新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.714、2007/12/3 16:10

【刑事・少年事件・鑑別所送致】

質問:息子(17歳)が,友人と一緒に漫画本1冊を窃取しようとしたとしたところ,店員に見つかってしまい,捕まってしまいました。数ヶ月前にも,窃盗及び傷害により捕まって保護観察決定を受けたばかりでした。少年鑑別所送致を避け,家に戻ってきて欲しいと願っているのですが,弁護士に依頼した方がよいのでしょうか。弁護士に依頼すると,どのようなことをしていただけるのか教えて下さい。

回答:一刻も早く弁護士に相談して先ず少年鑑別所送致(少年法17条1項2号)にならないよう協議し,手続きをとることです。万が一鑑別所送致決定となった場合でも付添い人(刑事事件の弁護人と同じです)は少年,親権者と協議して異議の申し立て(少年法17条の2)を行う事が出来ますし,保護処分(成人刑事事件の判決と同じ)の決定前に試験観察(少年法25条)を主張し少年を一旦家庭に返してもらうことも可能です。尚,当事務所のホームページ事例集bP61,bQ44,bQ91,bS03,bS61も参考にしてください。

解説:
1 観護措置について
@息子さんは未成年ですので,少年法が適用されます。少年法とは,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする法律です(少年法1条)。少年法1条を受けて,少年事件手続は,保護主義,すなわち,少年審判や家庭裁判所が行う処遇決定を通じて少年の成長発達を図っていこうとする考え方を基本としているといわれています。したがいまして,少年事件は成人の刑事事件と異なり,家庭裁判所が少年の責任を追及するための刑事手続を行うところではなく,保護手続を通じて少年の保護を行うものとされ,また,保護処分は,刑罰と異なり,「少年の健全な育成」のために,非行のある少年の「性格の矯正及び環境の調整」をはかるものであって,最終的には少年の利益になる処分であるという認識を基礎にしているものといえます。

A 近時,少年事件の凶悪化問題になっています(平成12年からの改正で手続が適正,厳格化され少年にとっては処遇が厳しくなったととらえることができます。例えば,審判への検察官の関与,検察官の逆送致年齢制限の撤廃,少年院送致の年齢をおおむね12歳以上とした)。刑法41条は,「14歳に満たない者の行為は罰しない」として14歳以上はたとえ未成年者でも刑事責任能力があると明言していますが,ではどうして14歳以上の未成年者も刑事罰において特別扱いされるのでしょうか。刑罰とは罪を犯した者に対して科せられる行為者が持つ法益の剥奪を内容とする強制処分ですから,行為者自身に不利益(責任)を受ける理由がなければなりません。その刑事責任の根拠とは,犯罪行為者が犯罪行為のような悪いことをしてはいけないという社会般規範(常識)を知りながら(理解可能であるのに)あえてそれを守らず,積極的に(故意犯)又は不注意で犯罪行為自体を認識せずに(過失犯)社会規範に反し行動にでた態度,行為に求める事が出来ます(刑法38条1項)。

従って,14歳以上の少年は,すでに責任の前提となるな社会規範,常識を理解できる能力(判断能力)を基本的に有するので刑事責任能力は認められることになります。しかし,刑法の最終目標は,犯罪者を再教育し適正な法社会秩序を維持することであり,未成年者は,一般的に成人と異なり日々社会全体から教育を受け人間として未だ成長過程にあり判断能力は未だ未成熟なので,犯罪行為の個人的責任追及を行うよりもその少年をいかにして保護成長させ社会に適応させるかという視点から犯罪行為を明らかにして処遇,処分を決めるのが刑法の目的に合致し,刑事政策的に妥当だからです。従って,刑罰を前提とした刑事訴訟法の原則である当事者主義,公開主義,厳格な証拠法則は適用されません。又,処分内容も多様で,裁判所の裁量により合目的であり,犯罪行為時に少年であっても処遇を決定する時に成人になっていれば刑罰が適用されるになりますし,少年といえども具体的事情によっては逆送致され刑事手続により刑罰が科せられることもあるわけです。以上のように少年法の理念は,成人の刑事事件とは根本的に異なるものといえます。

