本件非行の問題点について認識を深めさせることによって、一定程度再非行を防止することが期待できると考えられ、現段階で社会から隔離して矯正教育を施す必要性が高いとまではいい難い。そうすると、保護環境が整っているにもかかわらず、在宅処遇の可能性を十分検討せず、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であるというべきである。

参考判例④ 判例タイムズ1418号397頁

(罪となるべき事実)
少年は、B及び氏名不詳者らと共謀の上、他人の親族らになりすまし、その親族が現金を必要としているかのように装って現金をだまし取ろうと考え、氏名不詳者において、平成26年×月○日午後1時頃から同日午後4時30分頃までの間、○○市○○×番地所在のC方又はその周辺にいた同人の携帯電話機に数回にわたり電話をかけるなどし、同人に対し、同人の息子になりすまし、「投資に失敗して700万円の負債を背負ってしまったんだ。弁護士と話したら、弁護士から取り返してあげると言われたんだ。弁護士を頼むのに今すぐ140万円必要なんだ。出してくれるかい。」「代理人を行かせるから。同僚だから。」「○○○○という人が行くんだけど。」などとうそを言い、Cに、電話の相手が息子であり、同人が現金を必要としているものと誤信させるとともに、同日午後4時30分頃、同市○○×番×号○○ビル北側路上で、Bにおいて、Cに対し、前記○○○○を装うなどし、Cをして、BがCの息子のために現金を預かるものと誤信させ、よって、その頃、同所で、Cから現金140万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。

(補足説明)

1 付添人の主張

付添人は、少年には詐欺の故意も共謀もなかったと主張し、少年もこれに沿う供述をする。

2 当裁判所の判断
(1)本件詐欺の発生

関係証拠によれば、判示のとおり、氏名不詳者が被害者Cに電話でうそを言ってだまし、同人からBが140万円の交付を受けたという本件詐欺の犯行があったことは明らかである。

(2)少年が認めている事実

少年及びBの各供述調書(謄本を含む。以下同様。)や少年の審判供述によれば、少年の前歴、犯行に至る経緯、少年の認識及び果たした役割について、以下の事実が認められ、少年もこれを自認している。

ア 前歴

少年は、平成25年に架け子の仕事を1か月程やった後、受け子として活動し、最後は同年×月に受け子として赴いた○○県内で詐欺未遂で逮捕された(前件)経歴があったため、本件当時、受け子や架け子という言葉の意味をよく知っていた。

イ 本件犯行に至る経緯

少年は、平成26年×月中頃、友人を通じて先輩に当たるDを紹介され、同人から○○の風俗店紹介所の仕事を紹介してもらうなどして付き合うようになった。同年×月中旬かそれを過ぎた頃、少年は、Dから、受け子や架け子の仕事をやらないかと誘われたが、これを断った。その数日後、今度は、Dから、短期で昼間のバイトをできる奴を探している、探さなかったらお前がやれ、組織から金を受け取って逃げる仕事だなどと言われた。

ウ 少年の認識(Dの仕事をBに紹介する頃まで)

少年は、受け子や架け子をやらないかと誘ってきたことで、Dが詐欺グループにつながりがある人物と思った。また、仕事の内容を説明した際に「組織」という言葉を使われていたことから、Dのさせようとしている仕事は犯罪に関わる仕事かもしれないとも思った。しかし、Dの言い方が威圧的であり、Dとの関係を壊したくないという気持ちもあり、友人のBを紹介することに決めた。

エ 少年の果たした役割

〔1〕平成26年×月○日から○日にかけて、少年は、Bに先輩が昼間の仕事をする奴を探しているなどとして連絡を取る一方、その承諾を得てBの電話番号をDに教えたところ、同日中に詐欺グループの者がBに電話をかけてくるようになり、以後、Bはその指示に従って動くようになった。〔2〕同月○日夜から翌○日未明にかけて、少年は、Dから、Bに交通費を渡すよう頼まれ、一旦は断ったものの、Bに渡す交通費を少年方郵便受けに入れておくからBに渡すよう言われて了承し、Bと会う約束をした。実際は郵便受けに金が入っていなかったが、少年は同月○日午前4時頃、自宅近くのスーパーマーケット(甲)でBと会い、Bと話をするとともに、自分の携帯を使ってBとDに話をさせた。また、その際、少年は、Bから、自分が紹介した仕事の関係で○○に行くことを聞いた。〔3〕同月○日午後2時29分頃、少年は、Dから、Bが電話に出ないので、出るように伝えるよう指示され、Bに電話をかけて、その指示を伝えた。〔4〕同年×月○日から○日にかけて、少年は、Dから頼まれてBに現金7万円を渡し、Bはこれを本件で金を受け取りに行った報酬として受け取った。

