新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1013、2010/3/29 15:02

【民事・マンション管理費の滞納・請求手続・区分所有法7条の先取特権・区分所有法59条による競売の申立て・民事執行法63条は適用になるか】

質問:マンションの管理をしています。入居者の1人が、マンション管理が納得いかない、と言う理由で長期間にわたり管理費の支払いをしていません。数百万円になっています。管理費を支払わせるためにはどうすればいいですか。支払うまで、電気や水道を止めてしまうのはどうでしょうか。

回答:
1.滞納者に資産がある場合は、管理組合が延滞管理費について請求訴訟を提起して、区分所有権、その他の資産(給料債権等)を差し押さえ、それでも支払わなければ不動産の強制競売が一般的手続きです。法律相談事例集キーワード検索1000番参照。 法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年9月25日改訂)【各論21、強制執行を自分でやる】
2.区分所有法上、滞納管理費については、区分所有法上の(一般)先取特権(区分所有法7条1項)に基づき動産、区分所有権の差し押さえが可能ですが、区分所有権につき先順位担保者が価値を把握し(手続き費用を含め)余剰がないと民事執行法63条があり実効性は疑問です。
3.次に、滞納管理費による占有部分の使用禁止は判例上認められません。
4.電気水道の供給停止もできないでしょう。
5.金額にもよりますが、区分所有法59条による競売申し立ても利用可能です。滞納者に担保となる財産が全くなければ(区分所有権も担保に入っている状態でほかに目ぼしい資産もない場合。)、滞納者から直接回収する具体的方法は結局のところありあません。区分所有法に定める強制競売(同法59条)により滞納者に退去してもらい新たなマンションの所有者から滞納している管理費を引き継いでいただき支払いを受けることになるでしょう(同法8条)。区分所有法に定める同法59条の強制競売の申し立ては、管理費の請求訴訟による判決に基づく区分所有権の差し押さえ、競売と異なり、解釈上区分所有権に担保価値を上回る抵当権が設定されていても、手続き費用を上回る余剰価値があれば競売ができるところに特色がありますが(民事執行法63条不適用)、抵当権等の担保権が優先しますので、管理費の回収は競落人に対し請求することになります。勿論、一般の判決に基づく強制競売でも理論的に同様ですが、差し押さえの目的物に余剰価値(手続き費用を含め)がなければ、強制競売は取り消されることになりますので(民事執行法63条適用)実際上利用するが困難です。
6.いずれにしろ、管理費の滞納問題は、その額が大きくならないうちに法的手続きをとることが肝要です。
7.法律相談事例集キーワード検索918番872番791番632番531番376番107番参照。

解説:
1.(延滞管理費回収の一般的手続き)管理費とは、マンションを維持管理するために、管理組合が区分所有者に対して定期的に請求・集金する金員をさし、「共益費」「組合費」と呼ばれる場合もあります。マンションの管理方法について異議があったとしても、それは管理組合総会で主張すべき事柄であり、それを理由に管理費の支払いを拒絶できるわけではありません。したがって、強制執行の一般原則に従い、管理組合としては、滞納者に対して民事訴訟を提起して判決をもらい、滞納者の財産(動産、不動産)に対して強制執行することができます。

2.(区分所有法7条1項に基づく先取特権)また、区分所有法では、管理費の請求について、管理者・管理組合は、「債務者の区分所有権及び建物に備え付けた動産」の上に先取特権を有するとされているので(区分所有法7条1項)、この先取特権により、当該区分所有権や、当該区分所有者が部屋に備え付けた動産を差押えることもできます。
 この先取特権は、民法上の共益費用の一般先取特権(民法306条、307条)と同様に扱われます(区分所有法7条2項)。先取特権を有する債権者は、差し押さえ、競売の手続きを行う前に、延滞管理費を裁判上請求し判決を貰う必要はありません。延滞管理費を請求債権として直ちに申立により差し押さえ、競売ができますから判決手続きを省略できることになり有利です。これは、抵当権、質権の担保物権も同様です。
 どうして、担保物権を有する債権(被担保債権)に判決手続きが不要かといいますと、担保権設定の時に、当事者間で債権の存在については合意し明確になっていますので基本的に争いがなく再度、裁判手続きで公権的解決をする必要性がありませんし、それを必要とすれば担保権の実効性が遅延し形骸化する危険性があるからです。もし争いがあり債務がないと主張するのであれば、競売の開始決定後になりますが、担保権の執行異議の申立(民事執行法182条)があります。
 さらに、執行異議の手続きでは、立証方法が制限されますので、抵当権不存在の本裁判を起こし担保権実行禁止の仮処分(民事保全法)を得て、担保権実行停止の申立の手続きが用意されています(民事執行法183条1項7号)。最終的に裁判が出た時点で、競売手続きは完全に取り消されます(同183条1項1号・2項)。法律相談事例集キーワード検索531番参照。