Bもっとも,少年事件においても,捜査段階では刑事事件として基本的に刑事訴訟法が適用されますから(少年法40条),成人の刑事事件とほぼ同じです。すなわち,逮捕された場合,捜査や取調べのために,逮捕手続で最大72時間,検察官に送致された後,勾留手続で最大20日間,身柄を拘束されます。その後,成人では起訴・不起訴を検察官が決定しますが,少年事件の場合,全ての事件を家庭裁判所に送致し,家庭裁判所において少年の処遇を決定することになります(全件送致主義,従って,窃盗のような個人法益に対する罪で示談をして告訴被害届けを取り消しても成人と異なり家庭裁判所に送致されてしまいます)。家庭裁判所は,少年法3条1項各号に記載の審判に付すべき事由があるとして,司法警察員,検察官,都道府県知事又は児童相談所長から送致された少年の事件,一般人から通告された少年の事件及び家裁調査官から報告のあった少年の事件(以上を併せて「少年保護事件」と言います。)について,調査,審判をした上で,少年の健全な育成を期するため,少年に対して,性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を科すなどの決定を行いますが(少年法1条参照),この調査及び審判においては,まず、少年に審判に付すべき事由があるかないかを確定する必要があり,同事由があると認められるときに,少年や保護者等の行状,経歴,素質,環境を含む要保護性に関する事実について科学的な調査を行う必要があります(少年法9条)。

これらの調査及び審判を適正かつ円滑に行うためには,証拠の保全や少年の身柄確保の必要がありますし,少年の自殺や自傷を防止し,また,従前の環境的支配から一時離脱させることによりその心情を安定させる必要があります。このような観点から,家裁は,観護措置として,審判を行うために必要があるときは,決定をもって,少年を「家裁調査官の観護に付すること」(以下「在宅観護」といいます。)及び「少年鑑別所に送致すること」(以下「収容観護」といいます。)ができるのです。在宅観護の実施件数は非常に少なく,実務上は観護措置というと収容観護を指すのが一般です。このように,観護措置とは,一般的には,少年鑑別所に送致する措置のことをいい,社会一般的には悪いイメージがありますが,少年法の理念の下では,観護措置とは,家庭裁判所が,調査・審判を行うために,少年の心情の安定を図りながら,その身柄を保全するための措置のことをいいますので,少年の更生に資するものといえます。

2.弁護士の活動内容
@相談者の息子さんの場合,再非行ですから,家庭裁判所で観護措置の審問が行われた結果,観護措置が採られることになる可能性が高いといえます。観護措置が採られた場合,その期間は,法律上は「二週間を超えることができない。」(少年法17条3項)と規定されている一方,「ただし,特に継続の必要があるときは,決定をもつて,これを更新することができる。」(少年法17条3項但書)とも規定されており,実際には,ほとんどの事件において更新されていますので,4週間程度にわたるとことが多いようです。そうしますと,観護措置が上記のような理念に基づくものであったとしても,犯罪を犯した少年が,在学中である場合や仕事に就いている場合には,身柄拘束によって退学や解雇になるおそれがありますので,観護措置が,かえって少年の更生を妨げるような場合がでてきます。このような場合には,弁護士は,観護措置を避けるべく弁護活動をします。では,どのような活動をするのか,以下,ご説明いたします。

