新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.708、2007/11/28 9:57

[商事・株式会社における株主の権利・財産の調査・配当請求等手続・取締役の地位・解任手続・異議の申立て手続]

質問:父親がやっていた株式会社を兄弟で相続し、兄が社長、弟である自分が取締役をやっていましたが、赤字だと言われ配当がありません。会社の営業は順調にも見えるので、利益がないのはおかしいような気がします。また、先日、突然、取締役を解任されてしまいました。何か法的な主張が出来ませんか。

回答:
会社を相続されたということですから、貴方は会社の取締役であるとともに会社の株主となっています。会社の所有者である株主は、会社の財産を調査し、不正経理を是正する権利を有しますし、会社から経営を任せられた取締役は、社長といえども勝手に解任できません。解任手続に違法があれば会社法が定める法的手続により異議を申し立てる事が出来ます。株主の権利を確保し、取締役の地位を守るため、会社法上の様々な規定に基づき専門家の助けを借りるなどして対策を検討されると良いでしょう。

解説:貴方は、お兄さんと株式会社を相続し、取締役であるのに自分の会社の経営状態をあまり知らされていませんし、取締役の地位も勝手に奪われてしまっています。このような場合、後で説明するように株主、取締役としてとりうる手段がたくさんあるのですが、どうしてその様な手段が必要なのか、株式会社、株主、取締役とは何かを先ず説明します(参考として事例集bU92を参照してください。)。 株式会社の基本的特色は構成員である社員の地位が、株式という細分化された割合的単位の形態をとることにあります。株式の所有者を株主というのですが、株主は会社に対しては一定の出資義務しか負わず、会社債権者に対しても直接の責任はなくその出資の限度でしか責任(間接責任)を負わないところにあります。これを株主有限責任の原則といいます(会社法104条)。株式会社、株式という制度をどうして作ったかというと、営利を求める人間の本性に着眼して、企業における所有と経営を分離し、自由な企業の経済活動を保障し、最終的に適正公平な社会経済秩序を建設し経済面における個人の尊厳を確保するためです(憲法13条)。日本国憲法は、基本思想として自由主義(個人の自由を尊重し、国家の干渉を出来るだけ排除することが社会経済の発展を支えるものであるという思想、その具現化が基本的人権尊重主義と三権分立です。憲法13条、41条、65条、76条)を採用し、私的自治の原則(契約自由の原則)、私有財産制度(憲法29条)を制度の両輪として、個人の自由な競争による経済活動を保障しました。経済活動の主体である企業は当初、所有者が自ら事業を行っていたのですが、企業の目的である営利性の追求は、産業の発達により巨大な資本と、経営のプロを必要とし、企業の所有者と経営者を分離する事を自然に求めその最終形態が株式会社であり、株式制度です。

すなわち、会社の所有者、社員の地位を、間接、有限責任を内容とする株式にして、細分化し、割合的単位として投下資本回収のため流通を保障し(株式譲渡自由の原則、会社法127条)大衆から所有者を募り、莫大な資金、資本を集め、他方株主が、資本運営、会社経営の専門家(これが取締役です)を雇い自由競争により健全な社会経済秩序を実現しようとするのです。しかし、所有と経営の分離は性質上投下資本の回収しか念頭になく経営状態に興味のない株主を生み、反射的に取締役の地位が強化されこれを利用する取締役が生じ、又、株主有限(間接)責任の結果取引する会社債権者保護が必要となりますし、国民の労働の場として更に緊密に社会全体と関連し社会全体の利益も無視できません。以上より、株式会社においては、株主の利益、取締役の地位、会社と取引する会社債権者の利害、関連する社会全体の利益が対立する場合が多くこれらの利害を調整し、適正な経済活動、自由主義経済秩序を維持し、発展させるため企業間の関係を規律する商法、会社法等においては種々の手段(罰則もあります)が各々の地位に応じて厳格、周到に用意されているのです。そして、日本経済の変遷、発展、国際化は日々目覚しく、それに対応すべく商法、会社法等において必要上、自ずとその手段についても改正が繰り返されています。

