2026年10月5日更新
「万引きで警察に呼ばれた」「家族が逮捕された」「商品代金を払ったのに検察庁から呼出しが来た」「やめたいのに繰り返してしまう」。万引きは窃盗罪に当たり、少額でも刑事事件になります。一方、逮捕・起訴・実刑がすべての事件で必要になるわけではありません。事実と証拠を確認し、被害回復、身柄解放、再発防止に早く取り組むことが大切です。ご本人とご家族に向けて、手続の流れと弁護士に相談する意義を説明します。
1 万引きは窃盗罪です:現行の刑罰と成立要件
万引きという独立した罪名があるわけではなく、店の商品を盗む行為は原則として刑法235条の窃盗罪です。
刑法235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
2025年6月1日から懲役・禁錮に代わる拘禁刑が導入されました。施行前の行為には経過措置があるため、過去の事件は行為の時期を確認します。拘禁刑は、改善更生のため、個々の受刑者に必要な作業や指導を行う刑です。上限の10年がそのまま個別事件の刑になるのではなく、被害額、手口、回数、前科前歴、被害回復等により処分は異なります。
窃盗罪では、他人の占有する物をその意思に反して自分等の支配に移す行為と、故意・不法領得の意思が問題になります。不法領得の意思とは、権利者を排除し、その物を自分の物のように経済的な用途に従って利用・処分する意思です。単なる精算忘れや商品の取り違えで、盗む意思がなかった場合は、その事情と証拠を確認する必要があります。
参照:刑法、法務省・拘禁刑下の矯正処遇等。
2 店を出る前でも成立する?セルフレジ・未遂との関係
窃盗が既遂になる時点は、商品の大きさ、隠した場所、店内の状況等から、店の占有を排除して自己の支配に移したかで判断します。小さな商品を衣服やバッグに隠した時点で既遂になる場合もあり、「まだ店の外に出ていないから犯罪ではない」とは限りません。他方、商品を手に取った、買物かごに入れたというだけで直ちに窃盗になるわけでもありません。窃盗の未遂も処罰対象です(刑法243条)。
セルフレジでの未精算も、操作履歴、レシート、防犯カメラ、スキャンした商品、支払状況等を照合します。意図的な未精算と操作ミスを区別し、機械の仕組みや行為の内容によって他の犯罪の成否が問題になることもあります。記憶が曖昧なまま「全部わざとです」と認めず、分かることと分からないことを分けて説明してください。
発覚後に返却・購入しても、既に成立した窃盗罪が当然に消えるわけではありません。ただし、被害回復として処分の判断に考慮されます。また、商品を取り返されることを防ぐため、逮捕を免れるため、証拠を隠滅するために暴行・脅迫をすると、その程度・状況により事後強盗罪等の重い犯罪が問題になります(刑法238条)。店員を突き飛ばすなどの行為は避けてください。
3 呼び止められたとき・家族に連絡が来たとき
- 落ち着いて事実を確認する:どの商品、いつの行為が問題なのかを確認します。暴力、証拠の廃棄、関係者との口裏合わせはしないでください。
- 資料を保管する:レシート、決済履歴、呼出しの書類、商品代金の領収書等を残します。防犯映像は保存期間が限られることがあるため、必要なら弁護士を通じて早期の保存を求めます。
- 取調べ前に相談する:黙秘権があり、供述を強制されるものではありません。供述調書を確認し、違う内容や分からない内容があれば訂正を求め、納得できない調書への署名押印を急がないでください。
- 家族は所在と状況を確認する:警察署名、逮捕の日時、担当部署、持病・服薬、仕事・育児・介護への影響を整理して弁護士に伝えます。
在宅で捜査される場合も、呼出しを放置せず、都合が悪いときは日時の調整を相談します。逮捕されていないことは、事件が終わったことを意味しません。本人が面会できない状況でも、ご家族から弁護士へ相談できます。
まだ警察に発覚していない行為を申告したい場合も、まず事実関係を整理します。刑法42条の自首は、捜査機関に犯罪が発覚する前の申告等が問題となり、単なる出頭とは異なります。自首による刑の減軽は自動的ではありません。
4 逮捕・勾留の流れと早期釈放に向けた対応
万引きでも現行犯逮捕や後日の逮捕はあり得ますが、すべての事件で逮捕されるわけではありません。逮捕後も勾留が当然に認められるわけではなく、犯罪の嫌疑に加え、住居、逃亡や証拠隠滅のおそれ、勾留の必要性を検討します。
| 段階 | 原則的な時間・対応 |
|---|---|
| 警察での逮捕後 | 身体拘束から48時間以内に、検察官へ送致するか釈放します。 |
