新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1086、2011/3/11 12:06 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【労働法・飲酒運転と懲戒解雇・解雇を争う手続き】
                          
質問:飲酒後に車を運転して物損事故を起こしました。現在,道路交通法違反(酒酔い及び酒気帯び運転)の被疑事実で,警察から取り調べを受けています。ところが,先日,民間企業である勤務先から懲戒解雇の処分を言い渡されてしまいました。刑事処分が確定する前に下された懲戒解雇という処分に対してその正当性に疑問を抱いております。勤務先が行った懲戒免職を争うために何らかの救済手段があるでしょうか。なお,勤務先の飲酒運転に関する就業規則上の懲戒処分の基準は,次のとおりとなっています。
 酒酔い運転=免職
 酒気帯び運転(呼気中アルコール濃度0.25mg以上)=停職
 酒気帯び運転(0.15r以上0.25r未満)=減給

回答:
1.救済手段としては,労働審判,労働訴訟,仮地位仮処分が考えられます。本件では,まず,労働審判を申し立てて,懲戒解雇の有効性を争うことが適切であると考えられます。

2.上記の救済手段においては,勤務先の懲戒免職の有効性を争うことになります。有効性を争う根拠ですが,懲戒免職が取調べを受けた段階でなされたのであれば,懲戒事由が存在しないことを理由に懲戒解雇を争う余地が十分あります。また,酒酔い運転による刑事処分を受けた後においても懲戒解雇の効力を争うことは可能です。争い方としては,どちらの場合も(ア)懲戒事由が存在しない,(イ)懲戒解雇は相当性に欠ける,といった2つの方法が考えられます。

3.判例を検討すると,仮に飲酒運転による罰金刑を受けても懲戒解雇になるかどうかは,
@職種(道交法遵守する必要がある業種かどうか,例えば交通関係の運送業,運転手業,酒類製造販売業)
A会社の地位,勤務態度(会社で指導的地位にあるかどうか)
B飲酒の量(酒気帯び,酒酔いか)
C運転が飲酒直後かどうか,二日酔いの場合かどうか,未必の故意かどうかと関連する。)
D過去の同種違反,前科があるか
E反省の態度(会社への誓約書,刑事処分での贖罪寄付の程度等,この点は弁護人と事前相談が必要でしょう。)
F今後の身元引受(今後飲酒運転をしないという家族の監督,誓約)
G勤め先の信用失墜の程度(会社の業務内容と関連する。報道の有無)
H飲酒運転と同時に人身事故,物損事故,自損事故があるか,他の道交法違反があるか
I刑事処罰,罰金の額(刑事事件の処分に関しては罰金の額が懲戒に影響があるため検察官との交渉が必要となります。)
J解雇による生活への影響
K当日の飲酒運転の原因,動機,態様,運転が業務上か私的目的か
L会社の飲酒運転に対する日頃の指導,対応,過去の処分例との比較
M社会への影響
N他の会社,公的団体においても一般的に飲酒運転が懲戒解雇と定める就業規則や決まりがあるかどうか(本件のような規定を定める就業規則を定める会社は特別の職種を除き少ないと考えられます。,
 どのような処分がなされているか(比較平等の原則)等を総合的に考慮して判断されることになると思われます。重要なことは,刑事処分及び,懲戒処分が出る前に,一刻も早い専門家,弁護士との協議対応,そして意見書提出による交渉が必要でしょう。会社側は,理論,判例を理解せずに安易に解雇処分を行う危険があり,これを覆すのは時間と労力がさらに必要になりますから,全ての法律問題と同様に事前の対応が肝要です。本件では,刑事処分も確定しておらず争う余地は十分あるでしょう。後記判例参照。京都地方裁判所平成22年12月15日判決(地位確認等請求事件)も参考になります。

4.なお公務員の場合は,社会全体の奉仕者という地位にあり,飲酒運転の責任は民間会社員より重いことが予想されます。又,手続きは一部異なり(労働審判は利用できません。その代わり独自の手続きが用意されています。地方公務員法49条の2不服申し立て。国家公務員法89条,申立期間60日。),国,地方公共団体が有する行政処分の合理的裁量権(国民から信託された行政権を適正,公平,迅速,低廉に行使する責任をもつことから認められる。従って濫用は認められない。)はありますが,判断の要素は同じになると思います。合理的裁量権については(最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁伝習館高校教師免職事件,最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照,国税庁職員の勤務評定反対闘争による免職処分事件)が認めています。
 懲戒免職処分を取り消した後記2つの事件,神戸地判平成20年11月26日,高知地方裁判所平成22年9月21日民事部判決(懲戒免職処分取消請求事件)を参照してください。

5.法律相談事例集キーワード検索:925番915番842番786番762番743番721番657番642番。手続は,995番879番書式集ダウンロード労働審判申立参照。

