新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1344、2012/9/25 15:25 https://www.shinginza.com/qa-syounen.htm

【少年事件・少年事件における調査官面談、家庭訪問について・東京家庭裁判所平成23年7月27日決定】

質問:19歳大学生の息子が,自宅の近所にて,女児の胸部を触れる等の行為を行い,強制わいせつ罪で逮捕されてしまいました。面会に行き息子に確認したところ,自分がやったことに間違いないようです。現在息子は,収容観護措置の決定により,鑑別所に収容されております。このような中,息子の事件を担当する家裁調査官より家庭訪問をしたいとの申入れを受けました。家裁調査官の家庭訪問には,どのような目的があり,またどのようなことが聞かれたりするのでしょうか。教えてください。

回答:
1.家庭訪問の趣旨
家庭訪問では,住居の内覧(主に少年の部屋)と,御両親との面談などが実施され,少年が非行に至った経緯・原因を分析する材料および,御両親が少年の監督者として適切であるか否かを判断する材料が収集されることになります。
2.家裁調査官の住居の内覧について
(1)家裁調査官からの質問
住居の内覧に際して,家裁調査官は,気になったことを御両親に質問することがあります。例えば,少年の部屋に,写真が飾られていた場合,そのことに気がついた調査官は「この写真は,いつの写真ですか」等と両親に問いかけることになります。このときに,御両親が何も答えられないとすると,少年について興味が無いのではないか,親子関係が円滑ではなかったのではないか等の,疑念を生じさせ,ひいては監督者として不適格なのではないかという疑問を生じさせかねません。成人が近い19歳にもなれば,御両親の部屋への立ち入りを拒むこともあるかと思いますが,家裁調査官の内覧に先立ち,まず御両親が少年の部屋を内覧し,少年のことを今一度考えてみる必要があると言えるでしょう。
(2)住居の清掃状態について
また,住居全体が,過度に散らかっていたりする場合には,掃除を行っておくと良いでしょう。住居は,少年の社会内での更生の起点になる場所であるため,住居全体が,過度に散らかっていたりする場合には,少なからず少年の更生に悪い影響があると判断される場合があるためです。
3.家裁調査官との面談について
家裁調査官との面談では,概ね次の様なことが聞かれることになります。
事件の受止め方・少年の事件当時の様子で気になっていたこと・小さいころからの成育歴・少年の家庭での様子・勾留中に面会した際の少年の様子・少年の生活サイクル・夕食を一緒に取っていたか否か・大学での生活内容など。このほかにも,家裁調査官が少年と面談したことで気になったことが御両親に質問されることになります。
4.家裁調査官と話をする必要性について
家庭訪問の時期が,審判の期日に近い場合には,調査官が審判期日で述べる予定の処分意見なども話してくれる場合があります。家裁調査官は,少年を訴追し少年院への送致を目的とする者ではありません。少年に最も適した処遇を考えることを目的にしています。そのため,少年の処遇を決める審判において,少年院送致とならない保護観察処分の意見を述べることもあります。
ご両親に少年の更生を支える資質があるか否かは,少年院送致とならない意見を述べてもらうために欠かせないものであるため,ご両親と調査官の面談は非常に重要になります。調査官に対する少年の対応も重要であり両親の指示に従わない可能性があれば、付添人(弁護士)と共に少年に十分説明する必要があるでしょう。後記判例参照。
5.まとめ
以上説明させていただいた面談内容は,通常予測される一般的な内容であるため,個別の事件には必ずしも対応できていない部分があります。当日の面談に不安があり,いまだ弁護士を付添人に選任していない場合には,お近くの法律事務所にご相談ください。
6. 少年事件 関連事例集1336番1220番1113番1087番1039番777番716番714番649番461番403番291番245番244番161番参照。

