地方公務員の飲酒運転車両への同乗は懲戒免職となるか

行政|飲酒運転同条罪|山口地方裁判所平成24年4月18日判決|福岡高等裁判所平成21年8月5日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

先日,同窓会に出席したのですが,同窓会が終わった後,友人が飲酒したにもかかわらず自家用車を運転して帰ろうとしたところ警察に検挙されました。同窓会では,私も多量のお酒を飲み酩酊状態にあったので,友人の車に乗せてもらい後部座席で寝ていました。友人は酒気帯び運転で赤切符を切られましたが,私も警察署で取調べを受けました。警察官からは,私が飲酒運転をした友人の車に同乗していたことは犯罪を構成すると言われました。私は地方公務員なのですが,今回の件が役所に知られてしまい上司からは懲戒免職処分となることを示唆されました。飲酒運転の友人の車に同乗してしまったことは反省していますが,当時は酩酊状態で意識はほとんどありませんでした。今回のことだけで懲戒免職とされるのは,釈然としない思いがあります。懲戒免職を避ける方法はないでしょうか。

回答:

1 ご相談の場合,第1に飲酒運転同乗罪が成立するか否か。同罪が成立するとしてそれを理由に懲戒免職が適法か否か,という2点を順次検討する必要があります。

2 飲酒運転同乗罪が成立するには,単に飲酒運転の車に同乗していただけでは足りず,運転者に対して,「要求」または「依頼」をしたうえで同乗することが必要です。あなたが,友人が酒気を帯びていることを知りながら,車に乗せて欲しいと要求,依頼し車に同乗していたというのであれば,飲酒運転同乗罪(道路交通法65条4項)に該当することになります。しかし,酩酊して眠ったまま自動車に乗せられた,というのであれば同罪には該当しないことになります。但し,途中で目が覚めて,運転手に行き先を告げたような場合は同罪が成立します。

3 公務員が飲酒運転や飲酒運転に関与した場合の懲戒処分の基準については各自治体が定めていますが,近年は厳格化の傾向にあり,原則免職と定める自治体も少なくありません。

4 以上のように友人の車に同乗する際のあなたの認識,行動が問題となります。また,仮に,あなたに道路交通法65条4項違反が成立する場合でも,近年の裁判例を見る限り,懲戒免職処分が相当といえるかについては争う余地があるといえます。懲戒免職処分を避けるためには,処分が下される前にあなたの言い分を述べる弁明の機会を求め,友人の車に同乗する際のあなたの認識のほか,今回の件で懲戒免職処分は重すぎることを基礎付ける事情を主張する必要があります。詳しくは以下の解説をご覧ください。

5 飲酒運転に関する関連事例集参照。

解説:

1(飲酒運転同乗罪について)

平成19年9月19日に施行された改正道路交通法では,それまで罰則がなかった車両提供や酒類提供,飲酒運転車両への同乗についても罰則が設けられました。

これらに罰則が設けられた趣旨については,飲酒運転への車両等提供及び同乗が問題となった東京地方裁判所平成20年7月16日判決が参考になるので該当部分を引用します。

「まず,車両等提供罪と同乗罪は,飲酒運転を絶対にさせないという国民の規範意識を確立し飲酒運転の根絶を図るため,飲酒運転を幇助する行為の中でも特に悪質であると評価できるものについて,独立した禁止規定を設けた上で,独立の犯罪とされ,その法定刑も飲酒運転の幇助犯として問擬されるよりも重いものとされたものである。すなわち,飲酒運転への車両等提供行為及び同乗行為それ自体に独自の当罰性が認められ,各行為が犯罪とされたものということができる。」

上記判旨のとおり,ご相談の件で問題となっている同乗行為についても,それ自体が当罰性が高い行為といえます。もっとも,あらゆる同乗行為について犯罪が成立するわけではなく,飲酒同乗罪が成立するためには一定の要件があります。

飲酒運転同乗罪について規定する道路交通法65条4項は以下のとおり規定しています。

「何人も,車両(トロリーバス及び道路運送法第二条第三項に規定する旅客自動車運送事業(以下単に「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項,第百十七条の二の二第四号及び第百十七条の三の二第二号において同じ。)の【運転者が酒気を帯びていることを知りながら,当該運転者に対し,当該車両を運転して自己を運送することを要求し,又は依頼して】,当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。」

