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- No.613|
非上場株式の売却の流れ|売買価格決定について
商事|会社法|非上場株式の売却の流れ|売買価格決定について|本質は投下資本の回収である譲渡株主と経営者側(機関)の利益対立|閉鎖会社の株式譲渡の特性|方法、手続|前田製菓事件(最決昭和48年3月1日民集27間2号161頁)|最高裁判所令和5年5月24日決定
質問
私が持っている非上場株式(譲渡制限株式)を知人に売却しようとしたところ、会社からは「売却は認められない」と言われてしまいました。当該株式の処分方法、適正な価格で買い取ってもらうにはどうすればよいでしょうか。私にそこまで資力がないので、裁判手続を利用することへの不安もあります。この点も踏まえて手続の概要を教えてください。
回答
1 非上場会社では、ほとんどの場合定款で、株式譲渡について会社から譲渡の承認を得なければならないことが定められています(株式の譲渡制限に関する定め、法人登記簿にも記載されます)。会社が譲渡を承認しない場合、当該株式は、会社又は会社が指定する指定買取人に売却することになります。
2 会社又は会社が指定する指定買取人に売却する場合、会社との間で、非上場株式の売買価格について協議することになりますが、折り合いがつかない場合、裁判所に株式の買取価格決定の申し立てをして、株式の買取価格を定めてもらう必要があります。裁判所の株式の評価方法は、主に3つのアプローチがあり(インカムアプローチ、マーケットアプローチ、ネットアセットアプローチ)、実務上は複数の評価方法を折衷して株価を査定することが多いです。
会社による買取の通知(141条1項)の日から2週間以内に売買価格の決定の申立てをしない場合、売買価格は、一株当たり純資産額に株式数を乗じて得た金額が買取価格となります(145条4項)。
3 株価の算定に際しては、公認会計士等の専門機関への意見書の依頼、又は裁判所の鑑定手続の利用が考えられます。もっともこれら手続は、少なくとも百万円以上の費用を要することが通常であり、資力のない当事者にとっては利用が躊躇われます。
4 そこで株式の買取価格決定事件においては、専門委員の利用も考えれられます。専門委員制度は、裁判所からの嘱託を受けた公認会計士や税理士が専門員として手続に関与し、株価を含めた専門委員の意見を聴取できる制度です。当事者の費用負担は基本的にはかかりません。
5 非上場株式の買取手続は、価格決定まで含めて専門家の関与が不可欠です。お困りの場合は、お近くの法律事務所までご相談ください。
解説
1 非上場株式の売却方法について
株主はその有する株式を自由に譲渡することができるのが原則です(会社法127条)。投資した資金を速やかに回収できないと、投資をすることを躊躇せざるをえませんので、投資をしやすいように譲渡自由の原則が定められています。しかしながら日本の99%の会社は株式に譲渡制限を設けた非上場株式です。これは株主間の個人的な信頼関係が重視され、好ましくない者が株主になることを排除したいというニーズに応えたものです。ここに、譲渡株主と経営者(機関)との利益対立が生じます。会社の究極の目的は営利の追求でありその大前提となるのが株主の投下資本の回収です。これを迅速、公平、適正に行うため譲渡という私的行為でありながら種々の手続きが定められています。投下資本の回収は自由主義国家、資本主義体制の根幹をなすものであり国家の後見的機能も要請されています。
譲渡制限を設けられた非上場株式を譲渡するとなった場合、考えられる譲渡先は、①当初意図した譲渡先、②会社自身、③会社が指定する指定買取人の3つです。売主においては、適正な手続を踏めば株式の売却を通じた投下資本の回収は可能となります。
2 非上場株式の買取請求の流れ
非上場株式の買い取り請求の流れを確認しましょう。
大まかな流れとしては、⑴買主及び売主からの会社に対する非上場株式の譲渡承認請求、⑵これを受けた会社による譲渡承認の可否の決定、⑶(会社が買主が指定した売主への譲渡を承認しない場合)会社による買取先の指定、という流れです。
⑴ 買主及び売主からの会社に対する譲渡承認請求
非上場株式の売主又は買主は(以下、「譲渡承認請求者」といいます)、会社に対し、当該譲渡を承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法136条1項、137条1項)。
なお買主からの請求は、原則として当該株式の名義人と共同でする必要があります(137条2項)。
⑵ 会社による承認の可否の決定
譲渡承認請求を受けた会社は、譲渡を承認の有無を決定しなければなりません(139条1項)。
会社が譲渡を承認する場合は、当該旨を通知し(同2項)、手続は終了となります。また会社から2週間以内に承認拒絶の通知がない場合も、みなし承認として、譲渡が承認されます(145条1号)。
会社が譲渡を拒絶する場合、会社は非上場株式の買取先を決定しなければなりません。
