新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1233、2012/2/21 15:41 https://www.shinginza.com/idoushin.htm

【刑事・行政処分・医師の無免許・酒気帯び運転・医道審議会・緊急避難,補充性が欠ける場合の過剰避難について東京高等裁判所昭和46年5月24日判決・大阪高裁平成10年6月24日判決】

質問:私は歯科医師ですが,6年前忘年会の帰り酒気帯び運転をして免許取り消しになりました。先日深夜,妻が台所で大やけどをしてしまい,救急車を呼んだのですが,ちょうど出払っていてかなり時間がかかるというので,お酒を飲んでいたのですが近くの救急病院まで数キロ妻を乗せて運転をしてしまい,行く途中検問で逮捕されてしまいました。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1.道路交通法違反(無免許運転(道路交通法117条の4第2号・84条1項)及び酒気帯び運転(同117条の2の2・65条1項)の容疑で逮捕されたようですが,本件の場合は,客観証拠がそろっているため,被疑事実自体を否認するのは困難です。ただ,あなたの運転行為は奥様の負われた大やけどの治療のためという緊急やむを得ないとも思われる諸事情がありますので,緊急避難(過剰避難)が成立し,その行為の違法性が阻却される可能性が残されています。そのため,それらの諸事情を捜査機関に示していく必要があります。なお,情状面で有利な事情についても,緊急避難(過剰避難)成立と並行して主張していくことになります。ただ,判例は緊急避難の補充性の要件を厳格に解釈し自力救済禁止の大原則を重視する立場と考えられます。
2.仮にあなたが刑事手続において罰金以上の刑に処せられてしまった場合,歯科医師であるあなたは,行政処分の対象となります。そこで,この段階においても,運転行為が緊急で仕方なかったという諸事情を行政庁に示して,不当に重い処分を受けることを避ける必要があります。又,同犯罪は特定の被害者がいない社会全体の利益(社会的法益)に対する犯罪ですから,被害者との示談に代えて贖罪寄付は不可欠でしょう。両罪で,罪の重さから50万円から100万円程度でしょうか。これは,行政処分(医道審議会)でも判断要素として作用します。
3.歯科医師の場合には,刑事処分ののちにさらに行政処分がありうるので,刑事事件段階での対応が通常のケースにも増して重要となります。そのため,事件を起こしてしまった場合には,一刻も早い段階で一度専門的弁護士に相談されるべきでしょう。
4.医道審議会関係,事務所事例集1102番1042番1034番869番735番653番551番313番266番246番211番48番参照。緊急避難に関し1079番参照。

解説:
1 全体の流れ(手続面)

(1) 今回,あなたが逮捕された被疑事実は,無免許運転(道路交通法117条の4第2号・84条1項)及び酒気帯び運転(同117条の2の2・65条1項)の事実です。
  刑事手続上,逮捕ののちは,検察官の判断によっては72時間以内に勾留請求がなされ(刑事訴訟法505条),さらに裁判官の判断によっては勾留決定がなされます(同法207条1項本文・60条1項)。勾留とは逮捕よりも長期間の身体拘束で,起訴前においては10日以内(ただし,さらに10日以内の延長をしうる)とされています(同法208条・207条)。なお,勾留がなされない場合には,あなたは速やかに身体拘束から解放されます(同法205条4項,207条4項但書)。
  あなたの被疑事実については,その終局処分を検察官がすることとなります(なお,この終局処分は,仮にあなたが勾留されその身体拘束が続いている場合には,勾留期間内になされます。)。その終局処分が不起訴処分であれば,あなたは有罪判決を受けることはありません。あなたの同意を得たうえでの略式起訴であれば,略式手続という簡略な手続を経たのち,あなたは有罪判決(罰金刑)を受けます。正式起訴であれば,あなたは公開法廷で正式裁判を受けたのち,有罪判決(懲役刑)を受けます(事実関係については,認めることを前提とした場合です。なお,この懲役刑については,初犯であることに鑑み,執行猶予が付される公算が高いです。)。

(2) 以上の刑事手続を経たのち,歯科医師であるあなたに対しては,行政処分がなされる可能性があります。すなわち,歯科医師が罰金以上の刑に処せられた場合,行政処分の対象となります(歯科医師法7条2項・4条3号)。
  その手続の流れの概要としては,判決確定後,検察庁から厚生労働省(厚生労働大臣)に有罪判決の連絡,厚生労働大臣は都道府県知事に命じ,処分対象者による事案報告がなされ,厚生労働大臣が医道審議会に諮問のうえ,処分をすることとなります。なお,行政処分に先立って,意見の聴取(同法7条5項,取消)・弁明の聴取(同条11項,業務停止)が行われます。