解説:
(労働契約に関する法規解釈の指針)
 先ず労働法における雇用者,労働者の利益の対立について申し上げます。本来,資本主義社会において私的自治の基本である契約自由の原則から言えば労働契約は使用者,労働者が納得して契約するものであれば特に不法なものでない限り,どのような内容であっても許されるようにも考えられますが,契約時において使用者は経済力からも雇う立場上有利な地位にあるのが一般的ですし,労働力を売って賃金をもらい生活する関係上,労働者は長期間にわたり拘束する契約でありながら,常に対等な契約を結べない危険性を有しています。しかし,そのような状況は個人の尊厳を守り,人間として値する生活を保障した憲法13条,平等の原則を定めた憲法14条の趣旨に事実上反しますので,法律は民法の雇用契約の特別規定である労働法等(基本労働三法等)により,労働者が対等に使用者と契約でき,契約後も実質的に労働者の権利を保護すべく種々の規定をおいているのです。
 法律は性格上おのずと抽象的規定にならざるをえませんから,その解釈にあったっては使用者,労働者の実質的平等を確保するという観点からなされなければならない訳ですし,雇用者の利益は営利を目的にする経営する権利(憲法29条の私有財産制に基づく企業の営業の自由,経済的利益確保)であるのに対し,他方労働者の利益は毎日生活し働く権利ですし個人の尊厳確保に直結した権利ですから,おのずと力の弱い労働者の利益をないがしろにする事は許されないことになります。ちなみに,労働基準法1条も「労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならない。」第2条は「労働条件は労働者と使用者が,対等の立場において決定すべきものである。」と規定しています。以上の趣旨から前述の要素をもとに懲戒解雇の有効性判断することになります。

1.救済方法の選択
(1)選択の方針
 上記回答で述べたように,法的な救済方法としては,労働審判,労働訴訟,仮地位仮処分の3つの手段が考えられます。各方法の特徴等を考慮しつつ,本件において,どの手段が適切な方法であるかを検討します。

(2)労働審判
 まず,労働審判制度の概要は,次のようなものです。すなわち,労働審判手続は,当事者に加え,1名の審判官(裁判官)と,2名の専門的な労働関係の経験を有する労働審判委員で構成される労働審判委員会が手続を行うことになります。当事者間の合意によって成立する調停による解決を試み,調停が成立しないときは,事案の実情に即した解決をするために必要な審判(労働審判)をします。労働審判に対して,当事者による異議の申立てがあれば,労働審判はその効力を失い,労働審判申し立て時に訴訟提起がされたものとみなされます。
 次に,労働審判の特徴は,@原則として最大3回で完結する手続であること,A手続の内容は口頭によるやり取りをベースとする手続であること,B話し合いを目的とする手続であることなどが挙げられます。
 このような特徴から,労働審判は,少ない期日で話し合いによる解決が可能であるような事件,すなわち,具体的な事実について争いがなく,判決手続のような証拠調べを行う必要性がそれほど高くないため,労働審判委員会がその法的評価を示すことによって当事者の話し合いによる解決する見込みのある事件に用いることが適切であると考えられます。

(3)労働訴訟
 労働訴訟とは,労働関係の紛争について裁判所に訴えを提起し,裁判の手続によって問題の解決を図るものです。本件のような解雇の事件では,労働契約上の権利を有する地位の確認の訴えなどを行い,現在においても労働者としての地位にあることを確認することで,懲戒解雇の有効性を争うことになります。
 労働訴訟により争うことが適切な事件とは,逆にいえば,労働審判によって解決することが難しいような事件であるといえます。たとえば,使用者と労働者との間で複数の紛争が存在している場合,争点が複雑かつ困難な場合や専門的な場合,労働時間等の具体的事実に争いがある場合等は,労働審判での解決が困難であり,労働訴訟により争うことが適切であると考えられます。
 また,一般的には労働審判による解決が適切と思われる事例であっても,たとえば,解雇事件で労働者が現職復帰に強くこだわっているのに,使用者側がこれを受け入れる見通しがない場合等,使用者側が話し合いによる柔軟な解決をまったく考えていないような場合には,労働訴訟による解決に頼るほかないと考えられます。

