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No.1336、2012/9/11 14:13 https://www.shinginza.com/qa-syounen.htm

【少年事件・観護措置決定に対する異議申し立て・東京家裁平成13年7月27日決定・水戸家庭裁判所平成14年3月19日決定】

質問:昨日、16歳になる息子が通学途中の電車内で、女性に痴漢行為をした迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されました。息子は大筋で容疑を認めていたのですが、本日、息子に観護措置決定が出て鑑別所に送致されたという連絡がありました。息子は私立高校に通っており、これ以上身柄拘束が続くと欠席の言い訳がつかず、退学になってしまいます。観護措置決定に対して異議申立てという手続きをすることにより身柄を解放してもらえる可能性があることを知りました。どのような事情があれば異議申立てを認めてもらえるものなのでしょうか。

回答:
1.既に観護措置決定が出ていますので、息子さんはこのまま何もしなければ最長で4週間、鑑別所での身柄拘束が続くことになります。観護措置決定に不服がある場合、不服申立のための手続きとして、家庭裁判所に異議申立てをすることができます。
2.息子さんの場合、退学の危険が迫っていますので、異議申立てによる身柄解放を検討すべきでしょう。異議申立てにおいては、主として、@罪証隠滅のおそれがないこと、A逃亡のおそれがないこと、B心身鑑別の必要性がないことをどれだけ説得的に主張、疎明できるかがポイントとなります。早急な対応が必要となりますので、速やかに弁護士に相談されることをお勧めいたします。
3.異議申立てが認められる方向に働き得る事情の一例を解説で説明いたしますので、ご参照下さい。
4.少年事件関連事例集1220番1113番1087番1039番777番716番714番649番461番403番291番245番244番161番参照。

解説:
1.(息子さんの現在置かれている状況)
 少年事件における逮捕に続く身柄拘束手続としては、成人事件と同様、勾留という手続が予定されています。刑事訴訟法上、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとして逮捕された者(被疑者)については、身柄拘束から48時間以内の送検手続(警察が事件を検察官に送致する手続き)を経た上、送検から24時間以内(逮捕と合わせて72時間以内)に検察官において裁判官に被疑者の勾留を請求するか被疑者を釈放するかを決定することとされており(刑事訴訟法203条1項、205条1項・2項・4項、216条)、勾留請求が認められた場合、原則10日間(刑事訴訟法208条1項)、検察官がさらに取調べや証拠収集をしなければ被疑者の最終的な処分を決定することが困難と判断した場合、さらに10日間(逮捕と合わせて最長23日間)身柄拘束が続くことになります(刑事訴訟法208条2項、216条)。
 そして、少年事件の場合、勾留後に事件が家庭裁判所に送致され、家庭裁判所が送致後24時間以内に観護措置決定をとるかどうかの判断をする(少年法17条2項)というのが原則的な手続です。もっとも、軽微な痴漢事件のような罰金以下の罪にあたる犯罪(成人事件だと迷惑防止条例違反として罰金となることがほとんどです)については、検察官に送致することなく事件を直接家庭裁判所に送致しなければならないとする特則が置かれています(少年法41条)。本件では、この特則により、息子さんは警察から直接家庭裁判所に事件が送致され、観護措置決定がとられたものと考えられますが、実務上はこのような場合でも検察官に送致することが多いと思います。ただ、検察官は否認等していない限り取調べの必要なしとして勾留請求をせずに家裁に観護措置必要の意見を付して送ることになります。

 ここで、観護措置とは、家庭裁判所が事件や少年の審判を行うために、少年の心情の安定を図りながら少年の身柄を保全するとともに、少年の心身の鑑別等をするための措置のことをいいます。観護措置には、在宅の状態で家庭裁判所調査官の監護に付する措置(少年法17条1項1号)と身体拘束を伴う少年鑑別所(少年の資質の科学的な調査・診断を行うことを目的とした専門施設)送致(少年法17条1項2号)の2種類がありますが、在宅での調査官観護は殆ど行われていないため、一般的には観護措置というときは鑑別所送致を指します。本件で息子さんに観護措置決定が出たということは、家庭裁判所が審判を行うために鑑別所送致の必要性があると判断したことを意味します。鑑別所への収容期間は原則2週間、特に継続の必要がある時に限って2週間の限度で更新できることとされていますが(少年法17条3項・4項本文)、実務上は殆どの事件で1度更新されることが通例となっています。したがって、息子さんは、このまま何もしなければ、最大で4週間、少年鑑別所での身柄拘束が続いた上、少年審判にかけられ、処遇が決定されることになります。

