新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.843、2009/1/28 16:55 https://www.shinginza.com/qa-hasan.htm

【破産・免責・一部免責・ギャンブル・遊行費】

質問: 私は,消費者金融に多額の借金がありますので,自己破産をすることを考えております。ただ,私は,競馬やキャバクラの飲食のために借金を作ってしまいました。このような場合にも,破産は認められるのでしょうか。また,破産が認められないのは,その他にどのような場合があるのでしょうか。

回答:
1.あなたは,裁判所の免責許可決定(破産法252条)を得られれば,債務の支払いの責任を免れることができます。但し,ギャンブルや浪費により多額の債務を負担した場合は,免責不許可事由とされ,免責が許可されない場合があります(破産法252条1項4号)。しかし,ギャンブルや浪費の程度が著しくなく,また,破産手続中のあなたの態度が手続きに協力的で反省の程度も深く,裁判所から誠実な破産者であると評価されれば,裁判所の裁量により免責(または一部免責)を受けることができる可能性があります(破産法252条2項)。そして,現在の裁判所の運用では,裁判所の裁量による免責は多く行われているようですので,免責を受けることができる可能性もそれなりにあると思われます。
2.以下,免責不許可事由の各事由を中心に,詳しく説明いたします。

解説:
(破産における免責制度の趣旨)

自由主義,資本主義に基づく経済体制においては,自由競争が基本であり,体制の必然的結果,宿命として経済的敗者,恒常的負け組が発生することを避けることはできません。しかし,自由主義,資本主義体制(私的自治の原則,契約自由の原則)の真の目的は,適正公平な社会経済秩序の建設であり(法の支配の理念),私的自治の原則に内在する公正,公平,権利濫用禁止,信義則の原理から直ちにこのような不平等状態を解消し,経済的破綻者を再起更生,参加させて活発で公平な自由競争社会を維持し発展させなければなりません。そこで破産法は,債務者が一切の財産を誠実に提出し,その財産を債権者に公平平等,迅速に清算配分する代わりに,弁済されなかった債務をすべて帳消しにして,債務者を迅速に再起更生させる手続きを用意しました(破産法1条)。これが免責制度です。従って,免責制度が法の支配の理念から導かれる以上,破産者が,適正公平,信義則,権利濫用禁止の原理により保護されないような場合は免責が許可されないことになります。破産法252条の趣旨,及びどのような場合に免責が許可されないかどうかは,破産者の経済的再起更生の必要性と,平等弁済を受ける破産債権者の保護,公正な社会経済秩序の維持の重要性から総合的に判断されることになります。

1.免責許可決定
そもそも破産法が制定されている目的は,支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により,債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに,債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることにあります(破産法1条)。また,債務者が自己破産申立てを行う理由は,通常,免責を得て,債務の支払いの責任を免れることが目的です。そこで,裁判所は,免責不許可事由がない限り,免責許可決定をしなければならず(破産法252条1項),破産者は,原則として,債務の支払いを免責されることになります。

2.免責不許可事由
但し,破産者が破産債権者を害する不誠実な行為を行った場合など,破産者に免責を認めるべきでない事由も存在します。そこで,破産法252条1項は,免責不許可事由を規定しております。以下,順に説明いたします。
(1)不当な破産財団価値減少行為(破産法252条1項1号)
債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたことが,これに該当します。これは,破産債権者を害する不誠実な行為であり,破産者の更生より破産債権者を保護する必要性がありますので,免責不許可事由とされております。実務では,財産隠しや,破産申立て前に,財産を親族に不当に安く売却するなどの行為が多くみられますが,これに該当することがありますので,注意が必要です。

(2)不当な債務負担行為(破産法252条1項2号)
破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したことが,これに該当します。これは,破産者がかかる行為を行う前に既に存在する破産債権者の利益を害する行為を行っており,このような不誠実な債務者は保護する必要性がありませんから,免責不許可事由とされております。実務では,ヤミ金融業者から,出資法の上限金利を超える借り入れを行い,買った商品を質入する等して,著しく安い値段で換金する行為が多くみられますが,これに該当することがありますので,注意が必要です。