(4)仮地位仮処分
 仮地位仮処分は,保全処分の一類型であり,本訴訟を提起する前提として行うものなので,上記2つの手段とは趣を異にします。本件においても,以下のB,Cにあるような労働訴訟を提起することを前提として行うこととなります。
 この仮地位仮処分は,労働訴訟の結論を待てないような切迫した状態にある場合等に用いられるものです。たとえば,金銭的に切迫した状況にある場合には,懲戒解雇が無効なものであることを前提に,賃金の支払いを継続してもらわなければなりません。そのため,この例の場合,@労働契約法上の権利を有する地位を仮に定める「地位保全仮処分」,A賃金の仮払いを求める「賃金仮払い仮処分」の双方を同時に申し立てて救済を図るべきであると考えられます。
 この具体例でいけば,上記二つの申立てを行った後に,本訴訟である,B労働契約上の権利を有する地位の確認の訴え,C賃金支払請求の訴えの双方を提起することになります。本訴訟を提起しなかった場合,上記二つの仮処分の申立ては,効力を失うことになってしまいます。
 さらに,仮地位仮処分は,上述のように,切迫した状態にあるときにのみ認められるもので,「保全の必要性」という要件を充たす必要があります。たとえば,金銭面で逼迫した状況にあることのほか,住み込みなどによる住宅の確保の必要性,精神的苦痛の継続,職場復帰の困難,特殊な職種で就労できないことによる専門的技術の低下等を具体的に主張していく必要があります。
 もっとも,本手続も,結論が出るまでの期間につき,3か月ないし6か月を要するのが現実のようであり,使用者側が話し合いに応じる姿勢があるのであれば,3か月以内で終了することが多い労働審判による解決を図った方がよいと思われます。

(5)本件での手段選択
 本件は,相談者の方が飲酒後に運転をして物損事故を起こしたという具体的事実に争いがなく,その事実をどう評価するかについて争いがある事件であり,争点が複雑多岐にわたることもないと考えられます。そこで,本件では,まず,労働審判によって使用者側と話し合いを行うことで解決を図るべき事件であると考えられます。他方,使用者側が問題の解決に柔軟でない場合には,労働訴訟により解決を図り,場合によっては仮地位仮処分を併用するという形になると考えられます。

(6)参考〜その他の救済手段
 法的な救済手段としては次のようなものが考えられるので,参考にしてみてください。企業内に紛争解決システムが備えられている場合があり,行政機関には,各都道府県の労働局における相談,同局長による助言指導や,紛争調整委員会によるあっせん手続等が存在します。

2.懲戒解雇の要件
 解雇された者は,懲戒解雇が無効であることを上の手段において主張することになりますが,いずれの手段においても,懲戒解雇により労働契約を終了させたことが有効であると主張するためには,主に次の4つのことを使用者が主張,立証する必要があります。
 すなわち,使用者側は,@使用者が労働者に対して懲戒解雇の意思表示をしたこと,A就業規則に懲戒事由及び懲戒の種類が定められていること,B労働者が在職中に上記懲戒解雇事由に該当する行為をしたこと,C労働者の行為につき懲戒解雇をすることが相当であると評価できる事実を主張し,争いのある事実については証拠を持って立証する必要があると考えられます。この@からCについて,以下で順に考えていきます。

3.懲戒解雇の要件の具体的検討
(1)@使用者が労働者に対して懲戒解雇の意思表示をしたことについて
 本件では,相談者の方も懲戒解雇が告げられたこと自体は認めていらっしゃいますので,この点については争いがないことになります。

(2)A就業規則に懲戒事由及び懲戒の種類が明定されていることについて
 次に,懲戒処分を行うためには,上記Aの要件が必要であると考えられています。この点につき,労働基準法89条9号において,常時10人以上の労働者を使用する使用者についてこれを明確に定めていることからも窺えますし,判例上,使用者が常時使用する労働者の数に言及することなく,「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」(最判平成15年10月10日,フジ興産事件)とされていることからも,上記Aが懲戒解雇の一般的な要件とされることは明らかです。もっとも,本件では,酒酔い運転は免職とするということが就業規則上に明記されているようですので,この点で争うことは困難だと思われます。

(3)B労働者が在職中に上記懲戒解雇事由に該当する行為をしたことについて
 では,上記Bの要件についてはどうでしょうか。たしかに,本件では,飲酒後に車を運転して物損事故を起こし,酒酔い運転及び酒気帯び運転の被疑事実で取調べを受けています。しかし,取調べは,当該事実が存在するかどうかを調べるために行うものであって,取調べ段階では,酒酔い運転及び酒気帯び運転の事実が存在すると決まったわけではありません。
 特に,酒酔い運転は,アルコール濃度の数値で決まるものではなく,「酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの」(道路交通法117条の2第1号)が運転することという評価の入った要件であり,その認定にあたっては,捜査官の主観が含まれる可能性が多分にあるものです。したがって,後の取調べの結果,酒酔い運転までは認定できないとされ,酒気帯び運転のみで処分されることも十分に考えられます。
 以上のことからすると,酒酔い運転の被疑事実で取り調べられたのみでは,酒酔い運転の事実があったということは証明できないと考えられます。このことから,使用者側は,相談者の方が酒酔い運転の被疑事実で取調べを受けたことをもって,相談者の方が酒酔い運転をしていたと主張することできないでしょう。また,使用者が刑事手続きとは別に,酒酔い運転の事実を証明することはさらに困難であると思われます。したがって,本件では,Bについて,労働者が在職中に上記懲戒解雇事由に該当する行為があったとはいえないとして,懲戒解雇を争うことができると考えられます。
 以上は取り調べを受けていう段階での懲戒処分ですが,刑事処分後は,その処分を持って酒酔い運転があったことが証明されることになります。

