新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1346、2012/9/27 12:38 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・住居侵入窃盗と起訴猶予・被害者が複数で大手の場合の対策・神戸地方裁判所平成19年12月17日判決】

質問:先日,夫が逮捕され,勾留されてしまいました。夫は,平日は会社員をしており,休日に個人で廃品回収の副業をしております。廃品回収の途中,廃工場に侵入してガスメーターや銅線を盗んできてしまったようです。夫は今回の犯行について認めています。警察や検察は常習犯ではないかと余罪の存在を疑っているようです。「被害額が軽微の場合には起訴猶予になる」と聞いたことがあり,被害額が2000円程度と少額なので未だ弁護人を頼んでいません。このままでも起訴猶予になるのでしょうか。教えてください。
(検索用キーワード:リサイクル業・電線)

回答:
1.被害額が軽微であることだけでは起訴猶予にはなりません。起訴猶予処分になるか否かは,「犯人の性格」,「年齢及び境遇」,「犯罪の軽重及び情状」,「犯罪後の情況」などの一切を加味して判断されます。
2.特に,「犯罪の軽重及び情状」,「犯罪後の情況」が重要になります。検察官に対して,「犯罪が軽微事案であること」「ご主人が深く反省していること」などを主張できるかがポイントとなります。
3.起訴猶予処分となるか否かについての一般的な事情を解説で説明します。ご参照ください。ただ、本件は、建造物侵入窃盗で通常の窃盗よりも、窃盗の強い意思があると判断される可能性があります。又、ガスメーターは、ガス会社の所有物でしょうから示談の相手が複数になり、ガス会社が大手の場合示談手続きに時間が必要となり(窓口、担当者の接触が複雑になるような場合が考えられる。)そういう意味で困難を伴う事案です。
4.職場の解雇等重大な事態を回避するためには早急な対応が必要ですので,速やかに弁護士に相談されることをお勧めいたします。
5. 関連事務所事例集1258番1031番595番459番359番258番158番参照。準抗告について1262番参照。

解説
1.(ご主人の現在の状況)
  勾留は逮捕に引き続く強制的な身体拘束処分であり,10日間の勾留と最長10日間の勾留延長で、最長で20日間続いてしまいます。勾留が続く間は,職場への出勤ができません。職場へ出勤できないことについて,有給休暇や病欠扱いにできず,欠勤扱いとなってしまうと,職場を解雇されてしまう可能性もあります。早期に勾留決定に対する準抗告をし,身体拘束から解放する必要があります。準抗告については,当事務所事例集1262番が参考になります。

2.(起訴猶予処分となるか否かについて)
  起訴猶予とは,被疑事実が明白な場合において,被疑者の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追しないときにする処分です(刑事訴訟法248条・事件事務規定72条2項20号)。
  法は,起訴猶予処分に付することについては起訴猶予処分の一応の基準を示すにとどめ,その裁量を検察官に任せています。
  検察官が,起訴猶予処分に付すべきか否かを決するにあたっては,個々の具体的事件につき諸般の事情を考慮すべきでとされていますが,この判定は,実務上必ずしも不統一に行われているのではなく,長い間の検察実務の経験によって,ある程度の慣行上の尺度が出来ています。以下では,法が定める一応の基準を具体的に解説していきます。

3.起訴猶予処分にするか否かについて,判断される事情について
(1)被疑者に関する事項
 ア「犯人の性格」として,性質,素行,遺伝,習慣,学歴,知能程度,経歴,前科前歴の有無,常習性の有無が処分を決定する際に重要となります。特に,前科前歴の有無が重要になります。

○(前科・前歴がある場合)
  前科・前歴が存在する場合には,犯罪に対する対抗感(「規範意識の鈍磨」といいます。)が低下していると判断され不利な材料となってしまいます。これが同種の前科・前歴である場合には,規範意識の鈍磨が進んでいるとして,更に不利な事情となってしまいます。

