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No.1682|お金を請求する時、請求された時、債権回収

不在の家族への送達の有効性|特別送達を本人以外が受領した事案

民事|民事訴訟法の基本原理と送達の関係|補充送達の要件、送達無効の対策|支払督促制度の概要|東京地方裁判所昭和32年11月15日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

息子宛ての、裁判所からの特別送達という手紙が自宅に配達されたので受け取ってしまいました。中を見ると、息子に対する支払督促が入っていました。2週間以内に書面を出さないと仮執行宣言が付されて財産に対して執行することができると書いてあります。

しかし、息子は現在一緒には住んでいませんし、連絡も取れません。

どうしたらよいでしょうか。このまま放置しておいてよいのでしょうか。

回答

1 配達の担当者は、息子さんが同居されていると判断して、あなたに郵便物を渡したのでしょう。本来は、息子さんはここには住んでいないと説明して受領を拒否すべきでした。しかし、受け取った以上は、息子さんに手紙が配達されたとして扱われ、裁判所としては手続きを進めてしまいます。

2 支払督促がはいっていたということですから、このまま放置すると、裁判所も事情を分からず、送達から2週間経過してしまうと、仮執行宣言が付され強制執行ができる書類ができてしまいます。あなたとしては、直ちに裁判所に連絡し、事情を説明して手続きを進めないよう裁判所に連絡する必要があります。不安であれば、弁護士に相談依頼することも可能です。

尚、本件送達が有効として手続きが進められても、送達に違法性があるとして、督促異議を行うことができます(民訴394条)。申立てが2週間の不変期間経過後の異議であるとして却下された場合はその決定に対し即時抗告し(同2項)、認められなければさらに再審の訴え(民訴383条1項3号 349条1項、最高裁平成4年9月10日判決 )を提起し最終的に通常訴訟で争うこともできます。

3 この件については、民事訴訟法の基本原理、支払督促や特別送達という制度を理解する必要がありますので、詳しくは解説を読んで下さい。

4 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

0 民事訴訟法の基本原理と送達の関係

国民の裁判を受ける権利(憲法 32条 )を実質的に保障するには、私的紛争が民事訴訟、執行により①適正、②公平、③迅速、④低廉、すなわち訴訟経済(この4つの利益を調和し解釈するのが民事訴訟法の基本原理です。)に解決されなければいけません。

訴訟、執行は、裁判所が当事者の主張立証をよく聞いて法律を解釈適用し訴訟物(争いとなっている権利関係)の存否を判断しその判断に基づき紛争を強制的に解決するのですから、三当事者の間で長期間、主張、連絡が当然必要となります。訴訟の審理は口頭弁論において口頭主義が建前ですが、実質的には主張立証の整理のため裏付ける書面のやり取りが必要とされていますし、訴訟の進行についても迅速、低廉性を確保するため書面による連絡が不可欠です。当事者は渡された書面により自らの主張、異議等の機会が与えられることになります。

しかし、重要な書面を当事者、関係者に確実に渡さなければ主張立証の機会を失いますし、交付しても証拠となるものがなければ証明が出来ず事実関係の存否が紛糾し迅速な解決が出来ない危険があります。

そこで訴訟等の審理、進行について特に重要な内容、効果を持つ書面の交付については「送達」という特別な方式が採られています。例えば、提出した訴状は被告に対し送達しなければいけません(民訴138条)。送達されなければ手続きに違法となり上訴で取り消し理由となり(民訴306条)、再審事由にもなります(338条1項3号、最判平成4年9月6日)。訴状には原告の基本的主張が記載され被告に送達されることにより訴訟が開始される重要な効果があるからです。

支払督促(民訴382条以下。旧民訴の支払命令である裁判所の決定とは異なり裁判書記官の処分となっていますから裁判ではありません。)も簡易迅速に債務名義を取得する特別訴訟手続きであり訴状と同様に「送達」されます。

すべての書面が送達になっているのではなく、訴訟開始後の答弁書、準備書面は当事者が送達により確定しましたから当事者間で手渡し交付、FAX送信が出来ますし、相手方が裁判所に書面を受け取ったという申し出、確認をすればいいことになっています(規則47条、同83条1項、2項)。 

又、送達は、直接訴訟物、事実主張、立証の内容に直接かかわることではなく、主張の機会を与えるという手続きの進行に関することであり私的自治の原則(弁論主義)が適用されず職権主義を採用し裁判所の権限と責任になっています(民訴98条)。