 これらの手続は、少年の非行性を解消し、少年の健全な育成という少年法の目的(少年法1条)を達成するための適切な処遇を検討するためのものであり、少年の立ち直りのための手続きと位置付けることができますが、強制的な身柄拘束に伴う不利益の点で、かえって少年の立ち直りを阻害するのではないかと思われる場面もしばしば見受けられます。本件では、非行内容が軽微な痴漢事件である一方、身柄拘束の長期化により退学等の重大な不利益を受ける危険があり、息子さんの更生のための適切な措置という観点からも、家庭裁判所の観護措置決定の判断には首を傾けざるを得ないところです。
 このような場合に、観護措置決定に対して不服申立てをするための手続が、ご指摘の異議申立てです。

2.(異議申立てとは)
 異議申立てとは、観護措置決定に対する不服申立ての手続きをいい(少年法17条の2第1項)、申立てを行うと、観護措置決定に関与した裁判官以外の裁判官による合議体により、改めて観護措置決定の適否が判断されることになります(少年法17条の2第3項)。異議申立てが認められた場合、観護措置決定が取り消され、息子さんは身柄拘束を解かれることになります(少年法17条の2第4項、33条2項)。息子さんは未だ付添人(弁護士)が付いておらず、観護措置決定までの時間的制約(刑事訴訟法203条1項、少年法41条、17条2項)等により、家庭裁判所に対する十分な意見の上申や関係資料の提出等ができなかった結果、息子さんに有利な事情を何ら考慮してもらえず鑑別所送致となってしまっている可能性があると思われます。したがって、異議申立てにあたっては、息子さんに有利な事情の主張や関係資料の提出等を積極的に行っていく必要があります。このような活動を行うことができるのは付添人弁護士だけです。

3.(観護措置の要件)
 異議申立てが観護措置の要件を満たすとして観護措置を認めた裁判に対する不服申立であることから、異議申立てにおいては観護措置の要件を欠いていることを主張していくことになります。観護措置の要件としては、少年法上、「審判を行うため必要があるとき」としか規定されていませんが、実務上は(1)審判条件があること、(2)少年が非行を犯したことを疑うに足りる相当な事情があること、(3)審判を行う蓋然性があること、(4)観護措置の必要性があること、の各要件を満たす必要があると考えられています。このうち、(1)は本件では問題とならず、(2)についても、痴漢行為を行ったことについて争いがない本件ではやはり問題となりません。(3)については、ここでいう審判にはその前提となる調査も含まれると考えられており、極めて広い要件となっているため、主張展開の主戦場ではないでしょう。異議申立ての際、通常問題とされるのは(4)観護措置の必要性の有無です。

 (4)観護措置の必要性としては、(@)調査、審判及び決定の執行を円滑、確実に行うために、少年の身柄を確保する必要があること、(A)緊急的に少年の保護が必要であること、(B)少年を収容して心身鑑別をする必要があること、という3つの事由のうちいずれかが存在することを意味すると解されています。(@)身柄確保の必要性は、基本的に勾留の要件である「勾留の理由」(刑事訴訟法207条1項、60条1項1号乃至3号)と同じ要件であり、住所不定、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、逃亡すると疑うに足りる相当な理由のいずれかの事情があることを指します。息子さんの場合、定まった住居はあるようですので、本件で問題となるのは、罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれということになります。ここでいう罪証とは、犯罪の成否および重要な情状に関する証拠のことを指します。そして、罪証隠滅のおそれが肯定されるためには、その程度が単なる抽象的可能性ではなく具体的資料に基礎づけられた相当程度高度な可能性に達している必要があります。(A)緊急保護の必要性は、薬物濫用によって中毒症状が出ているときや、自傷・自殺のおそれがあるとき、家族から虐待を受けているとき、暴力団等の反社会的団体との関わりが認められる、といった特殊な場合に問題となる要件ですので、詳しい説明は割愛します。(B)心身鑑別の必要性は、外界から遮断して継続的な行動観察を行わないと処遇選択ができない場合を意味します。

