新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1551、2014/10/09 12:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事事件 チェーン店の万引きと事件発覚前の弁護活動】

捜査機関認知前の弁護活動

質問:私は,先日,ドラッグストアで歯磨き粉等計3点を万引きしてしまいました。商品棚で商品を手にとってみていたところ,魔がさし,そのまま商品を手に持ったまま,店の外に出てしまったのです。自宅に帰ってから,事の重大性に気付くとともに,愚かな行為を後悔することとなりました。お店から逃げる際,少し離れたところに店員がおり,私の万引行為を目撃していたような気がします。店員は私の行為に気づいていたかもしれません。私が急いで店の外に出て行ったこともあり,店員は追いかけてきませんでした。私が商品を盗んだお店は,週に1,2回は行くお店であり,もしかしたら,お店の方で既に万引きの事実を把握しているかもしれません。私は公務員で、もしこのことで刑事処分等受けることがあると仕事を辞めなくてはならないかもしれないと考えると夜も眠れません。今後私は,どのようすればよいのでしょうか。



回答:

1. 万引きは,現行犯で捕まらないかぎり,捜査機関によって事件化される可能性は一般的に低いと考えられています。しかし,経験上は,被害店舗によって万引きに対する対応も異なり,今回のような相談事例においても,場合によっては被害届が提出され,事件化されるおそれも否定できません。特に,あなたの場合,よく買い物に行くお店であり、また店員に商品を万引きしているところを目撃されている可能性があり,防犯カメラによって万引きの様子が明確に録画されていれば,既に被害店舗によって万引きの事実を把握されているかもしれません。したがって,今回のような相談事例においても,被害届が警察に提出されることは十分考えられます。あなたの場合,公務員ということで,捜査機関によって事件が把握された場合,職場への連絡等,不都合な事態が生じることが予想されます。

2. 一番安心できる方法としては、被害届が出される前に、お店と被害届け出を出さないということで示談することが考えられます。その場合、示談金、謝罪金受領の問題もあり(被害者側が被疑者、被告人から直接示談、謝罪金を受領することは通常ありません。受領したくても実際は辞退することになります。従って、示談交渉に被疑者を同席させることは避けなければなりません。謝罪させようと同席させることが不利益な結果を招いてしまいます。)ご自分で示談することは不可能と言えます。職場対応のことも踏まえ,刑事事件を数多く扱っている法律事務所に一度ご相談をされ,弁護士とともに解決への方策を考えることが不可欠でしょう。

3.   事務所関連事例集 1547番1255番930番、その他関連する事務所事例集として1519番1456番1434番1321番1294番1250番1247番1233番1086番1085番1079番1008番1007番947番734番657番600番538番参照。


解説:

1 万引き発覚の場合のリスク

 一般市民による万引き事案の場合,万引きが発覚したとしても,初犯であるならば微罪処分となる可能性が非常に高いといえます。微罪処分とは,一定の軽微な事件について,事件を検察官に送致して刑事処罰を下すことをせず,警察段階で反省させて終了させる取扱いのことをいいます。

 一方で,相談者のように公務員であった場合には,公務員であるとの理由から微罪処分になる可能性は非常に低いです。各警察署によって,運用が異なるものの,公務員の犯罪については警察限りでの微罪処分とはならず,検察庁に送検される可能性は非常に高いといえます。そして,検察に送致された場合には,不起訴処分または略式命令による罰金刑が予想されます。不起訴処分になれば良いのですが、略式命令による罰金刑は,いわゆる前科にあたりますので,その不利益はとても大きいものといえるでしょう。

 また,公務員による犯罪は,たとえ軽微な犯罪であったとしても,報道価値が高く,マスコミによって報道される可能性があります。また,場合によっては,警察や検察から職場に直接連絡が入り,職場に犯罪事実が伝わる可能性も否定できません。このことは不起訴処分になる場合も同様です。

 職場に連絡された場合,懲戒の対象にもなり,あなたに大きな不利益になることは容易に想定されます。そのため,手遅れになる前に,早期に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 なお,この点に関する詳細は事例集としては1454番1456番1465番がございます。こちらもあわせて参照してください。

