法定相続分での相続登記後に遺産分割協議をした場合における登記申請の方法

家事|相続登記|遺産分割の遡及効|遺産分割協議

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

父親から相続した土地について、法定相続分に従って共有登記をしましたが、後日その土地を私の単独名義で登記したいと思います。どうすればよいでしょうか。

まず,私の家族構成についてですが,私の父親と母親は離婚しており,兄と妹が一人ずついます。私の父親は田舎に土地を持っていたのですが(田舎の土地で,価値はほとんどないと思います。),昭和52年に父親が亡くなってから,兄妹間で話合いを行うことなく,急場しのぎで,父親から法定相続分に従って名義変更をし,そのまま放置してしまっていました。ただ,その土地は,私達家族が生まれ育った土地で,このまま放置したままにするのも忍びなく,兄妹に相談したところ,兄妹は私の単独名義にして管理してくれて良いと言ってくれました。

その土地を私の単独名義にするにはどうすれば良いのでしょうか。

回答:

1、まず,ご兄妹の方々がご相談者様の単独名義にして管理してくれて良いと仰ってくれているということですが,ご相談者様の単独名義を内容とした登記申請をするに当たって,遺産分割協議書を提出する必要があるので,遺産分割協議書を作成の上,署名・捺印(実印で)をしていただく必要があります。

2、次に,本件では,一旦,法定相続分(3分の1)に従って相続登記がされており,遺産分割の遡及効との関係で,この点も問題になり得ます(遺産分割の効力は相続の開始時に遡及し、被相続人から遺産分割で相続した相続人に土地の所有権は移転することになるので、法定相続分に従ってした登記は、実際の権利変動に即していないので、無効ではないかという疑問が生じます)。もっとも,登記実務では遺産分割協議がなされ,相続人の中の一人が不動産を単独で取得することになったときは,「遺産分割」を登記原因として持分の移転登記を申請することができるので,本件でも,ご相談者様が当該土地を単独取得することを内容とした遺産分割協議を成立させることができれば,法定相続分での登記を抹消することなく,「遺産分割」を登記原因として持分の移転登記を申請することができます。なお,この場合,共有持ち分移転登記ですので共同申請の方法をよることになり,遺産分割協議をなす際に兄妹(登記義務者)の方々から実印を押捺した共有持ち分移転登記の委任状、印鑑証明書の必要書類を頂いておいた方が良いでしょう。

3、以上より,ご相談者様が当該土地を単独取得することを内容とした遺産分割協議を成立させることができれば,「遺産分割」を登記原因として持分の移転登記を共同申請し,当該土地をご相談者様の単独名義にすることができます。

4、関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説:

1 遺産分割の遡及効(民法909条)との関係

上述のとおり,まずはご相談者様が当該土地を単独取得することを内容とした遺産分割協議を成立させる必要があります。もっとも,民法909条には「遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定められているとおり,遺産分割には遡及効(ある時点に遡ってその効力を生じること。)があります。そのため,ご相談者様が当該土地を単独取得することを内容とした遺産分割協議が成立したとしても,遺産分割の遡及効によって,ご相談者様は相続開始の時(被相続人(本件で言えば,ご相談者様のお父様)が死亡した時)に当該土地を単独取得したことになるため,法定相続分での登記は誤った登記であるといえ,一旦,法定相続分での登記を抹消し,その後,ご相談者様の単独名義での登記申請をしなければならないようにも思えます。

もっとも,一旦,法定相続分での登記を抹消しなければならないというのは煩雑であることから,法定相続分での相続登記の後に遺産分割協議がなされ,相続人の中の一人がその不動産を単独取得することとなったときは,「遺産分割」を登記原因として持分の移転登記を申請することができるという登記先例が存在します。

したがって,ご相談者様が当該土地を単独取得することを内容とした遺産分割協議が成立した場合には,法定相続分での相続登記の後に遺産分割協議がなされ,相続人の中の一人がその不動産を単独取得することとなったときに当たるものとして,「遺産分割」を登記原因として持分の移転登記を共同申請し,当該土地をご相談者様の単独名義にすることができます。

なお,この場合,持ち分移転登記となり単独申請をすることはできず,共同申請の方法をよらなければならないという登記先例が存在するので,遺産分割協議をなす際に兄妹の方々から委任状等の必要書類を頂いておいた方が良いでしょう(なお,遺産分割調停や審判の場合は,例えば,「甲及び乙は,丙に対し,別紙遺産目録記載の土地につき,遺産分割を原因とする各自の持分全部移転登記手続をする(せよ)。」という登記手続条項を設けることができれば,お一人で登記申請をすることができます。)。

2 登記申請に当たっての必要書類

⑴ 登記申請に当たっては,基本的には,登記申請書類として登記申請書,登記原因証明情報として被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本,被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票,相続人全員の戸籍謄本,相続関係説明図,遺産分割協議書,相続人全員の印鑑証明書,住所証明情報として不動産を取得する相続人の住民票,評価証明情報として対象不動産の固定資産評価証明書,その他対象不動産の登記簿謄本,収入印紙(登録免許税)を法務局に提出する必要があります。

