- 法律相談事例集
- No.1347|
前科記録の管理方法
刑事|前科記録管理の流れ|既決犯罪通知書と犯罪人名簿の意義
質問
私には万引きで罰金の前科がありますが、この記録はどのように管理されているのでしょうか。考え出すと不安になって夜も眠れなくなってしまいました。
回答
1 有罪判決を受け、これが判決確定すると、事件記録は、「刑事確定訴訟記録」となり、刑事確定訴訟記録法に基き、厳重に管理されます。
2 有罪判決が確定し、刑の執行を受ける段階になると、前科の記録は、「既決犯罪通知書」にまとめられ、地方検察庁本庁において電子計算機(つまりコンピューター)に記録が入力されます。これは、法務省令「犯歴事務規程」によって手続が定められています。この記録は、対象者が死亡するまで抹消されませんが、厳重に管理されており、検察官又は検察事務官が職務上の必要に基いて前科照会することしかできません。
3 「既決犯罪通知書」は、検察庁から、対象者の本籍地の市区町村役所にも送付通知されます。本籍地の市区町村では「犯罪人名簿」が作成されますが、厳重に管理されており、法令の根拠なく外部に前科事実が漏洩することはありません。
4 新聞報道された刑事事件については、有料検索ですが、いつでも誰でも検索することができます。
5 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 刑事確定訴訟記録法4条の趣旨
有罪判決を受け、これが判決確定すると、事件記録は、「刑事確定訴訟記録」となり、刑事確定訴訟記録法に基き、厳重に管理されます。
記録の保管は、刑事事件の一審を担当した検察庁に保管されます(刑事確定訴訟記録法2条1項)。日本国憲法37条1項で、「すべての刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定されている事を受け、確定記録も原則公開である旨が刑事確定訴訟記録法4条で規定されています。公開裁判の目的は刑事裁判の内容を一般国民に開示して監視させ、適正公平、迅速な刑事手続きを保障して被告人の人身、財産の自由を守り、最終的に公正な法社会秩序を形成しようとしています。刑事裁判に対する国民の監視を実質的に保障しようとすれば、刑事記録の閲覧も基本的に不可欠のものとなります。
しかし、刑事記録は被告人の前科の内容を記載するものですから、正当な理由がなく濫用されるともともと被告人の基本的人権を守るための公開の原則が、被告人の更生や名誉権や、生活の平穏を事実上侵害することになり本末転倒の結果が生じてしまいます。従って、保管検察官の裁量により、正当な理由の無い第三者からの閲覧申請は認められない運用になっています。刑訴53条第1項但し書き、刑事確定訴訟記録法4条はこの趣旨から規定されています。大学の研究者が研究論文作成のために閲覧するなど、極めて限られた場面に限って閲覧が認められています。記録の保管期間は、刑の重さにより1年から100年まで規定されていますが、罰金刑であれば確定から20年間となっています。刑事確定訴訟記録法4条の判例後記参照。
刑事確定訴訟記録法別表抜粋
1 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する確定裁判の裁判書 100年
2 有期の懲役又は禁錮に処する確定裁判の裁判書 50年
3 罰金、拘留若しくは科料に処する確定裁判の裁判書 20年
(但し刑事確定訴訟記録法施行規則3条により、道路交通法違反の略式命令又は交通事件即決裁判が確定した場合は1年)
2 既決犯罪通知書について|犯罪事務規程
前記の「刑事確定記録」とは別に、前科の「情報」が、各地方検察庁のコンピューターに入力され、保管・管理されます。この手続方法は、法務省訓令である「犯歴事務規程」に従って管理されています。法務省訓令というのは、法務大臣の職務権限に属する事項についての職員に対する命令をまとめたものです。
電算処理の対象となる事件は、次の事件を除く全事件です(犯歴事務規程2条)。
(1)本邦に本籍がある明治以前の出生者の事件
(2)本邦に本籍のない大正以前の出生者の事件
(3)本籍が明らかでない者の事件
(4)法人又は団体の事件
(5)道路交通法、道路交通取締法、道路交通取締法施行令、道路交通取締令又は自動車の保管場所の確保等に関する法律違反の罪に係る裁判であって、罰金以下の刑に処し、又は刑を免除した事件