尚、送達の役目は、当事者に訴訟(執行も)の進行上、主張、立証、反論、異議、反論を申し立てる機会を与えるという意味で適正、公平な裁判の前提となる手続き行為であり裁判を受ける権利を手続き面から保障しようとするものですから方式が法により特別に決まっています。

日本国憲法
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

1 送達一般

送達は相手に荷物を送り届けることを意味しますが、民事訴訟法では、「送達」という単語が使われる場合には裁判所が書類を相手に送り届けることを指します。

支払督促を含め、原告から訴訟が提起されると裁判所は相手方である被告に原告が裁判所に提出した訴状を送達します(民事訴訟法第138条)。訴状の他に送達されるものとしては、判決書や不動産競売開始決定、債権差押命令などがあります。

訴状が相手方に送達されることは訴訟開始の要件であり、相手方への送達の日から異議申立てや控訴に関する期間等が起算されます。訴状が相手方にきちんと送達されることにより、相手方は反論、反証、主張、立証、異議申し立て等の機会、時間を公平に与えられたことになり、裁判の結果に対する公平性、平等性、信頼性が保たれているのです。

このように送達は訴訟の結果に重要な影響を与えるため、送達については裁判所の職権で行うものとされています(法第98条)。そして実際に送達を実施する機関については特別の定めがない限り、「執行官」あるいは「郵便(郵便の業に従事する者)」、また「書記官(その所属する裁判所に出頭した当事者に関してのみ)」としています(法第99条、100条)。

民事訴訟法138条他

(訴状の送達)
第百三十八条 訴状は、被告に送達しなければならない。

(職権送達の原則等)
第九十八条 送達は、特別の定めがある場合を除き、職権でする。
2 送達に関する事務は、裁判所書記官が取り扱う。

(送達実施機関)
第九十九条 送達は、特別の定めがある場合を除き、郵便又は執行官によってする。
2 郵便による送達にあっては、郵便の業務に従事する者を送達をする者とする。

(裁判所書記官による送達)
第百条 裁判所書記官は、その所属する裁判所の事件について出頭した者に対しては、自ら送達をすることができる。

2 特別送達とは

では、今回息子さん宛ての封筒に記載されていた「特別送達」とはどのような意味なのでしょう。

封筒に記載された「特別送達」とは、郵便法第49条に定められている、郵便によってなされる送達のことを指します。特別送達は民事訴訟法の規定に基づいて行われ、郵便会社により送達された事実が証明されます。送達した状況については、配達担当者が「送達報告書」に記載し、これを郵便認証司が確認・認証して、送達報告書を完成させ、これを裁判所に届け出することになります。郵便局では、送達報告書の写しを1年間保管することとされています(郵便法施行規則17条2項)。

【参考書面】送達報告書の書式例

実務における送達はこの郵便による特別送達によるものがほとんどです。

郵便法49条他
郵便法

(特別送達)
第四十九条 特別送達の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物を民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第百三条 から第百六条 まで及び第百九条 に掲げる方法により、送達し、その送達の事実を証明する。
○2 前項の取扱いにおいては、郵便認証司による第五十八条第二号の認証を受けるものとする。
○3 特別送達の取扱いは、法律の規定に基づいて民事訴訟法第百三条 から第百六条 まで及び第百九条 に掲げる方法により送達すべき書類を内容とする郵便物につき、これをするものとする。

(職務)
第五十八条 郵便認証司は、次に掲げる事務(以下この章において「認証事務」という。)を行うことを職務とする。
一 (略)二 特別送達の取扱いに係る認証(総務省令で定めるところにより、当該取扱いをする郵便物が民事訴訟法第百三条 から第百六条 までに掲げる方法により適正に送達されたこと及びその送達に関する事項が同法第百九条 の書面に適正に記載されていることを確認し、その旨を当該書面に記載し、これに署名し、又は記名押印することをいう。)をすること

民事訴訟法

(送達場所)
第百三条 送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし、法定代理人に対する送達は、本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2 前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは、送達は、送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも、同様とする。

