新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1072、2011/1/12 15:46

【パチンコ攻略情報と断定的判断・勤労の義務とギャンブル情報取得・挙証責任分配の原則】

質問:私は,パチンコ雑誌に掲載されていた「一本の電話がきっかけで勝ち組み100%確定」「情報料無料で完全伝授」などの広告を見て興味を持ち,掲載されていた業者の電話番号に電話をかけてみたところ,業者から「誰にでもできる簡単な手順,70歳のおばあちゃんでもできるほど簡単」「100%絶対に勝てるし,稼げる。月収100万円も夢ではない」「お店1店につき滞在時間は約2時間で,平均5万円から8万円勝てる」「パチンコ攻略情報代金は数日あれば全額回収できる」などと勧誘を受けました。打ち方の内容は書面に残すと秘密がほかに流れてしまうので書面で送ることはできない,パチンコを打ちに行くときに電話をくれれば,手順と行くべきお店,パチンコ台の機種および台の番号は口頭で伝えるとのことだったので,私は,業者の言葉を信じて契約を締結し,40万5000円を振り込みました。ところが,私が業者から提供を受けた情報は,難易度の高い特殊な技術を必要とするもので,パチンコ台の釘(くぎ)の状態に大きく左右されるものであり,情報どおりの手順で何度も試みたが成功しませんでした。
 私は,業者に抗議し,もっと簡単な手順はないのか聞いたところ,「契約期間が長いほど提供する情報は,手順が簡単かつ効果が高く,手早く,一回当たりでも大きく稼げる」「本当は60万円かかるんだけど,まだ始めたばかりということもあるし,差額26万2500円でできるようにしてあげますよ」との勧誘を受け,私は,再度,契約して代金を支払いましたが,与えられた情報は,前回よりもさらに難易度の高い特殊な技術を要するものであり,何度も試みたもののまったく成功しませんでした。私は,契約を取り消して,支払ったお金を取り戻したいと思っていますが,可能でしょうか。

回答:
1.類似の判例(東京地方裁判所平成17年11月8日)からも,消費者契約法4条1項2号「消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」に該当し,取り消しが可能でしょう。又,不法行為(民法709条)に該当するものと思われます。但し,支払った金員を取戻せるかどうかは業者の資産の確認,差し押さえ等強制執行の関係で疑問があります。更に,自分で訴訟が出来なければ(本人訴訟)弁護士の費用(最低数十万円が必要でしょう)も考慮しなければなりません。対策としては,事前に事件に巻き込まれないように注意する必要があります。
2.又,消費者契約法4条1項は,業者が「勧誘」することが前提となっていますが,貴方のように自ら電話をしても広告内容が利益を求める消費者の判断を誤らせるものであり,勧誘の要件も満たすものと考えます。この点,第一審,東京簡裁平成17年5月9日判決は,自ら射幸心の目的をもって積極的に連絡した事情を重視して「勧誘」と認めず請求を棄却しています。ギャンブルが,基本的には勤労の意欲をそぎ,低下させることから憲法27条の勤労の義務を重視し,公序良俗に反し許されないという点を強調した判決です。娯楽の範囲を逸脱し,労せずして更に大きな利益を得ようとする態度は反省の必要があるでしょう。
3.尚,一般的に業者は,指示どおりパチンコの操作を行えば必ず利益が出る,利益が出ないのは購入者が方法を理解せず指示に従わなかったからである,従って,法4条1項2号「当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」とはいえないと主張することがあります。すなわち,パチンコ必勝法の内容が虚偽のものであるという立証を,挙証責任の一般原則により金員返還等利益を請求する購入者側に求めてきます。しかしこの主張は妥当ではありません。業者側が,パチンコ攻略法の内容の正当性を理論的に立証し明らかにする必要があります。
 前述のようにパチンコ,競馬,競輪は基本的に賭博,ギャンブルに属する行為であり,性質上勤労の意欲を損ない低下させるもので刑法上も特別な法により認められた場合を除き禁止されています。すなわち,ギャンブルの本質は,勝敗が当事者の任意に左右することができない偶然の事情により決定されることですが,パチンコ攻略法はこれを否定し,経験則上ありえないことを内容となっていることから業者の主張は虚偽の推定を受け,この推定を逆に業者が覆す必要が生じることになります。従って,訴訟当事者の公平を理念とする挙証責任分配の原則から(挙証責任の問題。事例集704番参照。),経験則上ありえない主張をしてその利益を享受する業者が攻略法の理論的正当性について立証責任を負うということになり,購入者側は,業者の説明が,一般常識に反し経験則上ありえないという主張で足りることになります。業者が主張する購入者の操作ミスは,攻略法の理論的正当性を何ら立証するものではありません。
4.被害回復についてですが,パチンコ攻略法の広告を載せた雑誌社,広告代理店の責任について,一部認めた判例もあります。但し,30−50%の過失相殺がなされています。大阪地方裁判所平成20年平成22年5月12日判決。
5.法律相談事例集キーワード検索:1022番322番参照。

