新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1074、2011/1/17 10:28

【刑事・パチンコのゴト行為と共犯者の適法なパチスロ行為によるメダル取得は窃盗行為と評価できるか・体感器利用の場合、取得したコイン全てが盗品となるか・実質的違法性論とは何か】

質問:私の友人は、ここだけの話、パチスロのゴト師です。ゴト師仲間と一緒になってゴト行為(インチキ行為)を行い、違法に出させた大量のメダルを換金しているといいます。先日、仲間がゴト行為をしている隣で普通の方法で打っていたところ、共犯として逮捕されたと聞きました。ゴト行為がメダルの窃盗罪になることは知っていますが、ゴト師の仲間とはいえ普通に打って出したメダルまで窃盗の対象になるのでしょうか。それでは窃取したメダルが多いようですから、罪が重くなってしまうのではないかと心配です。又、あとでわかったことですが、実際にゴト行為をしていた者の体に装着した体感器はコインの取得にどの程度影響があったかどうか不明であり、実力で取得したコインもかなりあるようです。この場合取得した全てのコインについて窃盗罪が成立するのでしょうか。

回答:
1.スロット機から不正な方法(体感器使用)でメダルを窃取した者の共同正犯である者が、その反抗を隠ぺいする目的で隣のスロット機において通常の方法により遊戯していた場合に、通常の方法により取得したメダルにも窃盗が成立するか否かという問題ですが、最高裁判所が否定する決定を出しました(平成21年6月29日第一小法廷決定)。以下解説しますが、この決定に従えば、あなたのご友人の窃盗罪は普通に打って出したメダルには成立せず、仲間のゴト師が不正に出したメダルに対する範囲での窃盗の共同正犯ということになりうると思われます。
2.実際にゴト行為を行っていた者は、使用している体感器の効果がどの程度かどうかにかかわりなく、取得したコイン全てに窃盗罪が成立します。平成19年4月13日最高裁第二小法廷決定参照。従って、共犯として(幇助)の範囲も、正犯が取得した全てのコインについて成立します。

解説:
1.(ゴト行為による被害認定の範囲と最高裁の判例)
 今回のご相談を検討する前提として、体感器(大当りなどのタイミングを振動によって打ち手に知らせる機能を持つ器具)を利用した不正なメダル取得に関する最高裁決定をご紹介します(平成19年4月13日最高裁第二小法廷決定)。この決定においては、「専らメダルの不正取得を目的として上記のような機能を有する本件機器(注:体感器を指します)を使用する意図のもと、これを身体に装着し不正取得の機会をうかがいながらパチスロ機で遊戯すること自体、通常の遊戯方法の範囲を逸脱するものであり、パチスロ機を設置している店舗がおよそそのような態様による遊戯を許容していないことは明らかである」から、「取得したメダルについては、それが本件機器の操作の結果取得されたものであるか否かを問わず、被害店舗のメダル管理者の意思に反してその占有を侵害し自己の占有に移したものというべきである。」と判示しています。すなわち、体感器を身体に装着してメダルを不正に取得しようと機会をうかがいながらパチスロを行うことそれ自体が通常のパチスロ行為を逸脱しているといえ、メダル管理者である店舗ないし店長の意思に反していることを理由にしています。これは、ゴト行為が窃盗罪の実行行為である「窃取」に該当するか否かの判断において、体感器の操作によりパチスロ台に誤動作を起こさせてメダルを得る行為に限定されるのではなく、そのような機器を装着してパチスロを行う行為が窃取に該当する、としたもので窃取の概念を緩やかに解釈していることになります。従って、正犯の手助けは、共同正犯(刑法60条)、又は幇助の罪(刑法62条)となり正犯の全てのコインについて成立することになります。

