新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1648、2015/10/30 16:26 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

【民事、競売手続の配当要求に必要な書類は何か、東京地方裁判所平成15年9月30日判決】

滞納管理費を管理組合が回収する方法

質問:マンションの管理組合の理事長をしていますが、ある部屋の管理費の滞納額が100万円を超えそうになっていて困っています。このような状況の中、最近当該部屋が競売にかけられそうになっているという噂が出始めました。管理組合の話し合いの中で、もし本当に競売になるというのであれば、この競売の手続の中で滞納されている管理費を回収できないかという話になりました。回収することは可能でしょうか。どのような方法になりますか。



回答:

1 不動産の競売手続きにおいて、未払いの管理費を、先取特権(民法306条に定められた「一般の先取特権」または「建物の区分所有等に関する法律第7条」の「先取特権」)を根拠に配当要求という方法で回収することは可能です。

但し、この場合の先取特権は抵当権者等登記をしている担保権者との関係では後順位となり(民法336条、建物の区分所有等に関する法律第7条2項)、配当要求しても代金が優先する担保権者の債権額に満たない場合は配当が受けられないことになります。

2 配当が受けられない場合は、競落人に対して未払いの管理費を請求することができますので、新しい所有者に対して未払管理費を請求して回収することになります(民法254条、区分所有法8条)。

尚、一般先取特権で管理組合が優先弁済を受けた場合、競落の最低売却価格が滞納管理費も考慮されて決まることから結果的に競落人にとり有利なのではとの考えもありますが、競落人は配当の結果滞納管理費の負担を負わされるリスクがあり、且最低売却価格以上で決まる可能性がある以上常に有利とはいえないと思われます。

3 管理債権について競売代金に対して「配当要求」をするには、競売手続きが開始された後、裁判所の定める一定の期間内に管理費債権が存在することを証明する文書を裁判所に提出する必要があります。この際の裁判所への提出書類は、配当要求を「一般の先取特権」に基づいて行うのか、「建物の区分所有等に関する法律第7条に基づく先取特権」に基づいて行うのかで異なってきますので解説で説明します。

4 どちらの先取特権で配当要求をするにしても、配当要求が可能な期間が裁判所によって定められ、その期間内に書類を揃えて提出し、かつ、裁判所に先取特権者であることを認めてもらう必要があります。配当を確実に受けとるためにどちらの先取特権で配当要求するのかを含めて、どのような書類を管理組合が持っていて、他にどのような書類を用意しなければならいないのかなどについて、早急にお近くの弁護士事務所等で相談されることをお勧めします。

5 滞納マンション管理費に関する関連事務所事例集1407番1013番918番872番791番632番531番376番107番参照。


解説:

1 先取特権

 今回管理組合で請求する管理費は、当該マンションを維持・管理することを目的として共有物であるマンション全体の利益のために集められている費用であり、「共益費用」と考えられています。民法では、この共益費用に関する債権を他の債権者に優先して特別に保護することに値する債権と考え、共益費用債権に対して「一般先取特権」という担保権が当然に発生するものと定めています(法定担保権)。

先取特権とは、民法その他の法律が定める一定の事由に基づいて生じた債権について、その債権を担保するため、債務者の財産について他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことを言います(民法303条)。先取特権が生じる債権については民法その他の法律で定められたものとされており(法定担保物件)、法律で定められた債権以外について先取特権が生じることはありません。

最も一般的な先取特権は、民法306条で列挙されており、「共益の費用」、「雇用関係」、「葬式の費用」、「日用品の供給」に関する債権です。これらの債権は、人が生きていくうえで最低限必要な行為、または全ての債権者のために役立つ行為に関する債権なので、先取特権を付与して保護し、それによって、これらの行為を保護しようという趣旨です。例えば、「保存行為」と言って、不動産や動産などの財産の毀損を防止するために補修費用等を支出した者が居た場合は、これを「共益費」として先取特権を付与して保護し、それによって、全ての債権者の利益も保護しようとしているわけです。保存行為が行われなければ対象物の価値が大きく減損してしまい、強制競売手続きなどで現金化しようとしても債権者に配当できなくなってしまう恐れがあります。これを防止するために、保存行為の債権を保護する先取特権の制度が設けられているのです。