(解説)
1.(少年法の理念について)
 少年法第1条が,その基本理念として掲げている「少年の健全育成」とは,個々の少年が社会の一員,一個の人格として成長するように,国において助力することを意味しています。少年法は,非行を犯した少年について,できるだけ処罰でなく,教育的手段によってその非行性を矯正し,更生を図ることを目的としており,刑罰は,このような教育的な手段によって処遇することができないか,不適当な場合に限って科せられることになっています。これは,少年は,精神的に未熟,不安定で,環境の影響を受けやすく,非行を犯した場合にも必ずしも深い犯罪性を持たないものが多く,これを成人と同様に非難し,その責任を追及することは適当でないということと,少年は,たとえ罪を犯した場合にも人格の発展途上にあるものとして,成人に比べればなお豊かな教育的可能性を秘めており,指導や教育によって更生させることができるのにそれを行わず前科の烙印を押してしまうことは,本人の将来のためばかりでなく,社会にとっても決して有益ではないということに基づいています。少年は、将来の社会国家を形成し担う貴重な社会的財産、宝であり、このような社会的存在を家庭、社会、国家が看過、放置することは勿論許されません。少年法は,この基本理念に基づいて,全ての少年事件を少年事件の専門機関である家庭裁判所に送致することを定め(これを,「全件送致主義」,「家裁送致主義」といいます。少年法41条,42条),保護処分によって改善更生の可能性がある以上は保護処分によって対処する(保護優先主義)という立場に立っています。

2.(少年審判での処分)
 少年事件においては,全ての事件を家庭裁判所に送致するという全件送致主義がとられていますので,原則として,成人の場合の起訴猶予に相当する処分や,家裁送致を経ない略式裁判による罰金の処分はありません。
 家庭裁判所へ送致された後は,@不処分決定A保護処分B知事・児童相談所所長送致C検察官送致(逆送)の審判がなされます。
<参考URL、裁判所の「少年事件の処分について」解説ページ>、
http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1801/index.html
 本件では、示談がなされれば、A保護処分の中の、下記(1)の保護観察の可能性が高いと思われます。

(1)保護観察
 保護観察とは,少年が20歳になるまでの間,保護観察官あるいは保護司のもとに定期的に通い,生活指導等を受ける処分をいいます。

(2)児童自立支援施設送致,児童養護施設送致
 児童自立支援施設とは,不良行為を行った又は行うおそれのある児童について,不良行為を行わないようにするために教育保護を行う施設をいいます。児童養護施設とは,保護者不在又は保護者から虐待されている児童など,環境上養護を必要とする児童を養育保護する施設をいいます。これらの施設への収容は,原則として,義務教育中の児童が対象となりますので19歳の息子さんは対象になる可能性は少ないでしょう。

(3)少年院送致
 少年院送致とは,少年を少年院に収容して,生活指導や職業指導等を行う処分をいいます。少年院には,初等少年院,中等少年院,特別少年院,医療少年院があり,初等少年院には,概ね14歳から15歳の少年が在院し,中等少年院には,概ね16歳から19歳の少年が在院しています。また,特別少年院は,非行が進んでいるなど特別の処遇が必要な少年を収容しており,医療少年院は,特別な医療措置が必要な少年を収容しています。

(4)検察官送致(逆送)
 検察官への送致には2つの類型があります。1つは,少年が審判期日までに20歳以上となる場合になされるものです。そして,もう1つの類型は,刑事処分を相当と認める場合になされるものです。具体的に説明しますと,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,検察官に送致されます。また,16歳以上の少年が犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(殺人,傷害致死等)の事件については,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときを除き,検察官に送致されます。検察官に送致された事件につきましては,原則として,検察官から起訴され,成人と同様の刑事裁判が行われます。

(5)試験観察
 家庭裁判所では,少年に対する処分を直ちに決めることが困難な場合,少年を適当な期間,家裁調査官の観察に付すことがあります。これを試験観察といいます。試験観察においては,家庭裁判所調査官が少年に対して更生のための助言や指導を与えながら,少年が自分の問題点を改善していこうとしているかといった視点で観察を続けます。試験観察は,少年の状況に応じて異なりますが,数か月程度の期間行われます。試験観察の期間中は,家裁調査官が少年の行動を観察し,少年について更生が期待できる状態になっているかなどの確認をして報告をします。この観察の結果なども踏まえて裁判官が最終的な処分を決めることになります。なお,試験観察の方法としては在宅で行う場合(これを「在宅試験観察」といいます。)と,民間の人や施設に少年を預けてその指導を委ねながら観察する場合(これを「補導委託」といいます。)があります。