2 万引き発覚の可能性

 万引き事案において犯人が捕まる場合は,現行犯が一般的です。現行犯とは,店員が犯人の万引きしたところを現認した後,犯人がレジを抜けて,店外に出たことを確認して,店員が犯人に声をかけるような場合をいいます。店員が店内で犯人に声をかけないのは,「買うつもりであった」等の犯人の言い訳をさせないことにあります。

 万引き事案において,被害店舗が犯人を捕まえる場合は,かかる現行犯を基本とします。これは誤認逮捕を防止することに理由があります。お店によっては,お客様への誤認逮捕を防止するために,働く店員に講習を実施しているところもあるぐらいです。このように,現在では,誤認逮捕の防止に向けて,お店も相当な注意を払っており,現行犯で捕まらなかった以上,その後,被害届が提出され,事件化される可能性は低いと一般的に考えられています。

 あなたの場合も,店員によって万引きの様子が見られている可能性はあるものの,現行犯として被害店舗から捕まらず,自宅に戻ってきていることから今回の万引きが事件化される可能性は低いものと考えられます。

 しかし,経験上からは,今回の相談事例において必ず被害届が提出されないかといえばそうではありません。あなたは商品を手に持ったまま店の外に出ており,店員はあなたの犯行について目撃している可能性があります。したがって,後に防犯カメラによってあなたが万引きしている姿を確認している可能性も十分あります。そして,防犯カメラの動画によって,あなたと手に持って盗んだ商品が明確に識別できた場合には,被害店舗において警察に通報する可能性は十分あるでしょう。

 また,当事務所が経験した被害店舗の中には,店内であやしい行動をとっていた者については,後に防犯カメラで確認を行い,万引きをしていることが確認できた場合には,被害金額を確認し,かかる被害金額が一定額以上になった場合に,警察に被害届を提出するという運用をしているところもありました。

 したがって,現行犯として店員から声をかけられなかったとしても,防犯カメラにあなたの万引きの様子が鮮明に残っていた場合やあなたが同一店舗で何度も万引きを行い,その結果,被害金額が一定額を超えていた場合には,被害店舗から後日,警察に被害届を提出される可能性は否定できません。

3 示談の可能性

 通常の万引きの事案では,被害店舗がチェーン店よりも個人で店舗を経営している場合の方が示談成立の可能性が高いといえます。チェーン店の場合には,一罰百戒の意味もあり、示談について一律拒否の対応を行い,捜査機関に対し被害届を提出したうえで,厳罰を求めるお店も少なくはありません。

 しかし,チェーン店であったとしても、本件のように被害店舗や捜査機関に万引きの事実が発覚する前に,自ら犯罪事実を申告し,弁護士を通じて示談活動を行えば,示談の可能性が残されているといえるでしょう。

 通常の万引きの事案における示談交渉は,万引きの事実が被害店舗や捜査機関に発覚したことにより,刑事事件となった後で弁護士を通じて示談交渉を行うことになります。一方,本件の相談事例は,いまだ,被害店舗や捜査機関等によって犯罪事実が発覚していない段階で,自ら不利益な事実である犯罪事実を申告する点で,被害店舗や会社の担当部署において深い反省の意思が窺われると判断し、示談交渉の余地が残されていると考えることができます。

 当然,自ら犯罪事実を申告したということだけでなく,万引き行為から被害店舗に犯罪事実を申告するまでの期間や謝罪文の内容,示談金の提示額,さらには,過去に被害店舗において万引き行為を行ったことがあるか等の様々な事情を考慮し,被害店舗において判断することになります。

 このように,示談について一律拒否の対応をとるようなチェーン店であったとしても,万引き発覚前に自ら犯罪事実を申告することで示談の可能性はあるということになります。

4 相談から犯罪事実の申告

 弁護士はあなたから事件に関する具体的な事情を伺い,弁護士が入る必要性が高いと判断した場合には,弁護士が早急に被害店舗に向かい,謝罪とともに示談の申し入れを行うことになります。具体的には,盗んだ商品とその被害金額を伝え,被害弁償とともに示談金としていくらかの金員を支払うことを提案します。