実際に先取特権が優先弁済を受ける仕組みは、強制執行手続において、民事執行法85条の配当表作成の際に、同85条2項により裁判所書記官が法令に基づいて各債権者の配当額を定める際に、先取特権者として配当表の上位に記載され、弁済を受けることができることになります。

民事執行法第85条 (配当表の作成)
第1項 執行裁判所は、配当期日において、第八十七条第一項各号に掲げる各債権者について、その債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額、執行費用の額並びに配当の順位及び額を定める。ただし、配当の順位及び額については、配当期日においてすべての債権者間に合意が成立した場合は、この限りでない。
第2項 執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法 、商法 その他の法律の定めるところによらなければならない。


今回ご質問のマンション管理費債権は、共有物であるマンションの維持管理に関して必要となる費用ですから、民法306条、307条に定められている一般の先取特権の「共益費用についての先取特権」に該当し、「共益費用についての先取特権」は債務者の総財産から弁済を受けることができます。

また、マンション管理費債権は「建物の区分所有等に関する法律」の第7条に定められている区分所有者又は管理組合あるいは管理組合法人が他の区分所有者に対して有する債権でもありますので、同条の定める先取特権の対象にもなり、債務者の区分所有権及びその建物に備え付けた動産の上にも先取特権を有することにもなります。この先取特権も同条2項により「共益費用に関する先取特権」と同様の優先権の順位及び効力があるとされています。

なお、この二つの先取特権の違いは、民法上の一般の先取特権の場合には、債務の弁済を債務者の総財産から受けることができるのに対し、建物の区分所有等に関する法律に基づく先取特権の場合には、管理費債権の対象の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産からのみ弁済が受けることができることにあります。今回は不動産の競売にかかる売却代金から弁済ですので、どちらの先取特権を主張しても弁済を受けることが可能ですが、これが動産の競売だった場合には、民法上の先取特権を主張しないと弁済を受けられないという違いが出てきます。

民法第303条(先取特権の内容)先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
第306条(一般の先取特権)次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一号 共益の費用
二号 雇用関係
三号 葬式の費用
四号 日用品の供給
第307条(共益費用の先取特権)
第1項 共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
第2項 (略)

建物の区分所有等に関する法律第7条(先取特権)
第1項 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
第2項 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
第3項 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。


2 共益費用の先取特権と抵当権の優劣

  前述の通り、先取特権には一般債権に優先する効力がありますが、登記された抵当権との優劣関係(配当表でどちらが上位となるか)は、民法336条により定められています。

民法336条(一般の先取特権の対抗力)一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。

  つまり、登記をしていない一般先取特権は、抵当権に優先することはできないということになります。登記をした一般先取特権は、登記の先後で、抵当権との優劣を判断することになります。通常、一般先取特権について登記を備えることは無いと思われますので、抵当権には優先できないことが多いということになります。

  抵当権者に優先できない結果、先取特権に基づいて配当を得られなかった場合は、競売の落札人に対して、共有物に関する債権(民法254条)又は区分所有建物の管理債権(区分所有法8条)として、特定承継人にも支払い義務があるので弁済するよう求めていくことになります。

民法254条(共有物についての債権)共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。

区分所有法8条(特定承継人の責任)前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。


3 配当要求

  配当要求とは、競売の申し立てが行われ売却がなされる際に、その売却代金について債権者が分配を求めることをいいます。配当要求ができる債権者は法律によって定められ、かつ、配当を受けられる順番も定められています。
  配当要求できる債権者としては
   @債務名義を有する債権者
   A差押登記後に登記された仮差押債権者
   B一般の先取特権を有していることを証明できる債権者
  となります。

  今回の管理費債権は、民法に基づくものであっても、建物の区分所有等に関する法律第7条に基づくものであっても、上記Bの一般の先取特権に該当しますので、競売の際の売却代金に対して配当要求ができることになります。


