新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.459、2006/8/21 11:26 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]「被害者への謝罪と警察官の対応」
質問:私は、路上に半ば放置されていた鍵付きの中古バイクを乗り回していたところ、巡回中の交番の警察官に連行されましたが取り調べの後、帰宅を許されました。両親が心配し、被害者に謝罪に行こうとしたのですが、交番の警察官が「そんな必要はありませんよ。そんなに心配しなくても大丈夫です。被害者も謝罪を求めていませんよ。今、被害者に謝罪に行けばかえって被害者の気分を害することになります。」と言い、被害者に会えませんでした。どうしても気になり後日電話で警察官に連絡したところ、「そんなに謝罪をしたいのであれば、現在捜査中ですから処分が決まった後なさったらどうですか。それに被害者の情報は保護しなければならないので明らかに出来ませんね。」と説明されました。私はどうなるのでしょうか。

回答:
1、貴方の年齢が分かりませんので、成年者として回答いたします。14歳以上の未成年者の場合は手続きに差異はありますが基本的に考え方は同一です。
2、あなたの行為は、他人のバイクを勝手に乗り回していますから、窃盗罪(刑法235条)に該当します。路上にあった鍵付きバイクであり、所有者の占有にあると考えられ、半ば放置されていた状態でも、やはり占有離脱物横領罪(刑法254条)にはならないと思います。幸いにも警察に連行され取り調べ後、釈放されたとありますが、被害物が中古バイクであり、あまり高価なものではなく、罪を認め、余罪の可能性もないと判断し、あなたの住所、氏名など身分が確かなことを確認した上、交番の警察官は逮捕勾留せずに帰宅を許してくれたのだと思います(このような例の場合、余罪等の捜査上一般的には逮捕勾留されることが通常だと思いますが、この点あなたに好意的な警察官です。)。
3、あなたのご両親及び貴方が心配して被害者に謝罪に行こうとしたとのことですが、犯罪行為、すなわち悪い事をしている以上、被害者に謝ることは道徳上からも当然のことです。しかし 捜査を具体的に担当している警察官が「そんな必要はありませんよ。そんなに心配しなくても大丈夫です。」と言う以上、貴方としてはこのまま捜査の成り行きを見守ってもあまり不利益がない様に思うでしょうし、自宅に帰してくれたということで内心安心しているかもしれません。しかしながら、法的に言うと貴方は立派な犯罪の被疑者です。それに、従来は、窃盗罪は罰金刑がなく(平成18年より50万円以下の罰金刑が併科されました。)、10年以下の懲役と規定されていますから、何もしないでいればバイクの価値等にもよりますが最終的には起訴すなわち公判請求(公開裁判)の可能性が残ります。すなわち刑事裁判です(少年の場合は家庭裁判所に送致されます)。
4、そこでこれからの貴方の対応につき順にお話します。
@貴方の行為は刑法に触れる行為であり、バイクという他人の財産権を侵害していますから、乗り回したバイクは押収され被害者に返還されていても乗り回したその修理等の実損害、迷惑について謝罪、填補することが必要です。これは全て金銭での賠償となります。又前述のように道徳的にも謝罪の意思を早急に表明することは社会生活上当然のことです。
Aできれば、被害者と話し合いの結果、被害届、告訴を取り消していただければさらにいいでしょう。以上の書類が用意できれば、起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)の観点から検察官は起訴猶予処分にせざるを得ないと思います。
B「そんな必要はありませんよ。そんなに心配しなくても大丈夫です。」と警察官は言っていますが、これは間違いです。むしろ謝罪は絶対に必要です。貴方の処分は、最終的に検察官が決めるのですが、公判請求するかどうかの一番の判断基準は、被害者への謝罪、損害填補だからです。最終処分権限のない警察官が貴方の処分について断定的なことは言えませんし、心配が要らないというのであれば何も処分を受けないと言う約束をしてくれるかどうか、担当警察官に聞いてみてください。即座に断られると思います。むしろ近時、バイクや自転車の窃盗捜査には警察署によっては重要視してところがかなりありますから、安易に警察官の言葉を信じることはできません。貴方が、心配になり後で電話したところ警察官は「そんなに謝罪をしたいのであれば、現在捜査中ですから処分が決まった後なさったらどうですか。」と言うように明らかに何らかの処分が予想されているわけです。これは最初の警察官の説明と矛盾とも考えられます。