 この際,あなたの個人名を伝えるかどうかはケースバイケースと言えるでしょう。個人名を伝えない場合には,誠意が感じられず,示談が不成立となる可能性も否定できません。一方で,個人名を伝えた場合には,示談が不成立となり,仮に被害届を提出された場合はリスクが伴います。

 あなたの場合,職業が公務員ということもあり,示談が不成立となり,仮に被害届が提出されたような場合には,上述した様々な不利益が考えられることになります。そこで,個人名を伝えるとしても,たとえば,名字だけ伝える等して,あなた個人を完全に特定できないような形で伝えることが考えられます。

5 示談交渉

 仮にあなたが弁護士に依頼した場合,被害店舗に対し謝罪文を作成していただくことになります。謝罪文には,万引きの原因はどこにあったのか,万引きによってどれほど多大な迷惑をかけているのか,さらに今後,二度と万引きを行わないためにどのような方策を考えているのか等,具体的に記載していただくことになります。

 被害店舗において,示談に応じるかどうかの判断材料は少ないことから,この謝罪文の内容は非常に重要となります。また,かかる謝罪文の作成は,示談の成立にとって重要ということだけではなく,あなたの更生にとっても重要な作業です。謝罪文の作成を通じて犯罪事実に真摯に向き合うことで,あなた自身の更生にもつながることになるため必要不可欠な作業になるといえるでしょう。

 また,今後二度と被害店舗を利用しないことを誓約した不接近誓約書も作成し,謝罪文とともに提出します。被害店舗としては,万引きの被害にあっていることから,たとえ被害弁償を受けたとしても,今後については,店舗の利用を控えてもらいたいと考えるものです。被害店がチェーン店で何店舗もあるような場合には,万引きを行った店舗だけでなく,すべての系列店舗に二度と近づき利用しないことを誓約していただきます。

 さらに,今回あなたが万引きしてしまった商品の金額と迷惑料として,いくらかの金銭を被害店舗に提案することになります。被害金額以上に金銭を受け取らないというお店もありますが,被害店舗に誠意を示すためにもいくらかの金銭を迷惑料として提示することが不可欠と思われます。

 弁護士は,上述した謝罪文や不接近誓約書,示談金を持参し,直接被害店舗の店長に今回の万引きを謝罪したうえで,示談交渉を行うことになります。多くのお店では,万引きの被害に悩まされていることもあり,被害感情は大きいものがあります。そこで,依頼する弁護士は,経験豊かな弁護士に依頼することをお勧めいたします。チェーン店などでは,被害店舗の店長では示談に関する判断ができずに,会社の本部が判断するということがあります。その場合,今回の一連の件については,被害店舗の店長から会社の本部に対し説明がなされることになります。その点でも,示談の申し入れの時点において,店長と信頼関係を構築することのできる交渉力豊かな弁護士が必要となります。

 会社の本部において,示談に応じることとなった場合は,弁護士が会社の担当部署を訪問し,担当者と示談合意書を作成いたします。そして,本件に関し,宥恕文言の入った示談合意書を作成するとともに,今後,会社において被害届や告訴をしないことを書面にて誓約していただくことになります。以上のような合意を形成することにより,本件万引きの犯罪事実について,会社から警察に被害届を出されることを防止します。

6 最後に

 万引きについては,つい魔がさしてやってしまったという相談者が多くおられます。万引きの時点では捕まらなかったけれど,後に警察から話を聞かれるかもしれないと不安な思いでいる方もいらっしゃるでしょう。万引きは多くの場合には現行犯で捕まることになりますが,場合によっては,後に被害店舗より被害届が提出され,事件化されることもあります。このような危険性を除去するとともに、今後二度と万引きのような違法な行為をしないことを決意するためにも、被害者であるお店に対して謝罪して示談する方向で検討すべきでしょう。

【参照条文】
(刑法)
第235条 他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

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