3.(家裁調査官による調査について)
 家庭裁判所は,審判に付すべき少年があると思料するときは,事件について調査しなければならない(少年法8条1項)。家裁調査官は,この調査の一環として,少年に関する社会調査を行い,要保護性判断の基礎となる資料を収集し,少年の処遇についても意見を述べることになります(少年法8条少年審判規則13条)。
 この調査は非行事実についての「法的調査」と要保護性に関する「社会調査」に分けられますが,非行事実については警察・検察の捜査によって既に資料が収集されているので,家庭裁判所段階で重点が置かれるのは,後者の社会調査の方です。社会調査は,事件ごとに,担当裁判官が家庭裁判所調査官に命令することで,開始されます。家庭裁判所調査官とは,家庭裁判所に配置される専門的な公務員で,心理学,社会学等の知識を有し,養成訓練を経た,いわば家庭問題調査のプロです(裁判所法61条の2)。この調査官が,少年及び保護者と何度も面接し,学校(必要がある場合に限られるので、安易に学校への連絡は差し引かえるように付添人は要請します。成績表等は付添人が自ら収集して提出することで学校への連絡を回避しなければなりません。)その他の関係者からも事情を聴いて,少年の問題点を把握するための資料収集を行います。家庭裁判所調査官は,調査結果を「少年調査票」にまとめ,処分に関する調査官の意見を添えて裁判官に報告します。調査官の意見は裁判官の判断に影響が大きいため、付添人は調査官との交渉を積極的に行わなければなりません。

4.(少年事件における弁護の役割について)
 裁判官は調査官の処遇意見を重視する傾向にあるため,調査官の意見は,処分に大きな影響を与えることになります。そのため,事件の依頼を受けた弁護士は,付添人として,必要に応じて調査官に面会するなどして,少年の問題点や処遇方針について協議することが不可欠となります。少年事件において,成人の場合の弁護人に相当する弁護士の役割が,「付添人」です(少年法10条)。付添人は,手続の各段階で行き過ぎた公権力の行使がなされないように少年の利益を保護しつつ(適正手続保障),少年と接触を重ねて心を開かせ,内省と更生意欲を促し,保護者との橋渡しをして関係修正や環境再調整の手助けとなります。後者の面では,家庭裁判所と対立する立場ではなく,協力者としてともに少年の社会復帰を目指すものです。付添人は,被害者がいる非行では,被害弁償の交渉等も,付添人が入ることで進めやすくなる場合があります。また,付添人は家庭裁判所調査官の調査結果(社会記録)を閲覧することもでき,幅広く諸事情を踏まえた独自の意見を形成し,調査官・裁判官と面接して意見を伝え,審判期日に意見書を提出して裁判官の判断に資するといった活動が可能です。

5.(家裁調査官による家庭訪問について)
 心理学,社会学等の知識を有し,養成訓練を経た,いわば家庭問題調査のプロである家裁調査官は,少年の要保護性についての調査(社会調査)として,関係者からも事情を聴いて,少年の問題点を把握するための資料収集を行います。これは,警察機関による「少年が非行を行ったか否かの調査(法的調査)」とは異なるものです。

(1)要保護性の意味について
「要保護性」は,次の3つの要素から構成されるのが一般的です。
@再非行可能性
:少年の性格や環境に照らして,再び犯行に陥る危険性があること
A矯正可能性
:保護処分による矯正教育により再非行の危険性を除去できる可能性
   B保護相当性
:保護処分による保護が最も有効でかつ適切な処遇であること

(2)社会調査の一環としての家庭訪問
 この社会調査の一環として,家庭訪問が実施されることになります。家庭訪問では,住居の内覧(主に少年の部屋)と,御両親との面談などが実施されます。家裁調査官の面談には,少年と御両親の間に認識の相違がなかったかも確認されます。例えば,“御両親としては,少年に対して温かく接していたと思っていても,少年にとっては,御両親の態度を冷たく感じていた”ということもあります。このような相異は,少年と御両親の二者関係では認識することが困難なため,付添人などの第三者が必要となります。調査官との面談で,少年と御両親の認識の相違が初めて露見することを防ぐためにも,弁護士を付添人として選任し,付添人と少年,付添人と御両親の面談を重ねる必要があるといえるでしょう。どうしてもお困りの際は,お近くの弁護士事務所の御相談ください。

≪参考条文≫

【少年法】
第1条(この法律の目的)
この法律は,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
第2条(少年,成人,保護者)
1項 この法律で「少年」とは,20歳に満たない者をいい,「成人」とは,満20歳以上の者をいう。
2項 この法律で「保護者」とは,少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者をいう。
第3条(審判に付すべき少年)
1項 次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。
1号 罪を犯した少年
2号 14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
3号 次に掲げる事由があつて,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯  し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所 に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
2項 家庭裁判所は,前項第2号に掲げる少年及び同項第3号に掲げる少年で14歳に満たない者については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り,これを審判に付することができる。
第8条(事件の調査)
1項 家庭裁判所は,第6条第1項の通告又は前条第1項の報告により,審判に付すべき少年があると思料するときは,事件について調査しなければならない。検察官,司法警察員,警察官,都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも,同様とする。
2項 家庭裁判所は,家庭裁判所調査官に命じて,少年,保護者又は参考人の取調その他の必要な調査を行わせることができる。

