新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.403、2006/4/27 13:40

[刑事・少年]
質問:15歳(中学生)の息子が学校の友人と一緒に窃盗を繰り返して逮捕されました。少年事件の流れについて教えてください。

回答:
1、息子さんは15歳ですが14歳以上ですから刑事責任能力(刑法41条)が認められその行為は窃盗罪に該当しますが、20歳未満すなわち未成年者ですから成人とはかなり異なった刑事事件の取り扱いがなされます。その手続きを規定しているのが少年法ですが、少年法の目的は、少年を処罰し責任をどのように取らせるということではなく過ちを犯したとはいえ可塑性ある少年の健全な育成を第一に考え、少年の性格の矯正や環境の整備を中心としています。そのような観点から少年法は刑法、刑事訴訟法の特則を定めていますから少年法に特に定めがなければ一般の成人と同様に刑事事件に関する法律が適用されることになります。
2、逮捕捜査における取り扱い・・逮捕の段階では成人の刑事事件と同様に警察署は留置する必要性があれば48時間以内に検察庁に身柄を送致することになります(罰金刑以下の場合は直接家庭裁判所への送致になります(少年法41条)。留置の必要性がなければ釈放しなければなりませんが後日検察庁に書類送検ということになるでしょう。今回の事件は友人と共同で繰り返し窃盗を行っており共謀、回数の点など取り調べの必要性から検察庁に送検されるでしょう。検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に少年の弁解を聞き留置して取り調べの必要性が特にある場合に限り勾留請求を裁判所に請求しますし(少年法42条)、嫌疑があるが留置して特別取調べをする必要がなければ身柄を家庭裁判所に送致します。嫌疑がなく調べの必要がなければ釈放しなければなりません。本件の場合は共同正犯と考えられ仲間が友人であり余罪の可能性も推定でき通常は勾留請求されることが多いと思います。勾留期間が満了となれば成人と違い家庭裁判所に送致されることになります。この段階で注意すべき点は、学校へどのように連絡するかという点です。私立の場合退学等の処分に発展する場合もあるからです。警察署は当然に学校へ連絡をしませんから慎重な対応が求められます。選任した弁護人と詳細な協議が必要でしょう。又、被害者との弁償、示談も当然打ち合わせすべきです。家裁送致後の審判、観護処置決定にも影響があるからです。
3、家庭裁判所への送致後について・・今回の場合勾留されている可能性がありますから家庭裁判所に送致されると家庭裁判所はまず観護処置(少年法17条)をとるかどうかの判断を24時間以内にすることになります。観護処置には2種類ありますが身柄拘束が続く少年鑑別所への送致が重要です。少年の身柄を拘束して審判に備え少年を調査鑑別する必要があるかどうかを判断するのです。鑑別所での期間は最長4週間となり、中学3年生であれば試験期間、入試期間、修学旅行等欠かせない行事にぶつかる可能性もありすでに10数日間の勾留の後であればその影響は重大です。鑑別所送致を望まない場合の対策ですが親権者は付添い人(弁護人のことを少年事件では付添い人といいます)と十分協議して対応しなければなりません。身柄を家庭裁判所に送致後24時間しか時間がありませんから少年の意見も聴取する必要があり事前に刑事弁護人を選任して置き、送致後付添い人として家裁に届け出て観護処置を取らないように意見書を提出しなければいけません。意見書提出の注意すべき点は以下の通りです。鑑別所送致の目的はすなわち少年を拘束してまで少年の調査をする必要性がないことを具体的事実に基づき説明する必要があります。例えば犯罪事実の軽微性、犯行様態、結果、動機、共犯者との均衡、生育暦、性格、反省、家庭環境、就学環境、観護措置を採ったときの具体的弊害、和解状況等です。もちろん以上これら全ての少年の手続きは非公開にて行なわれます。本件の場合少年が友人と繰り返し窃盗を行い、回数、期間的にも長く被害金額の上からも多ければ観護処置をとられる可能性はおおきいでしょう。事前に弁護人を選任しておらず、鑑別所送致が決定された場合は、至急付添い人を選任協議して異議の申立をすることが出来ます(少年法17条の2)。鑑別所送致は、成人の刑事事件における勾留請求と似ていますが、少年事件の異議の申立は勾留取り消しの抗告よりは認められる可能性は幾分高いと思います。なぜなら未成熟な面が残る少年の身柄拘束はなるべく避けたいとの裁判官の心証もあるからです。
4、審判の段階について・・@観護処置がとられた場合審判期日に対する対応が至急必要です。審判不開始(少年法19条)の申し出も出来ますが、本件では事案の内容上無理と思います。A審判開始が決定されると原則として鑑別所送致後4週間内に審判により保護処分等の結果が言い渡されることになります。あまり時間がありませんが付添い人と協議して意見書を事前に提出する必要があります。B少年に不利益となる保護処分は、家庭裁判所が、非行事実の有無など調査し、家庭裁判所調査官に命じ、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識や、少年鑑別所の鑑別の結果を活用し、調査が行なわれて(少年法9条)決められます。検察官の送致書類には少年の処分について意見が付されていますが、検察官の立場上少年の健全な育成というよりは処罰の対象として考えている面があり一般的に重い処分を求めているようです。本件の場合保護観察と少年院送致が考えられますが、事案にもよりますが長期の保護観察が予想されます。C付添い人としては事件の程度により不処分または、短期の保護観察を主張していくべきでしょう。通常初犯であれば出来心、おもしろ半分ということもありますし、家庭環境に特に問題がないのであれば、愛情のある両親、家族の元で更正を図っていくというのが少年にとり教育上効果的であると思われます。D被害者との示談がまだ成立せず時間的余裕が必要な場合は、試験観察(少年法25条)を求めるのも方法です。試験観察の場合は数ヶ月少年の行動を観察し最終的にもう一度審判期日を開きます。その間に被害者との示談を行い、少年にはボランティア活動などにより更正の日々を送ってもらいその日誌などを調査官に提出することも必要でしょう。

≪参考条文≫

少年法
第九条 前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。
第十七条  家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一  家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二  少年鑑別所に送致すること。
第十七条の二  少年、その法定代理人又は付添人は、前条第一項第二号又は第三項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。
第十九条  家庭裁判所は、調査の結果、審判に付することができず、又は審判に付するのが相当でないと認めるときは、審判を開始しない旨の決定をしなければならない。
第二十五条  家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。
第四十一条  司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。

刑法
第四十一条  十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る