新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1516、2014/05/25 12:00 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

[登記 更正登記 全財産遺贈による不動産の移転登記とその後になされた遺留分請求に基づく遺留分の登記申請手続]

全財産遺贈後に遺留分減殺請求を行った場合の登記方法


質問:
入院中の夫(B)が死亡しました。相続人は妻である私(C)一人です。夫とは性格の不一致でかなり前から不仲になっており離婚訴訟中でした。夫には死亡直前に作成された遺言書があり学生時代の友人Aに全財産を遺贈するという内容でした。そこで、私はAに対して遺留分減殺請求の通知を内容証明で出したのですが、それにもかかわらずAは離婚訴訟の代理人に依頼し、夫の土地について遺贈で全部取得した旨の登記をしてしまいました。

Aと話をして遺留分について私が相続する旨の登記をしたいのですがどのような登記を申請すればよいのでしょうか。

Aが了承しない場合はどうすればよいでしょうか。



回答:

1 あなたの遺留分減殺請求により、当該土地の権利関係は遺留分相当の2分の1をあなたが、遺贈の受遺者Aが2分の1を取得したことになります。

2 ところが、登記簿は遺贈によりAが単独で取得したことになっていますから、正しい権利関係を表すために、ACの2分の1の共有登記に直す必要があります。
そのような場合は、所有権更正登記という登記ができます。登記申請書は次の書式になります。
なお、Aが登記申請に協力しない場合は、同様の登記をせよ、という判決主文を求める裁判が必要になります。

3 登記申請書式は以下のとおりです。

4 登記関連事務所事例集 1492番1148番905番857番712番554番391番参照。


********************

登 記 申 請 書

登記の目的   ○番所有権更正

原   因   錯誤 

更正後の事項  登記の目的  所有権一部移転 
        A  持分    2分の1 

権 利 者   東京都○○区○○一丁目2番3号 
              亡 B 
            東京都○○区○○一丁目2番3号
              上記相続人  C

義 務 者   東京都○○区○○一丁目2番3号 
              A

添付書類    登記原因証明情報   登記識別情報   印鑑証明書  
        代理権限証明情報  

平成  年  月  日申請   東京法務局○○出張所 御中

登記完了証の交付方法 代理人事務所に送付願います。

申請人(登記権利者)兼代理人  住所
                氏名
           (連絡先電話番号 **−****−****)

登録免許税    金1,000円

不動産の表示
   所   在  ○○区○○一丁目
   地   番  2番3
   地   目  宅 地
   地   積  100.00u

********************

※ 受贈者A 遺贈者兼被相続人B 相続人C
※ 権利者は被相続人であるBなので相続人であるCより申請する。
なお、相続人がCの他にいても、Cからのみの申請で足りる。
※ 登録免許税は持分の更正なので、不動産一個につき1000円
※ 本件登記では登記識別情報は権利者に通知されない。登記識別情報は新たに権利を取得した場合にのみ通知されますのが、本件は新たに権利を取得する登記ではないので通知されません。すなわち、Aが持分2分の1を失う登記だからです。


解説:
1 遺言書の効力は、遺言者の死亡により生じますから(民法985条)、ご相談の場合遺言書の相続財産は、すべてAが遺贈を原因として取得します。その後、遺留分権利者が遺贈について遺留分減殺請求をすると、遺留分の範囲で遺贈は相続開始時から無効となるとするのが実務の扱いです(民法1031条)。その結果、不動産の権利関係は2分の1は遺贈によりAが取得し、2分の1は相続により相続人Cが取得したことになります。相続については被相続人死亡時から効力が発生し(民法896条)、遺言は遺言者の死亡時から効力が発生しますから(民法985条)本件のような包括遺贈も相続開始時から効力が生じることになります。他方、遺留分請求は相続開始後に行われますが、その効力は意思表示の時から発生しますから(1031条)、特別な規定がない以上相続時に遡るわけではありません。そうであれば、遺留分請求の意思表示後になされた包括遺贈の登記も有効であり、遺留分請求の意思表示がなされても(意思表示の前でも)相続開始時から遺贈が無効であるという実務上の取り扱いは理屈に合わないことになります。遺留分請求の意思表示を知ってなされたAの全部遺贈の登記も有効になるはずです。Aとしては、他の遺産(例えば、動産、金銭債権の評価、存否について争いが生じる可能性があります。包括遺贈は被相続人と緊密な関係が予想され法定相続人と被相続人が不仲の場合などなおさらです。)の分割について交渉上有利にするために(拒否すれば抹消登記請求をする手間がかかるので)とりあえず全部遺贈の登記をしたものと考えられます。理論的にはCがAに対して2分の一の持分移転請求をすることになるはずです。登記実務上これを遺留分の範囲で一部無効の登記としているのは遺留分請求の性質に由来しています。すなわち、遺留分請求権は、私有財産制の遺言自由の原則の例外的権利であり、法定相続人間の生活保護、公平な遺産清算という面から形成権と位置づけで、行使の意思表示をした時に始めて権利関係が変更する効果を認めているのですが、反面、その内容は、実質的に相続問題であり遺留分請求により遺産の公平な分割協議が行われることになるので、遺産分割協議の遡及効と同様に考えて登記上は実質的に遡及効を認めて無効な登記として扱っているものと考えられます。

2 不動産登記は不動産の権利関係を公示するための制度ですから、登記の有無によって権利関係が変わることはありません(その権利を第三者に対抗できるか否かは別にして)から、遺贈がすでになされていたとしても、正しい権利関係を理由に登記の変更をすることができます。
  登記の方法としては、すでになされている遺贈を原因とする所有権移転登記について抹消登記をすることも可能です。しかし、その場合は、抹消登記後に新たに遺贈と相続を原因とする所有権移転登記をしなくてはなりませんから、登録免許税を再度収める必要があります。また、Aが抹消登記に協力しない場合は、強制的に抹消登記を請求することはできません。というのは、遺贈は2分の1の限りで有効ですから、Cは相続により取得した共有持分権2分の1を理由に所有権移転登記全部抹消という請求権はないと考えられるからです。
  そこで、間違った登記の訂正としては更正登記という登記をすることになります。

3 登記の申請は、回答で挙げている申請書のとおりですが、登記権利者、義務者の共同申請が原則ですから、Aの承諾が必要です。具体的には、Aの実印の押捺と印鑑証明が必要になります(書式の場合は権利者が義務者の代理人となって申請しますので、権利者を代理人とする委任状に実印を押捺してもらうことになります)。

4 Aが登記に協力しない場合は、訴訟を提起し、更正登記をせよ(別紙不動産の別紙登記目録記載の所有権移転登記について、錯誤を原因とする更正登記(更生後の登記 所有権一部移転 C共有持分2分の1))という判決を取得する必要があります。

 裁判では、Aに登記があることの主張立証(不動産登記事項証明書)、Cが相続人であることの主張立証(被相続人の生まれてから死亡するまでの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本)、遺留分減殺請求をしたことの主張立証(遺留分減殺請求をした内容証明郵便)が必要になります。


(条文参照)
(相続の一般的効力)
第八百九十六条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

(遺産の分割の効力)
第九百九条  遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条  遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2  遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。


(遺贈又は贈与の減殺請求)
第千三十一条  遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。


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