飲酒運転同乗罪が成立するためには,単に同乗しただけでは足りず,上記【】のとおり,①運転者が酒気を帯びていることを知りながら,②運転者に対して,「要求」または「依頼」をしたうえで同乗することが必要です。

ご相談の件では,あなたは同乗した際に酩酊状態にあり意識はほとんどなかったということですので,特に②の「要求」または「依頼」の要件を満たすのかが問題となります。

②の要件の解釈について,警察庁の通達(丁交指発第137号等)が以下のように定めています。

「『要求し,又は依頼して』とは,自ら飲酒運転という違法行為により運送されるという便益を得ようとし,更には運転者に自分の意思を反映させようとする意思がうかがわれるような働きかけを行う行為を意味する。したがって,運転者に誘われてこれを承諾するだけでは足りず,行き先を指定するなどして同乗者が自らの意思を反映させようとしていることが認められるものでなければならない。要求・依頼の認定に当たっては,同乗者の言動,運転者と同乗者の関係,同乗するに至った経緯等から判断すること。なお,要求・依頼は,乗車する前に行われている必要はなく,乗車後に行き先を告げるなどして要求・依頼した場合も同乗罪の対象となり得る。」

http://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/shidou/shidou20070831.pdf

今後は,警察のほか役所からも事情聴取がなされることが予想されますが,仮に,酩酊状態のあなたを放っておけずに友人が車に運び入れたというのが実態であり,その後も検挙されるまであなたは後部座席で寝ていたのであれば,警察庁の通達に照らしても②の要件を欠くことになるので,その旨はっきりと回答する必要があります。捜査機関や処分者の立場からは,あなたが友人に何らかの働きかけを行ったかが重要となるため,「自宅へ送ってくれと頼んだではないのか。」など様々な聞き方で事実を確認することが予想されますので,聴取の際の質問のされ方に左右されず当時の自身の認識を正確に回答してください。

2(飲酒運転による懲戒免職処分が取り消された裁判例)

平成18年8月の福岡市職員による飲酒運転事故などを契機として,飲酒運転に対し,より厳しく臨むべきという社会的要請が高まり,全国各地の地方公共団体において,飲酒運転に関する懲戒処分基準の厳罰化が図られました。他方で,飲酒運転については懲戒免職とするとの基準のもとでなされた懲戒免職処分について,当該処分の適法性が争われ,処分が違法とされ取り消しとなった裁判例が複数存在します。

以下,2つの裁判例を参考に裁判所がいかなる点を考慮して免職処分を違法と判断しているのかを考察します。

<山口地方裁判所平成24年4月18日判決>

「 懲戒免職処分は,当該職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するというものであり,停職以下の処分とは質的に異なることからすると,その選択は慎重になされなければならない。また,懲戒処分の対象となる非違行為自体も,同じ違法行為とはいえ,刑罰法規に触れる犯罪行為とそれ以外の違法行為との間には質的な差違が存在することも明らかである。

したがって,飲酒運転について懲戒免職処分を定める本件基準のもとにあっても,一律に免職との結論を導きうるものではなく,上司に速やかに飲酒運転した事実を報告したか,人身事故や物損事故を伴うものであったか否か,勤務先でどのような職務に従事していたか(教師や警察官といったその言動が模範とされるべきものとみなされる職務であるかどうかなど)など種々の事情を勘案した上で,具体的な懲戒免職処分を決すべきものと認められる(前記2(2)のとおり,本件基準の補足の指摘する情状は例示列挙である。)。」

「ア 前記1で認定した事実によれば,原告は,当初,旗開き等の終了後は下関市<以下略>所在の下関市環境部クリーン推進課の駐車場まで戻り,同所で車中泊をしてアルコールが体内から抜け切ってから,原告車両を運転して帰宅しようと考えていたこと,しかし,下関市のインターネット粗大ゴミ等の受付に係るシステムに不具合が発生し,これに対処しなければならなくなり,旗開きの会場に行くのが遅くなったため,タクシーを呼ぶよりも原告車両で上司らを送り届けた方が早いと考えて,原告車両を運転して会場に向かったこと,会場の近く(約400m)にある本件コインパーキングに駐車したが,アイドリングにより近隣住民に迷惑がかかることを懸念し,約1.5km離れた所にある公園駐車場が車中泊に適していると考えて同所に原告車両を移動しようとして,本件酒気帯び運転に及んだことが認められ,この点からすれば,本件酒気帯び運転は計画的なものではなく,同運転には偶発的な側面が認められる(原告は,従前から,飲み会のあったときには,下関市環境部クリーン推進課の駐車場で車中泊をしていた旨供述するものであり,この点が信用できないとはいえない。)。