2.(実質的違法性論・倫理・法規範違反説・可罰的違法性)
 刑法の条文には明確に書いてありませんが、解釈上刑罰は刑法が規定している構成要件に該当し違法(正当防衛の理由などない)、有責な(例えば責任能力があること)行為に対して科せられます。すなわち、刑罰は個人の人権、生命、身体等の自由権を剥奪するものであり、犯罪成立は3段階の評価を行うことにより慎重に決定されます。ゴト行為により取得したコインは、正確に言うと一部ゴト行為と無関係な遊戯行為により取得している物も含まれているので、全部のコインについて構成要件の窃取行為に該当するかまず問題です。
 窃取行為とは財物の占有を占有者の意思に反して侵害し自己又は第三者の占有に移すことであり、構成要件該当性は違法性、責任と異なりあくまで形式的に判断されるので、ゴト行為中に取得した全てのコインについて窃取行為があったと認定されると思います。というのは、店舗側としては、いわゆるゴト行為自体を禁止、認めていないのですから、ゴト行為の効果によりコインを取得したかどうかにかかわりなく、ゴト行為者に遊戯行為を認めコインを交付する意思がないと一般的に判断され、占有者の意思に反して財物、コインを取得したと形式的に評価できるからです。正当な遊戯行為により取得したコインの評価は個別具体的に検討する違法性の判断で行われます。違法性判断の根拠について、構成要件に該当し、特に違法性阻却事由(正当防衛、正当行為等)がなければ全て違法性を認定する形式的違法性論もありますが、この考え方は採用されていません。違法性は、単に刑法の法規に当てはまることではなく、行為の実態を検討し刑法の処罰に値するような行為でなければならないと考えられています(実質的違法性論といいます。)。刑罰が本来生まれながらに自由である個人の生命、身体の自由、財産を秩序維持のため公的、強制的に剥奪するものである以上、刑法は謙抑的、限定的に適用されなければならず、実質的違法性論を採用せざるを得ません。この実質的違法性の判断について権利等の利益侵害を重視する法益侵害説がありますが、それだけではなく、行為の主観、客観の要素から総合的に考慮し、社会倫理、道徳の秩序全体に違反し刑法の処罰に値する行為かどうかを判断する考え方(学説上倫理、法規範違反説と言われています。)があります。法益侵害説に立てば、店舗の実質的損害は違法に取得されたコインだけであり、その部分の取得行為のみが処罰の対象になるでしょう。
 しかし、いわゆる倫理、法規範違反説からいえば、ゴト行為を複数で計画的、反復的、に行おうとしている行為者の意思(目的の正当性)、機械を利用している行為の態様(手段の相当性)、その他行為の必要性等(侵害及び守ろうとした法益の均衡も要素となる)からして、一連のゴト行為は、明らかに店舗側の意思に反した窃取行為と認定されることになります。すなわち判例は、倫理、法規範違反説の立場から妥当なものと評価できます。勿論、刑罰が、個人が本来享受している自由を強制的に剥奪するという性格をもっている以上、総合的判断が必要であり、いわゆる倫理、法規範違反説が妥当であると考えられます。難しい話になりますが、実質的違法性論、倫理、法規範違反説を前提にして、法益侵害のとらえ方を結果無価値として把握し、侵害行為の態様、主観面を総合的に考え行為無価値としてその両面から違法性を論ずる考えもありますが結論は変わらないように思います。さらに、正当防衛等の規定以外に違法性阻却を認める超法規的違法性阻却事由を認めるか、同様に構成要件に該当し違法性阻却事由がなくとも処罰に値する違法性を具体的に考える可罰的違法性論(労働、公安事件等で問題となるが下級審判決は別として最高裁は安易に認めていません。)も実質的違法性論を前提にして論じられています。
 可罰的違法性の理論が根底にある最初の判決としては、明治43年10月11日大審院判決、いわゆる「一厘事件」が有名です。政府に納入義務を有する煙草の耕作人が、時価にしてわずか一厘の価格に相当する煙草を自ら刻んで吸い消費したことが、旧たばこ専売法に違反するとして有罪とした東京控訴院判決を破棄し無罪を言い渡した事件です。判決内容、「零細ナル反法行爲ハ犯人ニ危險性アリト認ムヘキ特殊ノ情況ノ下ニ決行セラレタルモノニアラサル限リ共同生活上ノ觀念ニ於テ刑罰ノ制裁ノ下ニ法律ノ保護ヲ要求スヘキ法益ノ侵害ト認メサル以上ハ之ニ臨ムニ刑罰法ヲ以テシ刑罰ノ制裁ヲ加フルノ必要ナク立法ノ趣旨モ亦此點ニ存スルモノト謂ハサルヲ得ス」例えば、日中ほとんど車の通行の無い田舎の信号機付き歩道を赤信号で横断した者について道路交通法違反で処罰できるかという問題の場合、形式的には道交法に違反していますが、倫理、法規範違反説、可罰的違法性論では処罰されない場合もあると考えられます。

