新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1787、2017/09/09 16:06 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【家事、離婚、東京高判平成元年11月22日】

有責配偶者からの離婚請求



質問:私は,現在,妻と10年間別居しており、離婚の話をしていますが、妻は離婚に反対しています。裁判をすれば妻と離婚することはできるでしょうか。もともと,別居の原因は,私の不貞にあり,別居期間はもうすぐ10年になります。また,私たちには,来年から大学生になる息子もいます。



回答:
1 離婚の裁判を起こせるのは、法律で定める離婚事由が認められる場合に限られています(民法770条)。10年間の別居が離婚事由に該当するか否か問題となるのは同条1項5号に記載されている「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」といえるか否かです。基準となるのは婚姻が破綻していて、円満な夫婦関係に戻ることができるか否か、という点です。従って、単純に別居の期間が10年ということだけでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」とは言えません。判例では、別居の期間が12年であっても離婚を認めない場合もありますし、8年でも認めるものもあります。重要なのは、夫婦が、今後円満な夫婦関係を築くことができるか否かという点で、この点について過去から将来の諸事情を考慮して具体的に判断することになります。

2 さらに本件では婚姻関係が破綻しているような場合でも,別居の原因が夫にあるという点が問題となります。民法770条2項では「裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」と規定されていますが、5号の場合は、2項は適用されないと解釈されています。従って、5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由がある」と認められれば離婚は認められることになります。しかし、離婚の原因を作った者(「有責配偶者」といいます)からの離婚請求を裁判所が認めることは公平、正義の見地から許されないのではないか問題とされ、有責配偶者からの離婚請求である場合には,公平、正義という観点から請求が認められない場合があるとされています。有責配偶者からの離婚請求が認められるか否かの基準は、有責配偶者からの離婚請求が信義誠実の原則に反しないか、という点です。具体的には,夫婦の別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との関係で相当長期間に及んでいるか,別居期間中の婚姻費用の分担がされていたか、未成熟の子がいるか,離婚により相手方への不利益はどの程度かなどを考慮して,離婚請求を認容することが社会正義に反するといえるような特段の事情がないかが判断されることになります。
 ご相談では、別居期間が10年、未成熟の子供がいるということですが,婚姻が破綻しているか否か、破綻しているとして有責配偶者からの離婚請求を認めることが正義公平に反しないかについて、現時点で離婚しなければならない事情があるか、別居期間中の夫婦の関係、婚姻費用の分担、離婚後の親子の生活の保障等の諸事情を中心に裁判所が離婚を認めるか否か判断することになります。

3 なお、裁判上の離婚の請求が認められるという見通しがたったとしても、まずは、協議離婚の話をするのが良いでしょう。いきなり裁判を起こすことは法律上できませんし、調停から法的手続きをとるのは時間もかかります精神的な負担も大きなものになります。特に、有責配偶者という点を考慮すればある程度の経済的な出捐はやむを得ないところですから、感情的にならずに、裁判外で早期の解決を図るのが適切な対応といえます。

4 関連事例集1590番1431番1391番1280番1193番1168番1132番1056番1043番984番983番981番937番806番790番684番663番654番535番523番参照。


解説:

第1 離婚が成立するまでの手続きについて

1 夫婦が離婚する場合は,まず,当事者間で協議をし,離婚届けを提出することが考えられます(民法763条)。協議により離婚する際には,離婚の合意とともに,未成年の子がいるときは,親権者をどちらにするかも決めなければなりません(民法819条1項,戸籍法76条1号参照)。なお,届け出は,届出人の本籍地又は所在地で行います(戸籍法25条1項)

   協議離婚の成立時期は,離婚届けを役所に提出した時となります(民法764条で準用する739条1項)。

2 もし,当事者間の協議で離婚の話がまとまらないときは,家庭裁判所に離婚の調停を申し立てることとなります(家事事件手続法(以下,単に「家手法」といいます。)244条,257条1項)。調停において,離婚及び親権者に関して,当事者間で合意ができれば,調停成立となります。調停が成立したときは,その旨を調書(裁判所の記録)に記載しますが,この調書(調停調書)は,確定判決と同様の効力を持ちます(家手法268条1項)。このときの離婚の成立時期は,調停の成立の時となります。ただし,調停成立から10日以内に,離婚届及び調停調書を届け出る必要があります(戸籍法77条1項,63条1項)。

