新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1492、2014/03/31 00:00 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事 最高裁平成22年12月16日判決 】

真正な登記名義の回復による所有権移転登記

質問:

購入を検討している不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を見ていたら,登記原因の項目に『真正な登記名義の回復』という記載があって所有権移転登記をしているものがありました。これはどのような法律行為に基づく所有権移転登記なのでしょうか。



回答:

1. 『真正な登記名義の回復』という権利移転の原因となる法律行為及び事実が存在するわけではありません。通常、不動産所有権が移転する場合は売買、贈与、相続のように権利移転の原因となる法律行為(意思表示)、又は原因事実が存在します。この原因と権利移転を登記事項として公示して不動産取引の安全を図ろうとするものです。しかし、その様な法律行為等がなくても不動産取引の安全を害する危険がないような場合、取引上の必要性から便宜的に当事者の申請により認められたものが『真正な登記名義の回復』です。従って、その便宜上の理由がなくなった今は手続として認められない取扱いになると思われます。

2. この事例集は事務所事例集554番を修正加筆したものです。又関連事例集として905番参照。

解説:

1 『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の意義
権利に関する登記の登記事項に「登記原因とその日付」が定められています(不動産登記法第59条)。不動登記は不動産に関する権利を公示するのが目的ですから、何時どのような理由で権利が移転したり生じたりしたのか明らかにするために登記原因が登記記録に記録されることになっています。所有権移転登記をする場合の登記原因として,『売買』『贈与』『相続』等は一般的に見られるもので,どのような法律行為等による移転なのかと疑問に思われる方は少ないと思います。これに対して,『真正な登記名義の回復』という言葉は聞きなれず,疑問を感じる方も多いと思います。そもそも『真正な登記名義の回復』という法律行為が存在するわけではありません。『真正な登記名義の回復』という登記原因は,本来の法律行為等を原因として登記を行うことに手続上の支障がある場合に,便宜上,認められた手続(登記原因)と考えられます。

具体的には,以下のようなケースを想定したものだと考えられます。
(事例)AとBが売買代金を2分の1ずつ出し合って甲から不動産を購入し,登記名義もA・B各2分の1にする予定でした。ところが,誤ってAの単独名義で移転登記がされてしまい,その後にCを抵当権者とする抵当権設定登記もされてしまっています。これを所有権の登記名義をA・B各2分の1の共有に直すためにはどうしたらよいでしょうか。まずA単独名義→A・B共有名義に所有権更正登記を行う方法が考えられますが,登記手続上,利害関係人である抵当権者Cの承諾が必要とされています(Cは2分の1について抵当権を抹消されるという利害関係を有するので当然です。不動産登記法第68条)。もしCが承諾をして所有権更正登記を行った場合には,Cの抵当権の効力は,B持分2分の1には及ばないことになりますので,CはB持分について改めてBと抵当権設定契約を締結し,抵当権の追加設定登記を行う必要があるわけです。この点,抵当権者であるCの立場からしますと,既にAに対して融資を実行し,Aが融資金を売買代金として甲に支払っているのが通常ですし,手続も複雑になりますから,恐らくこのような手続を好まないでしょう。このような場合に,Cに迷惑を掛けず,また,Cの協力なしに登記名義を,A・Bの共有名義にする方法として,『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記が用いられるのです(この場合、本来ですとAは持分2分の1の権利者でしかありませんから、Bの2分の1の持分については抵当権を設定できないはずです。ですから、Bは金融機関に対しては抵当権設定登記の抹消登記を請求しその上でAに対して更正登記を請求することになるはずです。しかし、BがAの登記を認めていた場合、民法94条2項の類推適用により抵当権の抹消登記請求ができない場合がありえます。そのような場合は、ABの共有という権利関係を登記上明らかにするには『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記しかないことになります。)

2 登記原因が存在しそれを原因とする登記が可能である場合と『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記

(1) 真正な登記名義の回復を登記原因とする登記は上記のように他に登記原因を記載することができない場合の言わば非常手段として認められたものでした。しかし、平成16年の不動産登記法改正以前になされた『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の中には,法律行為等の登記原因が存在し,それを原因とする登記が可能である(手続上支障がない)にもかかわらず,便宜上,この原因が使われていることもあったようです。このような登記が行われてきた背景としては,@『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の登録免許税の税率が,『売買』を原因とする所有権移転登記と比べて低率で,登録免許税の節約になったこと。A現在の不動産登記法のように登記原因証明情報の提供が要求されておらず,登記官の審査権限も形式的審査に限られていたために,登記原因の真否について審査が及ばなかったこと,などが挙げられます。

(2) この点,平成16年の不動産登記法改正後は,登記原因証明情報を登記所に提供することとされましたので(不動産登記法61条),登記官は,登記原因についても審査可能となりました。つまり,本来の法律行為等が存在し,それに基づく登記に支障がないにもかかわらず,『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記申請がなされた場合,登記申請情報と登記原因証明情報の内容に不一致があるものとして,登記官において,登記申請を却下する扱いも可能だと思われます。また,現在では,『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記の登録免許税の税率は,『売買』と同率(土地についてはむしろ売買の方が低率)になっていますので,あえてこの原因で登記する利点もなくなったと言えます。

