不動産・所有権移転登記
登記|所有権移転|真正な登記名義の回復
目次
質問:
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を見ていたら、『真正な登記名義の回復』という原因で所有権移転登記をしているものがありました。これはどのような法律行為に基づく所有権移転登記なのでしょうか。
回答:
1.『真正な登記名義の回復』は不動産登記実務において使われる概念です。登記簿上の名義と実際の権利関係が食い違っているときに、本来あるべき正しい名義に戻す登記を指します。
2.登記関連事務所事例集 1971番、1516番、1492番、1148番、905番、857番、712番参照。
3.不動産登記に関する関連事例集参照。
解説:
真正な登記名義の回復とは
所有権移転登記をする場合の登記原因として、『売買』『贈与』『相続』等は一般的に見られるもので、どのような法律行為による移転なのかと疑問に思われる方は少ないと思います。これに対して、『真正な登記名義の回復』という言葉は聞きなれず、疑問を感じる方も多いと思います。そもそも『真正な登記名義の回復』という法律行為が存在するわけではありません。『真正な登記名義の回復』という登記原因は、本来の法律行為等を原因として登記を行うことに手続上の支障がある場合に、便宜上、認められた手続と考えられます。
具体例
以下のようなケースを想定したものだと考えられます
AとBが売買代金を2分の1ずつ出し合って甲から不動産を購入し、登記名義もA・B各2分の1にする予定でした。ところが、誤ってAの単独名義で移転登記がされてしまい、その後にCを抵当権者とする抵当権設定登記もされてしまっています。これを所有権の登記名義をA・B各2分の1の共有に直すためにはどうしたらよいでしょうか。まずA単独名義→A・B共有名義に所有権更正登記を行う方法が考えられますが、登記手続上、利害関係人である抵当権者Cの承諾が必要とされています(不動産登記法第68条)。もしCが承諾をして所有権更正登記を行った場合には、Cの抵当権の効力は、B持分2分の1には及ばないことになりますので、CはB持分について改めてBと抵当権設定契約を締結し、抵当権の追加設定登記を行う必要があるわけです。この点、抵当権者であるCの立場からしますと、既にAに対して融資を実行し、Aが融資金を売買代金として甲に支払っているのが通常ですし、手続も複雑になりますから、恐らくこのような手続を好まないでしょう。このような場合に、Cに迷惑を掛けず、また、Cの協力なしに登記名義を、A・Bの共有名義にする方法として、『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記が用いられるのです。
平成16年の不動産登記法改正以前になされた『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の中には、法律行為等の登記原因が存在し、それを原因とする登記が可能である(手続上支障がない)にもかかわらず、便宜上、この原因が使われていることもあったようです。このような登記が行われてきた背景としては、①『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の登録免許税の税率が、『売買』を原因とする所有権移転登記と比べて低率で、登録免許税の節約になったこと。②現在の不動産登記法のように登記原因証明情報の提供が要求されておらず、登記官の審査権限も形式的審査に限られていたために、登記原因の真否について審査が及ばなかったこと、などが挙げられます。
この点、平成16年の不動産登記法改正後は、登記原因証明情報を登記所に提供することとされましたので(不動産登記法61条)、登記官は、登記原因についても審査可能となりました。つまり、本来の法律行為等が存在し、それに基づく登記に支障がないにもかかわらず、『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記申請がなされた場合、登記申請情報と登記原因証明情報の内容に不一致があるものとして、登記官において、登記申請を却下する扱いも可能だと思われます。また、現在では、『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の登録免許税の税率は、『売買』と同率(土地についてはむしろ売買の方が低率)になっていますので、あえてこの原因で登記する利点もなくなったと言えます。
以上のことから、現行法においては、『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記がなされる場面はかなり限定されてくると思われます。
以上