   なお,離婚に付随する財産分与や慰謝料についても,調停を申し立てることができます。

3 調停によっても離婚の合意ができないときは,職権で,調停に代わる審判(家手法284条1項)がされることがあります。

  調停に代わる審判がされる場合には,@離婚等の主要な点については合意できたが,付随的な些細な点合意が成立しない場合(福島家群山支審判昭和48年10月18日参照),A実質的な合意はできているが一方当事者が病気等出頭できない場合(福岡家小倉支審判昭和63年10月18日参照),実質的な落としどころは見えているが一方当事者が感情的な問題で出頭しない場合(長崎家裁平成元年9月4日)などであるとされています。ただし,条文上,調停に代わる審判ができる場合が限定されているわけではないので,上記以外の場合でもなされる可能性はあります。

  もっとも,調停に代わる審判に対しては,2週間の不変期間内に異議を申し立てることができ(家手法286条1項,2項,279条2項),適法な異議の申立てがあると審判の効力が失われます(家手法286条5項)。

  調停に代わる審判が確定したときは,確定判決と同様の効力があります(家手法287条)。

4 以上のように,協議や調停で離婚の合意がまとまらず,調停に代わる審判もなされない,又は異議の申立てにより効力が失われた時は,家庭裁判所に離婚の訴えを提起することとなります(人事訴訟法2条1号,4条)。そして,以下で述べる離婚事由が認められれば,判決確定時に離婚が成立することになります。なお,裁判上の離婚の場合も,10日以内に離婚届及び判決書謄本を届け出なければなりません(戸籍法77条1項,63条1項)。

第2 離婚請求と離婚事由について

1 裁判上の離婚事由は,民法770条1項の1号から5号までに規定されています。この民法770条1項のうち,1号から4号までは具体的な離婚原因が示されており,5号は「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という抽象的な事由を規定しています。なお,1号から4号までに該当する場合であっても,同条2項の「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるとき」との要件が充足されるときは,離婚請求は棄却されることになります。

  なお,同条2項によって請求が棄却される例としては,同条1項4号「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」に該当するが,病者の離婚後における療養,生活などについてできるかぎりの具体的方策が講ぜられるなど,その方途の見込みがついた場合でなければ,離婚請求は認めるべきではないとした判例があります(最判昭和45年3月12日参照)。

2 一方,5号に該当する場合には,同条2項が「1号から4号まで」と限定していることから、同項の適用はありません。また,民法770条2項の他には,離婚原因に該当する事由があっても離婚請求を排斥できる場合を定めた具体的な規定はありません。このような規定から,同条1項5号は,夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成することができなくなり,その回復の見込みがなくなった場合には,訴えによって離婚を請求することできる旨を定めたものと解されており,有責配偶者からの請求を許容すべきでないとの趣旨までは読み取ることができないと言われています(最判昭和62年9月2日参照)。

3 別居期間と5号事由該当性について

  5号の離婚は「婚姻を継続しがたい重大な事由」です。そこで、長期間の別居というだけでは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」が認めらことにはならず、具体的に別居の原因や、別居の状況、子供の関係とかを考慮して判断されることになります。長期間の別居などを理由に離婚請求がなされる場合は,大体,離婚請求者に不貞などの有責性があることが多く,単純な別居期間のみから婚姻関係の破綻を判断している裁判例はあまりないようです。別居が長期間化すると双方離婚もやむを得ないと考え、協議離婚や調停離婚で離婚が成立する場合が多いのですが、有責性のある配偶者からの離婚請求の場合、感情的に相手方が離婚に応じないため、訴訟に至るケースが多いのではないかと考えられます。