3.先取特権は、担保の目的物を占有しないので抵当権に類似しますが、抵当権のように当事者の合意で成立するものではなく、主に公平性の理由(他に当事者の意思の推測や社会政策上の理由)から、私的自治の原則の基本要素である債権者平等の原則の例外を法が当然に認めたものであり、法定担保物権といわれています。先取特権は、当事者の公平等の理由により認められたものですが、一般債権者の利益を侵害し取引の安全という面から問題がありますが、先取特権を有する債権を限定し、一般先取特権を除き対象の担保物を制限し調和を図っています。このように強力な先取特権を、区分所有法上認めたのは、区分所有者の共同の利益を確保し所有権絶対の原則(フランス人権宣言による所有権絶対の原則。憲法29条)を実質的に保障するためです。すなわち、マンションのような一棟の建物内の構造上独立した複数の部分を集団で所有、利用する集合住宅建物の共有関係を適正公平に規律し所有権の実質的保障するためです。従来の所有権、共有の理論、規定は、単独所有建物を対象にしており集合住宅を予想して作られていませんので、区分所有者各自の所有権の実質的保障が不十分であり、従来の権利関係を修正する必要が生じました。 そのため作られたのが昭和37年の 区分所有法です。この法律の趣旨は集合住宅の各所有権の実質的保障、共同生活上の利益確保にありますので、管理費の滞納のように他の所有権者の共同の利益を侵害する危険が明らかなものについて集合住宅の動産、区分所有権を事実上の担保として区分所有者に特別な法的責任を認めています(同7条)。又、管理費延滞の他共同の利益を害する行為に対して、専有部分の使用禁止(同58条)、競売申立(同59条、60条)等の手続きが規定されていますが、区分所有法の制定により事前に不利益を告知し利益を調整しています。

4.(一般先取特権行使の問題点)もっとも、通常動産を競売してもほとんど価値がないことが多いので数百万円という延滞管理費の回収は難しいかもしれません。次に、区分所有権の差し押さえですが、滞納の状態から見て区分所有権自体にも抵当権が付いていることが通常でしょうから、先取特権が直ちに効を奏するケースというのは多くないものと思われます。すなわち一般先取特権は、登記した抵当権に劣後することになっているからです(民法335条、区分所有法7条2項)。しかし、差し押さえ、任意競売が行われれば物件の競落人から延滞管理費を回収できますので(区分所有法8条)その意味では有効です。

5.(民事執行法63条との関係)後順位抵当権等の存在により、担保価値に剰余が生じる余地の無い場合(手続費用と先順位担保権への充当により余剰が生じない。)には、競売手続きは取り消されるとする民事執行法63条の適用があり、結局競売手続きは実行されません。後述のように、区分所有法59条の競売申し立てと同じように63条の適用はないと考えることはできません。同59条は、特に区分所有者の全体の利益を害する場合に当該滞納区分所有者を積極的に排除する目的があり、59条の解釈上例外的に適用を認めないからです。これに対し先取特権の趣旨は単に共益費用の確保を目的としており、滞納者排除までは意図していません。従って、民事執行法63条が適用になる場合は滞納管理費回収について有効な手段となりません。

6.(滞納により電気水道を止めることができるか)そこで、心理的強制により支払わせるという意味での事実上の方法として、管理費を払うまで電気や水道をとめてしまう、あるいは専有部分の使用自体を禁止することが可能かどうかが問題になります。電気や水道を止めてしまうことについては、管理規約に基づいて管理会社が給湯を停止した、という事例について、あらかじめ、管理費等の支払いを督促し、給湯停止措置を警告して行なわれたものであっても、給湯という日常的に不可欠のサービスを停止するのは諸経費の滞納問題の解決について他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上効果がないような場合に限って是認される、とする判例があります(東京地判平成2.1.30)。したがって、あらかじめ、支払いの請求と支払わない場合には給湯等を停止することがある旨明記した内容証明を送付した上、管理組合総会を開くなど管理体制について、十分な話し合いの機会をもつことは必要になるでしょう。このような手続きをしないで、給湯等の停止を行なった場合に、逆に不法行為として損害賠償されるおそれはあるといわざるを得ません。