一 配当について
1.株主の投下資本、出資の回収方法は、株式譲渡と利益配当しかありませんから、株主にとって利益配当は重大な問題です。他方で、会社債権者にとり担保となるのは唯一会社財産だけですから、財産(資本)の確定、充実、保全のため利益配当の前提となる会計処理について会社法は厳格な規定をおいています。貴方としては、この会計処理を具体的に調査する必要があります。

2.会社の会計処理については会計帳簿(会社法432条)がありますが、重要な書類から順に説明いたします。先ず、当該株式会社の貸借対照表、損益計算書等の内容を確認する必要があります。
(1)貸借対照表とは、ある一定の時点において会社が保有するすべての資産・負債・資本が記載され財産の構成状態を概括的に示す計算書類です(会社法435条)。資産と負債のどちらが多いのか(債務超過になっていないかどうかどうか)、とりあえず会社の財政の構成状態が一目で判るようになっています(しかし会計実体はこれだけでは明らかに出来ません)。貸借対照表は、左右に分けられ、左には「資産」(現金、預金、不動産等財産的にみて価値の大きいもの換価しやすいものの順に記載されています。)の状況を、右には「負債」(短期借入、社債発行、買掛金等負債性が強いものの順に記載されています。)と「資本」の状況が記載されています。「資本」は、「資産−負債」で計算され、資本金と利益剰余金に分かれ一般的には「株主資本」や「純資産」などとも言われます。「資産=負債+資本」という式が常に成立し、表の左右が必ず一致するため、「バランスシート」「BS」とも呼ばれます。負債の部にどうして資産と思われる株主資本、利益剰余金が計上されるかという事ですが、左側の資産の発生原因と捉えるとわかりやすいと思います。会社の財産(現金、不動産、債権)発生の原因は、借り入れか、株主の出資か、会社の活動による利益(損失)発生が原因であると考えるのです。資産合計より負債の部と資本金合計(資本の部の利益剰余金は入りません)を引いた額がマイナスであれば明らかに債務超過ということになりますし配当も出来ません。しかし、資産の実質評価が異なっていれば(債権が事実上回収不可能な場合、不動産価値が実際上ない場合)たとえ、資産が多いように見えても債務超過になるような場合がありますから(逆の場合もあります)これだけでは実質債務超過かどうか注意する必要があります。

(2)損益計算書 ある一定の営業年度における総収入、総費用を計算しその差額から利益損失を表示して当該年度の営業成績を明らかにした計算書類です(会社法435条2項)。会社の当該年度における損益の状況が判ります。「営業利益 」(本業からの利益)、「経常利益」(本業を含めた継続的な業務からの利益)、経常利益に特別損益を加減し、税金を差し引いた「当期利益」(最終的な利益)などが計算されていく過程が記されています。(英語で、Profit and Loss Statement、略してPLと呼ばれます。)この当期利益が出ていれば、当該年度に配当が可能という事になります。損益計算書は毎日の営業活動の総合計を表示したものですから、その基礎となる、収入、費用が適正妥当なものであれば問題ありません。しかし、実態のない架空売り上げ、水増し、架空経費などがあれば利益が出ているかどうか不明となってしまいます。特に監査役も置かない閉鎖会社ではその危険が大きいと思います。

(3)以上のほか事業報告書は特定営業年度の営業状態の概要を記載した文書で、営業の経過を文書で示しています。しかし、この文書も毎日の営業、経費支出を具体的に示していませんから全て、適正妥当かは明白ではありません。以上3つを計算書類といいます(会社法435条2項)。