(送達場所等の届出)
第百四条 当事者、法定代理人又は訴訟代理人は、送達を受けるべき場所(日本国内に限る。)を受訴裁判所に届け出なければならない。この場合においては、送達受取人をも届け出ることができる。
2 前項前段の規定による届出があった場合には、送達は、前条の規定にかかわらず、その届出に係る場所においてする。
3 第一項前段の規定による届出をしない者で次の各号に掲げる送達を受けたものに対するその後の送達は、前条の規定にかかわらず、それぞれ当該各号に定める場所においてする。
一 前条の規定による送達
その送達をした場所
二 次条後段の規定による送達のうち郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所(郵便の業務を行うものに限る。第百六条第一項後段において同じ。)においてするもの及び同項後段の規定による送達
その送達において送達をすべき場所とされていた場所
三 第百七条第一項第一号の規定による送達
その送達においてあて先とした場所

(出会送達)
第百五条 前二条の規定にかかわらず、送達を受けるべき者で日本国内に住所等を有することが明らかでないもの(前条第一項前段の規定による届出をした者を除く。)に対する送達は、その者に出会った場所においてすることができる。日本国内に住所等を有することが明らかな者又は同項前段の規定による届出をした者が送達を受けることを拒まないときも、同様とする。

(補充送達及び差置送達)
第百六条 就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所において書類を交付すべきときも、同様とする。
2 就業場所(第百四条第一項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において、第百三条第二項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは、これらの者に書類を交付することができる。
3 送達を受けるべき者又は第一項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。

(送達報告書)
第百九条 送達をした者は、書面を作成し、送達に関する事項を記載して、これを裁判所に提出しなければならない。

2 送達の方法

(ア)交付送達(法第101条)

裁判所からの書類をより確実に相手に届けるために、送達は直接相手方に手渡しで渡す「交付送達」が原則とされています(法第101条)。そして送達を受けるべき相手の場所は、個人の場合には住所、居所、就労場所とされています(法第103条)。

しかし、実際には受領を拒んだり、居留守を利用したり、受け取らずに放置されたりする場合もありますので、そのような場合にも対応できるよういくつかの送達方法が認められています。

民事訴訟法第101条

(交付送達の原則)
第百一条 送達は、特別の定めがある場合を除き、送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。

(イ)出会送達(法第105条)

送達相手に出会った場所で送達することができます。なお、出会送達は相手方が日本国内に住所を有している場合や送達場所の届出をしている場合には、送達を拒まない場合にのみ可能です。

民事訴訟法第105条

(出会送達)
第百五条 前二条の規定にかかわらず、送達を受けるべき者で日本国内に住所等を有することが明らかでないもの(前条第一項前段の規定による届出をした者を除く。)に対する送達は、その者に出会った場所においてすることができる。日本国内に住所等を有することが明らかな者又は同項前段の規定による届出をした者が送達を受けることを拒まないときも、同様とする。

(ウ)補充送達、差置送達(法第106条)

就業場所以外が送達をすべき場所で送達すべき相手方に会わない場合に、使用人や従業員、同居者でその書類の受領について相当のわきまえのある者に交付することが認められています。このような送達を「補充送達」と言います。

「相当のわきまえのある者」とは、受送達者と、ほぼ毎日、日常的に面会しており、預かった書類を数日以内に確実に本人に交付することができる者であると考えられます。本人の権利義務に重大な影響を及ぼしかねない送達をするのですから、本人に対して特別送達で渡すのとほとんど変わらない程の確実性が見込まれる者ということになります。このことから、配達担当者に面会した者が、本人の同居者であったとしても、事情を理解することが困難な児童・幼児であったり、痴呆症の恐れのある高齢者である場合には、「わきまえのある者」には含まれない可能性が高いと言えるでしょう。

以上の方法で送達を受けるべき者が、正当な理由がないのに受け取りを拒否する場合は、その場に書類を差し置いて送達する方法があります。このような方法を「差置通達送」と言います。達担当者が書類を置いて帰ってきてしまうのです。乱暴なようですが、送達の相手方が不当に送達の受領を拒否している場合でも、裁判手続を確実に進めるために、このような送達方法が認められているのです。補充送達も差置送達も、送達状況が送達報告書に記載され、郵便局から裁判所に提出されることになります。

民事訴訟法第106条

(補充送達及び差置送達)
第百六条 就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所において書類を交付すべきときも、同様とする。
2 就業場所(第百四条第一項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において、第百三条第二項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは、これらの者に書類を交付することができる。
3 送達を受けるべき者又は第一項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。

(エ)付郵便送達(第107条)