【刑法】
第176条(強制わいせつ)
13歳以上の男女に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は,6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする。
第180条(親告罪)
1項 第176条から第178条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。
2項 前項の規定は,2人以上の者が現場において共同して犯した第176条若しくは第178条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪については,適用しない。

≪参考判例≫

東京家庭裁判所平成平成23年7月27日決定  調査官面接、指示を無視した行動により家裁の処分はやむを得ないと考えられます。

 主   文
少年を中等少年院に送致する。
       理   由
(罪となるべき事実)
 少年は,B,Cほか数人と共謀の上,通行人から金員を強取しようと企て,平成21年9月3日午前5時40分ころ,東京都○○区○○△丁目△番所在の×××高校前路上において,同所を通行中のD(当時19歳)に対し,Cが後方からいきなり背中に跳び蹴りし,倒れたDに対し,こもごもその顔面及び背中付近を殴る蹴るなどの暴行を加えてDの反抗を抑圧した上,Dからその所有にかかる現金2000円及び手提げ鞄等8点(時価8000円相当)を強取したものである。
(ぐ犯事由及びぐ犯性)
 少年は,前記強盗の非行事実により,平成22年10月19日,当庁に身柄付きで送致され,同年11月9日,当庁において,試験観察とし,少年の補導を有限会社□□(受託者○△×□)に委託する旨の決定を受け、その際,受託者の指示に従い生活し,無断外泊をしないことなどの遵守事項の履行を命ぜられた。少年は,平成23年1月ころからライター用のガスを吸引するようになり,これを知った受託者や家庭裁判所調査官から吸引をやめるよう注意指導を受け,今後は吸引しないと誓約したが,同年3月ころまでに,受託者や家庭裁判所調査官に隠れてガスを吸引することがあった。少年は,同年4月20日ころ,受託者から禁止されていたにもかかわらず,知人など男女3名を委託先の寮の空き部屋に招き入れたところ,これを知った受託者や家庭裁判所調査官から,調査官面接を実施し,審判期日を指定する見込みであることを伝えられた上,自重した生活を送るよう注意指導されたが,同月21日午前3時ころ,委託先から逃げ出して所在不明となった。
 このように,少年は,受託者や家庭裁判所調査官からの注意指導にもかかわらず委託先で規律違反を繰り返した挙げ句,委託先を逃げ出しているように,保護者の正当な監督に服さない性癖があり,ガス吸引を行うなど自己の徳性を害する性癖がある上,逃走中は家人のすきをみて自宅に帰ったり知人方等を転々としたりしていたのであって,過去に金に困ると自宅から現金を持ち出したり,強盗を敢行したことを併せ考えれば,このまま放置すれば,少年の生活,環境に照らして,将来,生活費や遊興費に窮して窃盗等の罪を犯すおそれがある。 
(法令の適用)
強盗につき 刑法60条,236条1項
ぐ犯につき 少年法3条1項3号本文,同号イ,ニ
(処遇の理由)
1 本件は,強盗1件とぐ犯からなる事案である。
 強盗についてみると,少年が,自身の借金返済に充てるべくオヤジ狩りをしようと企図して後輩等に声を掛け,犯行現場に導いて強取の方法を説明した上,たまたま通りがかった帰宅中の被害者を見かけるや,仕事帰りのホストのようであり金を持っていそうだと考えて,後輩等をけしかけたところ,Bが,被害者の後ろから襲いかかったものの被害者が逃げようとしたため,少年が,被害者を引き戻し,押し倒した上で,こもごも蹴るなどしたというものである。少年は,借金を返済しなければ暴力を振るうと脅されていた旨を述べるが,そのことが何ら落ち度のない被害者を襲う理由にはならないことは明らかであるし,そもそも返済できるあてもないのに借金をして無為徒食の生活を送っていたのであるから,身勝手な動機というほかなく酌量の余地はない。少年は,本件強盗の首謀者といえ,被害者に対して暴力を振るいポケットから財布を奪うなど重要な役割を果たしていたにもかかわらず,逮捕の際には本件強盗の存在自体を忘れていた。このことと本件強盗が前件非行(商品が出てこないことに憤慨して自転車のサドルで自動販売機を殴打したという器物損壊の事案)により付された保護観察中の再非行であることとを併せ考えると,少年には自身の置かれた状況や責任の重さについての自覚に欠けるというほかない。そうすると,被害者に対して15万円を支払っており宥恕文言を含む示談書が交わされていること,本件強盗の実行から逮捕までの約1年間については余罪が判明していないことなどを考慮してもなお,犯情は悪い。