2 刑事手続(実体面)

(1) あなたが今回犯した罪は,無免許運転及び酒気帯び運転ですが,運転をしていた事実及び酒気帯びの事実は検問時に客観的に明らかになっていますし,無免許の事実についても,捜査機関からの照会で客観的に明らかになりますので,その事実自体を否認するのは困難です。
  ただ,本件では奥様の負われた大やけどの治療のためという緊急やむを得ないとも思われる事情がありますので,緊急避難(刑法37条1項本文)が成立し,その行為の違法性が阻却される可能性があります。そして,逮捕被疑事実自体はあったとしても,違法性が阻却されれば,違法ではない行為であったとして,犯罪は成立しません(刑法の謙抑性から犯罪が成立するには,その行為について法律が定める犯罪の構成要件該当性,違法性,有責性の3段階の慎重なる検討がなされ,構成要件に該当する事実については,違法性阻却事由,責任阻却事由が特別にない限り犯罪が成立する,とされています)。

(2) 違法性阻却事由としての緊急避難の要件は,@現在の危難があること,A補充性(危難に遭遇している法益を守るための唯一の方法であること。)があること,条文上,「やむを得ずにした行為」と規定されています。B法益権衡性があること,条文上「害の程度を超えなかった場合」と規定している。C避難の意思があること,D社会的相当性(避難行為が社会的に相当な手段,方法であること。)があることです。これも「やむを得ずにした行為の解釈上求められます。判例はこの点「条理上首肯しえる場合」と解釈しているようです。その例として,後記大阪高等裁判所平成7年12月22日判決参照してください。
  通常は,前記「補充性」と「法益均衡」の2つの要件を指して使われています。緊急避難は,正当防衛と共に法治国家では本来許されない自力救済を例外的に認めるもので以上の厳格な要件が理論的に求められますし,正当防衛と異なり責任のない第三者への侵害行為であり社会的相当性(補充性,法益均衡等)の要件が加重されています。又実質的違法性論(違法とは形式的に法に違反することではなく社会倫理道徳秩序全体から是認されないこと。)から犯罪行為の主観的(目的)客観的(手段の内容,状況,法益の均衡等)側面から総合的に判断されることになります。

  違法性阻却事由としてよく知られているのは正当防衛ですが,正当防衛は,不正な侵害に対する防衛行為であるのに対して緊急避難は,不正ではない現在の危難から避難する行為が犯罪の構成要件に該当する場合の違法性が阻却されるかという問題です。奥様は大やけどを負って早急な治療が必要な状態だったのですから,@他人の生命・身体に対する現在の危難はあったといえます。また,無免許運転・酒気帯び運転に対する罰則の保護法益は社会的法益であり,他方で奥様の生命・身体は個人的法益であるため,直ちに比較衡量できるものではありませんが,道路交通法が道路における危険防止・交通の安全等を目的としており(道路交通法1条),究極的には人の生命・身体の安全を企図していると考えられること,また,無免許運転・酒気帯び運転に対する罰則の法定刑と傷害の罪や殺人の罪の法定刑とを比較したときには後者の方が圧倒的に重いことなどからすれば,少なくとも運転によって人の死傷結果を生じさせていない本件においては,その行為が回避しようとした害の程度を超えなかったというB法益権衡性もあったといえるでしょう。さらに,あなたは奥様の生命・身体への危害の重大化を防止するため近くの救急病院まで運転をしたのですから,その運転行為にはC避難の意思があったといえます。

  ここで問題となるのが,奥様の生命・身体という法益保全のために,あなたの運転行為が,他に可能な方法がない唯一の方法であったといえるか(A補充性の問題),また,D実質的に社会的相当性を有するものであったかです。本件の事情の下では,この2要件については,さらに具体的事情によりその充足の有無が判断されてくるところです。奥様の容態の程度,深夜という時間帯,救急車を待った場合にどの程度時間がかかったのか,救急車を待っていた場合にどの程度危険性が増したのか,あなたの飲酒量や酩酊の程度,運転の態様,走行距離等諸般の事情を勘案して判断されます。しかし,タクシー,隣家の応援などの処置を講じていないので補充性の関係で違法性が認められる可能性もあります。補充性が認められないと法益の均衡を超えた場合と同様,過剰避難として理論的には取り扱うことが可能で,その場合は刑の減免があります(刑法37条1項但し書き)。刑の減免の理由は,違法性,責任が減少することにあるところ,実質的違法性論,道義的責任論(本来自由である行為者が,してはいけないという規範を理解できるのにあえてこれを守らなかった態度が責任の理由とすること。)から言えば,本件のように補充性を欠如した場合も違法性,責任が減少するからです。

