新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.632、2007/6/1 15:08 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・マンションの配水管水漏れと損害賠償・配水管は専有部分か共有部分か】

質問:私はマンションの10階の部屋1室を所有していますが、先日、私の部屋の床下のスラブの下、階下の部屋の天井裏の配水管の枝菅が破損して水漏れ事故が起こり、階下の部屋の住民に損害が発生しました。この場合、私に責任があるのでしょうか?

回答:
1.本件はマンションの事例ですので、区分所有権が問題となり、事故が発生した配水管が専有部分か共有部分かによって責任の所在が異なります。すなわち、専有部分については、区分所有者に管理責任があり、共有部分については、共有者である区分所有者全員又は管理組合が責任を負うことになります。

2.区分所有権には、「建物の区分所有権等に関する法律」(以下、「区分所有法」といいます)が適用されます。区分所有法において、共有部分とは「専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の付属物及び第4条第2項の規定により共有部分とされた付属の建物」をいいます(区分所有法2条4項)。「第4条第2項の規定により共有部分とされた付属の建物」はいわゆる規約共用部分です。本件で問題となる配水管は、「建物の付属物」に当たるか否かが問題となります。

3.この点、判例は、当該配水管が設置された場所、配水管の機能、配水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法、建物全体の排水との関連などを総合的に考慮して判断する必要があるとしています。その上で、「本件建物の 707 号室の台所・・(中略)・・便所から出る汚水については同室の床下にあるいわゆるスラブを貫通してその階下にある 607 号室の天井裏に配された枝管通じて、共用部分である本管を(縦管)に流される構造になっているところ、(中略)・・・本件排水管はコンクリートスラブの下にあるため、 707 号室及び 708 号室から本件排水管の点検、修理をすることは不可能であり、 607 号室からその天井裏に入ってこれを実施するしか方法はない。右事実関係の下においては、本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし建物の区分所有権等に関する法律二条4 項にいう専有部分に属しない建物の付属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分にあたると解するのが相当である」(最判平 12・ 3・ 21判時 1715 - 20 )と判示しています。なお、スラブとは、土木用語で材木の平板や石板のことをいい、マンションの場合では、鉄筋コンクリートの床板のことを床スラブといいます。建物の構造強度を確保するために用いられています。

4.以上の判例の判断基準をもとに、個別の事例において具体的に判断をすることになります。実際には、竣工図、管理方法、配水管の構造をもとに判断することになります。具体的な判断の基準としては、一般の社会通念から、その費用を建物全体で負担すべきか、個人で負担するのが公平か、個々具体的に判断されるものと考えられます。具体的な妥当性が問題となると思います。個人のために利用されているものか、全体の利益になるものか考えることになります。本件においても、配水管の場所が床下のコンクリートスラブの下にあり区分所有者の支配管理のもとにはなく、配水管の構造から管理組合による全体的な補修管理をする構造にある場合には、本件配水管は共有部分にあたると考えられます。

5.したがって、本件配水管は共有部分にあたりますので、相談者個人に損害賠償責任はありません。管理組合の責任となります。具体的には、裁判をした場合には、前記判例を根拠に勝訴の可能性は高いといえます。ただ、マンション住民同士の近隣関係の問題ですので、管理組合の立会いの下で、話し合いによる解決をした方が、今後の生活においても有効的であると考えます。住民だけではどうしても話し合いがまとまらない場合には、法律の専門家である弁護士に仲介交渉を依頼すると冷静に合理的な話し合いができると可能性が大きいと思います。

≪参考条文≫

建物の区分所有権等に関する法律2条  この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2  この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
3  この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
4  この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
6  この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。

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