この送達は前述の補充送達、差置送達ができない場合に取られる送達方法です。付郵便送達は、裁判所書記官の裁量によって書留郵便で送達します。この送達は書留郵便の発送時に送達されたものとみなされます。付郵便送達は、送達の相手方の住居は明確であるが、相手方が徹底して居留守を使っているなど、どうしても補充送達や差置送達も出来ない場合に例外的に採られる送達方法です。相手方の受領行為を要しないという意味で後述の公示送達に類似しますが、付郵便送達は、あくまでも相手の住所や居所が明確である場合に採ることができる送達方法です。

民事訴訟法第107条

(書留郵便等に付する送達)
第百七条 前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場所にあてて、書類を書留郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成十四年法律第九十九号)第二条第六項 に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項 に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項 に規定する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして最高裁判所規則で定めるもの(次項及び第三項において「書留郵便等」という。)に付して発送することができる。
一 第百三条の規定による送達をすべき場合
同条第一項に定める場所
二 第百四条第二項の規定による送達をすべき場合
同項の場所
三 第百四条第三項の規定による送達をすべき場合
同項の場所(その場所が就業場所である場合にあっては、訴訟記録に表れたその者の住所等)
2 前項第二号又は第三号の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その後に送達すべき書類は、同項第二号又は第三号に定める場所にあてて、書留郵便等に付して発送することができる。
3 前二項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その発送の時に、送達があったものとみなす。

(オ)相手方が外国にいる場合(法第108条)

送達を受けるべき相手方が外国にいる場合には、裁判長がその国の管轄官庁、その国に駐在している日本大使、公使あるいは領事に嘱託して送達を行います。

民事訴訟法第108条

(外国における送達)
第百八条 外国においてすべき送達は、裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使若しくは領事に嘱託してする。

3 相手方の住所、居所等が知れない場合

以上のように、交付の原則のもと、何通りもの送達方法が設けられていますが、それでも送達することが叶わない場合もあります。この場合には、原告は送達ができないことにより、裁判をする権利を行使できず、請求権自体が時効消滅するなどの不利益を被ることになってしまいます。

このような場合を想定し、民事訴訟法では、実際に書類を送達できなくても、一定の要件を満たしている場合には、裁判所庁舎の掲示板に掲出し、期間の経過をもって送達があったものとみなして裁判手続が進められるようにしています。これが公示送達です。

公示送達は一定の要件を満たす場合に、申し立てを受けた裁判所書記官の判断によって行うことができる送達方法です。公示送達は、裁判所の掲示板において、送達すべき相手方に交付すべき書類があるので受け取りにくるようにという内容が掲示されるだけです。

しかし、その掲示から2週間経過と同時に相手が実際に送達を受けていなくても送達があったものとみなされて手続が進んでいくため、実際の運用にあたっては、全ての手段を検討、試みても送達が不可能であるような場合に、例外的な措置として、基本的に上申書の提出を受けてなされる手続となっています。

なお、相手方の存在自体が不明確な場合は、公示送達することもできません。公示送達は、相手方の存在は明確であるが、どうしても送達すべき住所や居所や就業場所を特定することが出来ない場合に検討される手続なのです。

公示送達では、実際に相手方に書面が到達していないことが多いので、「擬制自白」の適用はありません(民事訴訟法159条3項)。通常の裁判では、相手方の主張に反論しないでいると、相手方の主張を認めたとみなされて敗訴してしまうことになりますが、公示送達により口頭弁論期日呼び出し状が発送された事件では擬制自白は適用されず、相手方は、通常の訴訟と同様の主張立証活動をすることが必要になります。

民事訴訟法110条他

(公示送達の要件)
第百十条 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二 第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三 外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四 第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。

(公示送達の方法)
第百十一条 公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。

(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3 前二項の期間は、短縮することができない。

(公示送達による意思表示の到達)
第百十三条 訴訟の当事者が相手方の所在を知ることができない場合において、相手方に対する公示送達がされた書類に、その相手方に対しその訴訟の目的である請求又は防御の方法に関する意思表示をする旨の記載があるときは、その意思表示は、第百十一条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。この場合においては、民法第九十八条第三項 ただし書の規定を準用する。

(自白の擬制)
第百五十九条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3 第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

4 今回の送達について

今回息子さん宛ての送達を貴女が受領したことは、前述した法106条による補充送達による措置と考えられます。補充送達は、その書類の受領について相当のわきまえのある者に交付することが認められています。長年に渡って息子さんへの郵便物を問題なく受領していたのですから、郵便会社としては貴女を「相当のわきまえのある同居者」として判断したうえでの措置であったと考えられます。