(3)不当な偏頗行為(破産法252条1項3号)
特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたときが,これに該当します。これは,公平な平等の配当手続きを妨害し,他の破産債権者の利益を侵害するもので,免責不許可事由とされております。なお,債務者の資力が十分であれば,「当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的」があるとは認められませんので,支払不能時期になされた場合に問題になります。実務では,親族や友人に対する債務だけを優先的に返済する行為が多くみられますが,これに該当することがあります。

(4)浪費又は賭博その他の斜幸行為(破産法252条1項4号)
浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したことが,これに該当します。これは,破産債権者を害する不誠実な行為であり,債権者の保護が優先しますので,免責不許可事由とされております。実務では,飲食,性風俗,高価品の購入,旅行,競馬,競輪,パチンコ等をするために消費者金融等から借り入れをして,多額の債務を負担したケースが多くみられます。

(5)詐術による信用取引(破産法252条1項5号)
破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したことが,これに該当します。これは,当該破産債権者を害する行為であり,経済的更生より破産債権者の保護が優先しますので,免責不許可事由とされております。この点,「詐術」の意義に争いがあり,免責不許可事由が破産者の不誠実性の徴表であることからすると,単に,支払不能状態を債権者に告知しないまま借り入れをしただけでは該当せず,積極的に虚偽の事実を告知した場合に該当すると考えられます。実務では,借り入れをする際に,既に消費者金融等から多額の借り入れがあるにもかかわらず,他の債務額を少なく申告して借り入れる行為が多くみられ,借り入れにあたって債務内容を正確に表示しなかった程度では,「詐術」に該当しないとも考えられますが,「詐術」に該当すると考える見解もあります。

(6)帳簿隠滅等の行為(破産法252条1項6号)
業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,又は変造したことが,これに該当します。前項と同様な理由により,免責不許可事由とされております。

(7)虚偽の債権者名簿提出行為(破産法252条1項7号)
虚偽の債権者名簿を提出することにより配当額が不公平となり破産債権者を害する行為ですから,免責不許可事由とされております。但し,破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権は,非免責債権(免責されない債権)(破産法253条1項6号)とされておりますので,破産者が,債権者の存在を知っていたが,過失によって債権者名簿に記載しなかった場合は,当該債権は非免責債権となり,この場合まで,免責不許可事由と評価する必要はないと考えられます。よって,破産者が故意に虚偽の債権者名簿を提出した場合に問題になると考えられます。

(8)調査協力義務違反行為(破産法252条1項8号)
破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたことが,これに該当します。これは,破産者は,裁判所や破産管財人が行う調査に協力する義務がありますので(破産法250条2項),かかる義務に違反する不誠実な行為は結果的に迅速公平な配当を阻害するものですから,免責不許可事由とされております。

(9)管財業務妨害行為(破産法252条1項9号)
不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理又は保全管理代理の職務を妨害することにより,配当手続きが遅延し破産債権者の利益を侵害するので,免責不許可事由とされております。破産管財人に対して,正当な理由なく破産財団所属財産の引渡しを拒否したような場合が,これに該当します。

(10)7年以内の免責取得など(破産法252条1項10号)
当該破産者について以前免責許可の決定が確定しているが,その確定の日から7年以内に再び免責許可の申立てがあったこと等が,これに該当します。これは,特定の破産者が繰り返し免責を受けることは,債権者の利益を害するし,また,経済的自由競争に再度参加する資格が乏しく破産者の真の経済的再生にもつながらないことから,免責不許可事由とされております。

(11)破産手続上の義務違反行為(破産法252条1項11号)
破産者が,破産手続上の,説明義務(破産法40条1項1号),重要財産開示義務(破産法41条),調査協力義務(破産法250条2項)等に違反したことが,これに該当します。このように迅速な配当手続きを妨害する不誠実な破産者に対しては,公正の原理に基づく救済の必要性は少ないので免責不許可事由とされております。