(3) 平成16年の不動産登記法改正に加えて,近時,登記原因が存在しそれを原因とする登記が可能である場合と『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記請求を否定する最高裁判決が出ました。

 すなわち,最高裁平成22年12月16日判決は,「不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし,許されないものというべきである。」と判示したのです。

 同判決によれば,現在の所有者が登記名義を自己のものとするためには,中間者が元の所有者に対し所有権移転登記を請求して登記名義を中間者のものとし,次いで現在の所有者が中間者に対し所有権移転登記を請求して登記名義を現在の所有者のものとする必要があります。中間者が移転登記に協力してくれない場合は,現在の所有者は,自らの中間者に対する登記請求権に基づき,中間者の元の所有者に対する登記請求権を代位行使することとなります(いわゆる債権者代位権[民法423条]の転用)。なお,最高裁平成22年12月16日判決の事案においては,中間者から現在の所有者への権利移転の原因は相続であったため,現在の所有者は,中間者の元の所有者に対する登記請求権を,自己の権利として行使すればよく,登記請求権を代位行使する必要すらない事案でした。

(4) 以上のことから,現在においては,『真正な登記名義の回復』を原因とする所有権移転登記がなされる場面はかなり限定されてくると思われます。例外的な登記となりますので、不動産を購入する場合は、慎重に検討することが必要でしょう。

≪参考判例≫
最高裁平成22年12月16日判決
1 本件の本訴請求は,上告人が,被上告人らに対し,上告人及び被上告人らの共有名義で登記されている第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)について共有物分割を求めるなどするものであり,反訴請求は,被上告人X1が,上告人に対し,本件土地につき,真正な登記名義の回復を原因とする上告人持分全部移転登記手続を求めるものである。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)ア 本件土地は,上告人がもと所有していた。
イ 上告人は,昭和63年9月ころ,Aに対し,本件土地を贈与した(以下,この贈与を「本件贈与」という。)。
ウ Aは,平成17年1月10日,死亡し,その共同相続人の一人である被上告人X1が,遺産分割協議により,本件土地を単独で取得した(以下,この相続を「本件相続」という。)。
(2) 本件土地については,持分10分の3の上告人名義の持分登記がある。
(3) 被上告人X1は,反訴の請求原因として,本件贈与と本件相続の事実を主張する。
3 原審は,上記事実関係等の下において,本件土地は被上告人X1の単独所有であるなどとして,本訴請求を棄却すべきものと判断する一方,被上告人X1の反訴請求を認容すべきものと判断した。
4 しかしながら,原審の上記判断中,反訴請求に関する部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし,許されないものというべきである。
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件土地の所有権は,本件贈与により上告人からAに,本件相続によりAから被上告人X1に,順次移転したにもかかわらず,上告人名義の持分登記がなお残っているというのであるから,被上告人X1としては,上告人名義で登記されている持分につき,上告人からAに対する本件贈与を原因とする移転登記手続を請求し,その認容判決を得た上で,Aから被上告人X1に対する本件相続を原因とする持分移転登記手続をすべきであって,このような場合に,真正な登記名義の回復を原因として,直接上告人から被上告人X1に対する持分移転登記手続を請求することは許されないというべきである。被上告人X1の反訴請求を認容すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,反訴請求に関する部分は破棄を免れない。
そして,本件訴訟における被上告人X1の主張立証にかんがみると,被上告人X1の反訴請求は,これを合理的に解釈すれば,その反訴請求の趣旨の記載にかかわらず,予備的に,本件土地について本件贈与を原因とする上告人からAに対する上告人持分全部移転登記手続を求める趣旨を含むものであると理解する余地があり,そのような趣旨の請求であれば,前記事実関係等の下では,特段の事情のない限り,これを認容すべきものである。そうであれば,被上告人X1の反訴請求については,事実審において,適切に釈明権を行使するなどして,これが上記の趣旨の請求を含むものであるのか否かにつき明らかにした上,これが上記の趣旨の請求を含むものであるときは,その当否について審理判断すべきものと解される。したがって,上記の観点から,反訴請求につき,更に審理を尽くさせるため,原判決中,反訴請求に関する部分を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,本訴請求に関しても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。

≪参考条文≫
民法
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
(債権者代位権)
第423条 債権者は,自己の債権を保全するため,債務者に属する権利を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利は,この限りでない。
2 債権者は,その債権の期限が到来しない間は,裁判上の代位によらなければ,前項の権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。

不動産登記法
(申請の却下)
第25条 登記官は,次に掲げる場合には,理由を付した決定で,登記の申請を却下しなければならない。ただし,当該申請の不備が補正することができるものである場合において,登記官が定めた相当の期間内に,申請人がこれを補正したときは,この限りでない。
8号 申請情報の内容が第61条に規定する登記原因を証する情報の内容と合致しないとき。
(登記原因証明情報の提供)
第61条 権利に関する登記を申請する場合には,申請人は,法令に別段の定めがある場合を除き,その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。
(登記の抹消)
第68条  権利に関する登記の抹消は,登記上の利害関係を有する第三者(当該登記の抹消につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)がある場合には,当該第三者の承諾があるときに限り,申請することができる。

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