少年事件・監護処置決定(鑑別所送致)の取消と異議申立・手続き
刑事|鑑別所|少年法|児童相談所|福岡家裁小倉支部平成15年1月24日
目次
質問:
中学3年生になる息子が電車内で痴漢行為をしたとして逮捕され鑑別所というところに何週間も入れられてしまうことになりました。どんな理由があっても痴漢は許されるものではないと思いますが,何週間も鑑別所に入れられて息子の受験にとって取り返しのつかないことになってしまうのも,息子が不憫ですし,親としてもできる限りのことをしてあげたいという気持ちです。今から弁護士に頼んでみても,もう手遅れでしょうか。
回答:
1.鑑別所に入れられた(観護措置決定の)後でも,決定の取消または決定に対する異議の申し立てをすることにより早期に家に帰れる可能性があります。痴漢は刑事事件ですが,少年事件では,成人の刑事事件の場合とは異なり,家庭裁判所による調査・審判のために,少年の身柄を保全し,調査・鑑別を行う措置として,観護措置というものがあります。多くの場合,観護措置決定がなされ鑑別所に少年の身柄が送られることになります。これは少年を保護するための措置ではありますが,身体を拘束することから生じる弊害が,かえって少年の更生を妨げる事態ともなりかねません。
そこで,観護措置決定の前に,意見書を出したり,裁判官等に面接を申し入れたりして,鑑別所送致を回避するよう働きかけることが重要になります。ただ,鑑別所送致が決まってしまった後でも,観護措置について,取消しを申し立てたり,異議申立てをしたりして,事後的に少年の身体拘束を解く方法もあります。その際にはさまざまな事情が考慮されることになりますが,高校受験を控えているという事情も重要な考慮要素となりますので,決して諦めるべきではありません。ご自身では対応が難しいと思いますので,少年事件の対応に熱意のある弁護士に相談・依頼するのがよいでしょう。鑑別所送致が決まったというのは緊急事態といえますので,一刻も早くご相談されることをお勧めいたします。
2.少年事件に関する関連事例集参照。
解説:
1.少年法の目的等,少年審判手続の概要,刑事事件手続きとの違い
少年法は,少年の健全な育成のために,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的としています(少年法1条)。このように少年法は少年の立直りを趣旨・目的としており,犯罪を行った者に対して刑罰を与えるという成人の刑事事件の考え方とは大きく異なります。
20歳未満の少年が罪を犯すと,少年事件(少年保護事件)と呼ばれ,成人の刑事事件(刑罰による生命,自由,財産の強制剥奪を目的とする手続き。)とは様々な点で異なった手続の対象となります。刑法41条では14歳未満の者は処罰されないとされていますから,14歳未満の者については刑事事件として扱われることはないのですが,14歳以上20歳未満の者については刑事事件となる場合もあります。いずれにしても,まずは少年事件として,精神的,肉体的に未成熟な少年の保護,そして健全な育成という面から特別の措置を講ずる必要があることから少年法という法律が適用されることになっています。
両者の大きな違いを挙げていきますと,まず,
①成人の場合,検察官の判断で軽微な事件を裁判所に起訴しないで終了させる起訴猶予が認められますが,少年事件では起訴猶予がなく,必ず裁判所が手続に関与します(全件送致主義,少年法41条本文,同42条本文)。成人の刑事事件では,少年事件と異なり自由,財産権を強制剥奪するので弊害も大きく起訴裁量主義(刑訴248条)が採用されています。
②その裁判所は成人の場合の地方裁判所や簡易裁判所ではなく,家庭裁判所になります。少年事件は子供の福祉に関係が深いため,家庭に関する事件を扱い,専門的なスタッフも用意されている家庭裁判所に担当させる方が適切だからです。
③裁判所では,刑事裁判ではなく,「少年審判」という手続を行います。刑事裁判は誰でも傍聴できるのに対して,少年審判は原則として非公開とされます。刑罰ではないので憲法37条1項公開の原則は採用されません。
④少年審判の目的は,少年に刑罰を科すことではなく,「保護処分」を決定することです。「保護処分」は悪いことをした少年に対する制裁ではなく,問題を抱える少年を指導教育し,健全な社会生活を送れるように育成するための処分です。
⑤そのため,成人の刑事裁判では犯罪事実の内容が重点を占めるのに対して,少年審判では少年の性格・問題点や,家庭環境(憲法上第一義的に少年に対する教育権を有する両親との関係は特に重要です。),学校環境(解釈上学校は両親の教育権に基づき委託された関係になります。)などの諸事情(「要保護性」といいます。)が,非行事実そのものと同等かそれ以上に重要なものとして調査されます。成人の刑事事件は犯罪者を処罰することが目的ですが,少年事件は,少年の保護育成を目的としていることから以上のような違いを設けているのです。