電算処理の対象となる事件については、確定した裁判を担当した検察官の属する検察庁の検察官が「既決犯罪通知」を作成し、これを、検察庁の所在地を管轄する地方検察庁の本庁の犯歴係事務官に送付します(犯歴事務規程3条3項、刑事訴訟法472条)。
「既決犯罪通知」を受領した犯歴係事務官は、この情報をコンピューターに入力し、いつでも前科の照会に応じられる態勢を整えます(犯歴事務規程3条2項)。
一度入力された犯歴(前科情報)は、基本的に訂正されることも、削除されることもありませんが、例外的に、誤りが発見されたなど「訂正すべき事項があると思料されるとき」には、「犯歴事項訂正通知書」が作成され、これが管轄する検察庁の犯歴係事務官に送付され、訂正されることになります(犯歴事務規程12条)。また、犯歴係事務官が対象者の死亡を知ったときは、「死亡通知書」が作成され、コンピューターに入力された犯歴事項が抹消されます(犯歴事務規程18条)。
犯歴の照会と回答は、「検察官」又は「検察事務官」が、職務上、刑事事件の処理に必要な限りにおいて、「前科照会書」を作成し、記録を管轄する犯歴係事務官に送付して行います。犯歴係事務官の回答は「前科調書」を作成して返答することにより行われます(犯歴事務規程13条)。いずれも極めて厳格に運用されており、第三者が取得することは原則としてできない仕組みになっています。
3 市区町村が管理する犯罪人名簿
罰金以上の犯歴は、検察庁のコンピューターに入力されると同時に、「既決犯罪通知書」が、対象者の本籍地の市区町村長に対して送付され、市区町村では、「犯罪人名簿」が作成されます(犯歴事務規程3条4項)。
この、各市区町村の「犯罪人名簿」は、主として、市区町村が所管する各種選挙の実行の際に、「選挙権」と「被選挙権」の有無を確認されるために使われています。前科の情報は重大なプライバシー情報になりますので、一般的に市役所で「無犯罪証明書」を発行するような手続は行われていませんが、例外的に、外国官公署から国際結婚や永住権申請などのために証明書発行を求められた場合には、「証明書発行を求められている事を示す資料」を添付して、各都道府県警察に申請すれば発行されるようです。
「犯罪人名簿」の運用については、各自治体で条例や規則により規定されています。東京都の例で、犯罪人名簿が使用されうる場面について列挙しますので、参考にして下さい。いずれも法令に根拠のある権限の発動に必要な調査で、第三者が自由に照会できる仕組みにはなっていませんのでご安心下さい。
(1)選挙資格の調査
(2)警察署、検察庁、裁判所からの照会
(3)行政庁が医師、弁護士などの資格者を登録する際の欠格事由の調査
(4)国家公務員、地方公務員採用の際の調査
4 1984年、刑事事件の新聞記事コンピュータ化
新聞報道された刑事事件については、新聞記事が概ね1984年以降コンピュータ入力されデータベース化されておりますので、有料検索となりますが、何時でも誰でも費用を支払えば検索することができてしまいます。刑事事件の報道は、公益性の高い場合に限って行われておりますので、ご質問のケースでは報道されていないと思われますが、万引き事案でも、重要な公職に在任している公務員が行った場合には報道される可能性はあります。報道することについても、報道された記事を検索してこれを外部に公表することについても、いずれも名誉毀損罪が成立する可能性がある行為となりますので、一般的にはご心配には及びませんが、万一、第三者による公表が行われている場合には、代理人弁護士を依頼して、公表を停止するよう請求するなどの手段が考えられますのでお困りの際はお近くの法律事務所にご相談下さい。
参考URL
以上
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参考条文
判例
参考判例 刑事確定訴訟記録閲覧不許可処分に対する準抗告申立事件
横浜地方裁判所川崎支部平成15年8月14日決定 妥当な判決でしょう。
主 文
被告人甲山こと乙川太郎に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反等被告事件(横浜地方裁判所川崎支部平成12年(わ)第310号等,東京高等裁判所平成12年(う)第2460号)に係る刑事確定訴訟記録につき,平成15年4月14日に横浜地方検察庁川崎支部検察官が申立人に対してした閲覧不許可処分中,第1審判決書,控訴審判決書についての閲覧不許可処分を取り消す。
上記検察官は,申立人に対し,上記各判決書について,被告人(氏名を除く),被害者,関係者等の氏名等の固有名詞,犯罪地等の住所地番などに仮名処理を施すなどした上で,これを閲覧させなければならない。