なお買取先の決定に進むためには、譲渡承認請求者は、⑴譲渡承認承認請求の際に、承認しない場合は買取人を指定するよう、買取先指定請求をしなければなりません。買取先指定請求をしていない場合、買取先指定に進まず、手続は終了となります。
⑶ 会社による非上場株式の買取先の決定
会社は非上場株式の買取先として、会社自らが買い取るか(140条1項)、又は別に買取人を指定しなければなりません(同条4項)。
会社自身が非上場株式を買い取る場合、譲渡承認拒絶の通知(139条2項)から40日以内に、譲渡承認請求者に通知しなければなりません(145条1項)。これを怠った場合、買主と売主間の譲渡がみなし承認されます(145条2号)。
会社が買取人を指定した場合、譲渡承認拒絶の通知(139条2項)から10日以内に、指定買取人が買取の通知を行う必要があります(142条1項)。
以上の手続を経て会社又は指定買取人と譲渡承認請求者との間に売買契約が成立し、以後、譲渡承認請求者は原則、譲渡を撤回することができなくなります(143条)。
3 非上場株式の価格決定の方法
非上場株式の価格は、会社と譲渡承認請求者との間の協議で決めることなります(144条1項)。
もっとも後述する通り、株式の評価方法は多種多様であり、安く買い取りたい会社と、高く売りつけたい譲渡請求者との間で協議がまとまることは稀であり、実務上も形式的な書面のやり取りに終始することが多いです。
協議がまとまらない場合、会社又は譲渡承認請求者は、会社による買取の通知(141条1項)の日から2週間以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをします(145条2項)。申立てを受けた裁判所は、「会社の資産状態その他一切の事情を考慮」(145条3項)して、株式の売買価格を決定することなります。
対して、上記2週間以内に売買価格の決定の申立てをしない場合、売買価格は、一株当たり純資産額に株式数を乗じて得た金額が買取価格となります(145条4項)。
譲渡承認請求者としては、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをするか否かは、純資産ベースでの株価を超える価額となるかどうかで判断することになります。
4 株式の買取価格の評価方法について
それでは裁判所において、売買価格の決定の申立てをした場合の評価方法を検討しましょう。以下では、価格決定事件における裁判所の役割、実際の評価方法を見てゆきます。基本的にはこの株価決定申立事件は、非訟事件といって訴訟事件とは区別される裁判形態です。訴訟事件は、証拠から権利の有無を裁判所が判断する事件ですが、非訟事件は、権利があるか否かではなく、裁判所が後見的に事件に介入して、紛争の処理を図る裁判ですので、裁判所の裁量により売却価格が決定されることになります。
⑴ 株価決定における裁判所の役割
会社非訟事件にあたる株式売買価格決定申立事件での裁判所の役割として、前田製菓事件(最決昭和48年3月1日民集27間2号161頁)では、「価格の決定に当たっては、裁判所の監督的、後見的役割が期待されているものといわなければならない。かくして、裁判所は、具体的事件につき、当事者の主張・立証に拘束されることなく、職権により諸般の事情を斟酌して迅速に買取価格を決定することが要請されるのであつて、その決定の性質は、裁判所が、私人間の紛争に介入して、後見的立場から合目的の見地に立つて裁量権を行使し、権利の具体的内容を形成するものということができる」としております。
同判例は、反対株主の株式買取請求権に係る事案でしたが、価格形成における裁判所の役割を監督的、後見的役割と位置付けており、当事者の主張に拘束されない広範な裁量権を有す旨を判示しております。実際に非訟事件手続は職権探知の建前の下に弁論主義は働かず、裁判資料の収集にはその方法にも形式にも何ら制約はありません。
また株価は裁判上「形成」されるものですので、必ずしも実際に第三者に売却される価格とは一致せず、少数株主の権利保護や株主の投下資本回収手段を確保する必要性を考慮して決められることになります。
⑵ 実際の評価方法
続けて、裁判所が株価を形成するに際して、その評価方法としては主として以下の3つ挙げられます(各評価方法の詳細は、日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン(https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-32-2a-20130722.pdf)」参照、
又は弊所事例集870番「譲渡制限株式の買い取り請求(https://www.shinginza.com/db/00870.html)」参照)。
①評価対象会社に期待される利益ないしキャッシュフローに基づいて評価をするインカムアプローチ(配当還元法、収益還元法等)