| 検察官への送致後 | 受取りから24時間以内、かつ身体拘束から72時間以内に、勾留請求等をするか釈放します。 |
| 起訴前の勾留 | 勾留請求の日から原則10日間。やむを得ない事由があれば、通常の窃盗事件ではさらに最大10日間の延長があり得ます。 |
| 起訴後 | 起訴後の勾留は別の制度です。弁護士は保釈請求等を検討します。 |
よくいう「最大23日」は一つの事件の起訴前の身柄拘束の説明です。起訴後の勾留や別事件による逮捕まで含めた総上限ではありません。また、保釈は原則として起訴後の制度であり、起訴前にお金を払えば保釈されるわけではありません。
弁護士は、早期に接見して本人の状況を把握し、検察官への勾留請求をしないよう求める意見書、裁判官への勾留請求却下を求める資料を提出します。勾留後は準抗告や勾留取消請求等を検討します。住居・勤務先、家族の支援、通院、子の養育、証拠の確保状況、店舗等への接触を避ける具体策などが重要です。
弁護人との接見は、原則として立会人なく行えます。私選弁護人のほか、当番弁護士や、勾留後に資力等の要件を満たす場合の被疑者国選弁護制度もあります。費用が心配な場合も、その旨を伝えて相談してください。
まだ逮捕されていない段階でも、警察からの呼出しや取調べに備えて継続的に相談し、万一逮捕された場合の初回接見をあらかじめ準備しておくことができます。新銀座法律事務所では、特定の刑事事件についての継続相談と初回接見1回を組み合わせた「接見予約付き継続相談」をご案内しています。
5 微罪処分・不起訴・罰金・公判の違い
| 手続・処分 | 意味と注意点 |
|---|---|
| 微罪処分 | 極めて軽微で、検察官があらかじめ指定した事件について、警察が通常の送致をせず、検察官に報告する扱いです。前科にはなりませんが、捜査・処分の記録は残り得ます。 |
| 不起訴 | 検察官が起訴しない処分です。嫌疑なし・嫌疑不十分と、犯罪の嫌疑はあるが諸事情から起訴しない起訴猶予は区別されます。前科にはなりません。 |
| 略式命令による罰金 | 公開の公判を開かず書面審理等で処理する手続ですが、有罪の裁判であり、確定すると前科になります。 |
| 公判請求 | 通常の刑事裁判で審理します。無罪、有罪、執行猶予、実刑等は、証拠と適用法令・事情によって判断されます。 |
微罪処分の根拠は、刑事訴訟法246条ただし書及び、これを受けた国家公安委員会規則である犯罪捜査規範198条~200条です。
刑事訴訟法246条
司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。ただし、検察官が指定した事件については、この限りでない。
犯罪捜査規範198条(微罪処分ができる場合)
捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
犯罪捜査規範199条(微罪処分の報告)
前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を1月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第19号)により検察官に報告しなければならない。
犯罪捜査規範200条(微罪処分の際の処置)
第198条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
(1)被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
(2)親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
(3)被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
「被害額2万円以下」「初犯」「弁償済み」なら必ず微罪処分、という全国共通の保証はありません。検察官の指定、被害回復、犯情、前歴、再犯のおそれ等を確認する必要があります。警察が事件を検察官へ送る「送検」も、起訴や有罪と同じ意味ではありません。
起訴猶予は刑事訴訟法248条に基づく検察官の判断です。示談書だけでなく、反省の経過、生活環境の改善、支援体制等を資料で示します。窃盗罪は原則として親告罪ではないため、店舗が被害届を取り下げても、捜査・起訴が必ず止まるわけではありません。
事実上の取扱いとしての「認知せず」について