 以上のとおり、息子さんの場合、異議申立てにおいては、主として@罪証隠滅のおそれがないこと、A逃亡のおそれがないこと、B心身鑑別の必要性がないことをどれだけ説得的に主張、疎明できるかどうかがポイントとなります。
 以下では、観護措置の要件が否定される方向に働きうる事情の一例を示します。

4.(異議申立てが認められるような事情)
○非行の態様及び結果が軽微であること
 非行の態様及び結果が軽微な場合、一般的には、少年が将来再非行に陥る危険性の少ない一過性の非行であるとして、要保護性を低減させる方向に働きうる事情であるため、B身柄拘束を伴う心身鑑別までの必要性はないといえます。また、事案の軽微性により不処分等の軽い処分が見込まれる場合には、少年があえて要保護性を高めるような悪情状を作り出してまで罪証隠滅を行ったり逃亡したりする動機に乏しいといえるので、@罪証隠滅のおそれやA逃亡のおそれもないといえます。逆に、非行態様が悪質であったり、常習性が疑われるような場合、要保護性が高いと判断され易くなり、@罪証隠滅のおそれ、A逃亡のおそれ、B心身鑑別の必要性ともに肯定され易くなります。非行態様及び結果がいかなるものであるかについては、第一次的には、付添人を選任して直ちに鑑別所に面会に行ってもらい、息子さんから直接詳細な事情をお聞きすることで確認する必要があるでしょう。

○被害者供述等の証拠が確保されていること
 例えば、既に捜査機関によって被害者の詳細な供述調書が作成されているような場合、既に保全されている供述調書等の隠滅を図ることはおよそ不可能といえます。また、痴漢の事案においては、被害者の供述調書のみで非行事実の立証として十分であることが多いため、働きかけ自体が無意味ともいえます(少年審判においては、少年の健全育成という少年法の目的を達成するための柔軟な審理・処分を可能にするため、成人事件とは異なり、職権主義的審問構造が採用され、伝聞法則(刑事訴訟法320条以下)の適用もありません。そのため、被害者の供述調書も含め、捜査機関が作成した事件記録は全て家庭裁判所に送付され(少年審判規則8条2項)、事実認定の基礎とされることになります。
このように、非行事実を立証するに足りる証拠が確保されている以上は、罪証隠滅の動機が生じえない故、@罪証隠滅のおそれはないというべきでしょう。

○被害者や目撃者等の連絡先を知らないこと
 痴漢事犯において、追加の被害者取調べが予定されているような場合、罪証隠滅の態様としては、少年に不利な供述を封じたり供述を変遷させる目的で、被害者や犯行の目撃者等関係者に対して威迫等により働きかけをすることが考えられます。しかし、被害者等関係者の連絡先が分からないのであれば、かかる働きかけは現実的には相当困難であり、威迫等による@罪証隠滅の可能性はないといえます。

○供述状況
 少年が、逮捕当初から犯行事実を全面的に認め、詳細な自白調書が作成されているような場合、かかる真摯な供述態度にある者が被害者ら事件関係者に対する働きかけや逃亡等をすることは通常考えられないですし、事実を全面的に認めているということは内省と悔悟を示す事情として要保護性を低減させる事情でもあるため、重い保護処分を避けるために罪証隠滅や逃亡をする動機がないという意味でも、@罪証隠滅のおそれやA逃亡のおそれはないといえます。逆に犯行を否認する供述(例えば、犯人性自体を否定する供述や、「手が触れていたのは事実だが、意図して触れたものではない」といった故意を否認する供述など)や、非行自体は認めていても非行態様についての説明が少年と被害者等との間で大きく食い違っているような場合、また、供述内容等から余罪や常習性が合理的に疑われる等の場合には、@罪証隠滅のおそれ及びA逃亡のおそれが肯定される方向に判断されることになるでしょう。もっとも、このような場合には、継続捜査の必要性の観点から、身柄拘束手続として勾留(刑事訴訟法207条1項、60条1項)又は勾留に代わる観護措置(少年法43条1項)がとられることが多いと思われます(その場合、身柄拘束についての不服申立の手段としては、準抗告(刑事訴訟法429条1項2号)になります。準抗告が認められるような事情については、当事務所事例集1262番にて解説してありますので、ご参照下さい。)。
 息子さんの場合、大筋で容疑を認めているにもかかわらず観護措置決定が出てしまっているとのことですが、軽微な痴漢の事案で決定に至っているということはそれ相応の理由があるはずですので、付添人に少年及び被害者双方の供述状況等について確認してもらうことが不可欠といえます。供述調書をはじめとする非行事実の存否に関する事件記録は、法律記録と呼ばれ、審判開始決定があった後であれば(観護措置決定が出ている事件の場合、実際上は、事件が家庭裁判所の担当裁判官に配転されると、直ちに審判開始決定が出されることが殆どです。)、何時でも閲覧・謄写できます(少年審判規則7条2項)。