②上場している同業他社の株価や類似取引事例などと比較することによって相対的に株価を評価するマーケットアプローチ(類似取引法、取引事例法等等)
③主として評価対象会社の貸借対照表記載の純資産に着目して評価をするネットアセットアプローチ(純資産法)
裁判実務上は、複数の評価方法による算定結果を折衷することが多いです。ただし非上場株式の売買各決定に関する決定例を確認すると、多種多様な非上場会社に関して類似の同業他社と比較することは困難ですから、②マーケットアプローチが採用されることは少なく、①インカムアプローチに分類される配当還元法や収益還元法と、②ネットアセットアプローチに分類される純資産法が単独又は併用して採用されることが多い傾向にあります。
⑶ 価格決定手続上の評価方法(専門委員の採用について)
最後に株式売買価格決定申立事件における審理方法について簡単に触れます。
非上場株式の売買価格決定事件は、上場企業の再編やMBO案件に伴う株式買取価格の決定等の大規模事件と異なり、比較的小規模事件の場合が多く、当事者に十分な資力がない場合も多いです。
株価の算定に際しては、当事者双方において、公認会計士といった専門的な評価機関による意見書を提出することが一般的ですが、意見書の作成には多額の費用(少なくとも100万円程度から)を要します。また裁判所の鑑定手続を利用する場合も、規模にもよりますが、こちらも多額の実費を要し、時間も数カ月単位かかります。このように経済面と迅速な解決といった点で難があります。
そのような資力を持たず、また迅速な解決を望む当事者にとって、有用な手続としては、専門委員の採用が挙げられます。
専門委員の採用には、当事者の費用負担は生じません。通常は裁判所から嘱託を受けた公認会計士が専門員として手続に関与します。
その関与の方法も、「的確かつ円滑な審理の実現のため、又は和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、専門的な知見に基づく意見を聴くために専門委員を非訟事件の手続に関与させることができる」(非訟事件手続法33条1項)としております。これは先に述べた非訟事件手続における職権探知主義の表れといえます。
このように手続全般において関与が可能であり、また適正株価を含む「意見」まで聴取することができるので、資力の乏しい当事者にとって利用価値のある制度といえます。
5 終わりに
非上場株式の売買価格決定に際しては手続を誤ると相手方に有利な価格決定に判断される恐れもあり、専門家の関与が不可欠な事案です。お近くの法律事務所にご相談されることをお勧めします。
以上
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参考条文
【参考条文】
〇会社法
(株式の譲渡)
第百二十七条 株主は、その有する株式を譲渡することができる。
(売買価格の決定)
第百四十四条 第百四十一条第一項の規定による通知があった場合には、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。
2 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。
3 裁判所は、前項の決定をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
4 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格とする。
5 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に第百四十条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をもって当該対象株式の売買価格とする。
6 第百四十一条第二項の規定による供託をした場合において、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格が確定したときは、株式会社は、供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部又は一部を支払ったものとみなす。
7 前各項の規定は、第百四十二条第一項の規定による通知があった場合について準用する。この場合において、第一項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第二項中「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第四項及び第五項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」と、前項中「第百四十一条第二項」とあるのは「第百四十二条第二項」と、「第百四十条第一項第二号」とあるのは「同条第一項第二号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と読み替えるものとする。
判例