上記とは別に、極めて軽微な事案で、被害回復や示談が済み、被害者側も了解している場合などに、警察段階で「認知せず」として扱われることがあり得る旨を、当事務所の事例1716、事例1647で紹介しています。とりわけ、正式な事件認知前の段階で、被害届の提出・受理状況を確認し、反省、被害回復、被害者の意向、再犯防止の具体策等を伝えて対応を検討するという説明です。
これは、微罪処分や不起訴とは異なる、例外的な事実上の取扱いとして理解する必要があります。微罪処分は、犯罪として認知した事件について、検察官の指定に基づいて通常の送致を省略する制度です。一方、「認知せず」は、法律に全国一律の適用要件が定められ、本人が当然に請求できる処分ではありません。前記の事例も、一般的な権利や確実な解決方法を示すものではありません。
窃盗は原則として親告罪ではなく、被害届がないことや被害者が了解したことだけで、警察が事件を認知・捜査しないとは限りません。既に認知された事件を、示談によって当然に「なかったこと」にできるわけでもありません。弁護士が事実と手続の進み具合を確認し、適法な範囲で警察段階から事情を説明することが重要です。送致される場合にも、示談書等を早期に提出して情状を伝える意義があります。
6 弁償・示談は何のために行う?金額と条項
弁償は被害を回復すること、示談は当事者間で賠償等について合意することです。商品代金を支払った事実と、店舗が処罰を求めない意思を示した事実は別です。「代金を払ったから示談済み」と思い込まず、領収書と合意内容を確認します。
示談金に法律で決まった一律の相場や「商品代金の何倍」という基準はありません。商品の返還・売却可能性、実際に生じた損害、繰返しの有無、当事者の合意等を踏まえます。店に「万引きは罰金○万円」と掲示されていても、それ自体が刑事上の罰金を課す根拠になるわけではなく、民事上の請求根拠・金額は別途検討します。高額な請求にその場で署名せず、弁護士に確認してください。
弁護士は店舗や本部の担当者の意思を尊重して交渉し、必要に応じ、次の点を示談書に整理します。
- 対象事件を特定する日時、店舗、商品、被害額。
- 返還・弁償済みの内容、追加の支払額、期限、方法、受領の確認。
- 店舗が応じる場合の、許す意思や処罰を求めない意思(宥恕)。
- 立入禁止等の約束と、その範囲・期間。
- 清算条項の対象範囲、捜査機関・裁判所への書面提出の扱い。
「被害届を出さない」「取り下げる」ことを強く迫ったり、断られているのに何度も訪ねたりしてはいけません。否認事件での示談は、事実を認めたと受け取られる危険もあるため、表現と方針を特に慎重に検討します。書式は参考にとどめ、事件に合う内容に調整してください。新銀座法律事務所・書式ダウンロード案内
7 店舗が示談を断る場合にもできること
チェーン店等には示談に応じない方針がある場合があります。断られたことだけで実刑が決まるわけではありません。商品返還、賠償の申出、謝罪の意思、交渉経過、再発防止策を客観的に整理し、捜査機関等へ伝えます。
損害賠償金の受領を拒まれた場合などには、民法494条の要件を満たす弁済供託を検討できることがあります。ただし、供託の対象・金額・要件の確認が必要で、供託だけで示談成立や宥恕を得たことにはなりません。贖罪寄付も被害者への賠償とは別であり、寄付をすれば不起訴になるという制度ではありません。被害回復を優先し、事件に応じて弁護士と検討します。
参照:事例1348・繰り返してしまう万引き行為について。掲載事例の示談金額は、その事案についての提案であり、全事件共通の相場ではありません。
8 略式手続に同意する前に確認したいこと
略式手続には、検察官の説明を受け、被疑者が異議のない旨を書面で明らかにする手続があります(刑事訴訟法461条の2)。裁判所が書面審理で罰金等を命じる制度であり、「罰金を払えば前科が付かない」「単なる注意で済む」という意味ではありません。
刑事訴訟法461条の略式命令の一般的な上限は100万円ですが、窃盗罪単独の法定刑の罰金上限は50万円です。制度全体の上限と、個々の罪の法定刑を混同しないでください。
事実を争いたい、説明が分からない、示談や医療資料の提出がまだ済んでいないときは、同意前に弁護士へ相談します。検察官に処分判断の時間的猶予を求めることはありますが、延期が必ず認められるわけではありません。略式命令に不服がある場合、原則として告知を受けた日から14日以内に正式裁判を請求できます(同法465条)。届いた書類を保管し、期限を直ちに確認してください。
9 裁判例から考える勾留と処分の見通し
最高裁平成26年11月17日第一小法廷決定:勾留の必要性