(3)本件当日未明の甲におけるBとの会話等の内容

Bは、平成△年×月○日付け検察官調書において、平成26年×月○日午前4時頃、甲で少年と会ったとき、当日○○へ行くことになっている事のほか、少年との会話について、次のとおり供述する。すなわち、「自分は、前日(×月○日)、○○へ行かされたが、指示役から、弁護士を名乗り、スーツを着用するよう言われていた、○○では6時間待機したが何もすることなく帰ってきた、その間、指示役から誰かついてきていないかと尋ねられた旨説明した上、黒い(犯罪に関わる)仕事ではないかと尋ねた。少年は、先輩から、お金を対象者から受け取って、その金を指示された場所に持って行って置く仕事だと聞いている、たまに逃げたふりをする仕事だとも聞いている、捕まるリスクは少ないなどと言っていた。」というのである。このB供述は、仕事の内容を明確に伝えられておらず不安に感じていた当時のBの心情に照らし、自然な内容であること、少年も、その大部分について覚えていない旨述べるものの、弁護士役とか、スーツのことを言ったかもしれない(第1回審判調書別紙反訳書12頁)と述べていること、Dから聞かされた仕事の内容は、「組織の金を運ぶ仕事」(少年の平成△年×月○日付け検察官調書、2枚綴りのもの)という少年の捜査段階の供述に符合すること、「金を持って逃げるふりをする」という意味不明ながらも少年が捜査審判を通じて供述している特徴的な言い方にも符合していることに照らし、信用できる。したがって、Bと少年との間で、前述のB供述のような会話がなされたことが認められる。さらに、その会話内容から、少年は、Dから、Bに紹介する仕事の内容として、「組織の金を運ぶ仕事」ということも聞いていたことも認められる。

(4)結論

前記(2)の少年が認めている事実からだけでも、少年は、BにDの仕事を紹介する時点で、既にDがオレオレ詐欺のグループとつながる者であり、Dのさせようとしている仕事は犯罪(その中には当然オレオレ詐欺も含まれるというべきである。)に関わる仕事かもしれないと思っていたことは明らかである。加えて、前記(3)で認定したように、少年は、Dがやらせようとしている仕事について、組織の金を対象者から受け取り、指示された場所に置くと聞かされていたことや、本件詐欺に先立つ甲におけるBとの会話の中で、弁護士を名乗るなど自己の属性を偽るよう指示されたとか、スーツを着用するよう指示されたなどと聞かされ、受け子の経験のある少年(なお、少年の審判供述によれば、少年は、受け子をしていたときにスーツを着用するよう指示されていたことも認められる。)であれば、当然仕事の内容が受け子の仕事と容易に察することができたと認められる。以上の次第で、少年は、少なくともBにDの仕事を紹介した時点では、その仕事がオレオレ詐欺の受け子の仕事かもしれないと思っていたことは明らかであり、その後、本件に先立つ甲でのBとの会話により、受け子の仕事という認識を十分有していたと認められる。

このように、少年は、Dがさせようとしている仕事はオレオレ詐欺の受け子の仕事かもしれないと思いながら、前記(2)のとおり、BにDの仕事を紹介してBをDら詐欺グループの者に紹介し、交通費の受渡しに関わり、受け子であるという認識を十分持った後にも、BとDら詐欺グループの者との連絡が維持されるよう仲介したり、受け子の仕事に関わる金のやりとりの仲介をするなど、詐欺グループの者と受け子のBとの間を取り持ち、犯罪遂行上重要な役割を果たした。したがって、少年には、詐欺の故意も本件についての共謀もあったことは優に認定できる。

(適用法令)

刑法60条、246条1項

(処遇の理由)

本件は、詐欺グループの者らが、子を思う高齢者の心情につけ込んでだまし、140万円もの多額の現金を詐取した組織的、計画的な悪質重大事案である。少年には、本件と同様の組織的ないわゆる特殊詐欺未遂事案で受け子として活動し、観護措置をとられた上、試験観察を経て平成25年×月に保護観察となり、本件当時も保護観察中であったのに、オレオレ詐欺の受け子の仕事かもしれないと思いながら友人にその仕事を紹介し、遅くとも本件直前には受け子の仕事をしているとの十分な認識を有していたのに、安易にその友人と詐欺グループの者との間を仲介する重要な役割を果たしたにもかかわらず、詐欺の犯意を否認しており、規範意識が欠如しているばかりか、自己の問題や責任と十分向き合おうとする姿勢も欠いている。心身鑑別や社会調査によれば、本件につながった少年の資質等の問題として、物事を楽観的に軽くとらえがちなところや、自分の弱い部分は隠し、表面を取り繕おうとしがちな性格、不良な先輩からの誘いに十分な危機意識を持てなかったことが指摘されている。家庭での監督に加え、保護観察の枠組の中でも、少年が、安定した仕事につけず、本件に至ったことを見れば、家庭の監督力の弱さは明らかであって在宅での監護では限界があるといわねばならない。

以上のような本件の悪質重大性、少年の果たした役割、保護処分歴、規範意識の欠如及び犯行後の姿勢、資質上の問題、家庭の監督力の弱さに鑑みれば、少年の再非行を防止し、健全な社会生活を営むことができるようにするためには、少年を施設に収容し、規律正しい生活を送る中で規範意識を涵養するとともに、専門家による矯正教育を行ってその特性に応じた性格等の問題の改善、克服を図ることが是非とも必要であるから、少年を中等少年院に送致することとして、主文のとおり決定する。