3.裁量免責
(1)しかし,以上のような免責不許可事由があっても,裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができます(破産法252条2項)。これを,裁量免責といいます。免責不許可事由があっても,その程度は様々であり,一律に免責を不許可とするのは,破産者に酷となる場合があるからです。そして,裁量免責の基準は,具体的には,事件ごとに個性が強いため一律の基準を設定することは困難ですが,裁判例や実務の集積を総合すると,破産者の不誠実性が比較的軽微の場合,裁量免責が認められると考えられております。免責制度の目的が,債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることにあることから,このように考えるのは妥当であると考えます。実務上,裁判官は免責により不利益を受ける債権者の異議(破産法251条)により判断することが多く,破産債権者の異議がないようであれば裁量免責の可能性は大きいと思います。実務上債権者の異議はほとんどありませんが,万が一,債権者からの異議が出た場合,不誠実な破産者には事実上の一部免責を認め,免責の条件として破産後の新得財産,自由財産から破産債権者に対し10%−20%前後の追加分割弁済を求められることがあります。あなたのような,ギャンブルによる債務負担の場合は,免責を認める条件として追加弁済を求められる可能性があるでしょう。このような条件は,裁判官との交渉により決まりますので,法的書面を提出し説明することが肝要であり,自分でできなければ弁護士を代理にして行うことが必要になります。

(2)また,現在の裁判所の運用では,破産手続中の破産者の態度が手続きに協力的かといった点も重視されているようです。そして,裁判所の裁量による免責は多く行われているようです。そして,財産隠しが発覚した場合,破産管財人に非協力的な態度をとった場合,申立段階では免責不許可事由はない旨を陳述していたのに,債権者の指摘でその存在が発覚した場合が,免責不許可となる典型的な場合とされております。

4.以上の解説をまとめると,回答に記載した内容になります。より詳しく相談したい場合には,破産等の債務整理に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。

≪条文参照≫

破産法1条(目的)
「この法律は,支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により,債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに,債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。」
破産法40条(破産者等の説明義務)
1項「次に掲げる者は,破産管財人若しくは第144条第2項に規定する債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは,破産に関し必要な説明をしなければならない。ただし,第5号に掲げる者については,裁判所の許可がある場合に限る。」
1号「破産者」
2号「破産者の代理人」
3号「破産者が法人である場合のその理事,取締役,執行役,監事,監査役及び清算人」
4号「前号に掲げる者に準ずる者」
5号「破産者の従業員(第2号に掲げる者を除く。)」
破産法41条(破産者重要財産開示義務)
「破産者は,破産手続開始の決定後遅滞なく,その所有する不動産,現金,有価証券,預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。」
破産法250条(免責についての調査及び報告)
1項「裁判所は,破産管財人に,第252条第1項各号に掲げる事由の有無又は同条第2項の規定による免責許可の決定をするかどうかの判断に当たって考慮すべき事情についての調査をさせ,その結果を書面で報告させることができる。」
2項「破産者は,前項に規定する事項について裁判所が行う調査又は同項の規定により破産管財人が行う調査に協力しなければならない。」
破産法252条(免責許可の決定の要件等)
1項「裁判所は,破産者について,次の各号に掲げる事由にいずれにも該当しない場合には,免責許可の決定をする。」
1号「債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。」
2号「破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと」
3号「特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたとき。」
4号「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと。」
5号「破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。」
6号「業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,又は変造したこと。」
7号「虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第1項第6号において同じ。)を提出したこと。」
8号「破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと。」
9号「不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理又は保全管理代理の職務を妨害したこと。」
10号「次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと。」
 イ「免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日」
 ロ「民事再生法(平成11年法律第225号)第239条第1項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日」
 ハ「民事再生法第235条第1項(同法第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日」
11号「第40条第1項第1号,第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。」
2項「前項の規定にかかわらず,同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても,裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができる。」
破産法253条(免責許可の決定の効力等)
1項「免責許可の決定が確定したときは,破産者は,破産手続による配当を除き,破産債権について,その責任を免れる。ただし,次に掲げる請求権については,この限りでない。」
6号「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)」

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