(4)C懲戒解雇が相当であると評価できる事実の存在について
 ア さらに,上記Bにつき酒酔い運転の事実の存在が主張,立証されたとしても,上記Cの要件が欠けていると主張することが可能です。
 酒酔い運転は,確かに悪質な行為といえますが,その態様にも段階があり,酒酔い運転によって死亡事故を起こしたような場合から,本件のように物損事故を起こしたにとどまる場合まで様々です。このような様々な態様の酒酔い運転について,一律に懲戒解雇で臨むことは妥当でなく,相当性が欠ける場合があることは十分に考えられます。
 この点,労働契約法15条も懲戒解雇権の濫用を防止することを趣旨としており,相当性に欠ける懲戒解雇が許されないことを規定したものであると考えられますし,判例でも,「使用者の懲戒権の行使は,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である」(最判昭和58年9月16日)として,相当でない懲戒権行使は無効であるとされています。
 懲戒権行使の合理性や相当性は,当該労働者の業務内容と,懲戒事由との関連性に大きく影響を受けると思います。例えば,タクシー会社でタクシー運転手との労働契約に付随する就業規則において酒酔い運転を重く処分することは,会社全体の信用にも関わることですし,業務の安全にも大きな影響を与える行為であることから,合理性や相当性が認められやすいと言えるでしょう。他方,自動車の運転と全く関係ない職種で働いている社員に対して,軽度の酒気帯び運転でも免職処分とするような規則がある場合には,合理性・相当性が認められにくいと考える事ができます。

 イ 本件では,使用者側が懲戒解雇の相当性を基礎づける事実として,事故の態様が悪質であること,事故を起こした経緯が自己中心的であること等を主張することになるかと思われます。もっとも,本件は,物損事故を起こしたにとどまる事案であり,人身事故に比べて事故の態様が悪いとまではいえないと考えることもできますし,事故を起こした経緯について,飲酒後に間をおかずに運転をしたといった事情がないのであれば,懲戒解雇が相当であるという評価ができる可能性は低くなります。逆に,職業が運送業であるにも拘らず,業務に関わる運転での事故であるといった事情があれば,悪質性の高い飲酒運転であるとして,上位相当性が基礎づけられる可能性は高くなってきます。
 他方,上記相当性は,当事者から主張されたすべての事情を総合考慮して決されるものですので,相談者の方は,上記相当性の評価を障害する事実を主張していくことも必要となってきます。たとえば,飲酒後に相当程度時間を置いたなど,飲酒運転をしないように一定の措置を講じたといった経緯があること,事故発生直後に事故について勤務先に報告を行ったこと,今後飲酒をしないといったことを誓約し,誓約書を提出するなど,事故に対して真摯な態度で対応していたことなどの事情があれば,懲戒解雇が相当性に欠けることを基礎づけるものとなります。そのほか,相談者の方に前科前歴がないこと,日頃の勤務態度が真面目であったことなども併せて主張すると効果的であると考えられます(Cの要件につき,下記参考判例の神戸地判平成20年11月26日が参考となります。)。

 ウ なお,他の考え方として,使用者側は上記@からBまでの事実を主張すれば足り,Cについては,その反論として,労働者側で相当でないことを基礎づける事実を主張すべきであるという見解もありますので,相談者の方としては,どちらの考え方が採られても不都合がないように,懲戒解雇が相当性に欠けることを基礎づける事実を積極的に主張していくべきであると考えられます。

4.その他の点についての対応
 相談者の方としては,退職を前提とした行動はとらず,内容証明郵便等により解雇の撤回を求め,就労の意思を明らかにしておくことも重要であると考えられます。