本件でとられた観護措置も,少年法の趣旨から少年事件に特有の手続ですが,次に述べるように,少年の更生にとってかえって妨げになる場合もありますので,必要に応じて,少年のために適切な対応をとるべきです。
2.観護措置
観護措置は,家庭裁判所が調査・審判を行うために,少年の身柄を保全するための措置で,一般的には,少年鑑別所に送致する措置(少年法17条1項2号)をいいます。
観護措置がとられるのは,「審判を行うため必要があるとき」(少年法17条1項)と規定されていますが,解釈上具体的には,逃亡・罪証隠滅のおそれがあるなど身柄確保の必要性があること,少年の緊急保護のための暫定的身柄確保の必要性があること,収容して心身鑑別を行う必要性があることをいうとされています。簡単に言うと,少年の犯罪傾向に関して家庭の監督があまり期待できないから,家庭裁判所で身柄を預かり少年に対する適正な審判,保護処分のための調査を行うというものです。すなわち目的は,適正な審判を行うための準備機関です。しかし,少年は,成長過程にあり環境に影響を受けやすい状態にあるので,原則は在宅で行うべきです。
観護措置の期間は,法律上は2週間までというのが原則とされ(少年法17条3項本文),例外的にさらに2週間の延長が認められるものとされていますが(少年法17条3項ただし書き,同条4項本文),実際には4週間とされるのが通常となっています。なお,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件で,その非行事実の認定に関し証人尋問,鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行ったものについて,少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には,さらに2回延長ができ,最長8週間となることがあります(少年法17条4項ただし書き)。
3.観護措置決定前の付添人の活動について
このような観護措置により身体拘束がされる結果,少年が退学や解雇を余儀なくされるなど,少年の更生にとって大きな妨げになることも少なくありません。受験を控えた時期に身体拘束がされることで,学校や塾に通えなくなるということも,少年の人生において取り返しのつかない事態になる可能性があります。
そこで,観護措置を回避するために,弁護士を付添人に選任し,観護措置回避の活動をしてもらうことが重要となります。
まずは,観護措置決定がされる前の段階で,観護措置決定をすべきではない事情(事案が軽微なものであること,前歴,非行歴がないこと,日常の生活状況がまじめであること,観護措置による具体的な不利益があること)や調査・審判への出頭確保の方策(親と同居していて日常の監督が可能であること,両親の事情や家庭環境,出頭を確約する書面の提出)等を踏まえて意見書を裁判所に提出し,さらに裁判官に面接を申し入れるなどして働きかけ,観護措置決定がなされないように活動することが重要です。これにより,裁判所が観護措置決定を出さないことも十分あり得るのです。
4.観護措置の取消・異議申立
①他方,この事前の活動をしないまま,あるいは活動をしても観護措置決定がなされてしまった場合でも,まだ諦めるべきではありません。すでになされた観護措置決定に対しても,事後的に身体拘束からの解放を目指す活動の余地があります。その方法として,観護措置の取消申立,異議申立があります。以上の手続きの方法,ですが,監護処置が適正な審判,保護処分のために例外的に身柄確保が行われるので,家庭に戻しても両親の監督,少年の非行傾向等から適正な審判が期待できるという具体的反証を積極的に行います。
②観護措置の取消申立は,家庭裁判所に対して,観護措置の取消し(少年法17条8項,少年審判規則21条)の職権発動を促す申立てです。観護措置の取消しは,あくまで裁判所の権限で行われるものですが,付添人としては,裁判所がこの取消しの措置をとるように裁判所に働きかけることによって,結果的に観護措置の取消しが行われるようにするのです。これは,次に述べる異議申立とは異なり,すでになされた観護措置決定が適法であることを前提にして,その上で,その後の事情の変更等も加味して,観護措置の必要性がなく弊害が大きいことなどを具体的に示して,観護措置決定の取消しを求めるものです。少年本人の反省文や誓約書,両親等の身柄引受書や陳述書,その他学校の成績表や部活動の関係資料,他に被害者との示談,準備,経過,例えば,謝罪金の提供,預かり証の呈示等,主張の裏付けとなる資料を添付して説得的に働きかけることが重要です。特に,被害者のある犯罪では被害弁償は不可欠です。少年といえども14歳以上は刑事責任能力があり責任を負うことに変わりなく,他方被害者には抽象的処罰請求権が発生しており被害弁償に対する少年側の対応が監護処置決定の一要素となるからです。また,通常この観護措置の取消申立に対する判断は,観護措置決定をした裁判官とは別に,その後の審判を担当する裁判官によりなされますので,異なる角度から事案を見て,付添人の意見を踏まえることで,観護措置の取消しがなされることは十分にあります。
