新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1852、2019/3/7 16:02 https://www.shinginza.com/merger-acquisition.htm

会社売買、M&A 仲介業務

【商事、法人譲渡、不動産を持っている会社に何故M&Aが行われるか、弁護士の任務】

質問:
親族で不動産賃貸業(飲食業、小売業)を運営する会社を経営していますが、孫が居らず、親族にも会社を引き継ぐ人が居なくて困っています。不動産を売却して会社を解散することも考えましたが、税金がどれくらい掛かるのか分からず心配です。不動産を売る代わりに法人の株式を売却する方法もあると聞きました。その手続はどのように進めたら良いのでしょうか。



回答:
1、 注意事項=当該記事は2019年3月時点の法令等に基づいて執筆している参考記事ですから、実際の具体的案件を検討する場合は、個別に弁護士や税理士などと良く相談して手続を進めて下さいますようお願い致します。
2、 不動産賃貸業のみの会社で、会社資産が不動産のみということであれば、不動産の売却を検討するということになりますが、併せて会社を清算したい、という場合は、不動産譲渡により多額の譲渡益が発生するのであれば会社ごと売却すなわち全株式の譲渡という方法も検討する必要があります。
3、 不動産を売却した場合、一般的に不動産仲介業者の仲介手数料が掛かります。税込みで売買価格の3.24パーセント程度になることが多いようです。
4、 売却経費を差し引いた法人の利益に対して、法人税(国税)、地方法人税(国税)、法人事業税(地方税)、法人住民税(地方税)、地方法人特別税(地方税)が掛かります。国税と地方税を合わせた表面税率は4割近くになります。このほか、印紙税や、建物売却価格について消費税が課税されます。
5、 このようにして発生した法人の利益を、役員報酬や従業員給与や配当として受領することになりますが、非上場株式の年間120万円を越える配当所得では、分離課税を選択することができず、最高税率45パーセントの個人所得税と、10パーセントの個人住民税が課税されることになります。
6、 法人が不動産を所有している場合は、不動産を売却せず、株式を売却する方法もあります。いわゆるM&A(エムアンドエー)と呼ばれる手法で、英語では: merger and acquisition(合併と買収)の略称です。飲食店や、小売店などの事業会社についても、親族の後継者が居ない場合には、株式を売却することで、新しい経営者に引き継いで貰う方法もあります。
7、 法人売却の手続は、事前にデューデリジェンス(資産査定)資料を交付し、相互確認し、企業価値を見極めて売買条件を決めた後、株式譲渡契約書を株主全員と買主との間で締結し、代金決済と同時に、代表者を変更する役員登記申請を行う方法になります。株式譲渡契約書の効力を確保するために、契約書を公証役場にて、公正証書として作成する方法も考えられます。これらの手続は経験のある弁護士に依頼することもできます。
8、 M&Aで株式を譲渡しても、法人に利益は発生しませんので法人税は課税されません。株式を譲渡した旧株主については譲渡益が発生しますが、これは申告分離課税とされ、国税15パーセント、地方税5パーセント、あわせて20パーセントが課税されます。勿論、譲渡益を計算する場合に、株式の取得費と売却手数料(弁護士への委託手数料を含む)を控除することができます。自分で設立した会社であれば、最初の設立時の資本金が取得費となります。
9、 会社売買は、すべての株式を譲渡することになりますので、大前提として条件面も含めてすべての株主の意思一致、賛成が必要です。従って、貴方のような同族会社の方が迅速に手続を進めることができるのです。


解説:

1、 不動産を売却した場合、一般的に不動産仲介業者の仲介手数料が掛かります。税込みで売買価格の3.24パーセント程度になることが多い様です。これを売り主と買い主がそれぞれ依頼した仲介業者に支払います。双方の仲介業者を同一の業者が兼務することもあります。

売却価格から、取得費と、売却費用を差し引いた額が法人の利益となります。この法人の利益に対して、法人税(国税)、地方法人税(国税)、法人事業税(地方税)、法人住民税(地方税)、地方法人特別税(地方税)が掛かります。

それぞれの表面税率をご案内します(2019年3月時点参考)。
法人税(国税)23.2パーセント
地方法人税(国税)1.02パーセント
法人事業税(地方税)7.18パーセント
法人住民税(地方税)3.78パーセント
地方法人特別税(地方税)3.1パーセント
以上合計38.28パーセント(様々な例外措置などがあり、実効税率は異なります)

