マンション内での野良猫への餌付け
民事|区分所有法|ペット飼育禁止と野良猫への餌付け|対策|判例
目次
質問:
私は分譲マンションを買って住んでいるのですが、同じ階の住人が廊下でのら猫に餌をやるため、糞尿の臭いで非常に迷惑しています。動物を飼ってはいけない、と管理規約にはあるのですが、のら猫に餌をやってもいけないとは言えませんか。また、言えるとしたらどうすればいいですか。
回答:
1.あなたはマンションの区分所有者として、餌をやっている人に対して、餌をやることを止めるよう請求できます(区分所有法57条)。あなたが請求しても止めない場合は、区分所有者の集会において訴訟等の法的な手続きをとることを決議すれば、法的な手続きをとることもできます。
2.マンションでのトラブル1195番、1013番、918番、872、791、632番、376番、107番参照。
3 その他区分所有法に関する関連事例集参照。
解説:
1.区分所有法と管理規約について
建物の区分所有に関する法律(区分所有法と呼ばれています)により、マンションの廊下部分は、共用部分として専有部分の所有者の共有と定められています(区分所有法12条)。そして、共用部分の管理につては原則集会の決議によるのですが、他方で区分所有者は建物の管理使用に関し他の区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないと定められています(同法6条)。また、建物の使用に関しては規約で定めることができるとされています(同法30条1項)。そして、同法57条1項では区分所有者あるいは管理組合法人は区分所有者の行為が他の区分所有者の共同の利益に反する場合はその行為の停止等を請求することができるとされています。
そこで、廊下での餌やりが区分所有者の共同の利益に反する行為に該当すれば、他の区分所有者はそのような行為の停止を請求できることになります。猫が嫌いな人にとっては廊下で野良猫にえさをやるなどというのはもってのほかの行為でしょうが、猫の好きな人にとってはそうでもないかもしれず、検討の必要があります。
共同の利益に反するか否かは集会を開いて決定すればよいのですが、集会を開くまでもなくやめさせることができるのではないか、ペット飼育禁止規約があるということですので、この規約に反するとすれば区分所有者の共同の利益に反することになり、当然にその停止請求できると考えられます。
2.ペット飼育禁止規約の有効性
この点については、そもそも規約でペットの飼育を全面的に禁止できるのかという問題があります。マンションの専有部分は単独所有でいわば自分の城ですから、何をしても自由ではある、というのが近代市民法の大原則であり、ペットを飼うことを禁止されるいわれはない、そのような規約は無効である、という議論も成り立ちうるからです。
この点についてはペット飼育禁止規約自体を有効とした判例があります(横浜地方裁判所平成3年12月12日判決)。この判例においては、「マンションその他の共同住宅においては居住者による動物の飼育によってしばしば住民間に深刻なトラブルが発生すること・・・共同住宅で他の居住者に全く迷惑がかからないよう動物を飼育するには、防音設備を設けたり集中エアコンなどの防臭設備を整えるなど住宅の構造自体を相当程度整備したうえで、動物を飼おうとする者の適性を事前にチェックしたり、飼い方などに関する詳細なルールを設ける必要があること」などの理由から、全面的に動物の飼育を禁止した規約に相当の必要性および合理性をみとめ、ペット飼育禁止規約を有効と判断しています。 この判決は控訴審においても維持され、「マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり、これを一律に共同の利益に反する行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に禁止する管理規約が当然に無効であるとはいえない」という判決が出ております(東京高等裁判所平成6年8月4日判決)。この一連の判決から、マンション管理規約において一切のペットの飼育を禁止することは認められるものといえます。
3.野良猫への餌付けの位置付け
次に、ペットの飼育が認められないとしても、廊下で猫などに餌をやることまでこの規約を根拠に禁止することはできるのか検討が必要になります。廊下で餌をやることが飼育に当たるか、という問題です。
この点について、賃貸アパートにおける事例ではありますが、似た問題を扱った判例として、新宿簡易裁判所昭和61年10月7日判決があります。この判決においては、住人の一人が廊下でのら猫に餌をあげていたために周囲に生じた被害として、「猫の抜け毛や足跡、餌の食い散らかし或いは嘔吐物、糞尿などで汚れ、・・・廊下は猫の毛の油などでモップでふいてもなかなかその汚れが落ちず・・・高窓下のコンクリートの壁は、猫の足跡が付着してその汚れが落ちないような状況であること、又アパートの玄関に入ると猫独特の臭気が漂つており、二階廊下やアパート南側空地に猫が脱糞排尿をするので臭く、それに蠅がたかつていたり、時には同廊下にねずみの死骸が転がつていたりして不潔で衛生上問題であること・・・更に野良猫の鳴き声がうるさく、夜には猫が二階廊下を駆けずり回る足音や餌を転がして遊んでいる物音などがうるさく、アパート居住者の静穏な生活が妨害されるなど近隣に迷惑を及ぼしていること」などといった種々の被害が認定されています。
そして、「(賃貸借契約上の)特約には、『貸室内において……猫を飼育してはならない』との文言があるが、特約の趣旨に従つて右文言自体を合理的に解釈すれば被告の右行為は右特約に違反するものといわざるをえない。」と判示し、廊下でののら猫への餌付け行為もペット飼育禁止特約の趣旨に照らせば禁止されるものと判断しました。
この判断は賃貸アパートにとどまらず、分譲マンションであっても妥当するものと思われます。というのも、数多くの住人が互いに迷惑をかけずに生活する、というのが集合住宅の基本ルールであるためです。したがって、ご相談のマンションにおいても廊下でののら猫への餌やりはペット飼育禁止規約に違反する、といえるでしょう。
4.まとめ
以上のとおり、廊下での餌やりはペット飼育禁止規約に違反することになれば、区分所有者の共同の利益に反することは明らかとなり、区分所有法6条1項に反し、同法57条1項により行為者へその停止を求めることができます。
このような方法は個人でもできますから、個人的に区分所有者としてその停止を求めることも可能です。餌やりを見つけたらそのやめるよう注意することは問題ありません。しかし、それに従わないのであれば法律的に差止や損害賠償請求訴訟を行うことになりますが、その場合は集会の決議が必要にあります。どのように進めていくか、管理組合理事会とよく相談することが必要です。そのためには、餌付け行為やその被害の証拠を収集しましょう。ご近所の住人の方と協力し、餌付けしている状況を具体的に記録しておくことが考えられます。
以上