なお,成人における刑事事件とは異なり,少年事件においては被害者との示談や被害弁償が決定的な要素とは成り得ないことに注意が必要です。少年法が適用される少年事件では,少年の更生が最大の目標であり,更生に必要な環境が整っていないと判断されれば,被害者との示談が成立していたとしても,観護措置が必要になることは十分に考えられることなのです。少年事件においても被害者との示談や被害弁償は勿論大変に重要なことなのですが,示談や被害弁償と言っても実際には両親や保護者が協力して行うことになりますので,両親や保護者の事件に対する真摯な態度を示す一つの前提事情であると考える事ができるでしょう。
③一方,観護措置決定に対する異議申立(少年法17条の2)は,前記の観護措置の取消申立とは異なり,観護措置決定自体に違法・不当の問題があるとして不服を申し立てるものです。この場合は,観護措置決定をした裁判官以外の複数の裁判官で構成される合議体によって異議申立に対する判断がなされますので(少年法17条の2第3項),より慎重に判断がなされることになります。その反面,取消申立の場合よりも,判断結果が出るまでに時間はかかります。具体的方法は,取消の場合とほぼ同じになります。尚,高校3年生の少年による道交法等違反の事件ですが,観護措置の更新決定に対する異議申立が認められた裁判例で,卒業のために必要な期末試験を控えていることも考慮の一要素とされたものがありますので,参考にしてみてください(福岡家裁小倉支部平成15年1月24日決定,後記参照。)。
④(本件の場合の対策)痴漢の罪であり以下の書類が必要でしょう。
(ア)少年本人の反省文
(イ)本人の誓約書 (被害者へ接近禁止の誓約書,保証人,違約金付,和解ができないようであれば,弁護人の保証書)
(ウ)両親等の身柄引受書(できれば祖父祖母,同居の親族のものも)
(エ)両親の陳述書,(できれば祖父祖母,同居の親族のものも,可愛い孫への心情を記載した書面。裁判所は,両親でなくとも少年に対して愛情を持って保護し,教育する人を求めます。少年に対する過去の養育監護への関わりの内容と,事件を引き起こしてしまったことへの反省,何が問題だったのか自己分析と,欠けていた事を改善して接していく旨の決意表明など。)
(オ)その他学校の成績表 出欠表
(カ)スポーツ等の部活動の関係資料,
(キ)他に被害者との示談,準備,経過,例えば,謝罪金の提供,預かり証(痴漢なら50万円―100万円)
⑤このように,観護措置決定が出された後でも,身体拘束からの解放を目指す方法はあります。具体的な活動やどちらの方法によるべきか等については,専門家である弁護士に事案の状況に応じて対応してもらうのがよいと思いますので,少年事件を扱っていてすぐに対応してくれる弁護士に,急いで相談してみるのがよいでしょう。
5.参考判例
○福岡家裁小倉支部平成15年1月24日決定
「 一件記録によれば,本件は,少年が,公安委員会の運転免許を受けないで,自動車損害賠償保険契約が締結されていない原動機付自転車を運転し,道路標識によって一時停止すべき場所として指定された交差点に入るに際し一時停止せず,別の交差点に設置された信号機が赤色灯火の信号を表示しているのに気付かず,これに従わないで同交差点を運転通行した事案である。
少年は,平成14年5月ころから無免許で上記無保険の原動機付自転車を継続的に運転しており,この点について両親の指導にも服しなかったものであるが,これまで少年に前歴はなく,アルバイトをしながら高校に在学し,両親と同居していたこと,本件事案は比較的軽微であること,少年は,本件非行を警察官に現認されており,逮捕当初から非行事実を認めていること,両親が今後の監督及び裁判所への出頭確保を約束していることなどの事情を考慮すると,現段階において,罪証隠滅及び逃亡のおそれや少年を収容して心身鑑別をすべき必要性は少なく,その他に少年の収容を継続すべき事由は見当たらない。これらの事情に加え,少年は現在高校3年生で,本件観護措置更新後の平成15年1月28日から,卒業のために必要な学期末試験を控えていることも,事案の性質,少年のこれまでの生活状況等に照らし軽視することはできない。
以上によれば,少年に対する適切な処遇を決めるために,本件観護措置を特に継続する必要があるということはできない。
3 よって,本件異議申立ては理由があるから,少年法17条の2第4項,33条2項により,主文のとおり決定する。」
以上