(3)(判例の立場)
  但し,判例(下記大阪高裁平成10年6月24日判決,)は,「やむを得ずにした行為」とは「当該避難行為をする以外には他に方法がなく,かかる行動に出たことが条理上肯定し得る場合を意味する」と解釈し,過剰避難はこの補充性を満たすことを前提にして,結果として守ろうとした利益より大きな被害が生じた場合であるとしています。すなわち,補充性を満たさなければ過剰避難は認めません。自力救済禁止の原則を厳格に適用しています。 
  唯,当該判決は,補充性を欠いても過剰避難を認める余地がある場合として,以下のように説明しています。(「やむを得ずにした行為」としての実質を有しながら,行為の際に適正さを欠いたために,害を避けるのに必要な限度を超える害を生ぜしめた場合にも過剰避難の成立を認める余地はあると考えられる。)
  最高裁昭和35年2月4日第一小法廷判決,刑集14巻1号61頁(差し戻し上告審)も同様に過剰避難について補充性を前提にしています。参照してください。村の道路委員が,橋改修を迅速,容易にするため,通行危険なつり橋をダイナマイトで爆破した事案で,補充性がないという理由で過剰避難を認めていません。原審仙台高裁秋田支部(差し戻し控訴審)は過剰避難を認めていますが,これを破棄してさらに原審に差し戻しています。後記判例参照。

(判例検討@)

大阪高裁平成10年6月24日判決,現住建造物等放火被告事件
組事務所で監禁,暴行を受けていた関係者が逃走の手段として事務所に放火したことが過剰避難にあたらないという判断(原審は過剰避難を認めています。)です。明らかに補充性,相当性にかけています。

判決抜粋
「まず,刑法三七条一項に規定する「やむを得ずにした行為」とは「当該避難行為をする以外には他に方法がなく,かかる行動に出たことが条理上肯定し得る場合を意味する」(最高裁昭和二四年五月一八日大法廷判決・刑集三巻六号七七二頁参照)と解するのが相当である。
 原審記録によると,被告人は平成八年七月に左足首を骨折したが,その後の治療により本件当時は歩行に支障がないほどに回復しており,現に,本件放火の前後に被告人が機敏に行動している事実からすると,Aから左足首に暴行を受けていたとはいえ,当時逃走が困難となるほど歩行能力が低下していたとは認めがたいところ,組員らによる監視の程度は前示のとおり厳しいものではなく,その隙を突いて被告人がほぼ終日座っていたソファー近くの組事務所表出入口の閂錠を外して逃走し,あるいは,原判決が説示するとおり裏口からの逃走によることも不可能ではなかったと認められるのであり,本件において,逃走の手段として放火する以外に他にとるべき方法がなかったとはいえない。さらに,被告人は,翌日には入管局に出頭することが予定されており,Aの支配下から解放される見込みがあったうえ,その監視の態様も緩やかで,行動の自由の侵害の程度は甚だしいものではなく,身体の安全についても,Aから暴行を受ける可能性は否定できないとしても,せいぜい左足首を蹴られるといった程度の比較的軽い暴行が想定されていたのであって,右のような程度の害を避けるために本件のごとき灯油の火力を利用した危険な態様の放火行為により不特定多数の生命,身体,財産の安全,すなわち公共の安全を現実に犠牲にすることは,法益の均衡を著しく失するものといわざるを得ず,条理上も是認し得るものではない。したがって,本件放火は補充性及び条理のいずれの観点からしても「やむを得ずにした行為」であったとは認められない。
 ところで,原判決は,本件放火について補充性の原則を充たさないとしながらも,その一方で,「補充性の原則に反する場合においても,当該行為が危難を避けるための一つの方法であるとみられる場合は,過剰避難の成立を肯定し得るものである。本件においては,前記認定のとおり,本件放火行為が危難を避けるための一つの方法であること自体は認められるから,過剰避難が成立するものと解する。」旨を判示している。しかしながら,緊急避難では,避難行為によって生じた害と避けようとした害とはいわば正対正の関係にあり,原判決のいう補充性の原則は厳格に解すべきであるところ,過剰避難の規定における「その程度を超えた行為」(刑法三七条一項ただし書)とは,「やむを得ずにした行為」としての要件を備えながらも,その行為により生じた害が避けようとした害を超えた場合をいうものと解するのが緊急避難の趣旨及び文理に照らして自然な解釈であって,当該避難行為が「やむを得ずにした行為」に該当することが過剰避難の規定の適用の前提であると解すべきである(最高裁昭和三五年二月四日第一小法廷判決・刑集一四巻一号六一頁参照。もっとも,「やむを得ずにした行為」としての実質を有しながら,行為の際に適正さを欠いたために,害を避けるのに必要な限度を超える害を生ぜしめた場合にも過剰避難の成立を認める余地はあると考えられる。)。
 そうすると,本件においては,他に害の少ない,より平穏な態様での逃走手段が存在し,かつ,本件放火行為が条理上も是認し得るものとはいえない以上,過剰避難が成立する余地はなく,これを肯定した原判決の前記法解釈は過剰避難の要件を過度に緩めるものとして採用できない。」