<参考条文>

労働審判法
(目的)
第一条  この法律は,労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し,裁判所において,裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が,当事者の申立てにより,事件を審理し,調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより,紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
(労働審判委員会)
第七条  裁判所は,労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行う。
(迅速な手続)
第十五条  労働審判委員会は,速やかに,当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2  労働審判手続においては,特別の事情がある場合を除き,三回以内の期日において,審理を終結しなければならない。
(労働審判)
第二十条  労働審判委員会は,審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて,労働審判を行う。
2  労働審判においては,当事者間の権利関係を確認し,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命じ,その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。
3  労働審判は,主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならない。
4  前項の審判書は,当事者に送達しなければならない。この場合においては,労働審判の効力は,当事者に送達された時に生ずる。
5  前項の規定による審判書の送達については,民事訴訟法第一編第五章第四節(第百四条及び第百十条から第百十三条までを除く。)の規定を準用する。
6  労働審判委員会は,相当と認めるときは,第三項の規定にかかわらず,審判書の作成に代えて,すべての当事者が出頭する労働審判手続の期日において労働審判の主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により,労働審判を行うことができる。この場合においては,労働審判の効力は,告知された時に生ずる。
7  裁判所は,前項前段の規定により労働審判が行われたときは,裁判所書記官に,その主文及び理由の要旨を,調書に記載させなければならない。
(異議の申立て等)
第二十一条  当事者は,労働審判に対し,前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に,裁判所に異議の申立てをすることができる。
2  裁判所は,異議の申立てが不適法であると認めるときは,決定で,これを却下しなければならない。
3  適法な異議の申立てがあったときは,労働審判は,その効力を失う。
4  適法な異議の申立てがないときは,労働審判は,裁判上の和解と同一の効力を有する。
5  前項の場合において,各当事者は,その支出した費用のうち労働審判に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとする。
(訴え提起の擬制)
第二十二条  労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは,労働審判手続の申立てに係る請求については,当該労働審判手続の申立ての時に,当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。
2  前項の規定により訴えの提起があったものとみなされる事件は,同項の地方裁判所の管轄に属する。
3  第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは,民事訴訟法第百三十七条,第百三十八条及び第百五十八条の規定の適用については,第五条第二項の書面を訴状とみなす。

労働基準法
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は,次に掲げる事項について就業規則を作成し,行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても,同様とする。(一から八号まで及び十号は省略。)
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては,その種類及び程度に関する事項

労働契約法
第七条  労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については,第十二条に該当する場合を除き,この限りでない。
第十条  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については,第十二条に該当する場合を除き,この限りでない。
(懲戒)
第十五条  使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は,無効とする。

道路交通法
(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条  何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
(二から四項までは省略。)
第百十七条の二  次の各号のいずれかに該当する者は,五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で,その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
(二から五号までは省略。)
第百十七条の二の二  次の各号のいずれかに該当する者は,三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一  第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で,その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの
(二から七号までは省略。)

道路交通法施行令
(アルコールの程度)
第四十四条の三  法第百十七条の二の二第一号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は,血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラムとする。

地方公務員法
第四款 不利益処分に関する不服申立て
(不利益処分に関する説明書の交付)
第四十九条  任命権者は,職員に対し,懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分を行う場合においては,その際,その職員に対し処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。
2  職員は,その意に反して不利益な処分を受けたと思うときは,任命権者に対し処分の事由を記載した説明書の交付を請求することができる。
3  前項の規定による請求を受けた任命権者は,その日から十五日以内に,同項の説明書を交付しなければならない。
4  第一項又は第二項の説明書には,当該処分につき,人事委員会又は公平委員会に対して不服申立てをすることができる旨及び不服申立期間を記載しなければならない。
(不服申立て)
第四十九条の二  前条第一項に規定する処分を受けた職員は,人事委員会又は公平委員会に対してのみ行政不服審査法 による不服申立て(審査請求又は異議申立て)をすることができる。
2  前条第一項に規定する処分を除くほか,職員に対する処分については,行政不服審査法 による不服申立てをすることができない。職員がした申請に対する不作為についても,同様とする。
3  第一項に規定する不服申立てについては,行政不服審査法第二章第一節 から第三節 までの規定を適用しない。
(不服申立期間)
第四十九条の三  前条第一項に規定する不服申立ては,処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内にしなければならず,処分があつた日の翌日から起算して一年を経過したときは,することができない。
(審査及び審査の結果執るべき措置)
第五十条  第四十九条の二第一項に規定する不服申立てを受理したときは,人事委員会又は公平委員会は,直ちにその事案を審査しなければならない。この場合において,処分を受けた職員から請求があつたときは,口頭審理を行わなければならない。口頭審理は,その職員から請求があつたときは,公開して行わなければならない。
2  人事委員会又は公平委員会は,必要があると認めるときは,当該不服申立てに対する裁決又は決定を除き,審査に関する事務の一部を委員又は事務局長に委任することができる。
3  人事委員会又は公平委員会は,第一項に規定する審査の結果に基いて,その処分を承認し,修正し,又は取り消し,及び必要がある場合においては,任命権者にその職員の受けるべきであつた給与その他の給付を回復するため必要で且つ適切な措置をさせる等その職員がその処分によつて受けた不当な取扱を是正するための指示をしなければならない。
(不服申立ての手続等)
第五十一条  不服申立ての手続及び審査の結果執るべき措置に関し必要な事項は,人事委員会規則又は公平委員会規則で定めなければならない。
(不服申立てと訴訟との関係)
第五十一条の二  第四十九条第一項に規定する処分であつて人事委員会又は公平委員会に対して審査請求又は異議申立てをすることができるものの取消しの訴えは,審査請求又は異議申立てに対する人事委員会又は公平委員会の裁決又は決定を経た後でなければ,提起することができない。