民事執行法第51条(配当要求)
 第二十五条の規定により強制執行を実施することができる債務名義の正本(以下「執行力のある債務名義の正本」という。)を有する債権者、強制競売の開始決定に係る差押えの登記後に登記された仮差押債権者及び第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。


4 配当要求の方法

  実際にマンションの競売の売却代金に対して配当要求をするには、配当要求書を裁判所書記官が定めた配当要求の終期までに執行裁判所に提出する必要があります。配当要求の終期までに配当要求書が提出できないと配当を受け取る資格を有しなくなりますので注意が必要です。配当要求の終期は、不動産執行であれば、競売開始決定時に物件明細書の作成に要する期間などを考慮して裁判所書記官が定め官報により公告される時期です(民事執行法49条1項)。

配当要求書の記載例は下記のとおりです。
 
※東京地方裁判所参考書式
http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/fks_haitouyoukyuu03b_130.pdf
※札幌地裁解説
http://www.courts.go.jp/sapporo/vcms_lf/302006.pdf
※函館地裁解説
http://www.courts.go.jp/hakodate/vcms_lf/5haitouyoukyuu.pdf


  一般の先取特権に基づいて配当要求をする場合に配当要求書に添付する書類は、民事執行法第51条の定める民事執行法第181条1項に定められている「一般の先取特権の存在を証明する書面」となりますが、具体的には以下のような書面となります。
@確定判決や審判書
A公正証書
B差押登記後に一般の先取特権を登記した場合にはその不動産登記事項証明書
C先取特権の存在を証明する私文書


上記の@からBの書面については、裁判所、公証人あるいは法務局で作成される公文書ですので、これらの書類のみでもって滞納されている管理費債権についての一般の先取特権が存在する証明することは容易です。しかし、通常、マンションの滞納されている管理費について、管理組合が所有者に対して裁判を起こしていたり、公証役場に所有者とともに出向いたり、更には差押さえの登記までがされている状況で先取特権について登記をするというのは、あまり例がないといえるでしょう。

そうなると、Cの私文書によって配当要求をする必要が出てきます。
まず、当事者を証明するために、管理組合が法人化されている場合には「代表者事項証明書」を提出し、法人化されていない場合には「代表者に関する事項について管理規約の写し」と「代表者あるいは管理者の選任に関する総会議事録の写し」を提出します。

 そして、先取特権の存在を証明する書面として、「毎月の管理費等が定められた管理規約の写し」あるいは「管理費等について決議した総会の議事録」等、そして「管理費の滞納に関する明細書」などが必要になります。「管理費の滞納に関する明細書」は、例えば、滞納している所有者と管理費の支払いに関する念書、管理費が銀行引き落としあるいは銀行振り込みの場合には、当該口座の通帳の写しなどがあればこれらの書類を提出することになります。いずれにしても、それらの手持ち書類だけで一般の先取特権の存在を証明できるか否かを当該競売を管轄している執行裁判所に事前相談することが必要になってきます。

民事執行法第181条(不動産担保権の実行の開始)
第1項 不動産担保権の実行は、次に掲げる文書が提出されたときに限り、開始する。
第一号 担保権の存在を証する確定判決若しくは家事事件手続法 (平成二十三年法律第五十二号)第七十五条 の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
第二号 担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
第三号 担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
第四号 一般の先取特権にあつては、その存在を証する文書