それぞれ参考URLを記します。

法人税(国税)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm

地方法人税(国税)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/hojin/sanko/hojin_pamph_3.pdf

法人事業税(地方税)、法人住民税(地方税、法人都民税)
http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/houjinji.html

地方法人特別税(地方税)
http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/chihou_houtoku.html

以上のように、法人に対して課税される国税と地方税を合わせた表面税率は4割近くになります(但し、事業税と地方法人特別税額が翌年の所得に関する損金算入できるため実効税率は数パーセント低下します。詳細は税理士等に御相談下さい)。このほか、印紙税や、建物売却価格について消費税が課税されます。

※建物消費税の説明(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3240.htm

※印紙税の税額表(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7140.htm

2、 このようにして発生した法人の利益を、役員報酬や従業員給与や配当として受領することになりますが、非上場株式の年間120万円を越える配当所得では、分離課税を選択することができませんので、最高税率45パーセントの個人所得税と、10パーセントの個人住民税が課税されることになります。なお、年間1000万円を越える配当所得については、配当控除5パーセントを控除して税額を計算することができます。法人の課税と個人の課税を通算すると、売却益の半額を超える金額が課税されることもあります。

※配当所得の課税関係
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1250.htm


3、 法人が不動産を所有している場合は、不動産を売却せず、株式を売却する方法もあります。いわゆるM&A(エムアンドエー、企業買収)と呼ばれる手法で、英語では merger and acquisition(合併と買収)の略称です。飲食店や小売店などの事業会社についても、親族の後継者が居ない場合には、株式を売却することで新しい経営者に引き継いで貰う方法もあります。


4、 法人売却の手続は、事前にデューデリジェンス(Due diligence,しかるべき調査努力、資産査定)資料を交付し、相互確認し、企業価値を見極めて売買条件を決めた後、株式譲渡契約書を株主全員と買主との間で締結します。デューデリジェンス資料は、財務面と事業面の資料に分けて作成されるのが一般的です。法人の規模が大きい場合などは必要に応じて、会計士による財務デューデリジェンス報告書や、弁護士による事業デューデリジェンス報告書が作成されます。

デューデリジェンス資料を相互にやりとりする前に、「守秘義務誓約書」「守秘義務契約書」を作成することもあります。これは、「デューデリジェンス資料は売買契約の検討の目的でのみ使用すること」、「デューデリジェンス手続中の資料の保管方法」、「契約締結交渉で取得した情報は第三者に漏洩しないこと」、「売買契約が破談となった場合はコピーを取らず全て返却すること」などを取り決める契約です。

不動産M&Aの場合、買主が法人形式で不動産賃貸業を企図している場合は、むしろ不動産を購入するよりも好都合と考えることがあり、条件次第で買い手が見つかることがあります。

一般的なデューデリジェンス資料の例を列挙します。
(1) BSバランスシート貸借対照表
(2) PLプロフィットアンドロス損益計算書
(3) 税務申告書類(一般的には3年分程度であるが、国税通則法72・73条により5年または7年の徴収権が残っている場合があるので、最長7年分の申告書類)
(4) 許認可を要する事業の場合は許可証、認可証、許認可関係書類。
(5) 重要な資産についての根拠書類(不動産なら登記済み権利証、登記識別情報)
(6) 不動産について不動産仲介業者による重要事項説明書(必要に応じて)
(7) 公認会計士による監査報告書、財務デューデリジェンス報告書(必要に応じて)
(8) 弁護士による事業調査報告書、事業デューデリジェンス報告書(必要に応じて)

財務デューデリジェンス報告書は、専門家の立場から見て、財務関係書類が適法に作成され、各数値が実体に即した妥当なものであることを報告する書面です。事業デューデリジェンス報告書は、専門家の立場から見て、事業内容=取引内容が適法であり、各取引先との取引の実体が有り、各取引先との法的トラブルのリスクがどれ位であるか、人事労務の法的リスクはどれ位あるか、などを報告する書面です。


5、株式売買価格の考え方

株式売買価格について、例えば過度に低廉ないし高額な金額で譲渡した場合は、みなし贈与等の課税リスクを生じ得ることになるため、株式売却価額の決定は慎重にする必要があります。

(1) 不動産賃貸業専門会社の場合

貸借対照表における流動資産が預貯金のみで、固定資産が不動産のみの場合、株式売買価格は、不動産時価と預貯金を足して、負債を控除した総額を、発行済株式総数で除算した価格がひとつの目安となります。