解説:
1. (消費者契約法4条1項2号と問題点)
 消費者契約法は,業者が契約の勧誘に当たり,「物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」により「当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」をさせて契約を締結させた場合には,契約を取り消すことができる旨規定しています(4条1項2号)。
パチンコによって100%稼げるという勧誘は,文字どおり解釈すれば「断定的判断の提供」に該当すると言えそうですが,パチンコによって利益が得られる可能性は,複合的な要因によって左右される偶然性の高いものであり,他方,パチンコ台の管理や操作等の人為的要素により左右されまったくの偶然に頼るものとは異なることから,どのような場合に断定的判断の提供が認められ得るかが問題となります。
 すなわち,そもそも断定的判断の提供に関する裁判例が多くないこともあり,本件においては,@ギャンブルの一種であるパチンコについても断定的判断の提供が認められるか,それはどのような場合か,A消費者は広告を見て問い合わせ,業者は広告の情報を前提として勧誘を行った場合の広告と勧誘との関係をどのようにみるのかという点が争点となります。

2.(判例)
 本件と同様の事案において,判例(東京地方裁判所平成17年11月8日)は,消費者契約法4条1項2号「消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」を認め,更に,購入者が積極的に電話をしても,1項の「勧誘」があったと認定しています。

判決内容
 「本件広告には,『一本の電話がきっかけで勝ち組み100%確定』などの広告記載があり,同広告の『○田の一言』という欄の記載など,広告の読者において,被告(=業者)が一般には知られていない特別なパチンコ攻略の情報を有しており,読者がそれに従えば確実に利益を生み出すことができると思わせる内容になっていた。またA(被告従業員)は,本件広告に関心を持ち,その内容の真偽を問い合わせてきた原告(=消費者)に対し『誰にでもできる簡単な手順,70歳のおばあちゃんでもできるほど簡単なもの』『毎回3000円から5000円で大当たりが引ける』『100%絶対に勝てるし,稼げる。月収100万円以上も夢ではない。めざせ年収1000万円プレーヤー』『お店1店につき滞在時間は約2時間で平均5万円から8万円勝てる』『パチンコ攻略情報代金は数日あれば全額回収できる』などと将来の出球による利益が確実であるという趣旨の言葉を用いた。・・・さらにAは,原告に対し,手順の内容の秘密が一般に広まることのないよう,情報はすべて口頭で伝えると述べて,あたかも被告の伝える情報が一般には知られていない特別なものであり,それによって原告が将来,利益を確実に獲得できるかのごとき印象を与えた。・・・以上を総合すると,本件広告における前記表現およびAの原告に対する前記の勧誘は,本来予測することができない被告がパチンコで獲得する出球の数について断定的判断を提供するものといえる。・・・原告は本件契約締結前に数回パチンコをして利益を得たことから,パチンコによって利益を出せる場合があることは認識していたといえるが,一方で,原告がAに対し,本件広告記載の100%稼げるという内容が本当であるか尋ねていることからみて,Aの勧誘を受ける前には,原告は,パチンコで常に利益を獲得する方法があることに対しては半信半疑の思いを抱いていたことが認められる。したがって,前記のとおり,Aによる確実な利益を約束する言葉を用いた勧誘および被告が提供する情報が特別のものであるということの強調により,原告は,本件広告の記載内容を含めた被告による前記断定的判断の内容が真実であると誤信したと認めるのが相当である。」
 更に,購入者が積極的に電話した点については,第一審東京簡裁は,ギャンブルは射幸的な目的が強く,保護に値しないとして,「勧誘」の要件を認めませんでした。確かに,安易にギャンブルに投資して利益を得ようとする行為は,憲法上の三大義務の一つである勤労の義務(憲法27条)の趣旨に相反する行為と評価できますが,業者の言葉巧みな勧誘も結果的に保護することは不当であり,パチンコは庶民の娯楽の面も持っているので一般人の保護が優先されるでしょう。尚,消費者契約法4条1項1号の「不実の告知」の解釈を,過去,現在の事実と限定して解釈し適用を認めませんでした。