イ 原告は,平成11年4月に豊田町役場に採用され,その後,平成17年2月に豊田町が下関市に合併されて以降は下関市職員として稼働し,本件処分がされるまでの間,同町又は下関市による懲戒処分を受けたことはなかった。

また,原告は,本件酒気帯び運転で検挙されるまで,前科・前歴はなく,交通違反により検挙されたこともなく,公務員として問題のある勤務状況もなかった。

ウ 本件酒気帯び運転は,人身事故,物損事故を伴っておらず,結果として被害はなかった。

エ 本件酒気帯び運転は,私生活上の行為に付随する行為に分類されるものといえるし,また,原告は,本件処分当時,主事という末端の事務職員の地位にあり,管理職等の地位にあったのではないことからすると,そのような立場にある者に比べ,社会に与える影響は比較的少なかったということができる。

また,原告の主張に係る職員及び周辺住民から情状酌量を求める1284筆の署名があったとの事実は,原告の処分を軽減する方向に考慮し得る事情である。

オ さらに,原告は,検挙後速やかに上司に報告し,反省の態度を示していたものと認められる。

カ また,上記1(5)のとおり,従前の下関市又は山口県内の他市における処分例に比して,本件処分は重いものと考えられる。」

前述のとおり,飲酒運転を理由になされた懲戒免職処分が争われ,処分が取り消された裁判例は複数ありますが,多くの裁判例は,懲戒免職処分の重大性から種々の事情を考慮した結果,免職処分は重すぎるとして免職処分を取り消すとの判断を導いています。上記の山口地裁判決も当該事案において,被処分者にとって有利に考えられる種々の事情を考慮の上,免職処分を取り消すとの判断を下しました。

山口地裁判決が考慮した事情を一般化した形で抽出すると以下のとおりとなります。

① 計画的か偶発的か

② 過去の懲戒処分歴の有無

③ 人身,物損事故の有無

④ 社会的影響の有無(公務と関係するか,被処分者の地位,署名を考慮)

⑤ 速やかに報告がなされているか

⑥ 過去の処分例との比較

ご相談の件においても,上記に述べたような要素を意識しつつ,処分に先立って弁明を行う必要があります。

次に紹介する裁判例は,懲戒事由としての「飲酒運転」の意義が争点となった事案です。

<福岡高等裁判所平成21年8月5日判決>

「 飲酒運転に対して厳しい姿勢を打ち出した平成20年4月1日改正後の人事院の国家公務員に対する懲戒処分の指針においても,刑罰法規に則り,「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」とを区別しており,「酒気帯び運転」に至らない者をも懲戒処分する規定とはなっておらず,また,その処分も,酒気帯び運転で人身事故を起こした者でも免職又は停職とされており,酒気帯び運転のみであれば,免職,停職又は減給と処分の幅が広くなっていることが認められる。これに対して,本件指針は,処分の対象たる行為を「飲酒運転」という包括的な文言で規定したことから,控訴人も自認するとおり,極論すれば,一滴でも飲酒をして運転をすれば,処分歴の有無等を問わず,免職にするのが原則ということになってしまう。このような控訴人の処分基準は,飲酒運転といっても,酒酔い運転から,酒気帯び運転,さらには酒気帯び運転に至らない程度の態様が想定されるにもかかわらず,いかなる場合にでも原則免職となって,他の軽い処分である停職又は減給という処分を選択する(「死一等を減ずる」)余地がない点において,飲酒運転それ自体に対する社会的非難の度合いの高まりや,公務員とりわけ教職員の飲酒運転に対する世間一般(佐賀県民)の厳しい叱責や非難を考慮しても,極めて過酷な基準であると言わざるを得ない。これは,本件指針におけるその他の交通法規違反の態様の場合,例えば無免許運転では免職又は停職とする,著しい速度超過等の重大な交通法規違反により,人を死亡させ,又は人に重篤な傷害を負わせた者は免職又は停職とするとされていること等と比較してもとりわけ過酷であり,衡平を欠いていると言わざるを得ない。