(判例検討A)

東京高等裁判所昭和46年5月24日判決(道路交通法違反被告事件 無免許運転)
救急車を呼ばずに急病人を無免許で運転したことは過剰避難にもあたらないとしています。救急車,タクシー,隣家の応援等を補充性の要件としています。妥当でしょう。

判旨抜粋
「 論旨は,被告人のとつた措置は,急病人雨野光夫の生命,身体に対する「現在の危険」を避けるため,やむを得なかつたものであるから,緊急避難ないし過剰避難が成立する,然らずとするも,被告人に対し,本件以外に他に適切な方法を尽すことを期待することは不可能であつたと主張するものである。
 よつて本件記録および当審における事実取調の結果に基づき検討するに,被告人は,原判示日の夜,同人方住込みの人夫雨野光夫が胃けいれんにより苦しみ出したため,他の人夫一同からの強い要請により,右雨野を自動車で約一〇キロメートル離れた御殿場市内の御殿場中央病院に運送しようとして,原判示のような無免許運転をしたことが認められる。
 ところで,本件の場合,雨野の症状が原判決のいうように必ずしも重篤なものではなかつたとは直ちに断言しがたい(原判決のいうように被告人が警察官に発見された際,警察官に対し急病人のことを告げていないこと及び救急車の出動を要請していないことが直ちに雨野の症状が重篤ではなかつたことを認めしめる資料となるとすることは,いさゝか牽強の嫌いがある。)のであるが,いずれにせよ,雨野が病気で苦しんでいたことは間違いないところと認められるので,同人を医師に診療させる必要のあつたことは,これを是認せざるを得ないのである。この場合,被告人としては,本件のような無免許運転をしなくても,被告人方近所に聖マリヤ病院その他数ケ所の病院があるので,これら病院の医師の来診を求めるとか,あるいは被告人方飯場にある電話で近くのタクシーを呼ぶとか消防署に対し救急車の出動を要請するとか他の有効,適切な措置を講じ得たのではないかということが考えられるのであるが,被告人は原審公判以来当審公判を通じて,近くの病院へ誰かが電話連絡したが医師不在と断わられた,近くのタクシーも若衆が電話したが,出払つてすぐ来られないとのことであつた,救急車のことは全く念頭になかつたという趣旨の弁明をしているのであつて,この近くの病院およびタクシーの件については,被告人の弁明を虚偽として排斥するだけの資料もないので,一応これを措信するとしても,胃けいれんのような案件でも救急車が出動することは記録上明らかであるから,被告人としては,救急車の出動を要請すべきであつたといわれても,致し方がないところである。してみると,本件の場合,本件運転のみが雨野の危難を避ける唯一の手段,方法であつたとはいいがたいので,緊急避難を認める余地はなく,従つて過剰避難も成立しえないし,また,本件被告人の年齢,地位その他諸般の具体的事情の下においては,本件について期待可能性がなかつたものとも認めることはできない。論旨は理由がない。」

(判例検討B)

大阪高等裁判所平成7年12月22日判決
補充性,「相当性」がないとして,自動車運転でトラブルになり(自招危難により)責任のない第三者に対して交通事故を起こした場合について原審(緊急避難を認めています)を破棄し緊急避難(過剰避難)を認めていません。理論的には過剰避難の余地があると思われますが難しい事案と思います。この判例は,故意犯の他に過失犯について緊急避難を認めるかという問題で興味ある判例と言われています。いずれにしろ,最高裁,高裁は自力救済禁止の大原則(法社会秩序の維持)を重視し相当性の判断を厳格に解釈していることは間違いないに思われます。