  【対応策】
  前科・前歴が存在する場合には,規範意識の鈍磨が進んでいないことを示すべきです。具体的には,◆警察や検察での取調べの際に,自己の行った犯行によって,いかに被害者やその関係者,自己の家族などに迷惑をかけてしまったかを考え,深い後悔の念を具体的に示すこと,◆弁護人に検察官に対する意見書の中で規範意識の鈍磨が進んでいないことを説明してもらうことが重要です。
  加えて,前科・前歴にかかる事実から,2・3年経過している場合には,◆前科・前歴にかかる罪以降,現在まで通常の社会人として生活を行っていたと評価されるようにすると良いでしょう。
  検察官は「前科・前歴にかかる事実から,今回逮捕されるまでの間も犯行を継続していたのではないか」と疑っている可能性もあります。この疑いを払拭するように努めましょう。具体的には◆前科・前歴にかかる罪以降,犯罪行為によって収入を得ていなかったことを証明するために収入状況の報告書や生活状況の報告書を提出する。◆弁護士に意見書のなかで,前科・前歴にかかる罪以降の生活状況について問題がなかったことを説明してもらうことが重要です。
  更に,被疑者との示談の項目でも取り上げますが,前科・前歴にかかる事案について示談が成立していない場合には,前科・前歴にかかる事案についても示談をしましょう。今回の件について示談が出来ても「今回限り取り繕った」と評価されてしまうことがあるからです。弁護人にお願いをして,過去の被害者にあたる方と示談交渉をしてもらいましょう。

○(前科が無い場合)
  初犯である場合には,重大事件で無い限り,起訴猶予処分に付される可能性が高くなります。もっとも,初犯であるからといって起訴猶予になると安易に考えてはいけません。後に述べる様に,被害者との示談や身元引受人の準備を怠らないことが大切になります。

イ「犯人の年齢」として,高齢になるほど処分において不利になる傾向があります。一般的に少年などの若年者による犯罪と比較して,高齢の被疑者による犯罪は,分別を身につけているべき年齢によるものの行為ゆえ,責任が重く法的非難も強くなるためです。しかしながら,加齢による判断能力の低下が認められる場合には,法的非難を軽減する事情にもなりますので,加齢による判断能力の低下を疑わせる事情がある場合には,弁護人を通じて検察官に適宜主張をしていくことが大切です。

ウ「犯人の境遇」
 「犯人の境遇」として,家庭状況,居住地,職業,勤務先,生活環境,交友関係など,特に両親その他監督保護者の有無,住居・定職の有無が重要になります。

○家庭状況について
(子供がいる場合)
  子供がいると処分に有利に作用することがあります。仮に,起訴処分となってしまい正式裁判を経て実刑判決となり強制収容となれば,子供は,父親に自由に会えなくなってしまいます。子供の健全発達のためには,両親との触れ合いが重要とされていることからすれば,強制収容が子供の健全発達の観点から望ましいものではないことは明らかです。そのため,終局処分を考えるに際しても,小さなお子さんがいることは,少なからず影響を与えます。この様に子供に悪影響を与える状況になりかねないということを被疑者に対して実感をさせ,小さいお子さんの健全な発達のためにも今回の様な犯罪に手を染めない旨の誓約をし,このことを,弁護人を通じて検察官に主張することが重要になります。

(生計の柱である場合)
  生計の柱である場合,有利に作用することがあります。起訴処分となり裁判を得て実刑判決となり強制収容となれば,相談者様の家庭は生計を維持できなくなり文字通り路頭に迷ってしまう可能性があります。このような結果に導く可能性のある犯罪行為を二度と行わない旨の誓約をし,このことを,弁護人を通じて検察官に主張することが重要になります。

○職業,勤務先について
  事件以前から勤務している会社が引き続き雇用を継続してくれる場合には,有利な事情となります。勤務先を解雇されないのであれば,安定的な収入を依然として得られるのであり,貧困を原因として,再び犯罪に手を染める危険性が高くならないと判断されるからです。勤務先に継続的に雇用していただける場合には,その旨を記載した書面を検察官に提出しましょう。
  もっとも,職場に相談することについては,そのまま解雇処分などの懲戒処分を受けてしまう可能性もあります。職場に相談するときには,慎重にしなければなりません。弁護人との協議が必要です。

○両親その他監督保護者の有無について
  両親その他監督保護者が,身元引受人という「責任を持って被疑者の監督を行い,被疑者に法規を遵守させることを誓約」する者となることで,被疑者に対する処分を有利にします。被疑者の更生を支える人がいることで,再び犯罪に手を染める危険性を低減できると考えられているからです。身元引受人は,配偶者や両親が考えられます。弁護人を通じて身元引受書を作成したうえで,検察官に提出することが重要です。身内がいない場合は弁護人を保証人として保証書を提出することも可能です。費用が別途必要になります。
  
(2)犯罪自体に関する事項
 「犯罪の軽重」として,法定刑の軽重,法律上刑の加重減軽の事由の有無,被害の程度  等が重要になります。
 「犯罪の情状」としては,犯罪の動機・原因・方法・手口,犯人の利得の有無,被害者との関係,犯罪に対する社会の関心,社会に与えた影響,模倣性などが重要になります。