  長期の別居を離婚事由とする裁判例では、約6年9カ月の別居期間(別居後に別の女性と同居している事案であるが)で婚姻関係の破綻を認定している裁判例があります(徳島家裁平成21年11月20日)。他には,被請求者の不倫疑惑で夫婦間の会話が少なくなり,請求者が別の女性と男女の仲になり別居を始め,別居後6年を超えており,夫婦関係の改善は全く見られなかったという事案でも,婚姻関係は完全に破綻し,今後修復していくことは期待できないと示した裁判例もあります(東京高判平成14年6月26日)。

  また,過去には,婚姻法改正要綱において,裁判上の離婚事由として「D 夫婦が5年以上継続して共同生活をしていないとき。」との条項が挙げられたこともありました。他の事情によって,婚姻関係が破綻していると認められるかは異なりますが,大体の別居期間の目安としては,5年以上になると考えられます。

第3 有責配偶者からの離婚請求について

 1 民法には,直接的に,有責配偶者からの離婚請求を制限するような規定は存在しません。しかし,判例では,以下のように,一定の場合には,有責配偶者からの離婚請求が制限されることがあると述べています。


(最判昭和62年9月2日)
  「(省略)相手方配偶者が離婚に同意しない場合について裁判上の離婚の制度を設け、前示のように離婚原因を法定し、これが存在すると認められる場合には、夫婦の一方は他方に対して裁判により離婚を求めうることとしている。このような裁判離婚制度の下において五号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであって、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでないことはいうまでもない。
  婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失っているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえって不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであってはならないことは当然であって、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。
  そこで、五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、(途中省略)
夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。」


 2 なお,上記最判は,原審を破棄し,差し戻していますが,差戻審である東京高判では,まず,有責配偶者からの離婚請求であること,すでに婚姻関係は破綻し,回復の見込みがないことを認定した上で,離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の有無について判断しました(東京高判平成元年11月22日)。

第4 具体的な裁判例について

 1 離婚請求を認容した裁判例

  ? 東京高判平成元年11月22日

   約12年間の同居期間(ただし,途中4年間は従軍のため同居していなかった)の後,裁判まで約40年間の別居期間があること,請求者は現在,別の女性と同居しており,妻と共同生活を営む意思を確定的に失っていて,円満な婚姻生活を回復する見込みはないこと,請求者は77歳で妻は73歳という高齢に達していること,夫婦間に子はいないことなどから,特段の事情のない限り,離婚請求は認容されるべきであるとしています。

   そして,特段の事情に関して,妻からは,自己の意思に反して強制的に離婚が認められることへの精神的苦痛や,離婚により経済的に不安定な状態に置かれるなどが主張されました。しかし,精神的苦痛に対しては,裁判離婚一般に認められるものであって,殊更これを重視すべきでないこと,経済的な不利益に対しては,財産分与ないしは慰謝料によって解決されるべきものであるとの判断がされ,特段の事情には当たらないとの判断がされました。

  ? 最判平成2年11月8日

    この最判は,離婚請求を認容したわけではありませんが,請求を棄却した東京高判平成元年4月26日の判断を破棄し,原審に差し戻しました。その理由として,離婚請求の許否の判断の際は,「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかどうかをも斟酌すべきものであるが、その趣旨は、別居後の時の経過とともに、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないことから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきである」とし,別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りないとしました。そして,別居期間は約8年ではあるものの,請求者は別居後も生活費を負担していたこと,別居後まもなく不貞を解消していたこと,離婚請求に際しては,財産の清算について具体的で誠意のある提案をしていたこと,成年に達した子らも婚姻当事者の意思に任せる意向であることなどを認定し,審理不尽を理由に請求を棄却した原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため原審に差し戻しました。この事案の原審では,「本件における約八年の別居は、控訴人と被控訴人の年齢及び同居期間と対比して考えた場合、いまだ被控訴人の有責配偶者としての責任と控訴人の婚姻関係継続の希望とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間ということはできず」「信義誠実の原則に反するものとして、これを容認することができない」との理由を示しており,有責配偶者からの請求を容認してよいかの点で,別居期間の長さを考慮しています。