判決抜粋「これについて検討すると,(一)ワゴン車は追越し車線を塞ぐ状態で停止しており,その左側の走行車線が空いていたことは所論指摘のとおりであるが,被告人車の助手席側付近にはワゴン車から降りてきた男がおり,同人に衝突しないようにしながら左側車線を走行するのは相当に困難を伴う状況であったと認められる。従って,左側車線を直進して逃走すべきであったとする所論は採用し難い。しかしながら,(二)ワゴン車の男を避けて右に転把し進行したうえ,ボンネットの高いワゴン車の付近で対向車線が見通せる地点まで進出して一旦停止し,同車線を直進してくる車がないかどうか安全を確認してから右折発進することは十分可能であったと認められる。しかも既に二で検討したとおり,ワゴン車から降りてきた男らは素手であり,ドアもロックされていた状況を考えると,右折し逃走する際に対向車線の安全を確認するだけの余裕はあったというべきであり,また原審A証言によれば,被害車両はライトの位置が高めで視認が容易であったと認められる。しかるに被告人は,ワゴン車に気を奪われて急発進し,対向車線に出て衝突する直前まで被害車両に気付かなかったことが明らかである。そうすると,被告人の本件運転行為は,前記危難を避けるためであっても,他にとる方法がなかった又はやむを得ないものであったとはいえず,緊急避難としての補充性及び相当性の要件を欠くといわなければならない。
 原判決は「被告人が前記危難を避けるためには,本件交差点を右折する以外に適当な方法はなかったと認められる。」と判示するのみで,右折の際に被告人がとった運転方法の相当性については判断を示していないが,緊急避難の成立要件につき事実誤認があり判決に影響を及ぼすことは明らかであり,その余の所論について検討するまでもなく,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。」

(判例検討C)

最高裁昭和35年2月4日第一小法廷判決

「しかし,職権をもつて調査すると,原審は,本件吊橋を利用する者は夏から秋にかけて一日平均約二,三十人,冬から春にかけても一日平均二,三人を数える有様であつたところ,右吊橋は腐朽甚しく,両三度に亘る補強にも拘らず通行の都度激しく動揺し,いつ落下するかも知れないような極めて危険な状態を呈していたとの事実を認定し,その動揺により通行者の生命,身体等に対し直接切迫した危険を及ぼしていたもの,すなわち通行者は刑法三七条一項にいわゆる「現在の危難」に直面していたと判断しているのである。しかし,記録によれば,右吊橋は二〇〇貫ないし三〇〇貫の荷馬車が通る場合には極めて危険であつたが,人の通行には差支えなく(被告人若生の差戻前第二審公判の供述五二五丁以下,同工藤の供述五三七丁,証人石井藤七の原審における尋問調書六八三丁以下等参照),しかも右の荷馬車も,村当局の重量制限を犯して時に通行する者があつた程度であつたことが窺える(被告人工藤の前掲供述,原審における証人渡辺平一の証言七一六丁等参照)のであつて,果してしからば,本件吊橋の動揺による危険は,少くとも本件犯行当時たる昭和二八年二月二一日頃の冬期においては原審の認定する程に切迫したものではなかつたのではないかと考えられる。更に,また原審は,被告人等の本件所為は右危険を防止するためやむことを得ざるに出でた行為であつて,ただその程度を超えたものであると判断するのであるが,仮に本件吊橋が原審認定のように切迫した危険な状態にあつたとしても,その危険を防止するためには,通行制限の強化その他適当な手段,方法を講ずる余地のないことはなく,本件におけるようにダイナマイトを使用してこれを爆破しなければ右危険を防止しえないものであつたとは到底認められない。しからば被告人等の本件所為については,緊急避難を認める余地なく,従つてまた過剰避難も成立しえないものといわなければならない。」

(4) 本件のような無免許運転及び酒気帯び運転の場合,初犯でも罰金以上の刑に処せられる可能性は極めて高いといえます。そのため,歯科医師に対する行政処分(歯科医師法7条2項・4条3号)の対象となる可能性も,極めて高いところです。そのため,歯科医師であるあなたの場合,通常のケースにも増して,刑事手続の段階で緊急避難が成立していたことを主張すべき必要性は高いといえます。そして,(2)で述べたような緊急避難の成否に関する具体的事情について,有利な事実を適切に主張し,それを裏付ける証拠を的確に収集するためには,法律の専門知識を有する弁護人による弁護活動がしっかりなされることが肝要でしょう。
緊急避難が成立する場合,あなたの運転行為はその違法性が阻却されることとなりますから,「罪とならず」との理由で不起訴処分がなされることとなります。そのため,罰金以上の刑に処せられることはなく,歯科医師法7条2項・4条3号による行政処分の対象とはなりません。