法人株式を売却する前に、対象となる不動産以外の資産や負債を整理して、計算書類を明確化させることがあります。これは、法人の任意整理(負債整理)手続に類似する弁護士の業務になります。

(2)店舗など不動産以外の事業会社の場合

     非上場の事業会社の株式売買価格算定は非常に難しいことですが、相続税などの申告の際に用いられる財産評価基準を用いた評価方法がひとつの参考になります。税務申告に使われる価額を試算して、そこから両当事者で協議して相当な価額を探っていくことになります。必要に応じて、これらの算定方法の加重平均を算出して、売買価格を協議することもあります。いずれにしても、売り主と買い主の合意が必要です。

a)類似業種比準方式・・・国税庁が上場株式の時価を参考として業種毎に定める比準株価に対して、配当と利益と純資産の比準値の補正を行い、更に、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5を乗じて算出する方式です。会社規模の区分は国税庁通達で業種毎に定められていますが、小売サービス業の場合、総資産4千万円未満で従業員5人以下が小会社、総資産15億円以上で従業員36人以上が大会社です。

b)純資産価額方式・・・会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に算定し直した上で、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額を発行済み株式総数で割り算した価額です。これは1株あたりの純資産額を算出する方法であり、会社財産に着目した評価方法になります。

c)清算分配見込額方式・・・法人が清算手続中であれば、前記純資産総額から、清算手続に必要な費用を差し引いた上で、発行済み株式数で除算する方式です。純資産方式よりも若干価格が低下することになります。

d)配当還元方式・・・過去2年間の配当平均額を企業価値の10パーセント配当と見なして、年間配当額の10倍を企業価値として算定する方式(利回り還元方式)。還元利回りは、営業の先行きが明るいものと考えれば下がりますし、先行き不透明と考えれば15パーセントとか、20パーセントと利回りを上げて考えることになります。

※参考URL、国税庁タックスアンサー非上場株式評価基準
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm

※参考URL、中小企業庁Q&A
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/faq48/41.htm


6、 契約条件がまとまったら、株主全員と買主との間で株式売買契約書を作成します。中小法人の大半で定款に定められている株式の譲渡制限の定めがある場合は、事前に譲渡制限株式の承認手続が必要です。

まず、株式を譲渡しようとする株主は、株式会社に対して譲渡の承認請求をします(会社法136条)。承認請求を受けた会社は取締役会もしくは株主総会で承認決定の決議を得ます(139条1項)。承認決議を得ることができたら、その旨を承認請求株主に通知します(同2項)。その上で、株式譲渡人と譲受人間で株式譲渡契約を締結します。

契約締結を円滑化するために、事前に少数株主の権利を妥当価格で他の主要株主が買い取ったり、会社が買い取って自己株式化するなどして、株主数を整理することもあります。買主が会社の隠れた債務(売主の瑕疵担保責任)などを心配している場合には、株式代金の一部を半年から1年程度の分割払いで支払われるようにする方法もあります。

通常は、手付金つきの株式売買契約書を作成・締結し、残金決済と役員変更登記申請の準備を進めます。全ての準備が整ったところで、残金決済期日に、司法書士・弁護士に対して役員変更登記申請を委任することになります。

株式譲渡契約書の効力を確保するために、契約書を公証役場にて、公正証書として作成する方法も考えられます。そして、代金決済と同時に、法人代表者を変更する役員登記申請を行うことになります。これらの手続を経験のある弁護士に依頼することもできます。


7、 M&Aで株式を譲渡しても、法人に利益は発生しませんので法人税は課税されません。株式を譲渡した旧株主については譲渡益が発生しますが、これは申告分離課税とされ、国税15パーセント、地方税5パーセント、あわせて20パーセントが課税されます。勿論、譲渡益を計算する場合に、株式の取得費と売却手数料(弁護士への委託手数料を含む)を控除することができます。自分で設立した会社であれば、最初の設立時の資本金(出資金額)が取得費となります。相続により取得した株式は、被相続人(亡くなった方)の取得費を引き継ぐことができます。

※参考URL、国税庁タックスアンサー株式等の譲渡益課税(申告分離課税)
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1463.htm

※参考URL、国税庁タックスアンサー譲渡株式の取得費
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1464.htm

不動産賃貸業の法人や、その他の事業法人のM&Aを御検討されている場合は、一度経験のある法律事務所に御相談なさってみると良いでしょう。



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