新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.359、2006/2/17 15:19 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:私は、主婦ですが、近くのスーパーで数千円相当のものを万引きしてしまいました。実は、ここ数年間で10数回同様な行為を繰り返していたのです。警察にはそのつど通報されましたが謝罪し処罰されたことはありません。先日検事さんから呼び出しがあり出向いたところ「今回で10数回目だから、正式に裁判を行います。今度ばかりは被害者と示談をしてもだめですよ。」といわれました。これが公になれば夫には内緒にしていたので離婚の危険もあり心配です。もちろん被害を受けたスーパーには謝罪にいったのですが私の前歴を警察から聞いたらしく店長が怒っていて相手にしてもらえません。本当に困っています。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1.お困りの状況はよくわかるのですが、万引きはご存知とおり刑法上窃盗罪(刑235条)という罪に該当し、法定刑を参照いたしますと罰金はなく、1月以上10年以下の懲役と規定されており重大な犯罪です。通常であれば検察官による起訴、すなわち公判請求がなされ、取調べをうけた警察署、検察庁を管轄する裁判所で判決を受けることになります。求刑は懲役から1年−2年前後で、二度と繰り返さないという反省、謝罪の態度が認められれば執行猶予となり、すなわち刑務所には行かないですむことになるでしょう。
2.10数回も万引きを繰り返したとのことですが、通常から言えば、たとえ盗品を返還し被害者が許したとしても起訴すなわち公判請求され公開の裁判で有罪判決を受けていたと思われます。検察官が、「被害者と示談が成立しても今回は処罰しますよ。」と言うのはもっともなことです。たとえ弁護人がついたとしても検察官の意見に異議を申し立てる理由が見当たらないように思います。以上より身から出た錆ですから公開の裁判で潔く刑に服しなさいと言わざるを得ない事案でしょう。唯、公開の裁判になっても前述のように反省の情著しく被害者への謝罪により示談等ができていれば執行猶予の判決が予想できます。しかし、被害者であるスーパーの店長があなたの経歴を警察から聞いてあなたの謝罪を受け入れないとのことですから、実刑の可能性もないとは言えないわけです。
3.そこで、今後あなたの採るべき対策を法的に考えて見ましょう。
@ やはり、あなたにとって大切なことはこのような状態になっても公判請求すなわち起訴されないようにすることです。ご主人、家族のことを考えると,あなただけのことではないように思われるからです。たとえば、ご主人が有名会社の社員の場合、又、公的な職務についているようであれば、どのような影響が出るか安閑としてはいられません。ではどうしたら不起訴処分になる可能性があるかと言うことですが、答えは、公判請求され処罰を受けると同程度の代償を払い真摯な反省の程度を検察官に認めてもらうことです。
Aその第一は、被害者との示談です。近代国家の刑事裁判における処罰は、被害者に代わる報復ではありませんが、被害者としてはいくら被疑者がにくいからと言って報復、自力救済は禁じられていますから、裁判は被害者に変わり国が処罰してあげると言う面も否定できません。ですから被害者が被疑者を許し宥恕してあげるかが、起訴するかどうかの重要な要素になるのです。しかし、あなたの場合、被害者であるスーパーの店長は怒って相手にしてくれないとのことですから、示談は難しいように思います。しかし、それでも諦めてはいけません。大げさに言えばあなたは今家庭崩壊の瀬戸際です。なぜ店長が許してくれないのかここで真剣に考えましょう。答えを申し上げますと、あなたが真剣に謝罪するつもりがないからです。あなたは、近所のスーパーで万引きしているわけですから、何度もそのスーパーに行っているはずです。今回は数千円の万引きかもしれませんが、発覚前に何度も万引きを繰り返していたとの疑いもかけられていると思います。一度や二度謝罪に行ったからと言って被害者の心を開くことはできないと思います。つらいかもしれませんが真実を全て話し、何度も足を運び謝罪を繰り返すことです。相手が和解に応じないのは過去の経歴よりもあなたの態度に真摯な謝罪の気持ちを感じ取ることができなかったからのように思います。唯、被害者は被疑者と直接面談し交渉することを好まないのが通常ですから弁護人を選任し代理人として話し合ってもらうのが賢明かもしれません。後述のようにBで述べる被害者への金銭賠償の交渉は直接被疑者と被害者が話すことは事実上困難で無理な面もあるからです。
B具体的にいうと、いかなる名目でも謝罪金を数拾万円提示することです。被害金は数千円ですが、犯行の代償、誠意、謝罪の表現は最終的には金銭で提示することになっています。割り切れない気持ちもあるでしょうが、交通事故等で被害者側の最愛の息子を奪った場合でも最終的には全て生涯賃金、慰謝料という形で何千万円という金銭の評価になってしまうのです。近代国家では私的報復は許されず、原則的に金銭的損害賠償の請求の問題になっているのです。まずあなたは今回の犯行による償い、代償を被害者の損害の填補すなわち金銭賠償を果たすことにより表すことが肝要です。
C前提として真剣な謝罪の気持ちを伝える必要がありますから、弁護人に依頼する場合は,謝罪文を自筆で書いて渡すようにするといいでしょう。又、スーパーを二度と利用しないという誓約書も交付すれば相手方の被害感情は和らぐと思います。
Dまた代償と言う意味では、この際ですから辛いかもしれませんが夫に本当のことを打ち明け夫にも謝罪文を書いてもらうことにしてはいかがでしょうか。夫にも打ち明け家庭内での制裁も受けたとなれば、被害者側もあなたの真摯な反省の態度を理解してくれるでしょう。もはや小手先の手段では被害者も納得しないような気がします。検察官も場合によっては夫から事情聴取をするかもしれません。なぜなら、最終的にあなたの処分について家庭内の監督にまかせ起訴しない方向が正しいかどうか判断するには夫の協力態度の検討もおのずと必要になってくるからです。
E以上の方法により万が一和解がまとまったら一切の書類を全て検察官に提出し、弁護人に不起訴の交渉お願いしてください。起訴便宜主義より未だ微かながら不起訴の可能性は残されているように思います。
F万が一起訴になった場合も同様に被害者との和解等に全力を尽くすことです。
G 最後に万引きを繰り返す原因は何であったのか一度家庭内で真剣に話し合ってはいかがでしょうか。

≪参照≫
刑事訴訟法248条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

起訴便宜主義とは、刑事訴訟法上、公訴提起について検察官の裁量を許し起訴猶予を認める制度です。治安の確保、被害当事者の意思、被害額、被疑者の更生の可能性、犯行後の被害回復、犯行の動機、社会への影響を総合的に考慮し最終的に社会全体の秩序維持を図ろうとするものです。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る