(5) なお,緊急避難が成立しない場合であっても,緊急でやむを得なかった事情については有利な一情状となり得ますし,場合によっては起訴猶予ということも考えられます。また,交通事故関係機関への贖罪寄付や,今後の車両運転にあたっての監督者の存在,あるいはあなた自身の今後の車両運転可能性等の情状面で有利な事情についても,緊急避難成立と並行して主張していくことになります。そのためにも,弁護人による弁護活動がしっかりなされることが望まれます。

3 歯科医師に対する行政処分(実体面)

  1で延べたとおり,歯科医師が罰金以上の刑に処せられた場合には行政処分の対象となりますから,本件においては,仮に緊急避難の成立が認められず,罰金以上の刑に処せられてしまった場合に行政処分の対象となります。
  道路交通法違反事例の処分例としては,他の犯罪と併合的でなければ,概ね医業停止1〜3月程度,戒告などが多いようです。また,場合によっては,行政処分はなされずに,厳重注意という形で行政指導がなされるにとどまるといったケースもあるようです。ただ,どのような処分がなされるかは具体的事実関係にもよりますし,本件のように飲酒運転で免許が取り消されたのちに,無免許で飲酒運転をしたというように道路交通法違反の事実が重畳的である場合,そのことも勘案されるべき一事情となるでしょう。いずれにしても,行政処分自体の回避,あるいは戒告処分といったところを目指して活動をしていくこととなります。

  そして,本件では,仮に刑法上違法性を阻却する緊急避難としては要件をみたさないとしても,そのような経緯によって運転行為にいたったという事情自体が有利な情状となりますので,それを行政手続上に顕出しておく必要があります(具体的にいえば,2(2)で述べたような,奥様の容態の程度,深夜という時間帯,救急車を待った場合にどの程度時間がかかったのか,救急車を待っていた場合にどの程度危険性が増したのか,あなたの飲酒量や酩酊の程度,運転の態様,走行距離等諸般の事情の中から,あなたに有利に働く事情をピックアップし,それらがいかに有利に働くのかを,法的観点をふまえながら主張していくこととなります。)。なお,この事情は,仮に刑事手続段階では既に顕出していたものであっても,違法性阻却事由として勘案はされていない事情となりますし,また,刑事手続と行政手続は別個の手続であるため,行政手続上でも別途顕出しておく必要があります。その際,有利な事情の主張や証拠の収集・提出について最善を尽くすためには,歯科医師の行政処分手続について詳しい弁護士に一度ご相談されてみるのがよろしいでしょう。

4 歯科医師の場合,以上述べてきたとおり刑事処分ののちにさらに行政処分がありうるので,刑事事件段階での対応が通常のケースにも増して重要となります。そのため,事件を起こしてしまった場合には,一刻も早い段階で一度弁護士に相談されるべきでしょう。