Aまず,依頼された弁護士は,検察官に連絡して,家庭裁判所送致日を問い合わせ,送致日に行われる観護措置審問手続が始まる前に家庭裁判所に出頭するように努めます(両親など保護者の同行をお願いすることもあります)。この日に家庭裁判所に出頭した弁護士は,付添人選任届及び意見書を提出し,調査官・裁判官との面会や少年との面会を希望することを伝えます。そして,調査官・裁判官との面会の際には,弁護士は,観護措置が不要であると考える理由や観護措置による弊害があること等を説明します。具体的には,少年や保護者の反省の深さ,保護者の監護能力の高さ,少年が保護者の監護に従う意思があること,再非行の可能性が低いこと,学校から退学処分を受けるなど観護措置が少年の更生の妨げとなること等を説明することになります。また,場合によっては,弁護士作成の意見書の他,保護者の陳述書,学校や職場関係者の陳述書,少年の作文等を提出することもあります。他方,少年との面会の際には,弁護士は,少年に対し,観護措置手続の流れを説明し,どのような対応をすべきかなど,審問にあたってのアドバイス等をし,少年が落ち着いて観護措置の審問を受けられるように活動します。

B万が一監護処置がとられたとしても,それだけで慌ててはいけません。直ぐに付添い人と協議し資料を備えて異議の申し立てをする事です。というのは,少年鑑別所送致は少年の身柄を更に長期に拘束する事ですので裁判官は慎重に対応しなければなりませんが時間的余裕は24時間しかありませんから(法17条2項)捜査機関の送致資料のみで判断される場合が多く捜査機関は主に刑事処分を目的として証拠資料を作成しますから送致資料からは少年の環境,性格,行状,素質を汲み取る事が出来ませんし,付添い人側の資料も十分用意される時間がなく資料不十分のまま監護措置がとられてしまうことが多いからです。学校の成績表、家族、兄弟,祖父母の陳述書(小さいときからの成長過程を両親以外の人からも述べてもらうのです。)なども有効でしょう。

C更に監護処置が取り消されないと,監護処置期間経過まえに保護処分の審判が開始されますからその決定が少年にふさわしくないものである事が予想される場合は(少年院送致等),試験観察(法25条)を付き添い人が主張し事実上保護処分決定を延期する事が出来ます。その間に少年の行動過程を詳細に説明し調査官,裁判官に適正な判断を求める事が可能となります。

3.このように,弁護士は,観護措置を避けるべく活動しますが,このような活動を保護者が行うことは困難といえます。したがいまして,観護措置を避けたい事情がある場合には,弁護士に相談した方がよいでしょう。依頼する際には,弁護士に対し,観護措置を避けたい事情を伝え,適切な対応をとってもらいましょう。さらに,本件は,少年が,友人と一緒になって,漫画の単行本1冊を窃取しようとしたが,店員に発見されたため,窃取することができなかったという窃盗未遂の事案で,非行事実自体は軽微であるといえますが安心は出来ません。犯行自体が本件と類似の判例をご紹介します。両親が離婚を繰り替えして教育監護をせず家庭環境が悪化したことが原因で小学校4年生から万引きを常習的に繰り返し,半年前から2度にわたり窃盗及び傷害等により捕まり保護観察決定を受けたばかりであることなど事件に至る経緯を考慮し,中等少年院送致及び少年法24条2項の環境調整命令(保護観察中の家庭環境を調整する指導援護の一方法)の決定した裁判例もあります(新潟家庭裁判所平成17年6月30日決定)。家庭環境,犯行回数よりやむをえない決定と考えられますが,貴方の息子さんの場合は今までの家庭環境,素行,前科が詳細に検討される事になります。なお,少年事件の処分等については,当事務所のホームページ事例集NO161、bQ44、bQ91、bS03を参考にしてください。まずは,お近くの弁護士に相談することをお勧めいたします。