○被害者に対する謝罪及び被害弁償の準備があること
 軽微な痴漢事件の場合、成人事件においては、被疑者段階で被害者と示談ができれば不起訴処分となる可能性が大きく高まりますが、少年事件においては、刑罰による応報ではなく、少年の健全育成(少年法1条)という観点から、要保護性(少年の性格や環境に照らして将来再非行に陥る危険性・程度、保護処分による矯正可能性、保護処分が最も有効かつ適切な処遇といえるかどうか)の有無・程度が審判対象となるため、仮に示談が成立しても、それによって直ちに不処分となるわけではありません。そのため、成人事件とは異なり、示談の成立をもって、直ちに観護措置の取消事由となるわけではない点に注意が必要です。
 もっとも、被害者に対する謝罪及び被害弁償(実際上、謝罪金は少年を監督する立場にある両親が用立てることが多いと思います。)の準備があることで、少年の深い内省、さらには罪証隠滅の主観的可能性や逃亡の意思がないことを示すことができますし、保護者に監督者としての資質に問題がないことを強調することで、@罪証隠滅のおそれのみならず、A逃亡のおそれ、B心身鑑別の必要性との関係でも有利に斟酌してもらえることもあります。具体的には、被害者宛の謝罪文の作成や付添人に示談金預かり証や示談経過報告書等を作成してもらうことで対応していく必要があります。

○非行歴、余罪、常習性が見られないこと
 仮に非行態様が軽微なものであったとしても、同様の非行が過去、多数回にわたり繰り返されてきたような場合、非行の原因が根深く、再非行の可能性(要保護性)が高いと判断され、少年院送致等の重い処分が下されることがあります。そのような場合、少年に対する適切な保護処分を決定するために、継続的な行動観察による少年の資質調査の必要性が高まるため、B心身鑑別の必要性が肯定され易くなります。また、少年院送致等の重い処分が予想される場合、@罪証隠滅やA逃亡の動機付けにも繋がりえます。逆に、過去に非行歴がなく、余罪がないような場合であれば、@罪証隠滅のおそれ、A逃亡のおそれ、B心身鑑別の必要性ともに否定の方向に働くことになります。

○少年の生活状況や資質に問題が見られないこと
 少年の家庭環境や保護者による監護状況、就学環境等、少年の生活環境に問題がないことは、強制的な措置によらずとも日常生活の中で自律的更生を図っていけるだけの環境が整っていることを意味するものであり、B心身鑑別の必要性を否定する事情となります。例えば、少年が普段真面目に学校に通っていたこと、両親と同居しながら適切な教育・指導監督の下生活してきたこと(ごく一般的な安定した家庭環境であること)、少年に目立った問題行動が見られなかったこと等の事情は積極的に主張・疎明していく必要があります。疎明資料としては、学校の通信表や部活動の表彰状等を用いることが多いと思います。
 逆に、少年が日常的に家出や放浪を繰り返していたり、保護者の教育姿勢に問題があるような場合、A逃亡のおそれやB心身鑑別の必要性が認められ、異議申立てが棄却されてしまう可能性が高いといえます。

○少年の反省
 少年が非行を反省し、自らの非行の原因を真剣に考え、立ち直りに向けた決意を有しているとすれば、それは少年が自ら更生のための第一歩を歩み始めていることに他なりません。少年が反省を深め、更生意欲を持っているということは要保護性が低減していることに他ならないため、B心身鑑別の必要性を否定する方向に働くことになります。
 この点については、息子さんに対する付添人らの適切な指導を前提に、被害者に対する謝罪文や反省文の作成等により客観的に明らかにしていく必要があるでしょう。