⑵ 上記必要書類のうち,被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票は,被相続人の同一性を証する書面として必要となるものです。というのも,対象不動産の登記簿謄本には,その所有者を特定するために氏名と住所が記載されていますが,戸籍謄本には,本籍と氏名と生年月日が記載されているだけで,住所が記載されていません。そのため,対象不動産の登記簿謄本と戸籍謄本で共通する事項は氏名のみとなって,戸籍謄本に記載されている被相続人と対象不動産の登記簿謄本に記載されている人物とが同一人物であるかが判然としません。そこで,戸籍謄本に記載されている被相続人と対象不動産の登記簿謄本に記載されている人物とが同一人物であることの証明が必要となり,被相続人の同一性を証する書面を提出しなければなりません(なお,対象不動産の登記簿謄本に記載されている住所が本籍と一致するときは,被相続人の同一性を証する書面を提出する必要はありません。)。

もっとも,本件では,ご相談者様のお父様は昭和52年に亡くなっていることから,保存期間の経過等により被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票を提供することができない可能性があります。その場合は,「登記記録上の住所地に相続人の本籍及び住所がない」旨の市区町村長の証明書(不在籍不存在証明書),「登記名義人と戸籍に記載された被相続人とが同一人である」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書付きのもの),納税証明書等を提出することになります。

⑶ 登録免許税については,遺産分割を登記原因とする場合,移転する持分の固定資産評価額×1000分の4(0.4%)の数式で計算されることになります(なお,移転する持分の固定資産評価額の1000円未満の金額は切り捨てて計算します。また,計算後の金額のうち100円未満の金額が切り捨てられ,登録免許税が算出されます。)。例えば,移転する持分の固定資産評価額が655万2500円であった場合,まず1000円未満の金額である500円が切り捨てられます。切り捨て後の金額である655万2000円に1000分の4を掛けると,2万6208円となります。そして,2万6208円から100円未満が切り捨てられ,登録免許税は2万6200円となります。

もっとも,本件では,当該土地は,田舎の土地で,価値はほとんどないと思うということですので,移転する持分の固定資産評価額×1000分の4(0.4%)の数式で計算すると,その数額が1000円未満となる可能性がありますが,その場合は,登録免許税は1000円となります。

3 登記申請書の記載例

法定相続分での相続登記前に遺産分割協議がなされ、それに基づいて相続の登記をした場合は,登記原因は「相続」,登記原因の日付は相続開始の日(被相続人が死亡した日)となるのに対し,相続登記後に遺産分割協議がなされた場合は,登記原因は「遺産分割」,登記原因の日付は遺産分割協議がなされた日となります。

以下,登記申請書の記載例を掲載いたしますので,ご参考にしていただければと存じます。

登 記 申 請 書

登記の目的 ●●●●(兄の氏名),●●●●(妹の氏名)持分全部移転

原 因 令和●年●月●日遺産分割

権 利 者 ●●●●●●●●(ご相談者様の住所)

持分3分の1 ●●●●(ご相談者様の氏名)

義 務 者 ●●●●●●●●(兄の住所)

●●●●(兄の氏名)

●●●●●●●●(妹の住所)

●●●●(妹の氏名)

添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報

令和●年●月●日申請 ●●地方法務局

その他の事項 送付の方法により登記識別情報通知書交付を希望します

課税価格 金 ●万円

登録免許税 金 ●万円

不動産の表示

不動産番号 ●●●●●●●●●●●●●

所 在 ●●●●●●●●●●●●●

地 番 ●●●番

地 目 ●●

地 積 ●●●.●●㎡

4 まとめ

ご相談者様が当該土地を単独取得することを内容とした遺産分割協議を成立させることができれば,以上の方法に従い,「遺産分割」を登記原因として持分の移転登記を共同申請し,当該土地をご相談者様の単独名義にすることができます。

もっとも,登記申請に当たっての必要書類の準備は煩雑で手間ですので,お時間を取るのが難しい等,ご自身でお手続をされるのに支障がある方はお近くの法律事務所に相談してみるのが宜しいかと存じます。

なお、税金の関係で、一度法定相続分で登記をし、その後に遺産分割協議をして持ち分の移転登記をすると、贈与ではないかと税務署から指摘される場合があるようです。確かに場合によっては、贈与であるのに遺産分割協議という名目で移転登記をする場合もあるでしょう。しかし、本当に遺産分割協議が後日行われたということであれば、相続分で登記したが登記通りに権利を確定する趣旨ではなかったこと、遺産分割協議が後日行われた理由等を説明し、贈与ではなく遺産分割協議であることを説明して贈与ではないことを説明する必要があります。

以上

関連事例集

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参照条文
(民法)

第909条(遺産分割の効力)

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。 ただし、第三者の権利を害することはできない。