新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.376、2006/3/15 10:37

[民事・契約]
質問:住んでいるマンションの理事をやっていますが、どうしても管理費を払ってくれない住人がいます。管理費が時効消滅するのは何年ですか。専有部分の所有権が移転した場合は新所有者に請求できますか。強制的に払ってもらうにはどうしたらよいですか。

回答:
1、マンションなどの区分所有建物においては、共益部分の管理等にかかる費用として、管理規約などで定めた管理費を徴収することができます(区分所有法)。しかし、所有者自身が住んでいない場合など、管理費を滞納する場合もあるようです。また、管理会社などを依頼している場合でも、管理会社は管理費の回収まで請け負ってくれるわけではないことが多く、管理組合自ら請求や回収などを行う必要があるようです。管理費の時効消滅についてですが、管理費が民法169条にいう「定期金債権」に該当するかどうかで、解釈上争いがありました。定期金債権に該当する場合、その消滅時効は5年間ですが、これに該当しない一般の債権であれば、消滅時効の期間は10年間になるからです。
2、これについて、近時最高裁で判例が出されました。平成16年4月23日最高裁判決(抄)本件の管理費等の債権は,前記のとおり,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い,総会の決議により増減することがあるとしても,そのことは,上記の結論を左右するものではない。
3、上記のとおり、マンションの管理費は、169条の適用を受け、5年間の消滅時効にかかります。なお、時効消滅の期間に関わりなく、滞納が半年から1年程度続く場合は、なんらかの法的手段をとることをお勧めします。金額が大きくなればそれだけ現実の回収可能性も低くなりますし、将来にわたって発生し続ける費用ですので、早めに対策を取らないと永久に膨れ上がってしまいます。
4、次に、専有部分の所有権が移転した場合(売買を例に取ります)、滞納管理費は、売主、買主双方に請求することができます。売主には、管理費の支払義務は、売主に対して発生したものであり、区分所有建物の売買のような特定承継においては、この支払義務までは移転しないというのが通常の解釈であることを根拠として請求することができます。一般に、目的物に関連している債権でも、目的物の取引に伴って自動的に移転するわけではなく、前所有者の元に残ります。移転させるには、特別な約束や法律上の根拠が必要な場合がほとんどです。そして、上記の法律上の根拠があるからこそ、買主にも請求することができるのです。区分所有法8条では、マンションの管理費(同法7条)は、区分所有権の特定承継人(マンションの買主)に対しても請求が可能であることを規定しています(ただし、これらは不真正連帯債務と解され、どちらかが支払えばもう一方の義務は消滅します)。
5、最後に、強制的に支払ってもらう方法についてですが、原則として、一般の債権と同様に、内容証明などによる請求、交渉、訴訟の提起、強制執行という順序を踏むことになります。ところで、上記の区分所有法第7条には、区分所有者に対して有する債権は、区分所有権に対して「先取特権」を有すると規定されています。先取特権とは、担保権の一種です。つまり、マンションの管理費の滞納を理由に、その居室を競売にかけることも可能であるということです。しかし、近時のマンション売買においては、購入資金を銀行などから借り、その代わりに居室の所有権に抵当権を設定することがほとんどです。抵当権で設定された債務額が高額な場合、競売しても配当が無い可能性が高く、執行しても費用倒れになる可能性があります。このような事情もありますので、滞納管理費の回収について、どのような方法をとることが賢明なのかについては、様々な事情を考慮して判断すべきであるといえます。このような手段に踏み切る場合は、できればお近くの弁護士など専門家の力を借りることをお勧めします。

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