C「被害者も謝罪を求めていませんよ。今、被害者に謝罪に行けばかえって被害者の気分を害することになります。」これもまともに信じることは危険です。なぜなら、実際に被害を受けた方が、その損害を弁償してもらいたいと思うのはごく自然のことですし、被害者が警察官から被疑者から弁償してもらいますかと聞かれた場合、被疑者と関わり合いになるのを恐れ、そんなもの要りませんと取り敢えず言うのが通常の対応だからです。しかし、真剣に謝罪したいという申し出を怒る人はいませんし、むしろ反省し、再度やり直してほしい、更正してほしいと考えるのが一般的です。被害者が気分を害しているのは、謝罪に来るからではなく、むしろ逆で他人に迷惑、損害をかけながら謝罪にさえ来ないことを不満に思っているのです。本件の場合、被害者はもともと盗難に遭い、窃盗犯が一時的に路上に放置したような場合もあり、被害の程度は意外と大きい場合も考えられます。被害者は内心被害の弁償等を心待ちにしているかもしれません。
D「現在捜査中ですから処分が決まった後なさったらどうですか。」という説明ですが、これも問題です。なぜなら、一見説明は当然のようですが、処分すなわち公判請求されて裁判になってからでは、謝罪に行く法的な意味は半減します。と言うのはもし検察官の公判請求前に示談、話し合いがまとまり被害を弁償し、被害届、告訴を取り消してくれた場合は不起訴処分になる可能性が大きいからです。起訴された場合、懲役刑の求刑があり、執行猶予がついたとしても懲役1年前後の判決が予想されるので前科の点でこの結果の差異は重大です。
E次に「それに被害者の情報は保護しなければならないので明らかに出来ませんね。」と言う対応ですが、これは捜査中である以上被害者側の住所連絡先を開示することは、被疑者による被害者側への圧力など証拠隠滅の可能性を含みもっともな説明と言わざるをえません。又、公務員の情報開示は制限されていますのでこの場合、謝罪は事実上できません。その様な事態の場合、至急弁護人を選任し弁護人から被害者側との連絡を取れるように要請する方法があります。弁護人であれば、弁護活動の一環として被疑者に情報を開示しないことを条件とし、和解に応じるか警察を通し被害者側に連絡を取ることが出来ることになっているからです。
Fまた、弁護人を選んだ以上、本件バイクが、半ば放置されている状態ですから、弁護人から窃盗ではなく、占有離脱物横領罪(刑法254条)であるとの意見も提出してもらい、捜査官を説得してもらいましょう。本罪は1年以下の懲役10万円に以下の罰金ですから状況によっては罰金で処理される可能性も出てくるわけですし、犯行態様の判断にも貴方にとって有利な事情です。
G結果的に最悪公判請求されてしまっても、被害者側に謝罪することは当然ですし、執行猶予等、量刑上最重要な事項ですから弁護人を通じ至急行ってください。
H謝罪の方法ですが、謝罪に直接行けない場合は、家族全員で謝罪文を書き、弁護人を通じ被害者側に交付し、謝罪金を用意して弁護人を通じ支払うことになるでしょう。
I最後に警察官の貴方に対する対応を検討してきましたが、一般的にどのような犯罪でも警察官、検察官は被害者側に謝罪に行くことを歓迎しません。むしろ嫌がる傾向があります。それは、謝罪がなされると貴方の罪が結果的に軽くなり被疑者に有利な事情となるからです。これは嫌がらせではなく、検察官、警察官の仕事はあくまで犯罪者の責任追及が本分であり、被疑者の有利な事情の収集は弁護人の仕事と理解しているからです。法律上そういう建前なのです。一刻も早くお近くの法律事務所に相談しましょう。

【刑法】
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役に処する。
第二百五十四条  遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
【刑事訴訟法】
第三十条  被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
第二百四十七条  公訴は、検察官がこれを行う。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
【憲法】
第三十四条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

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