 なお、この第181条1項4号の一般の先取特権の存在を証明する文書について私文書で足りるとする点については、以下のような判例があります。

東京地方裁判所平成15年9月30日判決、不当利得返還請求事件
『民事執行法181条1項は,担保権者が当該担保権の実行として不動産競売の申立てをするには,換価権の基礎となる担保権の存在を証明する文書(以下「法定文書」という。)を提出しなければならないものとし,一般先取特権以外の担保権については,同項1号ないし3号により公文書の提出を要求しているが,一般先取特権については,法律上当然に発生し,かつ,登記によって公示されることがないことから,公文書の提出を求めるとその実行が困難になることを考慮して,同項4号で一般先取特権の存在を証する私文書の提出で足りるとし,さらに,同法189条は,船舶を目的とする競売手続に不動産競売に関する規定を準用しつつ,船舶先取特権については,一般先取特権と同様に法律上当然に発生し,かつ,登記によって公示されないことから,同法181条1項4号の「一般の先取特権」を「一般の先取特権又は商法842条に定める先取特権」と読み替え,船舶先取特権の存在を証する私文書の提出で足りる旨規定している。すなわち,民事執行法181条1項4号,189条は,法律上当然に発生し,しかも登記によって公示されない担保権については,同法181条1項1号ないし3号の文書の提出を要求するとその実行が困難になることを考慮して,担保権の存在を証する私文書の提出による船舶競売の申立てを認めているのである。
 このような民事執行法189条,181条1項4号の趣旨に照らせば,登記船舶について成立する動産先取特権についても,「一般の先取特権又は商法842条に定める先取特権」に準じて,その存在を証する私文書を提出することによって船舶競売を申し立てることができると解すべきである。なぜなら,動産先取特権は,一般先取特権及び船舶先取特権と同様,法律上当然に発生しながら登記によっては公示されない権利であるから,民事執行法181条1項1号ないし3号の文書の提出を要求するとその実行が困難となることは明らかで,同法189条,181条1項4号が一般先取特権及び船舶先取特権についてその実行の困難さを考慮してわざわざ私文書の提出で足りると規定した趣旨が,正に妥当するからである。』条文後記参照。


5 終わりに

以上のとおり、滞納されている管理費については、法律上当然に発生する先取特権に基づいて、当該部屋の競売による売却代金に対して配当要求をすることができます。しかし、一般の先取特権は担保権を有しない債権者に対抗することができるものの、登記をした債権者に対しては対抗できませんので、配当要求したとしても、既に登記を受けている抵当権者が複数いる場合や、債務額が不動産の売却価格に比して大きいような場合には、全く配当が受けられない可能性もあります。よって、管理費債権の回収にあたっては、配当要求の手続と平行しながら、売却代金、優先順位の債権額等を確認しつつ、買受人に対する請求等他の回収方法をも検討する必要があるといえます。配当要求の手続はもちろん、他の回収する方法についてもお近くの法律事務所にて早急にご相談にされることをおすすめ致します。

以上

※参考条文
建物の区分所有等に関する法律
第7条(先取特権)
第1項  区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
第2項  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
第3項  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。

第8条(特定承継人の責任)
 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

前記判例関連条文
民事執行法
(船舶の競売)
第百八十九条  前章第二節第二款及び第百八十一条から第百八十四条までの規定は、船舶を目的とする担保権の実行としての競売について準用する。この場合において、第百十五条第三項中「執行力のある債務名義の正本」とあるのは「第百八十九条において準用する第百八十一条第一項から第三項までに規定する文書」と、第百八十一条第一項第四号中「一般の先取特権」とあるのは「一般の先取特権又は商法第八百四十二条 に定める先取特権」と読み替えるものとする。

商法
第八百四十二条  左ニ掲ケタル債権ヲ有スル者ハ船舶、其属具及ヒ未タ受取ラサル運送賃ノ上ニ先取特権ヲ有ス
一  船舶並ニ其属具ノ競売ニ関スル費用及ヒ競売手続開始後ノ保存費
二  最後ノ港ニ於ケル船舶及ヒ其属具ノ保存費
三  航海ニ関シ船舶ニ課シタル諸税
四  水先案内料及ヒ挽船料
五  救助料及ヒ船舶ノ負担ニ属スル共同海損
六  航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権
七  雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権
八  船舶カ其売買又ハ製造ノ後未タ航海ヲ為ササル場合ニ於テ其売買又ハ製造並ニ艤装ニ因リテ生シタル債権及ヒ最後ノ航海ノ為メニスル船舶ノ艤装、食料並ニ燃料ニ関スル債権


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