≪参照条文≫

道路交通法
(目的)
第一条 この法律は,道路における危険を防止し,その他交通の安全と円滑を図り,及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。
(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条 何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も,酒気を帯びている者で,前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し,車両等を提供してはならない。
3 何人も,第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し,酒類を提供し,又は飲酒をすすめてはならない。
4 何人も,車両(トロリーバス及び道路運送法第二条第三項に規定する旅客自動車運送事業(以下単に「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項,第百十七条の二の二第四号及び第百十七条の三の二第二号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら,当該運転者に対し,当該車両を運転して自己を運送することを要求し,又は依頼して,当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。
(運転免許)
第八十四条 自動車及び原動機付自転車(以下「自動車等」という。)を運転しようとする者は,公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならない。
2 免許は,第一種運転免許(以下「第一種免許」という。),第二種運転免許(以下「第二種免許」という。)及び仮運転免許(以下「仮免許」という。)に区分する。
3 第一種免許を分けて,大型自動車免許(以下「大型免許」という。),中型自動車免許(以下「中型免許」という。),普通自動車免許(以下「普通免許」という。),大型特殊自動車免許(以下「大型特殊免許」という。),大型自動二輪車免許(以下「大型二輪免許」という。),普通自動二輪車免許(以下「普通二輪免許」という。),小型特殊自動車免許(以下「小型特殊免許」という。),原動機付自転車免許(以下「原付免許」という。)及び牽引免許の九種類とする。
4 第二種免許を分けて,大型自動車第二種免許(以下「大型第二種免許」という。),中型自動車第二種免許(以下「中型第二種免許」という。),普通自動車第二種免許(以下「普通第二種免許」という。),大型特殊自動車第二種免許(以下「大型特殊第二種免許」という。)及び牽引第二種免許の五種類とする。
5 仮免許を分けて,大型自動車仮免許(以下「大型仮免許」という。),中型自動車仮免許(以下「中型仮免許」という。)及び普通自動車仮免許(以下「普通仮免許」という。)の三種類とする。
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は,三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で,その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの
二 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第二項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の提供を受けた者が身体に前号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で当該車両等を運転した場合に限るものとし,前条第二号に該当する場合を除く。)
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第三項の規定に違反して酒類を提供した者(当該違反により当該酒類の提供を受けた者が酒に酔つた状態で車両等を運転した場合に限る。)
四 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第四項の規定に違反した者(その者が当該同乗した車両の運転者が酒に酔つた状態にあることを知りながら同項の規定に違反した場合であつて,当該運転者が酒に酔つた状態で当該車両を運転したときに限る。)
五 第六十六条(過労運転等の禁止)の規定に違反した者(前条第三号の規定に該当する者を除く。六 第七十五条(自動車の使用者の義務等)第一項第三号の規定に違反した者(当該違反により運転者が酒に酔つた状態で自動車を運転し,又は身体に第一号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で自動車を運転した場合に限るものとし,前条第四号に該当する場合を除く。)
七 第七十五条(自動車の使用者の義務等)第一項第四号の規定に違反した者(前条第五号に該当する者を除く。)
第百十七条の四 次の各号のいずれかに該当する者は,一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第五十一条の三(車両移動保管関係事務の委託)第二項,第五十一条の十二(放置車両確認機関)第六項,第五十一条の十五(放置違反金関係事務の委託)第二項,第百八条(免許関係事務の委託)第二項又は第百八条の二(講習)第四項の規定に違反した者
二 法令の規定による運転の免許を受けている者(第百七条の二の規定により国際運転免許証等で自動車等を運転することができることとされている者を含む。)でなければ運転し,又は操縦することができないこととされている車両等を当該免許を受けないで(法令の規定により当該免許の効力が停止されている場合を含む。)又は国際運転免許証等を所持しないで(第八十八条第一項第二号から第四号までのいずれかに該当している場合,又は本邦に上陸した日から起算して滞在期間が一年を超えている場合を含む。)運転した者
三 第七十五条(自動車の使用者の義務等)第一項第一号の規定に違反した者
四 偽りその他不正の手段により免許証又は国外運転免許証の交付を受けた者

刑事訴訟法
第六十条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
2 勾留の期間は,公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては,具体的にその理由を附した決定で,一箇月ごとにこれを更新することができる。但し,第八十九条第一号,第三号,第四号又は第六号にあたる場合を除いては,更新は,一回に限るものとする。
3 三十万円(刑法 ,暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については,当分の間,二万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる事件については,被告人が定まつた住居を有しない場合に限り,第一項の規定を適用する。
第二百五条 検察官は,第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
2 前項の時間の制限は,被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは,勾留の請求をすることを要しない。
4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
5 前条第二項の規定は,検察官が,第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され,第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し,第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
2 前項の裁判官は,第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に,被疑者に対し,弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
3 前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては,弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4 裁判官は,第一項の勾留の請求を受けたときは,速やかに勾留状を発しなければならない。ただし,勾留の理由がないと認めるとき,及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは,勾留状を発しないで,直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき,勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2 裁判官は,やむを得ない事由があると認めるときは,検察官の請求により,前項の期間を延長することができる。この期間の延長は,通じて十日を超えることができない。