3.(ゴト行為隠蔽の遊戯行為と最高裁判例)
 では、ご相談の場合はどうでしょうか。ゴトグループの一員がゴト行為を隠蔽する目的で普通にパチスロをしていたこと(店員から違法行為の発見を防ぐ壁役)がメダル管理者、すなわち店舗や店長の意思に反したパチスロの遊戯方法といえるか、という点を重視するとそのような行為も「窃取」として窃盗罪に該当するとも考えられます。友人はパチスロで遊んでいる訳ではなく仲間のゴト行為を隠蔽しようとしているのですから、店側とすれば承認できない行為でしょう。しかし、目的はともかく行為自体はパチスロを普通にしていた訳ですから、そこまで窃取とするのは、行為の違法性を重視する考え方からしても疑問が生じます(法益の侵害を重視する考え方からすればパチスロによってメダルを得たことによってなんら店側は損害をこうむっていないので窃盗罪が成立しないことになります)。
 ご相談の事案について、最高裁の21年6月29日第一小法廷決定は、通常の方法により得たメダルも含めた全体に窃盗罪を認めた原審判決(仙台高裁平成21年1月27日判決)の判断を覆し(ただし、結論を変えるには至らなかったため上告は棄却、職権で窃盗罪の成立範囲の判断を下したもの)、「A(注:ゴト行為者たる共犯者)がゴト行為により取得したメダルについて窃盗罪が成立し、被告人もその共同正犯であったということはできるものの、被告人が自ら取得したメダルについては、被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものであるから、窃盗罪が成立するとはいえない。」との判断のもと、「被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとが混在した前記ドル箱内のメダル414枚全体について窃盗罪が成立するとした原判決は、窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては事実を誤認したものであり、本件において窃盗罪が成立する範囲は、前記下皿内のメダル72枚のほか、前記ドル箱内のメダル414枚の一部にとどまるというべきである。」と示しました。高裁のレベルでは、ご友人の行為も窃盗に当たると判断されていますから、「窃取」の解釈によっては隠ぺい目的の通常のパチスロ行為も窃盗罪に該当することになります。しかし、それではあまりに広げすぎるというのが最高裁の結論です。実質的違法性論(倫理、法規範違反説)の立場にたっても、壁役の目的、行為、手段の態様、被害の状況から正常な遊戯行為により取得したコインまで窃取行為と認定することは難しいと思われます。

4.(まとめ)
 ゴト行為を行ったご友人の仲間に、そのゴト行為で得たメダルに対して窃盗が成立することには問題はありませんし、そのメダルを換金して利益を得る目的で隠ぺい行為に加担したという点で、ゴト行為で得たメダルにご友人にも窃盗の共同正犯が成立することもまた問題ないところです。そこで、隠ぺい目的だけのパチスロ行為をことさら窃盗罪と取り上げる必要はないでしょう。ただし、メダルが隠ぺい工作のためのパチスロによって得たものと、ゴト行為によって得たものが一緒になってしまっているという場合は、何枚のメタルがゴト行為により取得したものか特定する必要がありますから、本件判決はその意味で捜査機関にそこまでの特定を要求した判決ということになります。

≪参照条文≫

刑法
(共同正犯)
第六十条  二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
(幇助)
第六十二条  正犯を幇助した者は、従犯とする。
235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以上の懲役または五十万円以下の罰金に処する。

≪参照判例≫

(最高裁判所、平成21年(あ)第328号、平成21年6月29日決定)
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。
(1)被告人、A及び氏名不詳者は、共謀の上、針金を使用して回胴式遊技機(通称パチスロ遊技機)からメダルを窃取する目的で、いわゆるパチスロ店に侵入し、Aが、同店に設置された回胴式遊技機1080番台において、所携の針金を差し込んで誤動作させるなどの方法(以下「ゴト行為」という。)により、メダルを取得した。
(2)他方、被告人は、専ら店内の防犯カメラや店員による監視からAのゴト行為を隠ぺいする目的をもって、1080番台の左隣の1078番台において、通常の方法により遊戯していたものであり、被告人は、この通常の遊戯方法により、メダルを取得した。被告人は、自らが取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとを併せて換金し、A及び換金役を担当する氏名不詳者と共に、3等分して分配する予定であった。
(3)被告人らの犯行が発覚した時点において、Aの座っていた1080番台の下皿には72枚のメダルが入っており、これは、すべてAがゴト行為により取得したものであった。他方、1078番台に座っていた被告人の太ももの上のドル箱には、414枚のメダルが入っており、これは、被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルと、Aがゴト行為により取得したメダルとが混在したものであった。
2 原判決は、以上の事実関係を前提に、被告人の遊戯行為も本件犯行の一部となっているものと評することができ、被害店舗においてそのメダル取得を容認していないことが明らかであるとして、被告人の取得したメダルも本件窃盗の被害品ということができ、前記下皿内及びドル箱内のメダルを合計した486枚のメダル全部について窃盗罪が成立する旨判示した。
3 しかしながら、以上の事実関係の下においては、Aがゴト行為により取得したメダルについて窃盗罪が成立し、被告人もその共同正犯であったということはできるものの、被告人が自ら取得したメダルについては、被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものであるから、窃盗罪が成立するとはいえない。そうすると、被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとが混在した前記ドル箱内のメダル414枚全体について窃盗罪が成立するとした原判決は、窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては事実を誤認したものであり、本件において窃盗罪が成立する範囲は、前記下皿内のメダル72枚のほか、前記ドル箱内のメダル414枚の一部にとどまるというべきである。もっとも、被告人がAによるメダルの窃盗について共同正犯としての責任を負うことは前記のとおりであり、関係証拠によれば前記ドル箱内のメダル414枚のうちの相当数もAが窃取したものであったと認められること及び原判決の認定判示したその余の量刑事情に照らすと、本件については、いまだ刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
 よって、同法414条、386条1項3号、181条1項ただし書、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 

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