○(被害金額と窃盗行為の回数)
   今回の様な窃盗事案の場合,処分に大きく影響を与えるのは,被害金額と窃盗行為の回数となります。仮に1回だけの窃盗行為であっても,被害金額が多額であれば不利な事情となります。また,被害金額が少なくとも,窃盗行為を複数回おこなっている場合にも不利な事情となります。
   本件では,被害額は2000円程度と比較的軽微である部類に入ります。窃盗行為の際,電線やガスメーターを何回かに分けて運んでいる場合,複数回の窃盗行為があったと考えがちですが,刑法の評価としては窃盗行為の回数を1回と考えることも可能です(包括一罪といいます。)。廃工場への立ち入りが複数回に分けて行われているといった事情がある場合には,弁護人を通じて,窃盗行為は1回であることを主張してもらうべきでしょう。

○(窃盗行為の際の背景事情)
   実行行為に及んだ背景も重視されます。例えば,火事場泥棒の様に,人が特に困っている状況において人の弱みに付けこむような態様の窃盗行為は,より悪質と評価され,不利な事情となります。こういった事情がないかを確認する必要があります。

○(窃盗行為に及んだ動機・原因)
   窃盗事案においては,動機も重要になります。ストレスが原因で窃盗を行ったのか,生活に困窮して行ったかなどによって事情が異なります。
   ストレスが原因で,犯行を行ってしまった場合,ストレスの原因が解消し,同じことを繰り返す危険がなくなったことを,弁護人を通じて検察官に主張しましょう。
   生活の困窮が理由であれば,どのような原因で生活に困るようになったのか,家族に病人などが出たのか,仕事はどうしたのか。辞めたのか,仕事をやめた場合,その理由は何か。再就職の努力はしたのか,再就職の目途は立っているのかなどが重要となります。これらの点について,酌むべき事情があるということを,弁護人を通じて検察官に主張しましょう。
   なお,生活の困窮の原因がギャンブルである場合,ギャンブルは薬物依存と同様に,専門家のカウンセリング等が必要とされる場合もあります。専門家に相談を行いギャンブル依存症の解消に努めている,または務める予定であることを適宜伝える必要があります。例えば,専門家への相談予約を具体的に行った等の予約票などを提出することも考えられます。
  犯行を行った動機や原因を弁護人に聞き取ってもらい,動機や原因の解消につとめることが重要になります。

○(方法・手口 「侵入盗」であることについて)
   本件は,工場に侵入しての窃盗行為(侵入盗)であるため,悪質と評価される可能性が高いです。建造物侵入を伴うということは,犯行に至る経緯において,単純な置き引きや万引き事案をことなり,「出来心で」とか「ちょっと魔がさして」といった事情とはいえないからです。このような場合,侵入盗に及んだ経緯を明らかにし,適切に弁解する必要があります。

○(方法・手口 侵入態様について)
   侵入盗の際には,侵入態様も問題となります。単純に開いているシャッターから侵入したのか,ガラスを割って侵入したのかも影響します。すなわち, 開いているシャッターから工場に侵入するのと,工場のガラスやドアを破壊して工場に侵入するのとを比較すると,後者の方が,規範意識が鈍磨していると評価されるためです。
   そのため,侵入態様についても明らかにすることで,弁護人を通じて規範意識が鈍磨していないことを主張していきましょう。
   廃工場である場合には,すでにガラスが破損している可能性もあるでしょう。この場合,警察は,旦那様が窓ガラスを割って侵入したのではないかを疑っています。この様な疑いを払拭する必要があります。具体的には,弁護人を通じて,旦那様から当日の具体的な侵入経路を時系列に沿って確認する必要があります。場合によっては,工場の図面を差し入れて,そこに具体的に書き込んでもらうと良いでしょう。

○(方法・手口 犯行の際の所持品について)
   犯行の際の所持品が重要になる場合もあります。銅線を窃取しているということですが,窃取の際に,所持していた大型ニッパーなどの特殊な用具を使用した等の事情があるとなると不利に働くことがあります。
   このような特殊な用具を所持していることは,「出来心で」とか「ちょっと魔がさして」といった事情とはいえなくなり,当初から銅線を窃取しようと計画的に考えていたと判断され悪質であると評価されかねないからです。この様な事情がある場合には,廃品の回収業の中で通常使用するものであることを,弁解する必要があります。