歯科医師法
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には,免許を与えないことがある。
一 心身の障害により歯科医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬,大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか,医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
第七条 歯科医師が,第三条に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取り消す。
2 歯科医師が第四条各号のいずれかに該当し,又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつたときは,厚生労働大臣は,次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の歯科医業の停止
三 免許の取消し
3 前二項の規定による取消処分を受けた者(第四条第三号若しくは第四号に該当し,又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつた者として前項の規定による取消処分を受けた者にあつては,その処分の日から起算して五年を経過しない者を除く。)であつても,その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたとき,その他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは,再免許を与えることができる。この場合においては,第六条第一項及び第二項の規定を準用する。
4 厚生労働大臣は,前三項に規定する処分をなすに当つては,あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならない。
5 厚生労働大臣は,第一項又は第二項の規定による免許の取消処分をしようとするときは,都道府県知事に対し,当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め,当該意見の聴取をもつて,厚生労働大臣による聴聞に代えることができる。
6 行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章第二節(第二十五条,第二十六条及び第二十八条を除く。)の規定は,都道府県知事が前項の規定により意見の聴取を行う場合について準用する。この場合において,同節中「聴聞」とあるのは「意見の聴取」と,同法第十五条第一項中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と,同条第三項(同法第二十二条第三項において準用する場合を含む。)中「行政庁は」とあるのは「都道府県知事は」と,「当該行政庁が」とあるのは「当該都道府県知事が」と,「当該行政庁の」とあるのは「当該都道府県の」と,同法第十六条第四項並びに第十八条第一項及び第三項中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と,同法第十九条第一項中「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」とあるのは「都道府県知事が指名する職員」と,同法第二十条第一項,第二項及び第四項中「行政庁」とあるのは「都道府県」と,同条第六項 ,同法第二十四条第三項及び第二十七条第一項中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と読み替えるものとする。
7 厚生労働大臣は,都道府県知事から当該処分の原因となる事実を証する書類その他意見の聴取を行う上で必要となる書類を求められた場合には,速やかにそれらを当該都道府県知事あて送付しなければならない。
8 都道府県知事は,第五項の規定により意見の聴取を行う場合において,第六項において読み替えて準用する行政手続法第二十四条第三項の規定により同条第一項の調書及び同条第三項の報告書の提出を受けたときは,これらを保存するとともに,当該処分の決定についての意見を記載した意見書を作成し,当該調書及び報告書の写しを添えて厚生労働大臣に提出しなければならない。
9 厚生労働大臣は,意見の聴取の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは,都道府県知事に対し,前項の規定により提出された意見書を返戻して主宰者に意見の聴取の再開を命ずるよう求めることができる。行政手続法第二十二条第二項本文及び第三項の規定は,この場合について準用する。
10 厚生労働大臣は,当該処分の決定をするときは,第八項の規定により提出された意見書並びに調書及び報告書の写しの内容を十分参酌してこれをしなければならない。
11 厚生労働大臣は,第二項の規定による歯科医業の停止の命令をしようとするときは,都道府県知事に対し,当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行うことを求め,当該弁明の聴取をもつて,厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えることができる。
12 前項の規定により弁明の聴取を行う場合において,都道府県知事は,弁明の聴取を行うべき日時までに相当な期間をおいて,当該処分に係る者に対し,次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 第二項の規定を根拠として当該処分をしようとする旨及びその内容
二 当該処分の原因となる事実
三 弁明の聴取の日時及び場所
13 厚生労働大臣は,第十一項に規定する場合のほか,厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えて,医道審議会の委員に,当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行わせることができる。この場合においては,前項中「前項」とあるのは「次項」と,「都道府県知事」とあるのは「厚生労働大臣」と読み替えて,同項の規定を適用する。
14 第十二項(前項後段の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の通知を受けた者は,代理人を出頭させ,かつ,証拠書類又は証拠物を提出することができる。
15 都道府県知事又は医道審議会の委員は,第十一項又は第十三項前段の規定により弁明の聴取を行つたときは,聴取書を作り,これを保存するとともに,当該処分の決定についての意見を記載した報告書を作成し,厚生労働大臣に提出しなければならない。
16 厚生労働大臣は,第五項又は第十一項の規定により都道府県知事が意見の聴取又は弁明の聴取を行う場合においては,都道府県知事に対し,あらかじめ,次に掲げる事項を通知しなければならない。
一 当該処分に係る者の氏名及び住所
二 当該処分の内容及び根拠となる条項
三 当該処分の原因となる事実
17 第五項の規定により意見の聴取を行う場合における第六項において読み替えて準用する行政手続法第十五条第一項の通知又は第十一項の規定により弁明の聴取を行う場合における第十二項の通知は,それぞれ,前項の規定により通知された内容に基づいたものでなければならない。
18 第五項若しくは第十一項の規定により都道府県知事が意見の聴取若しくは弁明の聴取を行う場合又は第十三項前段の規定により医道審議会の委員が弁明の聴取を行う場合における当該処分については,行政手続法第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は,適用しない。

刑法
(緊急避難)
第三十七条 自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。ただし,その程度を超えた行為は,情状により,その刑を減軽し,又は免除することができる。
2 前項の規定は,業務上特別の義務がある者には,適用しない。

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