<参考判例>

最判平成15年10月10日(フジ興産事件)
使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。そして,就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。

最判昭和58年9月16日(ダイハツ工業事件)
思うに,使用者の懲戒権の行使は,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

神戸地判平成20年11月26日
(事案の概要)
原告は,被告職員として勤務していた者であるが,処分行政庁は,原告が平成19年3月30日に酒気帯び運転をしたことを理由に,同年5月11日付けで,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定に基づき,原告を懲戒免職処分とした(以下「本件処分」という。また,処分行政庁を単に「消防長」といい,神戸市長を単に「市長」という。)。
原告は,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。原告は,当時消防局警防部司令課に所属し,消防士長の地位にあった。
判決は 懲戒免職処分取り消し 
(裁判所の判断(項目番号等につき編集あり))
1 理由
(1)まず,本件処分は,地方公務員法29条1項1号及び3号に基づいてされているところ,本件処分の理由とされる非違行為は,原告が出勤途上という公務に極めて近接した状況でした酒気帯び運転であり,原告の呼気に残存していたアルコールの量は,呼気1リットル中0.2ミリグラムである。したがって,本件酒気帯び運転の非違行為としての性質,態様,結果という点で,悪質さの程度が低いとはいえない。
(2)次に,非違行為の原因や動機についてみるに,本件は,前日の夜に摂取したアルコールが,分解されることなく翌日の朝まで体内に残存したという事案であって,非違行為に至った原因や動機について,非難に値するとか,破廉恥な事情があったとはいえない。すなわち,原告につき,直後に運転することが分かっていながら飲酒したとか,飲酒後わずかの休憩をとっただけであえて運転したといった事情までは認められないのであるから,原告の飲酒運転に対する規範意識や法令遵守の精神が大きく鈍麻していたとまではいえない。
(3)非違行為の影響という点についてみるに,本件酒気帯び運転によって原告は,本件酒気帯び運転当日の夕刻ころまで出勤できなかったというのであるから,公務への影響が少なからず生じたといえるし,また,本件事故により,他人に物損被害を生じさせており,公務員への信頼という観点から地域社会に与えた悪影響も軽微であるとはいえない。ただし,物損事故を起こすこと自体は犯罪でもなければ,行政取締りの対象となる交通違反でもないのであって,本件事故そのものは非違行為として懲戒の対象となるわけではないから,本件事故の発生をそれほど重大視することは,公正とはいえない。
(4)原告は,本件酒気帯び運転の事実を当日直ちに職場に報告しており,非違行為を隠蔽しようとしてはいないし,原告には前科前歴もなく過去に懲戒処分等の処分歴もないのであって,これらの事情は原告に有利に汲むべきものである。また,原告は,本件事故の翌日には,今後一切酒類を飲まない旨誓う誓約書を提出し,謝罪のため本件事故の被害者を訪れているのであるから,非違行為後の原告の態度は決して非難されるものではないといえる。
(5)仮に,原告と同様に前科前歴も懲戒処分歴もない被告職員が「重大な過失により人に傷害を負わせた」という場合,減給又は戒告という懲戒処分を受けるにとどまるはずであるが(本件指針),そうすると,本件酒気帯び運転によって直ちに免職とするのは,いささか,非違行為と懲戒処分の均衡を欠くきらいがあるといわざるをえない。また,人事院は,平成20年4月1日,「懲戒処分の指針」を一部改正し,国家公務員の懲戒処分の標準量定を見直し,飲酒運転の標準量定を,従来の「停職,減給,戒告」から「免職,停職,減給」に改正したが(この事実は公知の事実である。),それでも,前記1の(6)イのとおり,国家公務員の場合,酒気帯び運転で免職となる例は少ないと考えられるのであって,国家公務員との比較からしても,本件酒気帯び運転によって直ちに免職とするのは,非違行為と懲戒処分の均衡を欠くきらいがあるといわざるをえない。
(6)昨今,飲酒運転に起因する悲惨な交通事故が少なからず発生しており,飲酒運転に対する刑事罰も強化され,社会全体の飲酒運転に対する非難の感情が高まっているところであり,このような社会情勢の下にあっては,社会全体の奉仕者である地方公務員が,より高い規範意識の下,厳に飲酒運転を慎まなければならないことは当然であり,前夜の飲酒であるとはいえ,安易に酒気帯び運転に及んだ原告には,地方公務員としての自覚が足りないと厳しく叱責されねばならないし,本件酒気帯び運転を重大な非違行為と受け止め,これに厳罰をもって対処しようとした消防長の判断は,良く理解できるところではある。しかしながら,免職という懲戒処分は,公務員にとって著しい不名誉であるだけではなく,これにより,当該公務員は,直ちに職を失って収入が閉ざされ,退職金さえ失うのであって,これによって当該公務員が被る有形・無形の損害は甚大である。特に,原告のように30年間も真面目に勤務実績をつみ上げてきた者にとっては,なおさらそうであり,懲戒免職処分は,当該公務員の半生を棒に振らせるに等しいのであるから,懲戒免職処分を行う際には,処分権者の側にも相応の慎重さが求められるといわなければならない。そのことに鑑みると,前日の夜の飲酒の影響で検挙された本件酒気帯び運転に対し,懲戒免職処分で臨むことは,やはり,社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であり,裁量権を濫用したものと評価すべきであり,したがって,本件処分は公正原則に抵触する違法なものというべきである。
2 結論
よって,本件処分は違法として取り消されなければならず,本件請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
この判決は,公務員の地位にある者に対するものであり,公務員は,全体の奉仕者であり法の遵守義務が一般人よりも求められる立場にあることから,一般人より責任が重いと評価できますが,この判例からすると,道交法を特に遵守する立場にある一般会社員(例えばバス運転手等)を除き,酒気帯び運転という一事をもって懲戒解雇にすることは困難であると予想されます。