○身元引受人(両親ら)による監督が期待できること
 身元引受人とは、身柄解放の際少年の身元を責任を持って引き受け、再び非行を犯したり逃亡等しないよう指導、監督することを誓約する者のことです。少年と同居する両親等、適切な者が少年の指導、監督を約することによってA逃亡のおそれは低減すると考えられるため、付添人の指導の下、身元引受書や上申書を作成すること等によりA逃亡のおそれがないことを積極的に明らかにしていく必要があります。
 その際には、少年を監督する親としての立場から、少年の非行の原因を真剣に考察し、少年の問題を解消するための具体的方策等を示すことができれば、より効果的でしょう。少年の保護者としての監督意思や監督能力・素質に問題がないことを具体的に示すことで、要保護性が存在しないこと、さらにはB心身鑑別の必要性がないことを、より明らかにすることができるでしょう。
 そのためには、息子さんの更生に向けたご両親の協力が不可欠といえます。少年を可愛がってくれた祖父母も重要です。

○身柄拘束が続くことによる不利益が大きいこと
 少年が学生の場合、逮捕・勾留に引き続きさらに4週間の鑑別所留置が続いた場合、学校による退学処分の危険が大きく、また、定期試験や入学試験を受験できないことによる留年や進学不能など、取り返しのつかない重大な弊害が生じる可能性が高いといえます。もし退学処分等になるようなことがあれば、少年の精神的なダメージは計り知れず、後の人生に重大な悪影響を及ぼす可能性が高いといえますし、少年の立ち直りのための環境調整という観点からも、かえって更生のための環境を悪化する結果となりかねません。このような場合、Bあえて少年を鑑別所に収容してまで心身鑑別をすべき必要性がないことは明らかといえます。

5.(本件)
 以上に示したのは、あくまで観護措置の要件を否定する方向に働き得る事情のほんの一例に過ぎません。実際に異議申立てを行うにあたっては、付添人において息子さん及びご両親と直接面談して詳細な事情を把握した上、観護措置の要件との関係で説得的な主張を記載した申立書面を作成してもらうことが不可欠といえます。前述のとおり、息子さんはこのまま何もしなければ最大で4週間、身柄拘束が続くことになりますので、退学処分等の重大な事態を回避するためには早急な対応が必要です。速やかに弁護士に相談されることをお勧めいたします。

≪参照判例≫

1.東京家裁平成13年7月27日決定(火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反保護事件の観護措置決定に対する異議申立て事件)
       主   文
原決定を取り消す。
       理   由
1 申立ての趣旨及び理由
 O・K子作成の異議申立書のとおりであるから、これを引用する。 
2 当裁判所の判断
 本件は,少年が,暴走族「△△」の構成員ら数名と共謀の上,駐車場内において,ビールびんにガソリンを入れた上,同びんの口からタオル片をびんの中に差し込んでガソリンに浸すとともに他の一方を外に露出させて発火装置とした火炎びん約10本を製造したという事案であり,一件記録によれば,少年が本件に及んだことは明らかである。他方,少年は,平成12年11月ころから同暴走族の構成員らと親交を持ってきたものの,同暴走族への加入の誘いは極力断ってきた上,本件においても,同暴走族の構成員から呼び出されて本件火炎びん製造現場で見張りをしていたに過ぎない。また,その直前少年は,共犯者と共に,本件火炎びん製造に使われたビールびん2ケースを盗んできているものの,それらが火炎びん製造に使われるとの明確な認識があったとまでは認められない。このような事情に加え,少年は,本件後は同暴走族の構成員らとの交際を避けるために,学校にも登校せず親類宅に身を隠して生活してきたが,共犯者らが身柄拘束された後は自宅に戻って真面目に学校に通うようになっていたこと,その他少年の非行歴は比較的軽微なものに止まっていること及び保護者の監護意欲などをも併せ考えると,少年に対する処遇選択のために,少年を少年鑑別所に収容した上で心身の鑑別を行うまでの必要があるとは言えず,他に少年を少年鑑別所に送致すべき事由も見あたらない。
 よって,少年を少年鑑別所に送致した原決定は失当であり,本件異議申立ては理由があるから,少年法17条の2第4項,33条2項により主文のとおり決定する。