(4)株主、会社債権者保護のため株式会社には、これらの基本的書類(及び付属明細者)についてその作成及び作成の日から10年間の保存が義務づけられています(会社法第435条)。作成された書類は、監査役(おかれている場合)の検査を受け、取締役会を設置している会社であれば、取締役会及び株主総会の承認を要しますし、取締役会を設置していない会社においては、株主総会の承認を要します(会社法437条、438条)。その後、承認された書類は、官報、一般新聞またはHP等、会社の定めた公告方法によって公告をする必要があります(会社法440条)。貴方は、株主ですから計算書類を当然受け取る権利を有しますし無条件で閲覧が可能です。

(5)以上の「計算書類」と同義語として「財務諸表」がありますが、財務諸表のもう一つの意味として、貴方の会社が上場企業で証券取引法により会社の財産状態を示す書類として提出する書類を意味し貸借対照表と損益計算書はその中心をなし、他に、キャッシュフロー計算書・株主資本等変動計算書などがあります(金融商品取引法193条 旧証券取引法193条)。これらの書類は、会社の一定期間の経営財政状態、経済活動に関する会計上の計算結果を企業内外の関係者(債権者、株主、税務署)に報告することを目的として作成された書類ですから株主である貴方も閲覧が可能です。以上このような書類でも閉鎖会社、事実上の一人会社、監査機能が不十分な会社においては全て計算結果ですから毎日の企業活動の実態を正確には把握できません。

(6)最終的には、会計帳簿の基礎たる日々の出納帳、領収書、通帳、等を丹念に検討することになります。株式会社には、会計帳簿の作成及びその保管も義務付けられており(会社法第432条)、会計帳簿およびこれに関する資料等については、総株主の議決権の100分の3(定款で減ずることは可能)を有する株主、あるいは、発行済株式総数の100分の3(定款で減ずることは可能)を有する株主は、株式会社の営業時間内において請求の理由を明らかにすれば、いつでも、閲覧ないし謄写の請求をすることができます(会社法433条)。会社の業務の実態が明らかになりますので請求、閲覧に一定の制限を設けています。 
参考書式 https://www.shinginza.com/download-choubo.doc

3.では、以上の書類を前提に配当が受けられるか否かは、どこで判断すればいいのでしょうか。「配当」は、株主に平等に会社の利益の一部を還元するものであるため、会社の利益を原資とします。当然ですが、利益がある=黒字である、ことが必要になります。更に会社法では、配当は「剰余金の処分」と位置付けていますので、配当が受けられる可能性があるか否かは、当期、会社に「剰余金」が存在するか、否かで判断することになります。(会社法第446条、452条、453条、454条)。「剰余金」があれば、「配当」を受けられる可能性がありますし、なければ、その可能性はなくなります。しかし、剰余金が存在しても、会社の純資産が300万円を下回る場合には、配当を受けることはできません(会社法第458条)し、会社の成長戦略の一つとして、剰余金の配当を行わず、あるいは、一部配当に留め、剰余金を内部に留保して、将来に向けての先行投資に充てる会社もあります。

4.又、会計帳簿や貸借対照表、損益計算書等を入手することができたら、一度、会計士や税理士等の専門家に依頼して、不審な点がないか調査してもらうと良いでしょう。赤字の粉飾決算(逆粉飾)を発見することが出来る場合もあります。

5.万一、逆粉飾決算が発見された場合には、どのようになるのでしょうか。よく話題になる「粉飾決算」は、赤字や債務超過等で会社の経営状況は悪化しているにも関わらず、帳簿を操作(売上げの架空計上や経費の圧縮等)して「黒字」決算にすることです。決算を黒字にすることで、銀行からの融資を不正に引き出したり、違法な配当や、役員に賞与を支給したりすることが可能になります。

6.「逆粉飾決算」は、本来黒字である決算を、粉飾決算と逆の方向で帳簿を不正に操作して、赤字にすることをいいます。逆粉飾決算をした場合には、「脱税」や「配当逃れ」などが問題になります。