    なお,原審及び第一審では,別居期間や請求者の不貞が原因で別居が始まったこと,請求者が別居期間中は他の女性と同棲していたこと,別居期間もほぼ交流がなく,生活費を授受する関係ぐらいしかなかったことなどから,婚姻関係の破綻を認めています(東京高判平成元年4月26日,東京地判昭和63年6月20日)。第一審と原審では,ともに婚姻関係の破綻及び請求者が有責配偶者であることを認定しながらも,第一審では請求を認め,原審では請求を棄却したという経緯がありました。

  ? 最判平成6年2月8日

    この事案では,高校2年生の未成熟子がいましたが,一般論として「請求が信義誠実の原則に照らしてもなお容認されるかどうかを判断するには、有責配偶者の責任の態様・程度、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等がしんしゃくされなければならず、更には、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである。したがって、有責配偶者からされた離婚請求で、その間に未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく、前記の事情を総合的に考慮して右請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができると解するのが相当である」とし,未成熟子がいる場合であっても離婚請求が認容され得ることを示しました。

   その上で,具体的な事実関係として,別居期間が約14年であること,請求者が別の女性と正式な婚姻生活に入ることを希望していること,被請求者が請求者に手紙などで積年のうらみをぶつけるなどの態度を取っていたことから婚姻関係の回復は期待できず,被請求者の婚姻継続の意思及び離婚による精神的,社会的状態を重視して離婚請求を排斥することは相当でないとしました。また,未成熟子に関して,請求者が養育費等の婚姻費用を毎月15万円送金していたことなどから,養育にも無関心であったものではなく,離婚に伴う経済的給付もその実現を期待できるものとみることができるので,未成熟子の存在が離婚請求の妨げになるものではないとし,結論として請求を認容しています。

 2 棄却した裁判例

  ? 最判平成元年3月28日

    事案としては,請求者が大正15年生まれ,被請求者が昭和3年生まれであり,同居期間が約22年で別居期間が約8年,子どもは4人いたが未成熟子はおらず,請求者の不貞などを原因に別居が始まったというものでした。この事案で,判例は,まず「前記事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人との婚姻については同号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが」と判事しており,770条1項5号の事由があること及び,請求者が有責配偶者であることを認定しました。その上で,「双方の年齢や同居期間を考慮すると,別居期間が相当の長期間に及んでいるものということはできず,その他本件離婚請求を認容すべき特段の事情も見当たらない」とし,請求を棄却しています。

  ? 福岡高判平成16年8月26日

    事案としては,請求者と被請求者は昭和23年生まれ,請求者は再婚を希望している別の女性がいたが,その女性とは同居しておらず,月に1回程度会うにとどまっていました。両当事者間には大学生になる未成熟子が一人おり,被請求者の収入は月7万円程度であって,請求者から送金される月20万円と併せて生活していました。請求者は婚姻関係を回復する意思を全く持っておらず,離婚を強く望んでいるが,被請求者は婚姻関係の回復を希望し,家族の生活を取り戻したいとし,離婚を拒んでいる。請求者からは,離婚に伴う給付として合計800万円を支払うことを提案していたというものでした。

    判決の結論部分は,「両者の婚姻関係が決定的に破綻した直接の原因は控訴人の不貞にあるところ,当審口頭弁論終結時(平成16年6月29日)までの別居期間は,控訴人が被控訴人に対して初めて離婚を切り出した平成6年11月から起算して約9年余であるのに対し,同居期間が約21年間に及ぶことや双方の年齢等も考慮すると,別居期間が相当の長期間に及ぶとまで評価することは困難である。さらに,控訴人とC(請求者と別の女性)との間に子がいないことに加え,控訴人とCとの交際の実態等に照らすと,控訴人の離婚請求を認めた上で,Cとの間の新たな婚姻関係を形成させなければならないような緊急の要請もないものといわなければならない。他方,被控訴人は,控訴人から支払われる婚姻費用によって,ようやく生活を維持できている状態にあるというほかはなく,その職歴,年齢等に照らすと経済的に自立できる程度の職業に就ける見通しも乏しいから,被控訴人が離婚によってたちまち経済的に困窮する事態に追い込まれることは,容易に予測されるところである。さらに,離婚に伴う給付として控訴人が提案する内容も,前記事実関係の下においては,なお十分であるとはいい難い。
    してみると,控訴人による本件離婚請求は,信義誠実の原則に照らし,なお容認することはできないといわなければならない。」とし,請求を棄却しました。