 少年は,本件第1回審判期日において,試験観察に付して自分が社会内で更生できるかを試して欲しい旨を述べていたところ,同期日において,補導委託による試験観察に付されることとなったが,前記(ぐ犯事由及びぐ犯性)において認定したとおり,受託者や家庭裁判所調査官の注意指導に従わず,結局,補導委託先を逃げ出したのであって,緊急同行状の執行により身柄が確保されるまでの約2か月にわたる逃走期間中には知人宅を転々としながら相変わらず無為徒食の生活を送るなかで生活費や遊興費を得るべく借金を重ねていた。
2 少年は,元々持っている能力が高く行動力もあるものの,思慮が浅いため先の見通しなく行動しやすい。善悪の判断があいまいで自分勝手に楽観的に思い込んで場当たり的な行動をするため,逸脱行為に及びがちである。困難な事態になると逃げてしまうため問題を建設的に解決するには至らず,うまくいかないと現状を悲観して投げやりな気分になったり現実からの逃避を図ったりしやすい。
 本件についてみると,少年は,返済の見通しがないまま借金をし,その返済を迫られるや,さらなる借金をして返済しようとしたものの果たせなかったため,たいした罪障感を抱くこともなく主導的な立場で強盗を敢行しており,試験観察中は,ガスを吸引することで将来の見通しがつかず悲観する気持ちや友人に会えない寂しさを紛らわそうとしており,補導委託先での規律違反により中間審判の期日が設定されることになると少年院に送致されてしまうと思い込んで無我夢中で逃走を図ったのであって,逃走中も相変わらずの自堕落な生活を送っていたのである。こうした一連の流れに,少年の上記性格・行動傾向上の問題性がよく現れているといえる上,強盗の事実について当庁に送致された後も,自覚を持つどころか身勝手な振る舞いを繰り返していることに照らし,問題性はより深刻化しているというほかない。少年については,自身の抱える問題を正確に把握させること,今までの所行について責任を自覚させること,自律性や規範意識を身に付けさせることのほか,困難な局面を迎えても逃げ出すことなく真摯に立ち向かって適切に解決できるような力を養うことが必須である。
 そこで,少年を取り巻く環境についてみると,母は,無為徒食であった父のギャンブル,借金,暴力に耐えかねて,少年が5歳のころに離婚に踏み切った後,少年と弟の親権者となって女手一つで家庭を切り盛りしているが,パニック障害様の症状を抱えており,仕事をしながら高校受験を控えた弟の監護をするのに手一杯という状況であって,少年について施設収容もやむなしとの意向を示している。したがって,現時点では,家庭内での監護には期待できない。
3 以上の諸事情を総合考慮すると,接客業への抵抗が少なくなったなど少年としても試験観察中の経験から得るものがあったこと,本件第2回審判前に提出された少年の手紙からは,少年が強盗の被害者に対する謝罪の意を真摯に示しており,少年なりに試験観察を振り返って反省しつつ,就労意欲を高めていることが窺えることなどといったその余の事情を考慮してもなお,少年については,現時点では社会内処遇における更生は困難であり,中等少年院に送致して矯正教育を施す必要がある。なお,付添人は,保護観察に付するのが相当であると主張するが,保護観察所は更生意欲の喚起のためには施設に収容して矯正教育を施すべきとしている。そこで検討するに,自身の置かれた立場についての自覚に乏しいなどといった少年の抱える性格・行動傾向上の問題性や受託者や家庭裁判所調査官からの注意指導が浸透しなかったという試験観察中の状況などを考慮すると,現時点では,保護観察所による指導により少年が更生するとは望めない。したがって,付添人の上記主張は採用できない。
 よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,少年を中等少年院に送致することとして,主文のとおり決定し,訴訟費用については,少年法45条の3第1項,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して少年に負担させないこととする。

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