しかし条文上、送達場所は「住所、居所、営業所、事務所」のいずれかであり、補充送達の受取人は「使用人その他の従業者又は同居者」と定められています。送達によって生ずる法的効果の重大性から、この条文の列挙は例示列挙ではなく、限定列挙であると解釈されています。

今回の送達では、息子さんはあなたと同居されていないということですから、配達先の住所は、息子さんの「住所、居所、営業所、事務所」の何れにも該当しませんから、そもそも送達の効果が発生していないと考えることができます。

しかし、現時点では、形式上送達は有効になされたものとして取り扱われ支払督促手続が進んでしまっていますので、早急に対応することが必要な状況です。

なお、判例では、宛名に誤記があった場合の送達は受領義務が無いと判断しています( 東京地方裁判所、昭和32年11月15日判決)。

民事訴訟法による送達は特定の訴訟関係人に訴訟上の書類の内容を知らしめる機会を与えるための裁判所の行為であつて、その実施によつて右書類の内容を知らせた効果を生じ、その効果は通常受送達者の権利関係に重要な影響を及ぼすものであるから、宛名人の表示の違つた送達書類を自己に対する送達として受領する義務があるとは解せられない。ただ宛名人の表示が違つても受送達者と宛名人が同一であると判断せられるべきときは、その送達の実施機関である執行吏又は郵便集配人は、民事訴訟法第百七十一条第二項のいわゆる差置送達の方法によつて送達ができるだけである。

(1)裁判所への連絡

裁判所に対して、今回の特別送達が、息子さんは現在宛所の住所には住んでいないことを説明し、補充送達は無効である旨、母親名義の上申書という形で異議申し立てをすることができます。受領した書類一式は、「宛名のものはこの住所には住んでいない。」「送達の受領権限が無い」ということで、裁判所に返却すると良いでしょう。必要に応じて、上申書には、息子様が同居していないことを証明する文書を添付すると良いでしょう。

(2)郵便局への連絡

今回の特別送達を担当した郵便局に対して、「配達原簿(配達総合情報システム)の訂正」を依頼すると良いでしょう。「当該住所に当該人物は居住していないので、配達原簿(配達総合情報システム)の当該住所から氏名抹消することを請求する」と通知すると良いでしょう。

また、今回の特別送達では、息子さんは現在この住所には住んでいないこと、送達の要件を満たす宛所ではないことを説明し、民事訴訟法106条第1項の補充送達の要件を満たさず送達は無効であるため、裁判所に対して提出済みの送達報告書を撤回するように請求することができます。この請求は、内容証明郵便の通知書という形式で送ると良いでしょう。

なお、今後は、息子さん宛の書留郵便などが来ても絶対に受領されないようになさることをお勧め致します。万一配達員が来た際は、「息子はここに居ないので受領することができない」と回答すると良いでしょう。

5 支払督促とは

ところで、今回の支払督促とは、通常の訴訟と異なり、訴訟物を金銭その他の代替物、有価証券等に限定し、かつ、一定の数量の給付を求める訴訟にのみ利用できる手続です。通常の訴訟手続によると時間だけが徒にかかり、権利の実現が困難となることを避けるため、書面による債権者の言い分のみを聞き、その言い分に理由があると判断した場合には、裁判所書記官の判断で支払督促が発せられます(法第382条)。

この支払督促に対して、債務者から送達から2週間以内(24時間×14日間)に有効な異議申し立てがされない場合には、裁判所書記官により仮執行宣言が付され、仮執行宣言付支払督促として、確定判決同様の効果をもち、債務者の財産に差押などの強制執行ができるようになります(法第391条)。

この異議申し立ての期限ですが、具体的には、支払督促が送達された日が14日であった場合には翌日の15日午前0時から起算され、同月28日の午後23時59分までにする必要があります。裁判所は通常17時で閉庁して受付窓口も閉じてしまいますが、どうしても17時以降に異議申し立てしたい場合は、裁判所の裏門にある「当直室」に書類を提出することができます。提出する書類のコピーを持参して、日付の記載のある「受付印」を押印して貰うと良いでしょう。

民事訴訟法第382条他

第382条(支払督促の要件)
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。

第391条(仮執行の宣言)
第1項 債務者が支払督促の送達を受けた日から二週間以内に督促異議の申立てをしないときは、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続の費用額を付記して仮執行の宣言をしなければならない。ただし、その宣言前に督促異議の申立てがあったときは、この限りでない。