3.(まとめ)
 この判決は,上記@Aの争点について,@一見するとギャンブルなどのリスクの高いものであっても,勧誘方法や勧誘の内容などによっては断定的判断の提供に該当する可能性があることを示し,また,A勧誘の際に広告内容を前提とした勧誘を行っていることから,本件広告の記載内容を含めた業者による断定的判断の内容が真実であると誤信したと認めるのが相当と判断している。勿論,攻略法の内容が正当なものであるという業者の主張は立証がなく退けています。本条の趣旨である消費者保護の観点から「勧誘」の概念は広く解釈することが妥当であると考えられます。
 あなたの場合も,消費者契約法4条1項2号による取消し,及び不法行為による損害賠償が可能と考えられます。なお,同法による取消しには,期間制限(追認をすることができる時から六箇月間,当該消費者契約の締結の時から五年)があることにご注意ください(同7条)。
 最後に,消費者契約法4条1項2号と民法93条詐欺との関係ですが,民法は,「詐欺」,すなわち偽もう行為という 抽象的規定であり該当する具体的事実を主張立証しなければなりませんが,契約法は,偽もう行為を具体的に列挙している点から立証が容易であり一般消費者に有利になっています。詐欺(民法126条,時効は5年,20年)の主張も勿論可能です。

<参考条文>

消費者契約法
 第二章 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
第四条 消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
 二 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ,かつ,当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより,当該事実が存在しないとの誤認をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。ただし,当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず,当該消費者がこれを拒んだときは,この限りでない。
3 消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
 一 当該事業者に対し,当該消費者が,その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず,それらの場所から退去しないこと。
 二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず,その場所から当該消費者を退去させないこと。
4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは,消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
 一 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質,用途その他の内容
 二 物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは,これをもって善意の第三者に対抗することができない。
 (媒介の委託を受けた第三者及び代理人)
第五条 前条の規定は,事業者が第三者に対し,当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし,当該委託を受けた第三者(その第三者から委託を受けた者(二以上の段階にわたる委託を受けた者を含む。)を含む。次項において「受託者等」という。)が消費者に対して同条第一項から第三項までに規定する行為をした場合について準用する。この場合において,同条第二項ただし書中「当該事業者」とあるのは,「当該事業者又は次条第一項に規定する受託者等」と読み替えるものとする。
2 消費者契約の締結に係る消費者の代理人,事業者の代理人及び受託者等の代理人は,前条第一項から第三項まで(前項において準用する場合を含む。次条及び第七条において同じ。)の規定の適用については,それぞれ消費者,事業者及び受託者等とみなす。
 (解釈規定)
第六条 第四条第一項から第三項までの規定は,これらの項に規定する消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十六条の規定の適用を妨げるものと解してはならない。
(取消権の行使期間等)
第七条 第四条第一項から第三項までの規定による取消権は,追認をすることができる時から六箇月間行わないときは,時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年を経過したときも,同様とする。
2 商法(明治三十二年法律第四十八号)第百九十一条及び第二百八十条ノ十二の規定(これらの規定を他の法律において準用する場合を含む。)は,第四条第一項から第三項までの規定による消費者契約としての株式又は新株の引受けの取消しについて準用する。この場合において,同法第百九十一条中「錯誤若ハ株式申込証ノ要件ノ欠缺ヲ理由トシテ其ノ引受ノ無効ヲ主張シ又ハ詐欺若ハ強迫ヲ理由トシテ」とあり,及び同法第二百八十条ノ十二中「錯誤若ハ株式申込証若ハ新株引受権証書ノ要件ノ欠缺ヲ理由トシテ其ノ引受ノ無効ヲ主張シ又ハ詐欺若ハ強迫ヲ理由トシテ」とあるのは,「消費者契約法第四条第一項乃至第三項(同法第五条第一項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ因リ」と読み替えるものとする。

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