7.(区分所有法58条の占有部分使用禁止請求)また、同様に事実上の方法といえるのでしょうが、管理費を支払わない区分所有者に対し、区分所有法58条に基づいて専有部分の使用禁止を請求することも考えられますが、この点も見解が分かれるところです。通常使用禁止は、共同の利益に反する所有者を排除するような場合を想定し規定されています。例えばマンションが、暴力的思想、宗教集団の事務所に使用された場合です。判例として暴力団組長に対する使用禁止請求を認めた福岡地裁昭62・5・19第三民事部判決、建物専有部分使用禁止等請求事件があります。又9年間にわたり、約1200万円の管理費を支払っていなかったという事案について、第1審では第6条に定める行為は物理的に有害な行為に限られないとして、管理費滞納の場合でも使用禁止を認めたのに対し、控訴審では、第6条に関しては同様の解釈をとりながら、専有部分の使用を禁止することによって当該区分所有者が滞納管理費を払うという関係になく、他方、その区分所有者は管理費の滞納と言う形で共同の利益に反する行為をしているにすぎないのであるから、専有部分の使用を禁止しても区分所有者に何らかの利益が認められるわけではない(仮に心理的な効果があるとしても事実上のものにすぎず、使用禁止を認めるというところまではいえない。)ので、管理費の滞納と専有部分の使用禁止には関連性がないという理由で他の使用禁止を否定しました(大阪地栽判決平成13年9月5日、大阪高裁判決平成14年5月16日)。

8.(区分所有法59条の競売申し立て)上記の方法が効を奏さない場合、区分所有法の59条による競売も考えられます。滞納者の経済状態を見ると管理費を支払わせるという意味では、先取特権と同じように効を奏さない場合が多いかと思われます。判例では、区分所有法58条の使用禁止については上記の通り認めませんが、区分所有法59条による競売請求については、管理費滞納と関連性があり、当該状況において使用することは可能であると言っています。そこで、区分所有法59条の厳格な要件を満たす場合に、裁判所に対して管理組合は、競売請求をして、認容の判決をもらうことにより競売申立権が生じ(形成権)、この判決を債務名義として強制競売を申し立てることが可能になります。
 本件の解決方法として、この条項を使って競売申し立てをして管理費を回収することも一応考えられます。この方法が認められるのは、上述したように、管理費未払いについての一般的手続きによる判決に基づく強制競売が効を奏さない場合(すでに先行する抵当権があり、剰余がないような場合は、競売が取り消される。)ですから、別の方法での競売申し立てに特段の意味がないようにも思えますが、区分所有法8条により、買受人が未払い管理費について承継することになるので、結果的に未払い管理費は回収されるのでその点で管理組合としては意味があることにはなります。
(59条による競売申し立ての判例)
(判例1)、名古屋地裁昭62・7・27民八部判決(区分所有権競売請求事件)。暴力団事務所の競売申し立てを認めています。
(判例2)、京都地裁平4・10・22判決 (区分所有権競売等請求事件、原状回復等請求事件、土地建物競売等請求事件)宗教団体の競売申し立てを認めています。