この決定は、痴漢を疑われた会社員の事件で、証拠隠滅の現実的可能性が低いと判断して勾留請求を却下した裁判を維持したものです。万引きそのものの判例ではありませんが、勾留を争う際にも、罪名や否認していることだけでなく、証拠や生活状況等を具体的に検討する重要性が分かります。万引き事件では映像・商品等の確保状況、関係者との接触可能性、住居や家族の支援等を整理します。「会社員なら必ず釈放される」という意味ではありません。事例1734・決定の内容と弁護活動
最高裁昭和33年10月24日第二小法廷判決:他人と同じ処分になるとは限らない
詐欺等の事件について、犯情の類似した被告人間の処罰の違いを理由とする憲法14条違反の主張を退けた判決です。万引き事件でも「知人は同じ被害額で不起訴だったから自分も同じ」とは判断できません。前科前歴、被害回復、犯行の経緯、再犯防止等を個別に示す必要があります。事例1348・起訴便宜主義と判例
裁判例の結論は、それぞれの事実関係に基づきます。過去の判例の意義と現在の法令・手続を区別し、個別事件への当てはめを検討してください。
10 繰り返す万引き・高齢者・少年の再発防止
「二度としません」という誓約だけでなく、なぜ繰り返したのかと、次に同じ状況になったときの対策が必要です。買物への同行、買物の頻度・方法の見直し、孤立や生活困窮への支援、家族・支援者との連絡方法など、実行できる計画を作ります。通院や服薬がある場合は主治医に相談し、認知機能や精神面の問題が疑われる場合は、適切な医療・福祉の支援につなぎます。
繰り返す万引きのすべてが窃盗症(クレプトマニア)というわけではありません。診断は専門家が行い、診断名があるだけで刑事責任がなくなるわけでもありません。治療・支援の継続状況を弁護士と共有し、必要に応じて意見書等を検討します。高齢者の見守りや生活上の支援は、地域包括支援センター等への相談も選択肢です。
20歳未満は少年法の対象で、18・19歳も「特定少年」として対象に含まれます。成人と同じ微罪処分・不起訴の説明をそのまま当てはめず、家庭裁判所の手続、付添人、家庭・学校との支援体制を検討します。14歳未満は刑法41条により処罰されませんが、警察の調査や児童相談所等による対応があり得ます。
前科がある、執行猶予中に再び万引きをした場合は、実刑や以前の執行猶予の取消しも問題になります。2025年施行の執行猶予制度改正も踏まえ、過去の判決日、刑、猶予期間、今回の行為日を確認します。早めに弁護士へ判決書等を見せてください。
東京都・子供の万引き防止教材/令和8年度・中学校用リーフレット(PDF)。ご家庭で話し合う際の資料として利用できます。
11 弁護士に相談・依頼する意義
弁護士は、罪を認める事件では被害回復と再発防止を具体化し、争う事件では故意・行為・証拠を検討して、本人の権利を守ります。早期の相談には次の意義があります。
- 取調べへの対応、供述調書の確認、証拠の保存について助言する。
- 接見と家族との連絡、勾留回避・身柄解放のための資料を準備する。
- 被害店舗の意向を踏まえて示談を交渉し、合意書・弁償資料を整える。
- 微罪処分や不起訴の可否を検討し、検察官等へ意見と資料を提出する。
- 医療・福祉・家族の支援を刑事弁護と結び付け、再発防止の実効性を示す。
- 起訴後の裁判・保釈や、仕事・資格等への影響も検討する。
相談時は、発覚日時、店舗・被害額、商品返還や支払の有無、警察署・検察庁からの連絡、前科前歴、持病・服薬を分かる範囲で伝えてください。本人が覚えていない事柄を家族の推測で断定しないことも大切です。
12 新銀座法律事務所の無料相談
万引きで呼出しを受けた方、家族が逮捕された方、示談や再発防止について悩んでいる方は、早めにご相談ください。
受付:平日9:00~21:00/土日祝日9:00~18:00
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逮捕されている場合は、警察署名と逮捕日時を最初にお伝えください。無料相談と、接見・示談交渉・弁護人としての活動の依頼は別です。具体的な依頼範囲と費用は、事情を伺ってご案内します。
14 参考法令・公的資料・PDF
- 刑法:235条・238条・243条等
- 刑事訴訟法:身柄拘束、246条・248条、略式手続等
- 法務省:拘禁刑下の矯正処遇等
- 裁判所:刑事事件の手続
- 裁判所:簡易裁判所の刑事事件・略式手続
- 東京都:万引き防止啓発リーフレット・教材
- 東京都:令和8年度・中学校用リーフレット(PDF)
- 新銀座法律事務所:示談等の参考書式の案内
情報確認日:2026年10月5日。具体的な処分は、事実関係、行為時の法令、証拠、個別事情によって異なります。