2.水戸家庭裁判所平成14年3月19日決定(恐喝保護事件の観護措置決定に対する異議申立事件)
       主   文
原決定を取り消す。
       理   由
1 申立ての趣旨及び理由
 申立人○○作成の異議申立書のとおりであるから、これを引用する。
2 当裁判所の判断
 本件は,少年及び少年の友人4名が居酒屋で飲酒したところ,予想外に飲食代金がかさんだことから,小遣い稼ぎのために5人で恐喝することを相談し,駅近くの暗い路上で通行人を待ち伏せした上,少年の友人3名において,通行人を取り囲み,少年及びその友人1名において,通行人に「お金がないので貸してくれますか。」「お金ないんだよね。」などと声をかけて,現金約7000円を同人から脅し取ったという事案である。そして,一件記録によれば,少年が本件に及んだことは明らかであるところ,その態様は,夜間,暗がりの路地上で,多人数で1人の被害者を取り囲んで恐喝に及ぶというものである上,少年は,立件されてはいないものの,本件に前後して2度にわたって同種の恐喝を敢行した旨供述している。しかしながら他方,少年は逮捕直後から一貫して本件犯行を認めていること,本件は上記のとおり,飲酒代金が予想外に高くついたことからその穴埋めのため,にわかに思いついて行ったものであって計画性に乏しいこと,少年は東京所在の大学に在学中で,真面目に通っていたものであり,日常生活も大過なく送っていること,少年は平成11年に万引きをして審判不開始(事案軽微)とされたものの,その後は本件に至るまで非行歴がないこと,保護者の監護意欲も認められること,少年は逮捕勾留による身柄拘束を受けたことで,本件について反省の念を深めていること,更に本件に加担した5人のうち3人が逮捕勾留を経た後,観護措置を執られず帰宅を許されていること等の事情を考慮すると,少年に対する処遇選択のために,少年を更に少年鑑別所に収容した上で心身の鑑別を行うまでの必要があるとはいえず,他に少年を少年鑑別所に送致すべき事由も見あたらない。 
 よって,少年を少年鑑別所に送致した原決定は失当であり,本件異議事立ては理由があるから,少年法17条の2第4項,33条2項により,主文のとおり決定する。

3.福岡家庭裁判所小倉支部平成15年1月24日決定(道路交通法違反,自動車損害賠償保障法違反保護事件の観護措置更新決定に対する異議申立て事件)
       主   文
原決定を取り消す。
       理   由
1 本件異議申立ての趣旨及び理由は、法定代理人作成の異議申立書に記載のとおりであるから,これを引用するが,要するに,少年は深く反省しており,少年について特に観護の措置を継続する必要があるとしてこれを更新した原決定は不当であるというものである。
2 当裁判所の判断
 一件記録によれば,本件は,少年が,公安委員会の運転免許を受けないで,自動車損害賠償保険契約が締結されていない原動機付自転車を運転し,道路標識によって一時停止すべき場所として指定された交差点に入るに際し一時停止せず,別の交差点に設置された信号機が赤色灯火の信号を表示しているのに気付かず,これに従わないで同交差点を運転通行した事案である。 
 少年は,平成14年5月ころから無免許で上記無保険の原動機付自転車を継続的に運転しており,この点について両親の指導にも服しなかったものであるが,これまで少年に前歴はなく,アルバイトをしながら高校に在学し,両親と同居していたこと,本件事案は比較的軽微であること,少年は,本件非行を警察官に現認されており,逮捕当初から非行事実を認めていること,両親が今後の監督及び裁判所への出頭確保を約束していることなどの事情を考慮すると,現段階において,罪証隠滅及び逃亡のおそれや少年を収容して心身鑑別をすべき必要性は少なく,その他に少年の収容を継続すべき事由は見当たらない。これらの事情に加え,少年は現在高校3年生で,本件観護措置更新後の平成15年1月28日から,卒業のために必要な学期末試験を控えていることも,事案の性質,少年のこれまでの生活状況等に照らし軽視することはできない。
 以上によれば,少年に対する適切な処遇を決めるために,本件観護措置を特に継続する必要があるということはできない。
3 よって,本件異議申立ては理由があるから,少年法17条の2第4項,33条2項により,主文のとおり決定する。