9.(区分所有法59条問題点、民事執行法63条との関係)ただ、この方法も、区分所有者の共同の利益を侵害する区分所有法59条が問題になるような物件を買おうとする者が存在するかどうかという問題は残ります。未払いの管理費の回収という意味では、事情を知って他の区分所有者があえて買受人となるようなケースでないと未払い管理費の回収は難しいかもしれません。
 次に、延滞管理費の額が数百万円でも、競売の結果手続き費用及び先順位担保権者の被担保債権額の総額にも満たない場合には民事執行法の原則である同法63条の適用により区分所有法という特別法に基づく競売手続きが取り消されるかどうか問題になります。条文上、民事執行法195条「留置権による競売及び民法 、商法 その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。」との規定により区分所有法59条の競売が、担保権実行の任意競売と同様の手続きで行われ、民事執行法188条によって任意競売に不動産の強制競売の63条が準用されるように解釈できますが、区分所有法59条の競売は、配当を目的とする通常の任意競売と異なり、多数の区分所有者の共同の利益を侵害する当該区分所有者を排除することを主な目的としており一概には論ずることができないからです。
 結論は、区分所有法59条の競売手続きに、民事執行法63条の適用はありません。その理由ですが、@そもそも区分所有法は、所有権絶対の原則の実質的保障を貫くべく、各区分所有者の共同の利益を保護するため、物理的な有害な行為を念頭におき(区分所有法6条)使用差し止めなどが効を奏さなかった場合でも、当該区分所有者の所有権を競売によって剥奪し排除するために規定されており、配当を主目的にしている強制競売の規定の趣旨そのまま適用すると区分所有法の目的、趣旨が失われることになります。A民事執行法63条の制度趣旨は、配当がないような無益な競売防止と、先順位担保権者が優先権を有するのにその意思を無視し投資資金回収の時期を勝手に左右される不利益を防止するためにあります。しかし、区分所有法の競売は、共同の利益を害するものを排除することに意味があり元々配当自体を期待していない手続きですから互いの制度趣旨が異なります。それに区分所有権を担保に取った債権者は、区分所有法の制限を受ける担保物を対象にしているという点から、意図に反した時期に競売されても、もともと区分所有法の制限を受ける制限的担保物を対象にしていたもので予想される不利益と考えられるからです。
 以上剰余が生じる余地の無い場合には(手続費用も生じないようであれば競売が意味をなさないので取り消されることになります。)、競売手続きは取り消されるとする民事執行法63条(任意競売にも準用)の適用はないと解されますし、東京高裁平成16年5月20日決定も同様に解釈しています。以上のように、たとえ先行する抵当権者が存在するために、通常の競売申立だと取り消されてしまうようなケースであっても、競売申立ができるということになり配当はなくても、結果的に競落人から延滞管理費を回収することが可能になります。

10.(判例1)東京高等裁判所平成16年5月20日第7民事部決定、不動産競売手続取消決定に対する執行抗告事件)。約400万円の最低売却価格の万書について、約2800万円の先順位担保権、手続き費用が存在する区分所有法による競売申立について民事執行法63条を適用していません。妥当な解釈です。後記判例参照。
(判例2)東京地方裁判所、平成17年5月13日民事第25部判決(区分所有権競売請求事件)約3年間、117万円の延滞管理費で、先順位担保権により余剰価値は全くありませんが、区分所有法による競売申立てを認めています。無論、妥当な判決です。後記参照。

11.(まとめ)あなたのケースでも、区分所有法、7条、又は本条による競売申し立てをすることによって、未払い管理費の回収はできなかったとしても、他の抵当権者の担保権実行の意思如何にかかわらず、管理組合の主導でこのような管理費滞納を繰り返す区分所有者を排除するという効果は期待できるということになるでしょう。

≪条文参照≫

区分所有法
(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第1項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
(先取特権)
第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3 民法(明治29年法律第89号)第319条の規定は、第1項の先取特権に準用する。
(特定承継人の責任)
第8条 前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
第七節 義務違反者に対する措置
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する
(使用禁止の請求)
第58条 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数でする。
3 第1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第3項の規定は、第1項の訴えの提起に準用する。
(区分所有権の競売の請求)
第59条 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第57条第3項の規定は前項の訴えの提起に、前条第2項及び第3項の規定は前項の決議に準用する。
3 第1項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から6月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。
(占有者に対する引渡し請求)
第六十条  第五十七条第四項に規定する場合において、第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。
2  第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、第五十八条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3  第一項の規定による判決に基づき専有部分の引渡しを受けた者は、遅滞なく、その専有部分を占有する権原を有する者にこれを引き渡さなければならない。

民法
(一般の先取特権)
第三百六条  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一  共益の費用
二  雇用関係
三  葬式の費用
四  日用品の供給
(共益費用の先取特権)
第三百七条  共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
2  前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