(3)「犯罪後の情況」に関する事項
 ア 行為に関しては,犯人の反省の有無,謝罪や被害回復の努力,または逃亡や証拠隠滅等の行動,環境の変化,身元引受人その他将来の監督者・保護者の有無等環境調整の可能性の有無などが重要になります。

○(犯人の反省の有無)
   反省を示す謝罪文の作成を行います。被疑事実に争いがないのであれば,逮捕・勾留の直後から作成を行うことが望ましく,可能であれば毎日作成しましょう。
   謝罪文を毎日作成することは,本人の反省を深めることになり,この反省が深まる様子を,弁護人が謝罪文を通じて把握することができ,弁護人が検察官に対して,被疑者の反省の深まりを適確に主張することができるようになるからです。

 イ 被害者に関しては,被害弁償の有無,示談の成否,被害感情の等が重要になります。

○(被害弁償の有無,示談の成否について)
   被害弁償の有無が非常に重要となります。窃盗罪の様な個人の財産を守ることを目的とした犯罪においては,被害者の被害が救済されているかが重要となるためです。そのため,弁護人を通じて示談を行う必要があります。
   また,被疑事実を確認し,何を窃取したことで捜査をうけているのかを確認する必要があります。本件については,銅線の所有者は廃工場の所有者である可能性が高いですが,ガスメーターの所有者はガス会社である可能性が高く,窃盗の被害者がガス会社になる可能性があるからです。この場合,廃工場の所有者の他にガス会社と示談を行う必要がでてきます。ガス会社が大手の場合示談は困難を伴うことが多いと思われます。供託等の手続きを併用する必要があります。
   更に,前科・前歴にかかる事案について示談が成立していない場合には,前科・前歴にかかる事案についても示談をすることも考えられます。今回の件について示談が出来ても「今回限り,取り繕った」と評価されてしまうことがあるからです。このような危険を避けるために,弁護人にお願いをして,過去の被害者にあたる方と示談交渉をしてもらいましょう。

4.(本件における対応)
 以上に示したのは,あくまで窃盗事犯において起訴猶予処分を検討するにあたって検討する事項の一例に過ぎません。起訴猶予処分を得るためには,弁護人において相談者様との打ち合わせや旦那様に接見して詳細な事情を把握する必要があります。その上で,弁護人から検察官に対して,起訴猶予処分を求める意見書を作成したり,場合によっては検察官のもとへ行き,検察官と交渉したりすることも考えられます。前述のとおり,ご主人はこのまま何もしなければ最低勾留請求の日から数えて10日間は身柄拘束が続くことになりますので,職場の解雇等重大な事態を回避するためには早急な対応が必要です。速やかに弁護士に相談されることをお勧めいたします。

≪判例参照≫

執行猶予の前科があるが、否認していたことも重なり1年4月の実刑となっています。建造物侵入は、犯意が強いと評価され違法性、責任が重く評価されます。

神戸地方裁判所平成19年(わ)第868号
平成19年12月17日宣告  建造物侵入,窃盗被告事件
主   文
被告人を懲役1年4月に処する。(求刑懲役2年6月)
未決勾留日数中110日をその刑に算入する
(量刑の理由)
 被告人は,勤務していた被害店舗出入口の合鍵を所持していたことを奇貨として,経営者や店長等従業員の信頼を裏切り,金員欲しさに安易に本件犯行に及んだものであって,動機に酌むべき点はなく,態様は大胆で狡猾であり,被害額も少額とはいえないこと(2万4500円),平成14年2月にパチンコ店での置引き窃盗の事案で懲役1年6月に処せられ,3年間その刑の執行を猶予されたことがあるのにまたもや本件犯行に及んでおり,規範意識が鈍麻していること,不合理な弁解に終始し,反省の態度がまったくみられないことなどに照らすと,その刑事責任は相当重いというべきであり,主文の刑に処するのが相当である。

≪参照条文≫

刑法
(住居侵入)
第130条 正当な理由がないのに,人の住居若しくは人の看守する邸宅,建造物若しくは艦船に侵入し,又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法
第248条 犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。

事件事務規定(法務省訓令)
第72条
1項 検察官は,事件を不起訴処分に付するときは,不起訴・中止裁定書(様式第112号)により不起訴の裁定をする。検察官が少年事件を家庭裁判所に送致しない処分に付するときも,同様とする。
2項 不起訴裁定の主文は,次の各号に掲げる区分による。
1号〜19号(中略)
20号 起訴猶予 被疑事実が明白な場合において,被疑者の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないとき。

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