京都地方裁判所平成22年12月15日第6民事部判決(地位確認等請求事件)
民間のバス運転手が,前日に飲酒し,業務開始前に会社で行われた飲酒検査でアルコール反応が出たが,検査方法のあいまいさから道交法上の酒気帯び運転と認定することができるかどうか確認できないとして懲戒解雇を無効としています。この判例からすると,本件のように刑事処分前の懲戒解雇を争うことは可能でしょう。

高知地方裁判所平成22年9月21日民事部判決(懲戒免職処分取消請求事件)
高知土木事務所の主任技師の酒酔い運転による懲戒免職の行政処分について前記要素を総合的に考慮して取り消しています。判決内容。「第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか否か)について
(1)地方公務員法29条1項は,地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨規定するが,同法は,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかについて,すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」(同法27条1項),すべての国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならない(同法13条)と規定するほかは具体的な基準の定めはない。
 したがって,懲戒権者は,非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の当該行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量に基づき決定することができると解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
 もっとも,その裁量も全くの自由裁量ではなく,裁量権の行使に基づく懲戒処分が社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合には,その懲戒処分は違法であると解するのが相当である。
 そして,本件酒酔い運転については,上記地方公務員法29条1項1号及び3号の非違行為に該当し,懲戒事由が認められる(前記前提事実)ところ,以下においては,上記判断枠組みにより,本件処分が適法といえるか検討する。
(2)まず,本件処分は,本件懲戒基準を基準として行われたものであるから,本件懲戒基準が基準として合理的なものか否かについて検討する。
 本件懲戒基準の内容,改訂の経過は前記前提事実のとおりであるところ,証拠(甲10,乙9)によれば,同基準においては,飲酒運転の非違行為を,人身事故を伴う場合,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合,事故を伴わない交通法規違反のみの場合に区分し,これらいずれについても原則は免職処分とし,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合及び交通法規違反の場合のうち,情状酌量の余地のあるものについては諭旨退職処分とすることができる取扱いとなっており,停職の余地が残されているのは,いわゆる二日酔いの状況にあり,特に情状酌量の余地のあるもののうち死亡事故の場合を除くもののみであること,上記改訂後の飲酒運転を内容とする非違行為に対しては,本件懲戒基準に基づく処分がされていることが認められる。
 確かに,悪質な飲酒運転が社会問題化し,被告においても,本件懲戒基準を改訂し,飲酒運転の撲滅に向けた種々の取組みを行ってきたことを考慮すると,被告において綱紀粛正を徹底する見地から,職員の飲酒運転に対し厳正な処分をもって臨むとすることは相応に合理性があるものと解される。
 しかしながら,本件懲戒基準は,飲酒運転の場合には,いわゆる二日酔いの状況でなければ,人身事故を伴う場合,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合,交通法規違反の場合のいずれを問わず,免職処分又は諭旨退職処分となるというものであり,一律に公務員としての身分を失わせる厳しい基準である。
 飲酒運転といっても,上記のように,事故(人身,物損,自損)を伴う場合,事故自体発生しなかった場合があり,事案によりその悪質性に差があることも否定できないことからすると,これらの要素を個々に勘案し,処分の軽減等を図る余地を残さずに,いわゆる二日酔いの状況以外の場合は全て身分を喪失させるとすることは,他方で,飲酒運転以外の交通法規違反については,時速70キロメートル超えの速度違反や,人身事故(重傷)であっても,減給ないし戒告処分にとどめていること,国家公務員の場合,酒酔い運転の標準量定は「免職,停職」であり,停職の余地を残していることなどと比較しても,処分内容として重きに失するといわざるを得ない。
 以上のとおり,本件懲戒基準は,今日における飲酒運転に対する社会的非難の強さを考慮しても,なお合理性を欠く部分があるというべきであるが,本件処分が本件懲戒基準により行われたからといって,当該処分が直ちに違法となるものではなく,結局のところ,本件で問題とされている原告の非違行為に対し懲戒免職処分をもって臨むことが社会通念上著しく妥当性を欠き,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるかどうかが検討されねばならない。
