新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.258、2005/6/17 16:37 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:私は、主婦ですが、数万円のものを万引きしてしまい、警察に連絡され事情聴取されました。以前にも同じ店舗で2度ほど同程度の金額のものをして、私服の警備員に捕まったのですが、そのときは商品を買い取り、二度としないとのことで警察には通報されませんでした。夫、子供、世間に知れたら大変なことになります。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、あなたにどのような事情があったのかわかりませんが、万引きは刑法上の犯罪で窃盗罪(刑235条)に該当します。法律上、10年以下の懲役になっています。罰金はありませんから、罰金を納付すれば正式裁判にならないという略式手続(刑事訴訟法461条)にすることはできず、通常であれば起訴、すなわち公判請求となって、公開の裁判により処罰されることになります。求刑懲役6月から1年前後、反省の態度が認められれば執行猶予の判決が予想されます。
2、前回二度も同じ店舗で万引きをして、被害に遭った店舗が警察に届けなかったそうですが、あなたの家庭環境等同情すべき事情や、お店の信用等を考慮したのだと思います。同一店舗で何度も万引きを働くひとには、経済的理由と言うよりは、精神的な理由による場合が見受けられます。どういうことかというと、たとえば、家庭生活、離婚問題、子供の進学問題、男女問題、生理的体調上の問題により精神的ストレスから犯行にいたったと言う場合です。このような場合は元の原因がなくならない限り又犯罪が繰り返される危険があります。更に精神的な理由ですから、予期せぬ事態が生じるとも限りません。いわゆる犯行に付随して生じる事故、事件から生じる公的嫌がらせ、社会問題としての報道などです。最終的には店舗の信用問題に発展するかもしれません。店舗側としては、管理者から見るとあらゆる事態を想定しないわけにはいきません。しかし今回は3回目ですから、許すことが出来ず、店舗側も厳罰を求めたのだと思います。
3、そこで、今後あなたの採るべき方法について考えましょう。
@実質上は3回目なのですが、法的には初犯と言うことに成ります。前の2回は当事者間の話し合い(示談)により目的物は買い取られており、今から立件は難しいと思います。この程度では窃盗の常習性があるという評価はつかないことも多いと思います。従って、今回もまずは、店舗側と示談をして告訴被害届けを取り消し、取り下げてもらうことです。3回目ですから、あなたも店舗側に合わせる顔がないかもしれません。しかし、初犯で、被害額が数万円ですから示談が出来れば、起訴便宜主義(刑事訴訟法248条、説明参照)の観点から検察官も公判請求を見合わせてくれる場合があります。自分で交渉に行く勇気がない場合は、弁護人を依頼し代わりに交渉してもらいましょう。公判請求されると、通常は公開といっても傍聴人はいませんが、たまに、学生、市民団体の見学傍聴もありますから、結構辛い場合もありまし、地方紙等の新聞報道により公になる場合も考えられます。
A示談の成立の可能性ですが、3回目ですので成立するはずがないと考えず、再度努力してみましょう。確かに、仏の顔も三度という諺もありますが、店舗側の立場に立って考えましょう。店舗側は3回目のあなたを許すことは出来ないと思っているかも知れませんが、管理者、支配人の気持ちとしては、被害額が弁償されれば、厳罰よりも、二度と自分の店舗に近づいてほしくないこと、店舗で事故や、社会問題となって、管理責任ひいては、店舗の信用を問われることがないことの方を希望している場合もあります。その場合、被害者側の心配を解消してあげれば、3回目といえども示談成立の可能性は残されています(全て交渉は相手方の身になって考えると道が開けるものです。)。弁護人に依頼し、ストーカー事件のときに作成される被害者側、店舗に二度と近寄らないという誓約書を、ご両親等に保証人となってもらい提出した上で、被害品を買い取り、示談金を支払うという書面を提案するのです。これは、店舗等の支配人や担当者によっても異なりますから、必ず成立するという保証はありませんが、一度トライしてみる価値はありそうです。
B警察の取調べでは、些細な点については否認するような態度はとらない方がいいと思います。捜査官によっては万引きでも逮捕、送検、勾留請求される場合があるからです。勾留請求されると最長23日間は警察署の留置場にいなければなりません。心配な場合、出来れば弁護人を呼んで対応することが必要となります。
Cなお、今回の事件の原因は、あなたの経済的理由以外にあるような気がします。その原因について弁護人を含めて相談し、対策をはかり解消し再犯を繰り返さない方策を至急考える必要があります。弁護人以外の専門カウンセラーも検討が必要と思われます。

≪参照条文≫
刑事訴訟法248条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

起訴便宜主義とは、刑事訴訟法上、公訴提起について検察官の裁量を許し起訴猶予を認める制度です。治安の確保、被害当事者の意思、被害額、被疑者の更生の可能性、犯行後の被害回復、犯行の動機、社会への影響を総合的に考慮し最終的に社会全体の秩序維持を図ろうとするものです。

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