7.いずれにしても、会社財産の基礎を危うくし、株主、債権者の利益を奪い、社会全体に影響を与える危険がありますので刑罰を持って望んでいます。帳簿を不正に操作したことにより、当該株式会社の取締役は、特別背任罪(会社法第960条、10年以下の懲役若しくは1000万円の罰金、又はこれを併科)、同未遂罪(会社法第962条)、会社財産を危うくする罪(会社法第963条5項 5年以下の懲役若しくは500万円の罰金、又はこれを併科)に問われる可能性があります。また、会社に対しては、違法に配当した金銭等を返還する義務を負い、第三者に対しても損害を賠償する義務を負うことも考えられます。(会社法第429条、430条、462条)。

8.また、一連の不正な行為をした取締役の責任追及を行うには、「6ヶ月前から引き続き株式有する株主」(但し、非公開会社(株式に譲渡制限を設けている会社)の場合には、「株主」)であれば、株式会社に対して、当該取締役に対して「責任追及等の訴え」を提起するよう請求することができます。

二 取締役解任について
(取締役の重要性については事例集bU92号を参照してください。)

1.株式会社の取締役は、株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1まで減ずることも可能)を有する株主が出席し、その株主の議決権の過半数(定款で、これを上回る割合を定めることも可能)の賛成を得られれば、いつでも解任することができます(会社法第339条1項、341条)。ただし、累積投票により選任された取締役については、会社法第309条2項7号により、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1まで減ずることも可能)を有する株主が出席し、その株主の議決権の3分の2以上(定款で、これを上回る割合を定めることも可能)の賛成を得ることが必要になります。

2.解任された取締役は、その解任について正当な理由がない場合には、株式会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条2項)。

3.また、会社が、株主総会を開催する場合には、株主に対して、口頭ないし書面あるいは電磁的方法による株主総会の招集通知を発することが義務付けられています。(会社法第299条1項)。もし、今回の解任を決議した株主総会に関して、招集通知を受け取られていないのであれば、株主総会の招集手続きが法令に違反したとして、決議の日から3ヶ月以内であれば、株主総会等の決議の取消しの訴え(会社法第831条)を提起することが出来ます。また、そもそも株主総会自体が開催されていないのであれば、株主総会等の決議の不存在又は無効確認の訴え(会社法第830条)を提起することも可能です。

4.違法な取締役の解任手続きに基づいて、当該取締役の解任登記申請を行った場合は、公正証書原本不実記載罪・同行使罪が成立する恐れもあります(刑法第157条)。

以上のとおり、今回ご相談いただいた内容につきましては、可能であれば、弁護士・会計士等の専門家にご相談されるのがよろしいでしょう。貸借対照表等会計書類の不自然な点を見つけたり、株主総会の開催ないしその決議方法に違法性が有ったかどうかを判断したりするには、素人の方ではなかなか難しいと思われます。株主としての権利を主張・行使し、適切な会社運営を行うためにも、一度、弁護士事務所にご相談なさってみてください。