民事執行法
(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)
第63条  執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第四十七条第六項の規定により手続を続行する旨の裁判があつたときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
一  差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
二  優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
2  差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
一  差押債権者が不動産の買受人になることができる場合
     申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
二  差押債権者が不動産の買受人になることができない場合
     買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
3  前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
4  第二項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。
(開始決定に対する執行抗告等)
第百八十二条 不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては、債務者又は不動産の所有者(不動産とみなされるものにあつては、その権利者。以下同じ。)は、担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。
(不動産担保権の実行の手続の停止)
第百八十三条 不動産担保権の実行の手続は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
 一 担保権のないことを証する確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。次号において同じ。)の謄本
 二 第百八十一条第一項第一号に掲げる裁判若しくはこれと同一の効力を有するものを取り消し、若しくはその効力がないことを宣言し、又は同項第三号に掲げる登記を抹消すべき旨を命ずる確定判決の謄本
 三 担保権の実行をしない旨、その実行の申立てを取り下げる旨又は債権者が担保権によつて担保される債権の弁済を受け、若しくはその債権の弁済の猶予をした旨を記載した裁判上の和解の調書その他の公文書の謄本
 四 担保権の登記の抹消に関する登記事項証明書
 五 不動産競売の手続の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の謄本
 六 不動産競売の手続の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の謄本
 七 担保権の実行を一時禁止する裁判の謄本
2 前項第一号から第五号までに掲げる文書が提出されたときは、執行裁判所は、既にした執行処分をも取り消さなければならない。
3 第十二条の規定は、前項の規定による決定については適用しない
(不動産執行の規定の準用)
第百八十八条  第四十四条の規定は不動産担保権の実行について、前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。
(留置権による競売及び民法 、商法 その他の法律の規定による換価のための競売)
第百九十五条  留置権による競売及び民法 、商法 その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。