第5 総論

  以上,長期間の別居後の離婚に関しての一般論や有責配偶者からの離婚請求についての裁判例を紹介しましたが,判例では、長期間の別居により婚姻関係が破綻したか否かについても、有責配偶者からの請求の場合は、破綻の要件の認定を厳格にしているようです。本来は、婚姻が破綻しているか否かという問題は、現時点での夫婦関係の問題ですから、過去の別居の原因とは関係がないとも考えられますが、判例では、別居の原因と破綻の事実は関係があり、別居の原因を作り出した有責配偶者から請求がされた場合、破綻となっていることを認める要件が厳格になっているようです。つまり破綻したと認められるには,単純に同居期間と別居期間の対比や未成熟子の有無などによって決まるものではなく,別居前後の諸般の事情なども考慮して決せられます。ほかにも,裁判例は多数ありますが,全て個別具体的な事実関係が異なりますので,抽象的な事実関係での判断は困難といえます。


参照条文:
民法
(婚姻の届出)
第七百三十九条  婚姻は、戸籍法 (昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2  前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
(協議上の離婚)
第七百六十三条  夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
(婚姻の規定の準用)
第七百六十四条  第七百三十八条、第七百三十九条及び第七百四十七条の規定は、協議上の離婚について準用する。
(裁判上の離婚)
第七百七十条  夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
(協議上の離婚の規定の準用)
第七百七十一条  第七百六十六条から第七百六十九条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条  父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2  裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。

家事事件手続法
(調停事項等)
第二百四十四条  家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。
(調停前置主義)
第二百五十七条  第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
(調停の成立及び効力)
第二百六十八条  調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。
(異議の申立て)
第二百七十九条  当事者及び利害関係人は、合意に相当する審判に対し、家庭裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、当事者にあっては、第二百七十七条第一項各号に掲げる要件に該当しないことを理由とする場合に限る。
2  前項の規定による異議の申立ては、二週間の不変期間内にしなければならない。
(調停に代わる審判の対象及び要件)
第二百八十四条  家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。ただし、第二百七十七条第一項に規定する事項についての家事調停の手続においては、この限りでない。
(異議の申立て等)
第二百八十六条  当事者は、調停に代わる審判に対し、家庭裁判所に異議を申し立てることができる。
2  第二百七十九条第二項から第四項までの規定は、前項の規定による異議の申立てについて準用する。
3  家庭裁判所は、第一項の規定による異議の申立てが不適法であるときは、これを却下しなければならない。
4  異議の申立人は、前項の規定により異議の申立てを却下する審判に対し、即時抗告をすることができる。
5  適法な異議の申立てがあったときは、調停に代わる審判は、その効力を失う。この場合においては、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。
調停に代わる審判の効力)
第二百八十七条  前条第一項の規定による異議の申立てがないとき、又は異議の申立てを却下する審判が確定したときは、別表第二に掲げる事項についての調停に代わる審判は確定した第三十九条の規定による審判と同一の効力を、その余の調停に代わる審判は確定判決と同一の効力を有する。

人事訴訟法
(定義)
第二条  この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一  婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
(人事に関する訴えの管轄)
第四条  人事に関する訴えは、当該訴えに係る身分関係の当事者が普通裁判籍を有する地又はその死亡の時にこれを有した地を管轄する家庭裁判所の管轄に専属する。

戸籍法
第二十五条  届出は、届出事件の本人の本籍地又は届出人の所在地でこれをしなければならない。
第六十三条  認知の裁判が確定したときは、訴を提起した者は、裁判が確定した日から十日以内に、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならない。その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。
第七十六条  離婚をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一  親権者と定められる当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名
二  その他法務省令で定める事項
第七十七条  第六十三条の規定は、離婚又は離婚取消の裁判が確定した場合にこれを準用する。
○2  前項に規定する離婚の届書には、左の事項をも記載しなければならない。
一  親権者と定められた当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名
二  その他法務省令で定める事項



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