(3)本件処分の理由とされる非違行為は,酒酔い運転であるところ,前記前提事実のとおり,原告からは,道路交通法違反として処罰される下限である呼気1リットルあたり0.15ミリグラムを大幅に超える呼気1リットルあたり0.7ミリグラムもの高濃度のアルコールが検出されていること,しかも,原告は,本件車両を運転し,本件事故(自損事故)を起こしていることからすれば,本件酒酔い運転は非違行為としての性質,態様及び結果において,悪質さの程度が低いとはいえない。そして,原告が飲酒運転に及んだ動機に酌量の余地はないし,本件事故が発覚して警察官が駆けつけた際,飲酒検知結果への署名指印を拒否するなど,飲酒運転後の情状も芳しくない。
 他方,前記前提事実のとおり,原告は,現業業務や行政職の補助業務に携わっていた公務員であるが,管理職の地位にあったわけではなく,本件酒酔い運転自体も職務外で私的に行われたものであるから,職務の信用を害する程度は小さいといえる。実際にも,本件酒酔い運転によって自損事故を惹起しているものの,直接原告が従事していた業務等に支障が生じたものではない。また,原告は,本件処分までに被告から懲戒処分を受けたことはなく,証拠(甲22)及び弁論の全趣旨によれば,交通違反歴についても,一旦停止義務違反,シートベルト着用義務違反及びスピード違反が各1件あるだけで,平成14年以降は無事故無違反であることが認められる。そして,本件事故後,前記のとおり非協力的な態度を示したものの,証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,その後は,捜査機関の取調べに素直に応じていたこと,被告に対し,自ら自宅謹慎を申し出たこと,釈放された日の翌日である平成21年5月1日には,被告の事情聴取に応じて,事情を説明し,本件顛末書を提出したことなどが認められ,自己の行為の危険性や,悪質性を理解し,反省している様子も窺えるところである。さらに,証拠(甲15,16の1ないし4,甲17,18及び19の各1及び2,甲20,22)によれば,原告の家庭においては,原告の給与は重要な収入源であったこと,原告の再就職が困難な状況で,原告及びその妻は生活に困窮していることが認められる。
(4)飲酒運転に対する批判が高まり,危険運転致死傷罪の新設や道路交通法改正による飲酒運転に対する厳罰化が進められるなど,飲酒運転に対する規範意識が高まっている社会情勢に鑑みれば,公務員である原告の本件酒酔い運転は,社会的にも強く非難されるべきであって,これに対し,厳罰により対処しようとした被告の姿勢は十分に理解できるところである。
 しかしながら,上記認定の本件酒酔い運転の経緯,態様や結果,原告のこれまでの処分歴や交通違反歴,本件酒酔い運転後の態度など諸般の事情を総合考慮すると,被告が本件酒酔い運転に対する懲戒処分として,公務員の地位を剥奪し,職員としての身分を喪失させる本件処分を選択したことは,上記の社会情勢や本件懲戒基準が改定された経緯などを勘案したとしても,なお社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,あるいはこれを濫用したものであるといわざるを得ない。
2 結論
 以上によれば,本件処分は違法であり,その他の点について検討するまでもなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用について民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。」

宮崎地方裁判所平成21年2月16日判決 (職員地位確認等請求事件)
都城市環境森林部,清掃工場技術員(単純労働を行う現業職員)が酒気帯び運転で20万円の罰金に処せられたことを理由に懲戒免職された件に関して,市の裁量権逸脱はないと判断した。しかし,判決は,市の処分基準を重視しており,他の判断要素を十分検討していない点があるので問題点が含まれるものと考えられる。

大阪地方裁判所平成21年12月24日第5民事部判決(懲戒免職処分取消請求事件)
市職員の子供乗せた酒気帯び運転,物損事故,報告違反で懲戒免職を認めています。

東京地方裁判所平成19年8月27日判決(ヤマト運輸事件退職金請求事件)
ヤマト運輸のドライバーの業務外の酒気帯び運転について行った懲戒解雇を有効としています。但し,退職金の請求は賃金の後払いであり一部認める。

最高裁判所 昭和五九年(行ツ)第四六号,平成二年一月一八日第一小法廷判決(行政処分取消請求事件)
福岡伝習館高校教師の懲戒免職事件で,原判決破棄,第一審判決を取り消して請求を棄却した。
地方公務員につき地公法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,平素から庁内の事情に通暁し,職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に任されているものというべきである。すなわち,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を総合的に考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである。したがって,裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会概念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り,違法であると判断すべきものである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

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