≪参考条文≫

少年法
(この法律の目的)
第一条  この法律は,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
(少年,成人,保護者)
第二条  この法律で「少年」とは,二十歳に満たない者をいい,「成人」とは,満二十歳以上の者をいう。
2  この法律で「保護者」とは,少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者をいう。
(審判に付すべき少年)
第三条  次に掲げる少年は,これを家庭裁判所の審判に付する。
一  罪を犯した少年
二  十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
三  次に掲げる事由があつて,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
2  家庭裁判所は,前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り,これを審判に付することができる。
(調査の方針)
第九条  前条の調査は,なるべく,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して,これを行うように努めなければならない。
(付添人)
第十条  少年及び保護者は,家庭裁判所の許可を受けて,付添人を選任することができる。ただし,弁護士を付添人に選任するには,家庭裁判所の許可を要しない。
2  保護者は,家庭裁判所の許可を受けて,付添人となることができる。
(観護の措置)
第十七条  家庭裁判所は,審判を行うため必要があるときは,決定をもつて,次に掲げる観護の措置をとることができる。
一  家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二  少年鑑別所に送致すること。
2  同行された少年については,観護の措置は,遅くとも,到着のときから二十四時間以内に,これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも,同様である。
3  第一項第二号の措置においては,少年鑑別所に収容する期間は,二週間を超えることができない。ただし,特に継続の必要があるときは,決定をもつて,これを更新することができる。
4  前項ただし書の規定による更新は,一回を超えて行うことができない。ただし,第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実の認定に関し証人尋問,鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて,少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には,その更新は,更に二回を限度として,行うことができる。
5  第三項ただし書の規定にかかわらず,検察官から再び送致を受けた事件が先に第一項第二号の措置がとられ,又は勾留状が発せられた事件であるときは,収容の期間は,これを更新することができない。
6  裁判官が第四十三条第一項の請求により,第一項第一号の措置をとつた場合において,事件が家庭裁判所に送致されたときは,その措置は,これを第一項第一号の措置とみなす。
7  裁判官が第四十三条第一項の請求により第一項第二号の措置をとつた場合において,事件が家庭裁判所に送致されたときは,その措置は,これを第一項第二号の措置とみなす。この場合には,第三項の期間は,家庭裁判所が事件の送致を受けた日から,これを起算する。
8  観護の措置は,決定をもつて,これを取り消し,又は変更することができる。
9  第一項第二号の措置については,収容の期間は,通じて八週間を超えることができない。ただし,その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる決定を行うときは,第四項ただし書に規定する事由がなければならない。10  裁判長は,急速を要する場合には,第一項及び第八項の処分をし,又は合議体の構成員にこれをさせることができる。
(保護処分の決定)
第二十四条  家庭裁判所は,前条の場合を除いて,審判を開始した事件につき,決定をもつて,次に掲げる保護処分をしなければならない。
一  保護観察所の保護観察に付すること。
二  児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
三  少年院に送致すること。
2  前項第一号及び第三号の保護処分においては,保護観察所の長をして,家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。
(家庭裁判所調査官の観察)
第二十五条  家庭裁判所は,第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは,決定をもつて,相当の期間,家庭裁判所調査官の観察に付することができる。
2  家庭裁判所は,前項の観察とあわせて,次に掲げる措置をとることができる。
一  遵守事項を定めてその履行を命ずること。
二  条件を附けて保護者に引き渡すこと。
三  適当な施設,団体又は個人に補導を委託すること。
(準拠法例)
第四十条  少年の刑事事件については,この法律で定めるものの外,一般の例による。
(司法警察員の送致)
第四十一条  司法警察員は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,同様である。
(検察官の送致)
第四十二条  検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて,これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,同様である。
2  前項の場合においては,刑事訴訟法 の規定に基づく裁判官による被疑者についての弁護人の選任は,その効力を失う。

刑法
第三十八条  罪を犯す意思がない行為は,罰しない。ただし,法律に特別の規定がある場合は,この限りでない。
2  重い罪に当たるべき行為をしたのに,行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は,その重い罪によって処断することはできない。
3  法律を知らなかったとしても,そのことによって,罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし,情状により,その刑を減軽することができる。
(責任年齢)
第四十一条  十四歳に満たない者の行為は,罰しない。

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