≪判例参照≫

(判例1)
東京高等裁判所平成16年5月20日第7民事部決定、不動産競売手続取消決
定に対する執行抗告事件。
2 事案の概要本件は,原決定別紙物件目録記載の一棟の建物(サンピア鎌ヶ谷)の管理組合の理事長(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)上の管理者)である抗告人が,同目録記載の専有部分の建物(区分所有権及び敷地利用権。以下「本件建物」という。)に対する区分所有法59条1項に基づく競売請求を認容した確定判決(千葉地方裁判所松戸支部平成14年(ワ)第1128号同15年2月5日判決)を債務名義とし,同判決の被告(本件建物の共有者2名全員)を相手方として,民事執行法195条に基づき,本件建物に対する競売を申し立て(同支部平成15年(ケ)第169号),平成15年4月28日に競売開始決定を得たところ,原審が,本件建物の最低売却価額418万円で手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権合計2788万円(見込額)を弁済して剰余を生ずる見込みがないとして,その旨を抗告人に通知した上で,同年8月20日,民事執行法63条2項により,本件建物に対する競売の手続を取り消す旨のいわゆる無剰余取消決定(原決定)をしたため,抗告人が,上記競売は区分所有法59条に基づくものであり,これに民事執行法63条の剰余主義の規定は適用されないと主張して,原決定の取消しを求めた事案である。
3 判断
(1)民事執行法63条の規定は,差押債権者に配当されるべき余剰がなく,差押債権者が競売によって配当を受けることができないにもかかわらず,無益な競売がされ,あるいは差押債権者の債権に優先する債権の債権者がその意に反した時期に,その投資の不十分な回収を強要されるというような不当な結果を避け,ひいては執行裁判所をして無意味な競売手続から解放させる趣旨のものと解される(最高裁判所昭和43年7月9日第三小法廷判決・裁判集民事91号639頁(ただし,同法施行前の民事訴訟法656条に関するもの)参照)。
(2)ところで,区分所有法59条1項による建物の区分所有権及び敷地利用権(以下,敷地利用権を含む意味で単に「区分所有権」という。)に対する競売請求は,区分所有者が同法6条1項の規定に違反して建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合等において,他の方法によっては当該行為による区分所有者の共同生活上の著しい障害を除去してその共同生活の維持を図ることが困難であるときは,他の区分所有者において当該区分所有者の区分所有権を剥奪することができるものとし,そのための具体的な手段として認められたものである。
 このような同法59条の規定の趣旨からすれば,同条に基づく競売は,当該区分所有者の区分所有権を売却することによって当該区分所有者から区分所有権を剥奪することを目的とし,競売の申立人に対する配当を全く予定していないものであるから,同条に基づく競売においては,そもそも,配当を受けるべき差押債権者が存在せず,競売の申立人に配当されるべき余剰を生ずるかどうかを問題とする余地はないものというべきである。その一方で,同条が当該区分所有者から区分所有権を剥奪するための厳格な要件を定め,訴えをもって競売を請求すべきものとしていることからすれば,そのような厳格な要件を満たすものとして競売請求を認容した確定判決が存在する以上,同条に基づく競売においては,売却を実施して,当該区分所有者からの区分所有権の剥奪という目的を実現する必要性があるというべきであるから,不動産の最低売却価額で執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)及び担保権者等の優先債権(もっとも,競売の申立人との関係においては,上記のとおり,そもそも配当における優先関係が問題とならない。)を弁済して剰余を生ずる見込みがない場合(民事執行法63条1項)であっても,区分所有法59条に基づく競売をもって無益ないし無意味なものということはできない(もっとも,売却代金によって手続費用を賄うことすらできない場合には,その不足分は,少なくとも競売の手続上は,上記目的の実現を図ろうとする競売の申立人において負担すべきものである。)。