4.札幌家庭裁判所平成15年8月28日決定(窃盗未遂保護事件のみなし観護措置に対する異議申立て事件)
       主   文
少年に対し,平成15年8月22日に事件が札幌家庭裁判所に送致されたことにより,家庭裁判所がしたとみなされる観護措置を取り消す。
       理   由
第1 申立ての趣旨及び理由
 付添人○○作成の異議申立書記載のとおりであるから,これを引用する。
第2 当裁判所の判断
1 本件は,少年が,共犯少年3人と共謀して,工具を用いて自動販売機から現金及び清涼飲料水を窃取しようとしたが目的を遂げなかった事案である。
2 そこで,観護措置の必要性について検討するに,本件の犯行態様は芳しくない上,少年は,当初,捜査機関に対し共犯少年をかばう内容の供述をしていたが,その後,共犯関係についても自白するに至っており,本件の全容が明らかになっていること,本件非行が未遂に終わっていること,少年は,これまで非行歴や補導歴はなく,高校にもほとんど欠席することなく通っており,生活態度にも大きな問題は認められないこと,少年の家庭環境は安定しており,両親共に健在であり,少年の身元引受け及び今後の手続への出頭を誓約していることなど,両親の監督も期待できることのほか,少年が,既に相当長期間の身柄拘束を受け,反省の念を示していること,身柄拘束の継続によって少年が被る可能性のある不利益の程度等を考慮すると,少年が罪証を隠滅するおそれがあるとまではいえず,逃亡のおそれも認められない上,少年の身柄を拘束してまでその心身を鑑別する必要があるとは認められない。また,その他に観護措置の必要性を基礎づける事由も見当たらない。
3 よって,本件異議申立ては理由があるから,少年法17条の2第4項,33条2項により,主文のとおり決定する。

≪参照条文≫

刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百四条  検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○2  検察官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
3  第一項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
4  前条第二項の規定は、第一項の場合にこれを準用する。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2  裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百十六条  現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。
第三百二十条  第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
第四百二十九条  裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
二  勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判

少年法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
第十七条  家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一  家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二  少年鑑別所に送致すること。
2  同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。
3  第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。
4  前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に二回を限度として、行うことができる。
(異議の申立て)
第十七条の二  少年、その法定代理人又は付添人は、前条第一項第二号又は第三項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。
2  前項の異議の申立ては、審判に付すべき事由がないことを理由としてすることはできない。
3  第一項の異議の申立てについては、家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。この場合において、その決定には、原決定に関与した裁判官は、関与することができない。
4  第三十二条の三、第三十三条及び第三十四条の規定は、第一項の異議の申立てがあつた場合について準用する。この場合において、第三十三条第二項中「取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に移送しなければならない」とあるのは、「取り消し、必要があるときは、更に裁判をしなければならない」と読み替えるものとする。
(抗告審の裁判)
第三十三条  抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定をもつて、抗告を棄却しなければならない。
2  抗告が理由のあるときは、決定をもつて、原決定を取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に移送しなければならない。
(司法警察員の送致)
第四十一条  司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
(勾留に代る措置)
第四十三条  検察官は、少年の被疑事件においては、裁判官に対して、勾留の請求に代え、第十七条第一項の措置を請求することができる。但し、第十七条第一項第一号の措置は、家庭裁判所の裁判官に対して、これを請求しなければならない。
2  前項の請求を受けた裁判官は、第十七条第一項の措置に関して、家庭裁判所と同一の権限を有する。
3  検察官は、少年の被疑事件においては、やむを得ない場合でなければ、裁判官に対して、勾留を請求することはできない。

少年審判規則
(記録、証拠物の閲覧、謄写)
第七条  保護事件の記録又は証拠物は、家庭裁判所の許可を受けた場合を除いては、閲覧又は謄写することができない。
2 附添人は、前項の規定にかかわらず、審判開始の決定があった後は、保護事件の記録又は証拠物を閲覧することができる。
(家庭裁判所への送致の方式)
第八条  検察官、司法警察員、都道府県知事又は児童相談所長が事件を家庭裁判所に送致するには、次に掲げる事項を記載した送致書によらなければならない。
一 少年及び保護者の氏名、年齢、職業及び住居並びに少年の本籍
二 審判に付すべき事由
三 その他参考となる事項
2 前項の場合において書類、証拠物その他参考となる資料があるときは、あわせて送付しなければならない。


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