≪参考条文≫

【会社法】
(株式の譲渡)
第127条  株主は、その有する株式を譲渡することができる。
(株主総会の招集の通知)
第299条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
(株主総会の決議)
第309条 (略)
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一〜六(略)
七 第三百三十九条第一項の株主総会(第三百四十二条第三項から第五項までの規定により選任された取締役を解任する場合又は監査役を解任する場合に限る。)
(解任)
第339条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
(役員の選任及び解任の株主総会の決議)
第341条 第309条第一項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第429条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ (略)
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第440条第3項に規定する措置を含む。)
(役員等の連帯責任)
第430条 役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
(会計帳簿の作成及び保存)
第432条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
2 株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
(会計帳簿の閲覧等の請求)
第433条 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
2 前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
3 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、会計帳簿又はこれに関する資料について第一項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
4 前項の親会社社員について第二項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。
(計算書類等の作成及び保存)
第435条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
3 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。
4 株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。
(計算書類等の監査等)
第436条 1.2(略)
3 取締役会設置会社においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第一項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第一項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。
(計算書類等の株主への提供)
第437条 取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。
(計算書類等の定時株主総会への提出等)
第438条 次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。
一 第436条第一項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第436条第一項の監査を受けた計算書類及び事業報告
二 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第436条第二項の監査を受けた計算書類及び事業報告
三 取締役会設置会社 第436条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告
四 前三号に掲げるもの以外の株式会社 第435条第二項の計算書類及び事業報告
2 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。
3 取締役は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。
(計算書類の公告)
第440条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。
3 前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第一項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。
4(略)
(計算書類等の備置き及び閲覧等)
第442条 株式会社は、次の各号に掲げるもの(以下この条において「計算書類等」という。)を、当該各号に定める期間、その本店に備え置かなければならない。
一 各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第436条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社にあっては、二週間)前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)から五年間
二(略)
2 株式会社は、次の各号に掲げる計算書類等の写しを、当該各号に定める期間、その支店に備え置かなければならない。ただし、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合であって、支店における次項第三号及び第四号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。
一 前項第一号に掲げる計算書類等 定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社にあっては、二週間)前の日(第319条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)から三年間
二 (略)
3 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求
二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
4 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について前項各号に掲げる請求をすることができる。ただし、同項第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
(剰余金の配当等に関する責任)
第462条 前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(委員会設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
一 前条第一項第二号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 第156条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役(当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)
ロ 第156条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役(当該取締役会に議案を提案した取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)
二 前条第一項第三号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 第157条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
ロ 第157条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
三 前条第一項第四号に掲げる行為 第171条第一項の株主総会(当該株主総会の決議によって定められた同項第一号に規定する取得対価の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合における当該株主総会に限る。)に係る総会議案提案取締役
四 前条第一項第六号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 第197条第三項後段の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
ロ 第197条第三項後段の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
五 前条第一項第七号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 第234条第四項後段の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
ロ 第234条第四項後段の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
六 前条第一項第八号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 第454条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
ロ 第454条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
2 前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。
3 第一項の規定により業務執行者及び同項各号に定める者の負う義務は、免除することができない。ただし、前条第一項各号に掲げる行為の時における分配可能額を限度として当該義務を免除することについて総株主の同意がある場合は、この限りでない。
(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第830条 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第937条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。
(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第831条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第346条第一項(第479条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
(責任追及等の訴え)
第847条 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第189条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第423条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第120条第三項の利益の返還を求める訴え又は第212条第一項若しくは第285条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。
4 株式会社は、第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等若しくは清算人から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。
5 第一項及び第三項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。
6 第三項又は前項の責任追及等の訴えは、訴訟の目的の価額の算定については、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなす。
7 株主が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、当該株主に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。
8 被告が前項の申立てをするには、責任追及等の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。
(取締役等の特別背任罪)
第960条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一・二(略)
三  取締役、会計参与、監査役又は執行役
四〜八(略)
2(略)
(未遂罪)
第962条 前二条の罪の未遂は、罰する。
(会社財産を危うくする罪)
第963条 第960条第一項第一号又は第二号に掲げる者が、第34条第一項若しくは第六十三条第一項の規定による払込み若しくは給付について、又は第二十八条各号に掲げる事項について、裁判所又は創立総会若しくは種類創立総会に対し、虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺいしたときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2〜4(略)
5 第960条第一項第三号から第七号までに掲げる者が、次のいずれかに該当する場合にも、第一項と同様とする。
一 何人の名義をもってするかを問わず、株式会社の計算において不正にその株式を取得したとき。
二 法令又は定款の規定に違反して、剰余金の配当をしたとき。
三 株式会社の目的の範囲外において、投機取引のために株式会社の財産を処分したとき。

【刑法】
(公正証書原本不実記載等)
第157条 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

【金融商品取引法】
(財務諸表の用語、様式及び作成方法)第百九十三条 この法律の規定により提出される貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類は、内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従つて内閣府令で定める用語、様式及び作成方法により、これを作成しなければならない。

【憲法】
第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第四十一条  国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第六十五条  行政権は、内閣に属する。
第七十六条  すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
○2  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
○3  すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

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