したがって,本件指針の「飲酒運転」の意義については,原判快が判示するとおり,少なくとも刑罰法規に触れる「酒気帯び運転」以上のアルコール分(血液1ミリリットルにつき0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上)を身体に保有した状態で自動車を運転することと限定的に解釈すべきであり,仮に,控訴人主張のとおり,「酒気帯び運転に至らない程度のアルコールを身体に保有した状態で運転すること」と解釈する以外にないとしたら,本件指針自体が,教育委員会の有する裁量権を逸脱・濫用したものと言うほかない。」

「 以上のとおりであるから,被控訴人の本件運転行為がその態様からみて極めて悪質であることは控訴人主張のとおりであるけれども,「酒気帯び運転」以上のアルコール分を身体に保有した状態で自動車を運転したことを認めるに足りず,検挙もされていない本件において(検挙の有無のみで処分に軽重をつける合理性がないことは原判決も指摘するとおりであるけれども,結果的にせよ検挙されなかったことは,犯罪行為を現認されて検挙,摘発された場合に比べ,酒気帯び運転事実の存否,ひいては,社会的非難の度合いの程度において,消極的に働く要因であることは否定できない。),過去に処分歴もない被控訴人を免職処分にした本件処分には,懲戒権の逸脱・濫用が認められると言わざるを得ない。」

上記の福岡高裁判決では,飲酒した後,自動車を運転した点に争いはないものの,運転時にどの程度のアルコール分を体内に保有していたのかという点と,飲酒運転については,原則懲戒免職と定める処分基準における「飲酒運転」の意義が問題となりました。

福岡高裁判決は,懲戒免職処分の重大性を考慮し,「飲酒運転」の意義について,「少なくとも刑罰法規に触れる「酒気帯び運転」以上のアルコール分(血液1ミリリットルにつき0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上)を身体に保有した状態で自動車を運転することと限定的に解釈すべき」とし,当該事案では,「酒気帯び運転」以上のアルコール分を身体に保有した状態で自動車を運転したことが認められないことを理由に免職処分を取り消すとの原審判断を維持しました。

ご相談の件では,運転者の友人は赤切符を切られているということですので「酒気帯び運転」以上のアルコール分を保有した状態で自動車を運転していたものと思われます。 仮に,運転者が身体に保有していたアルコール分について争いがある場合には,前述のとおり種々の事情についての弁明が重要なことはもちろんですが,そもそも飲酒運転に該当しない場合には,免職という重大な処分を科すことが違法となる可能性高いので,この点を主要な争点として争うが免職処分を避けるうえで有効といえます。

3(今後とるべき行動について)

あなたに対する飲酒運転同乗罪の刑事手続と公務員としての身分に関する行政処分の手続は,別個の手続きですので,それぞれ並行してすすむことが予想されます。もっとも,刑事手続において,不起訴処分となるのか,起訴され刑罰が科されるのかについては,行政手続にも大きな影響を及ぼします。

早期にお近くの法律事務所に相談し,刑事,行政処分の両手続きについて,助言を受けつつ対応されることをおすすめします。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文

道路交通法

(酒気帯び運転等の禁止)

第65条 何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

2 何人も,酒気を帯びている者で,前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し,車両等を提供してはならない。

3 何人も,第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し,酒類を提供し,又は飲酒をすすめてはならない。

4 何人も,車両(トロリーバス及び道路運送法第二条第三項 に規定する旅客自動車運送事業(以下単に「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項,第百十七条の二の二第四号及び第百十七条の三の二第二号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら,当該運転者に対し,当該車両を運転して自己を運送することを要求し,又は依頼して,当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。

(罰則 第一項については第百十七条の二第一号,第百十七条の二の二第一号 第二項については第百十七条の二第二号,第百十七条の二の二第二号 第三項については第百十七条の二の二第三号,第百十七条の三の二第一号 第四項については第百十七条の二の二第四号,第百十七条の三の二第二号)

117条の2第1号

次の各号のいずれかに該当する者は,五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

1号 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項の規定に違反して車両等を運転した者で,その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの

117条の2の2第1号

次の各号のいずれかに該当する者は,三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。1号 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で,その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの

道路交通法施行令

44条の3(アルコールの程度)

法第117条の2の2第1号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は,血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラムとする。