新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1479、2013/12/16 00:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、振り込め詐欺により受領した金員の運搬役の罪質 共謀共同正犯の理論、最高裁昭和33年5月28日判決(練馬事件)、最高裁判所第一小法廷(強盗被告事件)平成13年10月25日決定 】

質問:

先日,警察から突然連絡が来て,私の息子(22歳)が振り込め詐欺グループの一員として逮捕されたことを聞かされました。
 息子の所属していた振り込め詐欺グループでは,金融機関の職員を装って被害者を騙しキャッシュカードを受け取る役(「受取役」),受取役からキャッシュカードを受け取ってATMからお金を引き出す役(「引出役」),引出役からお金を受け取って運ぶ役がいたようで,息子はお金の運ぶ役(「運び役」)を担当していたようです。
 警察からは,詐欺罪と窃盗罪で捕まったということは聞きましたが,お金を運んだだけなのに有罪となってしまうのでしょうか。また,有罪となってしまう場合には,どの程度の判決が下されてしまうのでしょうか。



回答:

1、ご質問の内容から不明な部分があるので、場合分けを致します。振り込め詐欺の謀議に最初から加わっていた場合は、詐欺罪の共同正犯になります。確かに、詐欺とは、相手をだまして、財物(キャッシュカード)を取得することですから、本件では、お子さんは、現金を運搬していますが、キャッシュカードを騙し取る行為はしていないので本来なら詐欺罪にはならないようにも思えます。しかし、共同正犯(刑法60条)の文言、「犯罪」とは広く解釈されており、実際にはその様な謀議に参加しただけで詐欺罪に問われてしまします。これを共謀共同正犯という理論で裏付けされています。
2、本件では、騙し取ったカードでさらに現金をATM機から奪っており、これも被害者が銀行として窃盗か、詐欺か問題になります。詐欺は相手を騙す、すなわち欺罔行為を行い、相手の勘違い、錯誤が必要となり、ATMは機械ですから、錯誤がないので欺罔行為がなく詐欺罪は成立しません。しかし、本来使用できないカードを使って財物(現金)を取得しているので窃盗罪になります。お子さん自身は、窃取行為をしていませんが、やはり共謀の上窃取していたという理由で、共謀共同正犯理論により刑法60条の共同正犯となります。しかし、
3、 次に、お子さんが、最初から謀議に参加しないで、金融機関で待機して、騙し、窃盗した現金を犯罪行為と知りながら運搬した場合は、盗品の運搬罪(刑法256条2項)となり、詐欺、窃盗の実行行為は終了しているので、共同正犯は勿論、詐欺、窃盗の幇助(事後従犯は実行行為が終了しているので従犯とは評価できません。)にもなりません。
4、量刑については,具体的事案によりますので一概には言えませんが,近年振り込め詐欺が社会的問題となっていることや,手口が巧妙化して悪質となっていることから考えると,共同正犯の場合は勿論、運搬罪として起訴されても実刑となる可能性があります。
5、関連事例集 735番参照。

解説:

1 (各役割の刑事責任)
昨今,振り込め詐欺が社会的問題となっていますが,その犯行態様は様々です。本件では,受取役,引出役,運び役という役割に分かれていたようですので,受取役及び引出役の刑事責任を検討した後で,運び役がどのような刑事責任を負うのか考えたいと思います。

(1)受取役の責任
本件の受取役は,人を騙してキャッシュカードを受け取っています。この点,刑法上の「詐欺罪」(刑法246条1項)とは,騙す行為(欺罔行為)によって相手を錯誤に陥らせ,財物を交付させる罪であるところ,本件では,受取役が被害者を騙して勘違いをさせ,キャッシュカードという財物を交付させたといえますので,受取役の行為は詐欺罪に該当するといえます。
 そのほか,後述するように,一連の犯罪行為の計画に参加し手いる場合は引出役の刑事責任である窃盗罪の共同正犯としての罪責を負うことが考えられます。

(2)引出役の責任
引出役は,キャッシュカードで他人の口座から金銭を引き出しています。この点,刑法上の「窃盗罪」(刑法235条)は,他人の占有する財物を奪う罪であるところ,引出役は,銀行の支店長らが管理する金銭をその意思に反して引き出しているので,引出役の行為は窃盗罪に該当することになります。人をだましてその錯誤により財物をとってしまう欺もう行為がないので詐欺罪にはなりません。
そのほか,最初から計画に参加していれば、受取役の刑事責任である詐欺罪の共同正犯としての罪責を負うことが考えられます。

(3)運び役の責任

 @運び役は,金銭を運ぶにとどまっていますが,最初から受取役と引出役とともに犯罪を実行しているとも考えられます。仮に,相互に意思を通じて共同して犯罪を実行していれば「共同正犯」(刑法60条参照)となり,関与者はその全員の行為について罪責を負うことになります。そして,共謀(犯罪実行の話合いその他の行為等)に参加した事実が認められる以上,直接実行行為に関与しない者でも,他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において,刑事責任の成立に差異を生じると考えるべきでないとされているのです(最高裁昭和33年5月28日判決 練馬事件)。

A(問題提起)ところで、息子さんは、行為としては運び屋としての役目しかしていませんから窃盗、詐欺の罪責を問われることはお父様としては納得がいかないかもしれません。

Bしかし、判例は各犯罪実行の意思の連絡(共謀)があれば共謀共同正犯として詐欺、窃盗の行為を分担した場合と同じように各罪の責任を認めています。これは、刑法60条の「犯罪を実行した」という犯罪の意味を各犯罪の構成要件に該当する実行行為だけでなく、実行行為に関連する付随的行為を含むものと広く解釈して、共謀の存在により共同正犯を認めています。これは、実際の犯罪行為をした者より黒幕となって実行行為者を操る者も同じく処罰しようという考え方です。この考え方は、共同正犯の本質(どうして、自ら実行行為をしていないのに共犯者の行った行為の結果にまで全責任を負うことになるのかという理論)に関し理論的には行為共同説がその裏付けとなっています。行為共同説は、単なる事実行為を分担しただけで実行行為をしなくても全責任を各共犯者に課しますから共同の意思の連絡すなわち主観的「謀議」に共同正犯成立の根拠をおきます。悪いことをしようと共謀した以上、犯罪の実行行為の一部を分担しなくてもをしていなくても各自正犯としての全責任を負わせるべきであるというのです。

C学説上(草野豹一郎教授)、この理論を支えるものとして、共同意思主体説が唱えられました。謀議により共同意思主体というものが形成成立し、その中の誰かが実行しても、共同意思主体の実行行為であるから、何もしていないほかの共犯者も自分が実行行為をしたことになるというのです。この理論も、共謀共同正犯を認め何とか犯罪の黒幕を処罰しようとする試みです。

Dしかし、実務上、犯罪の黒幕を処罰するために条文を解釈することは本来問題です。罪刑法制主義、刑法の謙抑主義から条文の解釈は適正、公平におこなう必要があります(憲法31条)。60条の「犯罪を実行した」という、犯罪は各構成要件に該当する実行行為と解釈する必要があります。すなわち、共同正犯の本質(どうして共謀したものは他の共犯者の行為結果まで責任を負うのか)についてはいわゆる犯罪共同説が妥当な解釈です。犯罪共同説は、犯罪の共謀と、実行行為の少なくても一部分担が不可欠です。なぜなら、共同正犯は、正犯の一種ですから少なくても正犯として各構成要件の行為を行う必要があるからです。他の共犯者の行った結果にも責任を負うのは意思の連絡により互いの実行行為を利用して目的とした犯罪の結果を生じせしめたことに求められます。実行行為をしていない者に正犯の責任を負わせることはできません。

Eもともと刑事処罰がなぜ認められるかといえば、自由主義、個人主義、個人責任の原則に求められます。本来、個人は自由で国家といえども手を出すことはできません。個人の自由を強制的に剥奪できるのは、例外的に、国家が定めた適正、公平な法にもとめられます。個人は、国家に対し適正公平な法を遵守する約束をしていますから(いわゆる社会契約説)、自らの意思により法律を守ることができるのにこれに反し、あえて法規を踏みにじる行為(外形的行為をする必要があります。意思だけでは責任を問えません。内心的意思は本来自由でいかなる意思もそれのみにては処罰の根拠にはなりません。)をした場合に責任を負います(道義的責任論、行為責任論、客観主義)。これは個人主義の根拠から導かれます。周りから見ていくら社会的に危険性があっても刑事処罰はできません。社会的危険性を処罰の根拠にする社会的責任論(主観主義 、行為者責任論)は個人主義では採用できません。その適正な法は前もって、法律で制定されなければならないのです(罪刑法定主義)。刑法では、基本的に正犯と狭義の共犯(幇助、教唆)の違いは、実行行為をしたかどうかにより区罰されており(刑法60条以下)、正犯になるものは少なくとも正犯の意思と実行行為が必要不可欠です。共同正犯も正犯である以上いかなる理論をとっても、実行行為をしたという適正な評価がなければ共同正犯にすることはできません。
したがって、判例が認めてきた共謀共同正犯は処罰目的は正しくても、理論的根拠が希薄で採用できない欠点があります。共同意思主体説も実行行為の外形的実態を説明しきれません。

Fそこで、この欠点を回避しようとして判例が採用したのが間接正犯理論にもどづく実行行為性の認定です。前記昭和33年の練馬事件判決です。間接正犯とは、正犯者が、別の人間(被害者の錯誤等を利用してもよい。)を道具のように利用して、自分では手を汚さないで犯罪の目的を遂行することです。医者が事情を知らない看護婦を利用してある患者を毒殺する場合。餓死しても生き返るという説明をして知恵遅れの者を餓死させた場合は、被害者の無知、行為を利用して殺人行為を行を行っているので殺人罪の間接正犯です(大審院昭和8年4月19日判決)。間接正犯は、具体的実行行為を直接していませんが、そもそも正犯とは実行行為を自らの意思により統制支配しているところにその処罰根拠があるので、自ら手を下さなくても、第三者の行為を道具として利用し統制支配しているので利用行為に実行行為性を認定できることになります。しかし、間接正犯は、第三者が道具として実行行為を統制支配されていけらばならないので、第三者が完全に意思統制(抑圧)されていない場合は間接正犯とはなりません(最高裁判所第一小法廷(強盗被告事件)平成13年10月25日決定ホステスの母親が12歳の子供に勤め先のスナックのママから40万円の金員を強奪させた事件で間接正犯ではなく強盗の共同正犯を認めた事案です。懲役3年8月の実刑です。一部被害回復され示談が成立していますが実刑になっています。被害者のママと示談をすれば執行猶予がついていたと思われます。)。

この理屈を共謀共同性正犯に応用したのが練馬事件判決といわれています。共謀者は実際の行為者を道具として利用しその行為を支配統制しているので自ら実行行為をしてなくても正犯になるというのです。しかし、実行行為をしたほかの共謀者は、自らの意思に基づき実行行為をしたという評価も可能であり、道具性の認定に疑問点が残ります。尚、前記 最高裁平成13.10.25決定では、道具性がなくとも共同正犯を認めていますので、判例は、実行行為をしていない共犯者も共謀の事実認定により共同正犯を認める従来の考え方と踏襲しているようです。

他方,犯罪への関与が低く(詐欺、窃盗の犯行計画に参加していた場合でも。),共同正犯といえない程度の犯行態様も考えられます。この場合,正犯の実行行為を容易にさせたにとどまるという「幇助犯(従犯)」(刑法62条)に該当することになります。幇助犯の刑は,正犯の刑を減軽すると定められていますので(必要的減軽,刑法63条),幇助犯と評価されれば正犯より量刑が軽くなる可能性が極めて高いといえます。

仮に、詐欺行為 窃盗行為終了後にその事情を聞いて運んでも実行行為が終了しており実行行為を容易にしていませんので事後従犯となり、従犯は成立しません。盗品等運搬罪ということになります。

そのほか,だまし取ったキャッシュカードを使用して引き出したお金であることを知らなかったということであれば、犯罪に関与していたことを全く知らないということになりますが,犯罪について全く知らないことはごく稀ですので,以下では,共同正犯となるか,幇助犯となるかの区別について検討することにします。

2 共同正犯と幇助犯の区別について述べます。最初から計画に参加していた場合でも従犯となる可能性も考えられます。

(1)判断基準
共同正犯か幇助犯かの区別については,一般的に「自己の犯罪」を行ったのか否か,すなわち,正犯の意思があったか否かによって判断されると考えられています。正犯の意思を有して犯罪を行ったといえるような場合には共同正犯,他人の犯罪に加担したにとどまる場合には幇助犯と考えるのです。
もっとも,正犯の意思が存在したかどうかという基準は抽象的なので,具体的な要素を検討してこれを判断することになります(最判昭和57年7月16日参照)。

(2)具体的な要素
正犯意思の存否については,様々な要素を考慮することになりますが,一般的には,(ア)犯行の動機,(イ)被告人の地位・役割,(ウ)共謀者と実行行為者間との意思疎通の経過・態様・積極性に関する具体的行動,(エ)利益の帰属,(オ)犯行前後の行為,といった要素を考慮することが多いとされています。
 そこで,本件について上記(ア)から(オ)についての要素を順に検討していきます。

ア 犯行の動機
 例えば,本件犯行に加わることによって分け前をもらう目的があった場合等には,自己の犯罪を実現しようと考えているとみることができ,正犯意思が肯定される可能性も高いといえます。
他方,逆らえない立場の知人から犯行を持ちかけられ,暴行等を恐れてやむなくこれに加担したにとどまり,自身の利得を全く目的としていないような場合には,正犯意思を否定する方向に働きます。

イ 被告人の地位・役割
 例えば,本件犯行において運び役がいないと犯行が成立しないといった事情があり,犯行の中でも重要な役割を担っているといえる場合には,正犯意思が肯定される可能性が高いといえます。また,組織の一員として行動し,組織的犯行に加担しているといえる場合には,全員で一つの犯罪を完成させる地位・役割にあるといえ,正犯意思の存在が肯定される可能性が高いといえます。
逆に,犯行の主犯格でないことはもちろんのこと,主犯格や実行行為者から指示されたとおりに行動していたに過ぎない場合や,本件犯行グループへの加入時期が遅く同グループ内での地位も一番低いなどの事情がある場合には,その地位は極めて従属的なものであって,自己の犯罪を実現しようとするものではないとも考えられ,これらの事実は正犯意思を否定する方向に働くものと考えられます。

ウ 共謀者と実行行為者間との意思疎通の経過・態様・積極性に関する具体的行動
 例えば,自ら犯行方法について積極的に提案をしたり,自身の考えに基づいて犯行態様に改良を加えるなどしている場合などの事情があれば,正犯意思が肯定される可能性が高いといえます。また,犯行態様等を十分認識し,組織内で密に連絡を取り,一体となって犯罪を完遂しようと行動していたのであれば,これらの事実も正犯意思が認められる方向に働くと考えられます。
 他方,犯罪の大枠に関する抽象的な認識は有していたものの,共犯者が,誰に対して,どのようなやり取りによって詐欺を行っていたのか,その具体的な事情は全く知らなかった場合や,本件犯行のターゲットがどのように選ばれているのかも把握していないなど,犯行に関する情報をほとんど把握していない場合には,犯行に対する認識の度合いが低いといえ,正犯意思が否定される可能性があります。また,共犯者間での連絡等がなく,人的関係が希薄であることも,正犯意思を否定する方向に働きます。

エ 利益の帰属
 例えば,犯行に加担することで一定の報酬をもらっている場合には,自己の犯罪を実現するものとして正犯意思が肯定される可能性が高いといえます。
他方,犯行に関与して利益が上がっている場合でも,その報酬を一切受け取っておらず利益を何ら享受していない場合には,他人の犯罪に加担したに過ぎないといえ,正犯意思が否定される可能性があるといえます。

オ 犯行前後の行為
 例えば,犯行前の準備や犯行後の隠ぺい工作に加担していたり,実行行為者への事後報告を行うなどしていた場合には,これらの事実が正犯意思を肯定する方向に働きますが,逆に,以上のような行為を何ら行っていなければ,そのこと自体が,正犯意思が否定される方向に働きます。

(3)共同正犯か幇助犯かについての検討

 以上のように,共同正犯か否かを判断する上では,様々な要素が考慮されることになりますが,一般的な振り込め詐欺では,犯行の動機として自身の利益を目的としている場合がほとんどであり,組織的な犯行の一部を担って重要な役割を担当していることも多く,犯行によって得られた利益の一部を享受していることが通常であることから,犯行全体について深い認識を有しておらず,犯行前後に特段行動を起こしていなかったとしても,自己の犯罪を実現するものということは否定し難く,正犯意思が肯定される場合がかなり多いのではないかと考えられます。そのため,本件でも,運び役しか担当しませんが,詐欺罪及び窃盗罪の共同正犯として処罰される可能性が高いと思われます。

3 盗品等運搬罪との関係(最初から計画に参加していない場合は運搬剤のみの成立となります。)

  本件における息子さんが詐欺窃盗の後に,盗んだ物(盗品)であると了解して運搬したものであれば,形式的には,盗品等運搬罪(刑法256条1項,2項)に該当すると考えられます。
  しかし,息子さんが計画に最初から参加していたような場合は(本犯者,本件でいえば窃盗及び詐欺の共同正犯となるような場合)盗品等に関する罪を実行しても不可罰的事後行為とされて処罰されません。また,盗品等運搬罪は,特に事後従犯的(事後従犯は犯罪行為を容易にしていないので不可罰です。)色彩が強い行為態様であると考えられますが,本件の息子さんのような行為は,運搬罪ではなく,本犯者として全員で一体的に犯罪を行っているとみなされる可能性が極めて高いでしょう。このような社会的事実に即して,検察官の判断により,盗品等運搬罪ではなく,窃盗及び詐欺の共同正犯として起訴されることがほとんどだと考えられます(刑事訴訟法248条,起訴便宜主義)。
  そして,裁判所も,起訴された事実以外の罪については判断できませんので,盗品等運搬罪については,事実上考える必要がないことが多いと思われます。ただし,予備的訴因等により,仮に盗品等運搬罪が起訴された場合には,同罪により有罪となることを相当程度覚悟する必要があります。

4 量刑

 量刑についても具体的事案によって相当異なってきますが,被害結果が500万円を超えるような重大事件では,仮に前科・前歴がなかったとしても,近年振り込め詐欺が社会問題化していて発生を予防する必要が高いことや,組織的・職業的に犯罪が行われて手口も巧妙化し悪質であることが多いことを考えると,懲役2年から3年の実刑判決が下される可能性が十分あります。
 他方,被害額が100万円程度にとどまり,犯行による利得が低く,犯罪への積極的関与もあまりないような事案だと,執行猶予(犯情により必ずしも現実的な刑の執行を必要としない場合に,一定期間その執行を猶予し,猶予期間を無事経過したときは刑罰権を消滅させること)の判決が下る可能性もあります。
 このように,振り込め詐欺の事案では,共同正犯と評価されることに対して十分防御し,良い情状を多く主張することで執行猶予判決をもらうことに全力を挙げる必要があるといえますので,ぜひ刑事事件の経験が豊富な弁護士に依頼をし,実刑判決の可能性をなるべく低くするよう努力することをお勧めいたします。


<参考判例>
最判昭和33年5月28日
「共謀共同正犯が成立するには,二人以上の者が,特定の犯罪を行うため,共同意思の下に一体となつて互に他人の行為を利用し,各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし,よつて犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがつて右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上,直接実行行為に関与しない者でも,他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行つたという意味において,その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか,その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するを相当とする。他面ここにいう「共謀」または「謀議」は,共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから,これを認めるためには厳格な証明によらなければならないこというまでもない。しかし「共謀」の事実が厳格な証明によつて認められ,その証拠が判決に挙示されている以上,共謀の判示は,前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り,さらに進んで,謀議の行われた日時,場所またはその内容の詳細,すなわち実行の方法,各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない。」

最判昭和57年7月16日
「...原判決の認定したところによれば,被告人は,タイ国からの大麻密輸入を計画した山本博からその実行担当者になつて欲しい旨頼まれるや,大麻を入手したい欲求にかられ,執行猶予中の身であることを理由にこれを断つたものの,知人の中野正彦に対し事情を明かして協力を求め,同人を自己の身代りとして山本に引き合わせるとともに,密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部(金二〇万円)を山本に提供したというのであるから,これらの行為を通じ被告人が右山本及び中野らと本件大麻密輸入の謀議を遂げたと認めた原判断は,正当である。」


B最高裁判所第一小法廷(強盗被告事件)平成13年10月25日決定  この決定は、母親に間接正犯は成立せず、12歳の子供との強盗の共同正犯としている。

       主   文

本件上告を棄却する。(第一審、懲役3年8月の実刑)
当審における未決勾留日数中270日を本刑に算入する。

       理   由

 弁護人大塚利彦の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお、所論にかんがみ,職権で判断する。 
 原判決及びその是認する第1審判決の認定によると,本件の事実関係は,次のとおりである。
 スナックのホステスであった被告人は,生活費に窮したため,同スナックの経営者C子から金品を強取しようと企て,自宅にいた長男B(当時12歳10か月,中学1年生)に対し,「ママのところに行ってお金をとってきて。映画でやっているように,金だ,とか言って,モデルガンを見せなさい。」などと申し向け,覆面をしエアーガンを突き付けて脅迫するなどの方法により同女から金品を奪い取ってくるよう指示命令した。Bは嫌がっていたが,被告人は,「大丈夫。お前は,体も大きいから子供には見えないよ。」などと言って説得し,犯行に使用するためあらかじめ用意した覆面用のビニール袋,エアーガン等を交付した。これを承諾したBは,上記エアーガン等を携えて一人で同スナックに赴いた上,上記ビニール袋で覆面をして,被告人から指示された方法により同女を脅迫したほか,自己の判断により,同スナック出入口のシャッターを下ろしたり,「トイレに入れ。殺さないから入れ。」などと申し向けて脅迫し,同スナック内のトイレに閉じ込めたりするなどしてその反抗を抑圧し,同女所有に係る現金約40万1000円及びショルダーバッグ1個等を強取した。被告人は,自宅に戻って来たBからそれらを受け取り,現金を生活費等に費消した。
 上記認定事実によれば,本件当時Bには是非弁別の能力があり,被告人の指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく,Bは自らの意思により本件強盗の実行を決意した上,臨機応変に対処して本件強盗を完遂したことなどが明らかである。これらの事情に照らすと,所論のように被告人につき本件強盗の間接正犯が成立するものとは,認められない。そして,被告人は,生活費欲しさから本件強盗を計画し,Bに対し犯行方法を教示するとともに犯行道具を与えるなどして本件強盗の実行を指示命令した上,Bが奪ってきた金品をすべて自ら領得したことなどからすると,被告人については本件強盗の教唆犯ではなく共同正犯が成立するものと認められる。したがって,これと同旨の第1審判決を維持した原判決の判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田顯)


<参考条文>
刑法
第二十五条  次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間,その執行を猶予することができる。
一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。ただし,次条第一項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者については,この限りでない。
(共同正犯)
第六十条  二人以上共同して犯罪を実行した者は,すべて正犯とする。
(幇助)
第六十二条  正犯を幇助した者は,従犯とする。
2  従犯を教唆した者には,従犯の刑を科する。
(従犯減軽)
第六十三条  従犯の刑は,正犯の刑を減軽する。
(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は,十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。
(盗品譲受け等)
第二百五十六条  盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の懲役に処する。
2  前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、十年以下の懲役及び五十万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

<参考文献>
小林充・植村立郎編「刑事事実認定重要判決50選(上)」
前田雅英「刑法総論講義(第5版)」
前田雅英「刑法各論講義(第5版)」
西田典之「刑法各論(第4版)」
最高裁判所判例解説刑事編平成14年


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