 そうであるとすると,民事執行法63条の規定の趣旨を踏まえても,なお,上記のような区分所有法59条の規定の趣旨にかんがみると,同条に基づく競売については,民事執行法63条1項の剰余を生ずる見込みがない場合であっても,競売手続を実施することができ,その場合も,競売手続の円滑な実施及びその後の売却不動産(建物の区分所有権)をめぐる権利関係の簡明化ないし安定化,ひいては買受人の地位の安定化の観点から,同法59条1項(いわゆる消除主義)が適用され,当該建物の区分所有権の上に存する担保権が売却によって消滅するものと解するのが相当である。
 もっとも,その場合は,一方で,優先債権を有する者,特に,担保権を有する債権者がその意に反した時期に,その投資の不十分な回収を強要されるという事態が生じ得る。
 しかしながら,区分所有者は,区分所有法6条1項により,建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない義務を負っているものであり,区分所有者がこの義務に違反した場合には,これに対する措置の一つとして,同法59条により,当該区分所有者の区分所有権に対する競売請求が認められているのであるから,区分所有者の権利である区分所有権は,そもそも,同条による競売請求を受ける可能性を内在した権利というべきであり,区分所有権を目的とする担保権は,このような内在的制約を受けた権利を目的とするものというべきである。したがって,同条に基づく競売によって,当該担保権を有する債権者がその意に反した時期に,その投資の不十分な回収を強要される事態が生じたとしても,それは,上記のような区分所有権の内在的制約が現実化した結果にすぎず,当該債権者に不測の不利益を与えるものではなく,不当な結果ともいえないものというべきである。
 これに対し,民事執行法63条1項の剰余を生ずる見込みがない場合には区分所有法59条に基づく競売を実施することができないとすると,同法6条1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活上の維持を図ることが困難であるとして,確定判決をもって,当該行為に係る区分所有者の区分所有権に対する競売請求が認められているにもかかわらず,そのような事態が放置される結果となり,そのような事態の解消は,専ら,当該区分所有者の意思か,あるいは担保権者が適当と認める時期での担保権の実行にゆだねられることとなるが,このようなことは,余りに区分所有者全体の利益を害するものであって,同法59条の規定の趣旨を没却するものであるといわざるを得ない(なお,同条に基づく競売に民事執行法63条が適用されるとすると,剰余を生ずる見込みがない場合には,同条2項に定める申出及び保証の提供により,競売の手続を続行することができるが,区分所有法59条に基づく競売の場合には,これは現実的ではなく,このことを考慮に入れても,なお,上記の判断を左右するものではない。)。
(3)以上の次第で,区分所有法59条に基づく競売においては,建物(区分所有権)の最低売却価額で手続費用を弁済することすらできないと認められる場合でない限り,売却を実施したとしても上記(1)の民事執行法63条の規定の趣旨(無益執行の禁止及び優先債権者の保護)に反するものではなく,むしろ売却を実施する必要性があるというべきであるから,同条は適用されない(換言すれば,手続費用との関係でのみ同条が適用される)ものと解するのが相当である(なお,最低売却価額で手続費用を弁済する見込みがない場合であっても,競売の申立人がその不足分を負担すれば,なお,競売は実施すべきものと解される。)。
 なお,民事執行法195条は,民法,商法その他の法律の規定による換価のための競売については,担保権の実行としての競売の例による旨規定し、これによれば,区分所有法59条に基づく競売についても,民事執行法188条,63条がそのまま適用されるようにも読めるが,上記換価のための競売には種々のものがあるにもかかわらず,その一つ一つについて民事執行法が個別の規定を置かず,同法195条において担保権の実行としての競売の例による旨だけを規定していることからすれば,むしろ,上記換価のための競売については担保権の実行としての競売に関する個々の規定の適用関係について,その趣旨や性質に応じた合理的な解釈を許容しているものとみることができるから,区分所有法59条に基づく競売について,その趣旨等に照らし,上記のとおり手続費用との関係でのみ民事執行法63条が適用されるものと解することは,同法195条に反するものではないというべきである。
(4)そこで,これを本件についてみると,本件建物の最低売却価額418万円で手続費用(見込額)を弁済することができないとは認められず,本件建物に対する競売に民事執行法63条は適用されないというべきであるから,それにもかかわらず同条2項により上記競売の手続を取消した原決定は不当である。 