6 支払督促発令の条件

以上のとおり、支払督促手続は債権者からすると、債務者への審尋(尋問)も行われず、申し立ての時点で証拠の提出も必要ないため、簡便な手続である一方、債務者に対しては、異議を申し立てないと、強制執行をされる可能性が発生させてしまうという強力な手続です。

そこで法は、第382条の但し書以下で「日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る」として、相手方が実際に受領していなくても送達の効果を発生させてしまう公示送達を送達方法から廃除し、かつ、送達場所を支払い督促に対して、すぐに対応が可能な日本国内居住者にのみ適用できるとして、不意打ちによる不当な利用を防いでいます。つまり、この支払督促手続は住所不定である息子さんに対しては利用できない制度であるということになります。

7 今後の対応

以上の通り、今回の支払督促手続は息子さんに対してはそもそも利用できない手続になりますし、今回の送達も無効であることから支払督促の手続きは進まないことを異議申し立て期間内に裁判所に対して伝える必要があります。この場合、あなたの名義で「上申書」という形で裁判所に対して当人は住所不定であり、法第382条の定める支払督促発令の要件を満たしていないことを主張していきます。この上申書には、戸籍の付票など、住所が不定であることを証する書面を添付して提出すると良いでしょう。

裁判所に、補充送達が無効であることが明らかとなった場合には、裁判所書記官から、支払督促の申立人に対し送達ができないので手続きが進められない旨の連絡がされ、結局は申し立てを取り下げることになるかと思われます。

債権者としては、公示送達が可能な通常訴訟を改めて申し立てるか判断をすることになります。通常訴訟では債権者が借用書や取引履歴を提出して、請求の根拠を主張立証していくことになりますが、支払督促に記載された事情を裏付ける証拠が全て提出、主張されれば、支払督促どおりの判決が出されるものと思われます。

では、もし、送達について何らの連絡も裁判所にしない場合にはどのようになるのでしょうか。この場合には、前述のとおり民事訴訟法391条1項により、送達から2週間経過後に債権者の申し立てがあると仮執行宣言が発令されます(民事訴訟法391条1項)。仮執行宣言があれば、強制執行が可能になります。そして、仮執行宣言付支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議の申立がされず、あるいは、督促異議の申し立てを却下する決定が確定した場合には、支払督促は確定判決と同一の効力を有することになります(法第396条)。

民事訴訟法第396条

(支払督促の効力)
民事訴訟法第396条 仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立てがないとき、又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は、確定判決と同一の効力を有する。

尚、本件送達が有効として手続きが進められても、送達に違法性があるとして、督促異議を行うことができます(民訴394条)。申立てが2週間の不変期間経過後の異議であるとして却下された場合はその決定に対し即時抗告し(同2項)、認められなければさらに再審の訴え(民訴383条1項3号、349条、最高裁平成4年9月10日判決)を提起し最終的に通常訴訟で争うこともできます。

8 最後に

以上の通り、今回受領された支払督促の意味、手続の流れ、送達についてご説明させていただきましたが、現時点では、今回届いた書面について裁判所に息子さんが宛所には住んでいないことを連絡し手続きを止めることが急務です。督促異議の申立て等も弁護士に、その旨の書面の作成や裁判所への連絡のみ依頼することも可能ですから、ご相談なさると良いでしょう。

なお、仮に今回の支払督促手続に関する送達が有効なものではなかったとし手続きが停められたとしても、債権者が裁判手続に着手した以上、債務が存在するものとして、支払方法について検討する必要に迫られているということに変わりはありません。もし、債務の支払について一括弁済が厳しい場合には債権者との間で分割弁済の協議を試みることも方法の一つです(これはいわゆる弁護士の行う「任意整理手続」のひとつであり、この手続をとると「滞納事故」として信用情報記録にこのことが記載され、新規の借り入れ等ができなくなるなどの不利益を被ることがあります)。

今後の支払方法についてのご相談、債権者との交渉等についても弁護士にご相談なさると良いでしょう。

以上

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参照条文
郵便法施行規則

第17条 (送達報告書の写しの作成)
第1項 郵便認証司は、前条第一項の規定による認証をしたときは、当該認証に係る送達報告書の写しを作成しなければならない。
第2項 前項の送達報告書の写しは、会社において当該認証に係る郵便物を送達した日から一年間保存しなければならない。
第3項 会社は、前項の規定により保存されている送達報告書の写しを亡失したときは、遅滞なく、その状況を総務大臣に報告しなければならない。