理 由
本件申立ての趣旨及び理由の要旨は,申立人作成の準抗告申立書記載のとおりであるから,これを引用する。
1 本件に関する経過及び当事者の主張は次のとおりである。
(1)申立人は,平成15年4月4日,横浜地方検察庁川崎支部保管検察官に対し,前記被告人甲山こと乙川太郎に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反等被告事件(横浜地方裁判所川崎支部平成12年(わ)第310号等,東京高等裁判所平成12年(う)第2460号)(以下「本件事件」という)の刑事確定訴訟記録中,被害者,被告人のプライバシーに関する部分についての配慮を求めた上で第1審起訴状,冒頭陳述書,論告要旨,弁論要旨,判決書及び控訴審における控訴趣意書,答弁書,判決書の閲覧並びに第1審及び控訴審判決書の謄写を請求した。その理由の要旨は,申立人が,事件名を同じくする刑事事件の控訴審弁護人として職務を遂行するに当たり,立証活動の参考にするため類似事案を検討したいというものであった。これに対し,同支部検察官は,同月14日付けで請求の全てについて不許可としたことから,申立人は,主文掲記の範囲について準抗告の申立てをし,その理由として,前記の理由に付加して,同一事件名の弁護人として,その職務に関し,本件事件の保護法益等に関する判示,量刑理由を参照したいこと及び申立人自身が児童買春等に関する法律の研究をしており,その研究資料としたいからであるとしている。
(2)一方,同支部検察官は,申立人の閲覧及び謄写の請求が刑事確定訴訟記録法4条2項3号ないし5号に該当することを理由として,前記のとおり不許可としたが,その詳細は,刑事確定訴訟記録法4条2項3号該当事由については,本件犯行態様等に照らし,保管記録の閲覧をさせた場合には,卑劣な犯行の手段,方法,態様等を公にすることにもなりかねず,公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあるとし,同項4号該当事由については,本件犯行当時の状況等に照らすと,保管記録の概要等が公刊物に掲載されるなどして公表されただけで,元被告人の氏名等を伏せたとしても,その犯行であることが一般人に了知される状況にあり,元被告人の改善及び更生を著しく妨げることとなる虞があるとし,同項5号該当事由については,被害児童の氏名等を伏せたとしても,前記のとおり本件が元被告人の犯行であることが一般人にも了知される状況にあるから,保管記録を閲覧させた場合には,被害児童及びその関係者にとって被害児童が関係していることが判然としている事案が公刊物等に長く掲載される事態が生じかねず,関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害する虞があるとし,さらに申立人が同種事件弁護人であるとしても,本件記録には量刑等について申立人主張のような申立人にとって参考になる記載はなく,また閲覧目的が研究目的であるとしても,直ちに閲覧について正当な理由があることにはならないから,結局,申立人について閲覧についての正当な理由もないとしている。
2 そこで,検討するに,申立人が準抗告の対象としているのは,第1審及び控訴審の判決書の閲覧についてのみであるところ,終局裁判の裁判書の閲覧は,その性質に照らし,それ以外の保管記録の閲覧に比して同項3号ないし5号に列挙する制限事由に当たる場合が類型的に見て少ないと考えられる上,終局裁判の裁判書は国家の刑罰権の行使に関して裁判所の判断を示した重要な記録であって,裁判の公正担保の目的との関係においてもこれを一般の閲覧に供する必要性が高いといえる(刑事確定訴訟記録法4条2項柱書本文参照)。
さらに本件申立てに係る判決書について検討するところ,その申立てが判決書の閲覧に際し,被告人の身上や被害者の人定に関する部分は除くことを前提にしていることを踏まえると,被告人,被害者の氏名等固有名詞や犯罪地などの住所地番を仮名処理等することによって,本件申立に係る判決書中の犯罪事実等の記載内容をある程度一般化,抽象化することは可能であるから,かかる配慮をした上でこれらの閲覧を許可したとしても,検察官の主張するような事態が生じるとは認められず,刑事確定訴訟記録法4条2項3号ないし5号に該当する事由があるとは認められない。
よって,本件申立ては理由があるので,刑事確定訴訟記録法8条,刑事訴訟法430条1項,432条,426条2項により,主文のとおり決定する。