(判例2)
東京地方裁判所平成16年(ワ)第27574号
平成17年5月13日民事第25部判決(区分所有権競売請求事件)

       主   文

1 原告は,被告が有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地権について競売を申し立てることができる。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

       事実及び理由

1 原告は,主文第1,第2項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め,次のとおり請求原因を述べた。
(1)当事者等
ア 原告は,別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者であり,かつ,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条に基づいて構成された本件マンションの管理組合(A管理組合,以下「本件管理組合」という。)の組合員である。また,原告は,本件管理組合の理事長であり,区分所有法に定める管理者である。
イ 被告は,平成12年3月15日以降,別紙物件目録の専有部分の建物(以下「本件マンション○○号室」という。)の区分所有権及びその敷地権を有している者である。
(2)被告の管理費等の滞納
 本件マンションの区分所有者は,本件マンションの管理規約により,本件管理組合に対して,管理費,修繕積立費,専用庭使用料,専用駐車場使用料(以下「管理費等」という。)を支払うこととされている。
 しかし,被告は,平成12年10月分から平成15年7月分までの34か月分の管理費等合計117万7420円を支払わなかった。
(3)被告の対応
ア 本件管理組合は,平成12年11月ころから平成15年7月ころまでの約3年間,被告に対し,管理会社を通じて,繰り返し,未払管理費等を支払うよう請求した。これに対し,被告は,管理費等を支払うことができない事情や支払を拒絶する理由を明らかにせず,未払管理費等を支払う気配を見せなかった。
イ そのため,本件管理組合は,被告に対し,平成15年8月5日,未払管理費等の支払を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成15年(ワ)第17967号マンション管理費等請求事件)。同訴訟については,被告が請求原因事実を認めたため,平成15年10月20日,本件管理組合の請求を全部認容する判決が言い渡された。
ウ ところが,被告は,前記イの判決の後も,未払管理費等を支払わなかった。そのため,原告らは,平成15年11月から,話し合いを求めて週に約1回の頻度で,被告に電話をかけあるいは被告方を訪問するなどした。しかし,そのほとんどの場合において,被告は居留守を使い対応しなかった。
エ 本件管理組合は,被告に対し,後記(5)の集会決議に先立つ平成16年7月16日,あらかじめ,弁明書の提出を求めた。
 これを受けて,被告は,同月28日,同年3月18日に心不全で倒れたため収入がなくなり,管理費等を支払うことができなかったが,今後は管理費等を支払うつもりであるし,未払管理費等についても分割で支払っていくという内容の弁明書を提出した。しかし,被告は,今後の支払については「払う払う」の一点張りで具体的な支払方法を提案することはなかった。
オ そこで,本件管理組合は,平成16年8月6日,上記イの判決を債務名義として,被告の預金債権の差押えを申し立てた。これに対し,被告は,同月17日,原告代理人の事務所に対し,脅迫的な電話を掛けた上,「おい御園!生活費の金,返せ!ふざけるな!!甲野。」(「御園」とは原告代理人の姓である。)と記載したファクシミリ文書を送信した。その後,本件管理組合は,同年9月7日,上記申立てによって得た債権差押命令に基づき,第三債務者より30万9195円を取立て,その翌日,再度預金債権の差押えを申し立てたが,被告の銀行口座に預金がなかったため,強制執行は不奏功に終わった。
(4)被告の管理費等の支払状況
 前記(3)イの判決の後本件訴訟提起までの間の被告の管理費等の支払状況は,別紙支払明細目録及び別紙管理費等計算書記載のとおりであり,不払の期間は合計50か月にのぼる。
(5)他の方法による回収の可能性がないこと
 本件マンション○○号室の時価は約1800万円であるところ,本件マンション○○号室には,既に,第1順位で債権額3070万円の抵当権設定登記,第2順位で債権額120万円の抵当権設定仮登記,第3順位で条件付賃借権設定仮登記(金銭消費貸借の債務不履行を条件とする),第4順位で債権額1000万円の抵当権設定仮登記がある。
 以上から,本件管理組合が区分所有法7条による先取特権又は前記(3)イの判決に基づいて本件マンション○○号室及びその敷地権の競売,強制競売を申し立てたとしても,無剰余による取消しとなる可能性が高い。
(6)本件訴訟の提起に関する集会の特別決議(区分所有法59条1項,同条2項,58条2項)
 本件管理組合は,総議決権保有者数は64名で,総区分所有者数は63名であるところ,このうち56名が,平成16年7月31日開催の本件管理組合の集会に出席し(出席者14名,委任状による出席者42名),出席者が全員一致して本件訴訟を提起することを決議した。
(7)訴訟追行者に関する集会の決議(区分所有法59条2項,57条3項)
 平成16年12月12日開催の本件管理組合の集会に,上記総議決権保有者のうち57名(出席者19名,委任状による出席者38名),上記区分所有者のうち56名(出席者18名,委任状による出席者38名)が出席し,出席者が全員一致して,原告が他の区分所有者の全員のために本件訴訟を提起することができる旨を決議した。
(8)被告の本件訴訟における応訴態度
 被告は,本件訴訟において,裁判所に対し,本件第1回口頭弁論期日の前日の午後10時過ぎに,風邪のため同期日に出席できないが,1日ないし2日のうちに未払管理費等の全額を振り込むつもりであるとも読めるファクシミリ文書を送信し,同期日に出席しなかった。
 しかし,被告は,平成17年2月28日に、本件管理組合に対して,1か月分の管理費等(駐車場使用料を除く。)相当額である1万4630円を振り込んだにとどまる。
(9)以上の事実によれば,被告の管理費等の不払は,「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項,57条1項,6条1項)に該当し,これにより,「区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(同法59条1項)な状態が生じていることは明らかといえる。 
 よって,原告は,同条項に基づく競売を請求する。
2 被告は,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって,被告において請求原因事実を明らかに争わないものとして,これを自白したものとみなす。
3 以下,本件訴訟における区分所有法59条1項に規定する要件の有無について検討を加える。
ア 請求原因(2)及び(4)の事実(上記のとおり当事者間に争いがない。以下の請求原因事実について同様。)によれば,被告は,本件マンションの管理運営のために区分所有者が共同して負担しなければならない管理費等を前記のとおり長期にわたり滞納し続けており,その未払管理費等は多額にのぼるのであって,被告のこのような行為は,「建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項,57条1項,6条1項)に該当すると認められる。
イ また,請求原因(3)のとおりの未払管理費等についての被告の対応や同(8)のとおりの被告の応訴態度に照らせば,被告からの任意の支払がされる見込みはなく,今後とも被告の管理費等の不払額は増大する一方であると推認できるところ,同(3)及び(5)のとおり,本件管理組合は採り得る手段のほとんどすべてを講じている上,仮に区分所有法7条による先取特権又は前記(3)イの判決に基づいて,本件マンション○○号室及びその敷地権の競売を申し立てたとしても,被告の未払管理費等を回収することは前記のとおり困難であるというほかないから,被告の上記アの行為により「区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(区分所有法59条1項)な状態が生じていると認めることができる。
ウ そうすると,本件訴訟においては,区分所有法59条1項に規定する要件をみたすものと認めることが相当である。
4 以上によれば,原告の被告に対する本件請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用し,仮執行の宣言については性質上付することができないので付さないこととし,主文のとおり判決する。

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